春の陽気
春の陽気は眠気を誘う。
今日のように暖かいそよ風が吹く午後のお昼寝はとても気持ちがいいだろう。
昼食後、図書室で本を読んでいたフロウは眠気に抗えずフランス窓の傍に置いてあるソファに横になった。
窓は半分開いており気持ちのいい風が入ってきていた。気づかぬうちにフロウはぐっすり眠りこけていた。
レナードも昼食後の眠気に困っていた。
好物のチキン料理が出たので少し食べ過ぎてしまったようだ。今日は早めに仕上げなくてはいけない案件があるのに。
少し庭を散歩して眠気を覚まそう。バラはもう大分咲いたかな?
屋敷沿いにバラを見ながら歩いていると図書室のフランス窓からフロウが横になっている姿が見えた。
ドキン、と大きく心臓が鳴った。さっき一緒に昼食を取ったばかりじゃないか。そう思いながらも足は窓の方に向かっていた。
フロウを起こさない様にそっと扉を抜けた。
ソファに横になったフロウはぐっすり眠っていた。窓からかすかに流れてくる風に髪が少し揺れていた。頬に長いまつ毛が影を落とし、静かな寝息が聞こえる。
愛しくてたまらなかった。
思わず安らかな寝息をたてている唇にそっと顔を近づけたが・・いや、いけない。ウィルと愛し合ってる彼女にこんな事をしてはいけない。
すぐ立ち上がって出て行こうと振り向くと、窓の向こうにケイトが立っていた。
目が合うとすぐ立ち去ろうとしたためレナードは来た時と同じようにそっと外へ出てケイトを追いかけた。
「ケイト、待ってくれ」
レナードは図書室から少し離れてから声を掛けた。ケイトはすぐ立ち止まり振り返った。
「旦那様、あの…」
後ろめたそうにケイトは口を濁した。ケイトは窓の正面方向から歩いてきたためレナードの行動の一部始終が見えてしまっていた。
ケイトの動揺を見るにレナードもその事を悟った。
「見て・・いたんだね」
「すみません、見るつもりは無かったのですが窓が開いていて…見えてしまいました」
「…こんな事誰にも話すつもりはなかったんだが、聞いてくれるだろうか?」
レナードは覚悟を決めて自分の気持ちを打ち明けることにした。
二人はレナードの書斎へ行った。
長い話ではなかった。ただ兄が血の繋がらない妹を愛してしまったというだけの話。
そして血の繋がった弟はその妹と結婚しようとしているということ。
「レナード様…とても…苦しくていらっしゃることでしょう」
ケイトは改めてこの当主の若さを実感した。まだ恋に悩み苦しむ年頃なのだ。
「その…お嬢様の事は諦めるつもりなのでございますね。でも踏ん切りをつける為に何か行動を起こしたいと?」
レナードは仮面舞踏会のことを話した。
「そうですか。フランシス様の仮面については私がお手伝いできると思います。誰にも他言は致しません」
「ありがとうケイト。話を聞いてくれて、理解してくれて嬉しいよ」
レナードはほっとしたような表情をしていた。
今まで誰にも話せなかったのはとても辛かっただろう。人に話すだけでも気が楽になるものだ。少しでもレナードの力になれたら…そうケイトは思った。
翌日の午後ケイトはフランシスの仮面の情報を持ってレナードの執務室にやってきた。
「あの、フランシス様はレナード様が舞踏会にいらっしゃることをご存じないのでしょうか?」
「知らないはずだ。知られないようにしないといけないしね。行ってからどうなるかは神のみぞ知るだな」
本当にそうだ。ダンスに誘った所で断られるかもしれない。
それでもいい、これを最後にきっぱり諦めよう。俺はフロウとウィルの兄として生きて行こう…。




