ウィルの帰省
その年の冬にウィルが休暇で帰ってきた。
冬の休暇は1週間。同じ士官候補生のトムという友人を連れてきていた。
トムは純朴な青年で子爵家の三男坊だった。「貧乏子爵家の三男坊」が彼の口ぐせだった。
「さすがの侯爵家だね~ウィルのお屋敷がこんなに大きいなんてびっくりしたよ!」
その日は久しぶりに賑やかな夕食となった。
「こんなご馳走も久しぶりだなぁ、宿舎の食事はお世辞にも美味しいとはいえないよなあ」
「そうなんですか、ここにいる間は美味しいものを沢山召し上がっていってくださいね」
フロウも賑やかな夕食に嬉しそうだ。
「それにしてもウィルにこんな綺麗な妹さんがいるなんて全然知らなかったよ、来る前に一言も言ってくれないんだから」
トムはフロウの笑顔にうっとりして言った。
「フロウに変な虫が付いたら困るからね、士官候補生なんてほとんど男なんだから。あんな野蛮な奴らにフロウの事を知られたら大変だよ。全員家に来るって言いだすかもしれない」
「そんな怖い顔をしてー妹だっていつかは誰かの者になっちゃうんだぜ」
「フロウは誰にもやらない。俺たちの親は再婚だから血は繋がってないんだ」
ウィルは正面に座っているフロウの顔を見つめながら言った。
「そうなのか~ウィルが相手じゃ俺に勝ち目はないなーハハハハ」
レナードはちらっとフロウの顔を見たが何の表情も読み取れなかった。でも否定はしないんだな。ウィルの気持ちを了解しているということか。
夕食後フロウは自室に下がり男たちは娯楽室でお酒を飲むことにした。
「兄さんの大公家との縁談の話、こっちまで聞こえて来てるよ」
「ああ」レナードは疲れ切った声で答えた。
「大公家の…お孫さんですか?」
トムはアメリアと面識があるのだろうか?
「そうなんだ、アメリア嬢。ご存じですか?」おや?という顔でレナードは聞いた。
トムは話そうか少し考えたが、顔を上げて話始めた。
「ちょっと前ですが大公家のパーティーに護衛として立ったことがあるんですが、その時誰かがアメリア嬢に失礼な事を言ったとか言わないとかでひと騒動ありまして。パーティーは早々にお開きになってしまい、相手の方はアメリア嬢にぶたれたようでしたね。しかも後から聞いた話によると、アメリア嬢の一方的な勘違いだったとか」
「気が強い方で、その上カッっとなりやすいようですね」
やれやれといった表情のレナード。
「そうなんです。それでちょっと覚えていた次第で、気は強いけど・・美人ですしね」
「兄さんはその人と結婚するつもりなの?」
あまり酒に強くないウィルはソーダ割を飲みながら聞いた。
「一度はっきりと断った。でも大公閣下どまりでアメリア嬢には話が行ってないと思う。いくら美人で大公家の孫でも俺は嫌だよ」
「エリスを思い出すよ、似てるんだよ」レナードは付け加えた。
ウィルは思わず吹き出してしまった。懐かしい名前だ、でもあんなのに似てるなんて最悪だ。兄さんは女運がないのかもしれないぞ。
「話は変わるけど士官候補生としてはどうなの?うまくやってる?」
「まぁ 順調だよ」
「お兄さん、ウィルはね順調どころかかなり優秀ですよ、通常は2年候補生をやってから近衛隊に配属されるんですが彼は次の春には配属が決まりそうなんです」
「それはすごいねウィル、大変だったろう」
「早くフロウにプロポーズしたくて頑張ったんだ。ところで…兄さんは賛成してくれる?その、フロウとの事」
「二人が望んでいるなら反対する理由がないよ」
平静を装ってそう言うのがやっとだった。次の秋に近衛隊に正式に配属されたらフロウにプロポーズするつもりなのか。そんなに早く、もう1年もないじゃないか…。
「さっきの話は本気だったんだな、まぁでもあんな綺麗な女性が傍にいたら好きになっちゃうよな」
トムは豪快に酒を飲み干しながら納得していた。
3人のおしゃべりは続いたがレナードは話が頭に入ってこず酒の味は全く感じなくなっていた。




