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学園の空気
あの悪夢のような夜から1か月ほど経った。
私たちはまたいつも通りに学園に通い始めたが、ひそひそと囁かれる同情の言葉にとても居心地が悪かった。
「領地の視察旅行に行かれる途中だったそうよ」
「雨で土砂崩れが起きたんですって、運が悪いとしか言いようがないわ」
あの人たちに悪気はない。むしろ気を使っているのだろう。その気遣いが私たちを息苦しくさせているとも知らず。
レン兄さんはすべての事柄にとても冷静に対処されている。
家業の引継ぎ、使用人たちや領地への対応、侯爵家のこれからの方針。学園にも以前と変わらず通われている。自分がこれから侯爵家を率いて行かなくてはいけないという責任が重大であることを自覚していらっしゃる。
とても立派な事だと思う。私はあんな風に冷静に仕事や学業を続けていくのは到底無理だわ。
でも私にはあの肖像画の母の冷たい眼差しと兄さんが重なって見えてしまう。お葬式の時も兄さんは泣いていなかった。兄さんは悲しくないの?辛くはないの?