ウィルの本気
翌日カレンはレナードのバラの圃場を見学に行った。バラの庭園を回り圃場を見終えた所で案内をしていたレナードが仕事へ戻りベンが代わりを務めた。
「またこんな風に圃場が活用されるとは思わなかったわ」
「レナード様はここに居られると生き生きとしていらっしゃいます。今はご自分の作りたいバラの確固たるイメージをお持ちで、それを作り上げようと一生懸命でいらっしゃいます」
「ベンもいい弟子ができて嬉しいでしょう?」
「弟子だなんて私には勿体ないことです。ですがこの年寄りに新たな生きがいをもたらされたようで・・・いやほんとに私は幸せ者でございます」
ちょうどベンとカレンが温室から出てきた所でウィルがこちらに向かってきた。
「カレンおばさーん、お茶でもどうですか?」
ベンと別れ、お茶が用意された一角に二人は向かった。
「俺は明日からまた学園なんです。ゆっくりできるのは今日だけだから、叔母さんと午後を過ごそうと思って」
淹れたてのお茶をすすりながらウィルは言った。
「あら、嬉しいこと言ってくれるのね。士官候補生になったら寮生活になるんですってね」
「そうなんです。ここから遠くはないから週末くらいは帰ってこれるけど、毎週は無理だろうなぁ」
「私の所にも遊びに来てほしいけれど当分は無理そうね。ところで何か話があるんでしょう?」
「ハハ、やっぱりお見通しですか。叔母さんにはかなわないや」
手にしていたカップを置き少し改まった調子でウィルは続けた。
「カレン叔母さんはフロウにとって一番親しい親類でしょう?だからまずは叔母さんに話しておきたくて」
話を促すようにカレンは頷いた。
「俺、正式に近衛隊に配属されたらフロウと結婚したいと思ってるんです」
カレンは驚いた。それと同時になぜこの甥っ子達が揃いもそろって社交活動もせずにいるのか納得がいった。
「驚くのは当たり前だよね…だけど俺たちは血が繋がってる訳じゃないし…子供の頃からずっとそう思っていたんです。俺フロウが好きなんだ」
少し前のめりになって話すウィルの様子は真剣そのものだった。普段のお気楽なイメージはどこにも見られなかった。
「そうだったの…あなたとフロウなら…私は反対しないわ。多少周りからの反応が厳しいでしょうけど、二人が幸せになるなら私が味方してあげる。」
「やった!叔母さんなら分かってくれると思ってたんだ」
ウィルはほっとしたように椅子の背に体を預けた。
「レナードには話したの?」
「ううん、まだだよ。まずは叔母さんの了承を得てからさ」
「まるで相手の親に結婚の許可を得ようとする恋する青年だわね」
「うーんぴったりな表現、何て言おうか、もうドキドキだったよ」
二人の事ならよく分かっているし反対する理由も見当たらない。二人がそんな風に思い合っているなんて驚きはしたけれど…。
今度ここに帰ってくるときは二人の結婚式かしら。カレンは楽しい想像にふけりながらウィルと話を続けた。




