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4.地方都市にて①

「ここが……?」

「ランダーレ地方の地方都市、ランダレストですわ」

「地方都市……、県庁所在地みたいなものか? にしても大きい街だな」


 森を抜けた少し先に、街へと続いている街道のようなものがあり、それにならって先へと進んだ。

 正直体力に自信がある方ではなかったが、不思議と疲れはない。


 ここでも魔物に遭遇するようなイベントもなく、至って平和にたどり着いた。

 まぁ、魔弓師についてまだ何も聞いてないうちから戦うのも無理な話だ。

 平和であることに越したことはない。


「城塞都市って感じだな、海外の街みたいだ」

「実際にアルバ・ダスクの最前線の街ですから」

「あーー、その、何回か聞いたけどアルバ・ダスクって何なんだ?」


 ゲームタイトルにもなっていることから、間違いなく重要なことに違いない。


「そうですわね、一言でいうと……。試練、ですわね」

「試練?」

「ええ。二年に一度の周期で蒼炎の森付近に凶暴な魔物が集う、それをヒトが退ける。神からヒトへの試練と言われておりますわね」

「とんでもない試練だな、おい」

「クラスのお話と一緒にご説明致しますわ、まずは街に入りましょう」

「って何か門番ぽい人立ってるけど、大丈夫か? 俺、この世界での立ち位置不明なんだけど」


 身分証どころか地名も分からない、「どこから来た?」なんて聞かれた日には、一発アウトだ。


(わたくし)にお任せくださいな」


 不敵な笑みをして門番へと近付くルル。

 ま、まさか。

 色仕掛けとかじゃないでしょうね……!?


「……! これは、ルルメアカリス様。見回りお疲れ様です!」

「ええ、貴方も。頑張ってくださいな」

「は、はい! あ、そちらの方は……?」

「冒険者志望の素質ある子を見付けたの、あとでギルドへ連れて行ってあげるつもり」

「なるほど! 貴女様のお眼鏡にかなったのでしたら有望でしょうな。おい、坊主。がんばれよ!」

「はぁ」


 ルルに見とれているのは間違いないが、話から察するにルルは既に冒険者なのか……?

