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薔薇の名前   作者: 山口三


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害虫と思いつき


 この1か月ほどはアメリアの誘いも断り続けていた。弟を迎える準備があるから、その後は久しぶりに弟が帰ってきているから、と。


 断る理由が無くなってしまった今は再度はっきりと縁談の破棄を申し入れなければいけない。素直に受け取ってくれるといいが。




 それよりウィルとフロウの事だ。休暇中は以前にも増して二人の仲は親密だった。俺の入り込む余地は全く無かったな…。弟と妹が幸せになるんだから、俺は身を引くしかない。


 だけど最後に一度だけ、諦めるためにも一度だけ一人の男としてフロウの前に立ってみたい。二人だけの時間を過ごしてみたい。


何かいい方法はないだろうか…。




 焦る気持ちとは裏腹に月日だけがどんどん流れて行った。冬が終わりもう4月の半ば過ぎ、またバラの季節がやってこようとしていた。


 明日は雨の予報だから一日籠って仕事だな、今日はバラの手入れに力を入れよう。レナードはバラの庭園のバラから始めて圃場のバラも手を入れる勢いでこなしていった。


 他のバラに先駆けてもう咲いているバラもチラホラ見える。




 バラは病気も気を付けなければいけないが害虫にもまた頭を悩ませられる。


 アブラムシなんてまだかわいい方で、蕾のすぐ下の茎の部分、花首に卵を産み付けるバラゾウムシというのがやっかいだ。


 卵を産み付けられたり、かじられた部分から上には栄養が行かなくなり枯れ落ちてしまう。せっかく蕾を沢山持ってもこの害虫によって花が半分になってしまうこともある。


 殺虫剤をまけばいいかというと、この虫は甲虫のように殻で覆われていて薬が効きにくい。手で摑まえるにもゴマ粒位の大きさの上、こちらの気配をすばやく察知してポロッと下に落ちて逃げてしまうのだ。


 おのれ害虫!


 こういう虫には少しの水を張ったバケツを奴のいる枝の下にそっと差し入れ、そこに落として捕まえるのがいい。


 だがこの広いバラの庭園のバラ全部には手が届かない。が、できる所までやるしかない。


 圃場のバラも花が落ちてしまっては選別できないのでまめに害虫退治だ。


 それも今時期の辛抱、花首が太くなって蕾も大きくなってくれば多少かじられても栄養が通る道がふさがることはないのでなんとかなる。蕾が大きくなったバラも狙われなくなる。



 毎年バラの新品種コンテストがあり、香りの部門やフロリバンダ、ハイブリッドティーなどといった系統部門、総合賞といった種類がある。


 いつもコンテストに応募するバラと自分が作りたいバラの2種類を主に作っているのだが、今年はコンテストは諦めて自分の理想を追求することにした。

 自分が思い描いている花の形容と丈夫さや香り、木の姿など総合的に満足できるものはまだ出来ていない。


 今理想に近いバラがふたつあるが、ひとつは香りが薄く木が武骨で枝が暴れ気味で花のイメージと合わない。

 もうひとつは香りも良くまとまりのいい大きさで全体的に整っているが花の数が極端に少ない上に花持ちも悪い。3日ほどですぐ散ってしまう。




「ふ~~なかなかうまく行かないな」


 バラの圃場でため息をついていると背後から声がした。


「侯爵閣下、何を嘆いておられますか?」


 片膝を折り曲げ腰を下げて挨拶する格好でその男は言った。ただし顔はニヤニヤしており、レナードは声で誰かすぐ分かった。


「クロード!」


「ハハハハ、懐かしいなぁレン!元気だったか?」


 レナードはクロードに近づき手を差し出そうとしたが園芸用のグローブを履いているのに気づき、さっと脱いで二人は固く握手した。クロードは握手しながらレンの腕をポンポンと軽くたたいて言った。


「うん、思ったより元気そうだ。まじめなお前の事だから仕事漬けで青い顔をしてるんじゃないかと心配だったんだぜ」


「当たらずとも遠からずさ。中へ入ろう、お前の話を聞かせてくれ」



 二人は客間で色んな話をした。卒業してからクロードが何をしていたか、レンの迷惑な縁談の話、5年の間には色々な事があった。


「今日は泊まって行けよ、久しぶりなんだし」レンは時計を見ながら言った。もうすぐ夕食の時間だ。


「そうしたい所なんだがこの後また約束があってさ、で、今度カイルの家でパーティーがあるんだよ。その招待状も持ってきた。レンに会いに行くって言ったら招待状を頼まれたよ。その時また3人で話そうぜ」


 カイルとはまた懐かしい名前だ。招待状を開きながらレンは思った。

 カイルとはたまに顔を合わせることがあったがお互い忙しくて今日のように話をする時間をとれていなかった。


「仮面舞踏会?!あいつが?」招待状を見てレンは驚いた。


「あいつがっていうよりは、あいつの家がって感じかな。あいつは昔から変に落ち着いてて大人びたやつだったけどカイルの兄貴が、ね。派手な事が好きなタイプでさ」


「カイルの兄さんがそういうタイプとは…、反面教師だったんだな兄貴が」


「そうかもしれないなぁ、だからさ待ってるよ10日後な。仮面も付けてこいよ。じゃないと入れてもらえない」


「見分けられるのか?」

「ま、なんとかなるだろ」

 

 相変わらずクロードはお気楽でマイペースだ。それがやつのいい所だが。




 クロードが帰ってからふと気づいた。仮面舞踏会なら相手に知られずに近づけるだろう。


 俺はロブを呼んでいくつか頼みごとをした。




 まずはもう一通招待状を手に入れる事。


 仮面は顔を覆う部分が多いものを選ばなければ。それから仮面だけでは正体がバレてしまう可能性もあるからカツラを手に入れよう。

 声で気づかれるだろうか…普段より低い声で話そう…。この苦労もフロウが舞踏会に来てくれないと水の泡となるのだが。





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