表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薔薇の名前   作者: 山口三


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/74

レナードの外出

 第4部


 24になった俺には縁談がよく持ち込まれるようになった。

 どこにでもおせっかいな親戚というのはいるものだ。次から次へとどこから探してくるのか…。


 まだ自分の気持ちの整理がつかず、いつもは何かと理由をつけてやんわりと断っていたのだが今回の相手はそうもいきそうにない。何しろ前国王陛下の弟君、大公閣下の孫なのだ。


 

 ウィルが士官候補生となってから屋敷は少し静かになった。食事もレンとフロウの二人。レンは仕事で外出が多い為フロウが一人の事もあった。カーライル家の当主とあっては避けられない社交活動も多かった。


 今日の昼食も一人分しか用意されていなかった。


「レン兄さんは会合か何かかしら?」


「外出されるのでお昼はいらないとだけ伺っております」サーブしていたマリが答えた。


「そうなの…ねぇ、私が一人の時はみんなでここで食べるのはどうかしら?」


「使用人とでございますか?」マリは仰天した。


「全員は無理かしら、椅子が足りないかもしれないわね。くじ引きか交代でとか…」


 フロウは真剣に考えていた。一人の食事は味気ない。来客がある時はいいがほとんど一人になってしまった。


 主人と使用人が同じテーブルで同じ物を食べる貴族の家なんて聞いたことがないけれど自分が一人の時は構わないんじゃないかしら。


「あの…ジョージさんとご相談なさってはいかがでしょうか?」


「そうするわ」


 フロウ様は本気なんだわ、わたしは冗談かと思ったのに…。マリは今まで生きて来て聞いたことも見たこともない提案に困惑した。




 食事が終わると早速フロウはジョージに相談してみることにした。


 ジョージも驚いたが、フロウの気持ちも理解できないわけではなかった。

「希望する使用人数名と食事されるのはいかがでしょうか?」


「ええ、強制するつもりはないから、夕食の時だけでも一緒に美味しいものを食べて、おしゃべりしてくれる相手がいればいいの」


「かしこまりました。レナード様に了承を頂いた後、使用人達に話しておきます。初めは2、3人かもしれませんが慣れてくれば増えて賑やかになると思います」


 たまの夕食に使用人の分が増えたとしてもカーライル家の財政が揺らぐことはあり得ない。レナード様もフロウ様が一人寂しく食事されることは望まないだろう。ジョージは一人頷き部屋を出て行こうとすると


「レン兄さんは今日は会合か何かかしら?」フロウはさっきと同じ質問を繰り返した。


「レナード様は今日は大公家へ出掛けられました。招待状が届きまして」


「まぁ珍しいわね。兄さんが政務以外で出かけるなんて。でも大公家なら嫌でも断れないわね」


「その…大公閣下のお孫様とお会いになるとかで」


 この位は自分から話しても問題ないだろうと判断しジョージは言った。



 ジョージが出て行った後ふとフロウは考えた。


 大公殿下には7人のお孫さんがいらっしゃるはずだけどどなたに会いにいかれたのかしら。兄さんの友人が大公家にいると聞いたことはないし、でも年が近い方なら一人いるわね。


 大公殿下には二人の子息と一人の子女がいてそれぞれ三人、二人、二人の子供がいる。その一番下の子供がウィルの一つ年下のご令嬢なのだ。


 縁談だろう。


 兄さんにはいくつもの縁談が持ち込まれていたしジョージが詳細を濁したことからも想像がつく。兄さんの性分ならはっきりするまでは誰にも言わないだろうし、勝手にジョージがぺらぺらと話す訳にはいかないだろう。


 とても綺麗な方だと聞いたことがあるわ。


 もしかして兄さんの方から結婚を申し込んだのかもしれない。特定の方のお付き合いしている様子はなかったけれど…兄さんがどこかで一目惚れしたのかもしれない、その逆だってあるわ…いえ単に総合的に釣り合う相手として縁談が持ち込まれたのかもしれない。


 でも二人が相思相愛ならすぐ結婚するのかしら…


 まだ誰に会いに行ったのかも分からないのに、フロウの頭の中を色々な想像が駆け巡った。



 兄さんが帰ってきたら直接聞いてみよう。あれこれ考えても埒が明かないわ…そう思い図書室で本を読むことにした。だがそう思ったのにいつまでもいつまでも同じ考えが浮かんできて消えず、本に集中できなかった。


 仕方なく今度は娯楽室へ行きピアノを弾くことにした。苦手な作曲家の楽譜を取り出してきて何度も練習した。いつも躓く箇所に集中しているうちに時間は過ぎた。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