 というか、坊主って歳じゃないんだが。

 まぁ、ルルのおかげで街へはすんなり入れたな。


「さあ、行きましょう」


 街にすでに目的地を定めているのか、迷いなく進むルルは非常に頼れる。


「おお、割と都会だな」


 魔法が存在するファンタジー世界。

 日本でいう都会、とはまた違うが建物も密集し、人の往来も多い。

 中には獣人と呼べばいいのだろうか、ゲームで存在する種族もいるようだ。


 通りの脇では露店も並び、活気がある街。

 どちらかというと、道行く人は冒険者だろうか。

 武具を装備した人の割合が多い気がする。


「ハヤト様、こちらですわ」

「綺麗なところだな」


 冒険者というからには、装備や薬品といった必需品に出費がかさむだろう。

 勝手なイメージでわるいが、安宿を想像していた俺の期待は見事に裏切られた。


 しっかりとした造りの建物に、花や植物も丁寧に植わった庭があり、とても一介の冒険者が世話になるようなところではない。


 豪奢な扉を遠慮なく開き、中へと入ったルルは宿の受付に俺のことを話しているようだ。


「ハヤト様、ひとまず一泊別で部屋を予約しました。本日はそちらでお休みになってください」

「え!? 俺専用のってこと!? ありがたいけど、その、ルルは大丈夫なのか、色々?」


 冒険者の懐事情を知らない俺は、お言葉に甘えようにも心配が勝る。


「あら? ご一緒のお部屋でよろしいので? (わたくし)は大歓迎ですけれど」

「よろしくないです!!」


 危険だ。

 このお姉さんと同室なんて、危険な予感しかしない。


「残念。さ、こちらへ。ハヤト様のお部屋でお話いたしましょう。宿の方にも事情は説明しておりますので」


 フロントの横にある階段を上り、二階のフロアへと足を踏み入れた。

 宿全体の広さは日本のホテルほどではないが、一部屋ごとがビジネスホテルの広さを上回っており、快適そうである。


 ルルが用意してくれた俺の部屋に、二人で入る。

 こんな美女と限られた空間に二人というのは、緊張するな……なんて。


「お掛けくださいな」

「ああ」

「色々ご説明しましたら、食事にでかけましょう。それまで、ご辛抱ください」


 実は街道を歩いた辺りから、お腹が鳴っていた。

 さすが冒険者(?)のルル、良く気付いたな。


「色々とご質問もございましょうが、まずは簡単にご説明いたしますわ」


 改めて、部屋に備え付けられた椅子に腰掛けテーブルを挟んで向かいあった。

 やっと座れて、どこか落ち着いた気分だ。


「まず、ご自身でもお気付きとは思いますが、ここはハヤト様のいらした世界ではありません」

「それは、何となく……」

「なぜ(わたくし)がそれを知っているかと言いますと、貴方様の魔力が我々の知っている魔力に似ていたからです」

「? 魔力が?」


 どういうことだ?


「人の魂が転生するかどうかまでは分かりませんが、我らの知る限り、世界を任意に(また)ぐことが出来るのは、神と呼ばれる存在のみです」

「ほう」


 まぁ、それは良くある設定だな。

 ……ん?


「その、世界を跨ぐ瞬間に発せられた魔力。それを辿って、(わたくし)はハヤト様を見付けました」

「えーーっと、つまり?」

「ご事情がどうあれ、貴方様の潜在的な魔力は神と同等、ということになりますわね」

「ええええええええ!?」


 チートか?

 転生したら、チートなのか!?


「いやでもその仮説でいくと、俺は転生したってよりも、転移したのか?」


「いえ。……詳しくはまだ確定的ではないのでお伝えできませんが、簡単にご説明しますと、元々いらした世界にて、ハヤト様の魂とは別の魂が貴方様に宿っておりました。その魂が、御身の絶命と共にこちらへやってきた。それに引っ張られる形で、元々あった魔力も手伝い魂が再構築された……、そう我々は考えております」


「まじかよ」


 だれだよ俺の体に無賃乗車してたのは。

 てか元々魔力あったのかよ俺。


「恐らく今のお姿は、魔力が全盛期であった頃のお姿かと」

「え?」


 俺の全盛期って、いつだ?

 モテた記憶はないぞ。


 テーブルセットの近くにある、鏡をのぞきこんでみる。


「……!? これ、俺なの!?」


 そこに映ったのは、弓道部だった頃の俺。

 すなわち、高校時代の俺に一番近い姿だった。

 十七歳くらいだろうか?


「ハヤト様。元々いらした世界に、もし魔力という概念がなかったのでしたら。こちらの世界に変換すると、魔力に相当するような……集中力の必要なことをされていませんでしたか? もしくは、神に祈りをささげておりましたか?」


「え、えぇ? この姿が全盛期っていうなら、……弓道か? 確かに集中力は必要だし、所作も一つ一つ丁寧にしてたけど、早気で台無しだったし……。神に祈りって、拝礼のことか?」


「お心当たりがあるようですね」


 いやでも、早気だったし神に近い魔力をもてるような器じゃないんだが……。

 弓道ってのは神話にも描かれたものだし、神事の一環としてカウントされたのか?


 いや、でもなぁ。

 祈りというよりは、早気が治るようにお願いしてただけだしな。


「仮に思い当たる行為があっても、それで力を授けてくれるような神様がいるのか……? 信心深さで祈っていた訳でもないし」

「十中八九、貴方様に宿っていた魂でしょう」

「あーー! そういうこと!?」


「ご説明するのが難しいのですが……。魔力の理がない世界で、本来存在することのできない神の魂が貴方様に宿っており、貴方様の集中力……修行の成果とでも言いましょうか。それを魔力に変換することで存在を保っていた。それが、ハヤト様の絶命によって供給が絶たれ、これまで得ていた力がハヤト様に返還されたのでは……、と考えております。こちらの世界では魔力の理がございますから」


「その謎理論でいくと、俺の早気ってもしかして……」


 いや、止めておこう。

 そうかもしれないし、そうではないかもしれないんだ。

 ルルも確実には言えないみたいだしな。


「ともかく、ハヤト様の魔力が高いのは必然であり、重要なのはその制御方法なのですが……、(わたくし)がお伝えする前にすでに制御されていらっしゃいますね」

「ーーあ、あぁ。グレイヴァーンにコツを教えてもらったんだ」

「ちっ、あの男……」


 あれ、もしかして知り合い?

 というか、仲悪い?


