どうか
三題噺もどき―はちじゅうご。
お題:悪魔・魚・馬車
暗い闇い海の底で。
私は1人、佇んでいる。
ここに来てどれくらいが経ったのだろう。
人間だった私は、他の人々とは違った。
馬車に乗れるような貴族の人間だった。
お金に困ることなんてない、裕福な家だった。
許嫁がいた、家の決まりで、小さなころから。
―でも、心から、愛した人は、家の使用人の彼。
もちろん許されるわけもなく。
彼は家を追い出された。
それでも、私は諦めきれなかった。
だから、愛する人と結ばれるために悪魔に魂を売った。
しかし、悪魔との契約を守ることができず。
怒り狂った悪魔に呪いをかけられた。
深海に閉じ込められ、ゆっくりと魚になっていく呪い。
喚くことも泣くことも許されない。
足の先から魚になっていく。
体が変えられていくのが怖かった。
今では体の半分以上が魚と同じようになっている。
首元にエラが現れ、体は鱗に覆われて。
誰か、私を……
助けを求めようにも、声は泡になって消えていく。
光のないこの場所で、私は1人、泣いている。
その涙も全てが海の水に溶けていく。
あぁ、神様……
―私をどうか、お助けください、
彼を愛していただけなのです。
彼と共に生きたかったのです。
彼と共に死にたかったのです。
それすらも、貴女は許してくださらないのですか。
お願いですから、どうか。
どうか、私を……
殺してください。