「こほん。さすがはハヤト様といったところです。魔力とは、その人物を表す情報でもありますから、認識したことで色々と見えてきたのでは?」


「あぁ、ユニークスキルってのが頭の中に思い浮かんだな。というかあれか、魔法使いみたいな子にクラスがバレたのは、魔力を読み取る力みたいなものがあるのか?」


「それは魔眼ですわ、中級以上の魔法クラスのみ持つクラススキルです。……まずクラスからご説明しますと、この世界では成人する十八歳の誕生日に、ある一定量の魔力が備わっているとアルバ・ダスクに対抗する手段として、神がクラスを授けると言われています」


「へぇ」


「魔力が少ない者は必然的に戦えませんので、彼らをサポートする役、商業、各々が得意なことを職業にするというのが通例です」


「なるほどね、試練に対抗するためにクラスを授けるってのも謎だけど」


「その職業を決める際にも役立つのが、ユニークスキルと言われる、誰もが持つその者だけの特技です」


「個性みたいなものか」


「そうですね。それとは別にクラスを授かった者には、クラススキルというのもございます。クラス持ちというのは、人々が生きていく上で欠かせない存在……。それだけで重宝される存在です。彼らがベストな状態で戦いに挑めるよう、クラスがない者には例えば料理のスキルであったり、武具製作スキルであったり。そういったスキルが多いですわね」


「助け合って生きろってことなのかな」


「ええ、そうなのでしょう。ですが、中にはクラス持ちというだけで、高慢な態度をとる者もいます」


「自分じゃ選べないことなのにな……」


「その通りです。命を賭して戦うという点では、利権を求めるのも仕方のないことかもしれませんが、力なき者を見下すこととはまた話が違います」


「何か俺、最近そういうクラスをひけらかす人物に会った気がする」


 妙に自分や特級クラスとやらを自己申告する奴が居たな。


「お考えの通り、彼はその(おご)りで自身のS級冒険者という地位が危ぶまれています。まぁ自業自得ですので、ハヤト様が気に留めることはございませんわ」


「ははは……」


 ルルは結構好き嫌いがハッキリしたタイプなのか、分かりやすいな。


「クラスには通常、中級、上級、特級という階級があり、更に別枠で複合、特殊というクラスがございます」


 へぇ、ゲームの内容をそこまで見てなかったが、そんなにあるのか。


「例えば俺の、魔弓師(マジック・アーチャー)ってのは何になるんだ?」

「それは……、正直初めて聞くクラスですのでなんとも」


 え!? ゲーム情報に載ってたから、これは公式だよな?

 チートじゃないよな?


「ですが、名前から察するに魔法クラスと弓クラスの複合クラスではないかと……。ちなみに複合クラスというのは、元々が特級で、且つ他のクラスにも適性がある者が、その道をも極めた時に発現するものでして。そもそも特級クラスが約五十万人に一人の割合ですから、そう居るようなクラスではありません」


 マジかよ。

 極めるどころか昇段も出来なかったんだが。


「通常から上級までは、クラススキルを習得しながらスキルのレベルを上げることで、昇級することもできます。大抵は中級で一生を終える者がほとんどですが……。ですが、特級と特殊クラスには他の等級から上がることはできません」


「特級だけでもやばいのに、複合って……」


「弓クラスでいうと、弓使(ゆみつか)い、弓闘師(きゅうとうし)弓術師(きゅうじゅつし)、特級が弓導師(きゅうどうし)の順ですね」


「色々あるんだな」

「剣を扱うクラスですと中級、上級に複数クラスが存在することもありますので、ほんの一例ですわ」

「あ、そうだ。ユニークスキルって他人に教えていいものなのか?」


 そうそう、冒険者同士の情報のやり取りがどんなものか聞いておかないと。


「そうですわねぇ。長い付き合いになるメンバーや、挑む魔物次第では共有しておいた方がいいと思いますが……、初対面で理由もなくいきなり教え合うことはないですわね」

「ですよねーー」


 なんとなく想像はできたが、念の為だ。


「忘れるところでした。今後いきなり魔眼で見られても、ハヤト様の見せたい情報以外見られることはありませんよ」

「そうなの!?」

「基本的に自分より魔力の高い者には通じませんし、視られている感覚を受けた時に任意にブロックすることもできますわ」

「俺って魔力高いんじゃなかったのか?」

「魔力が垂れ流しだったからでしょう。本人が認識していないのなら尚更。それでも圧倒的に魔力に差があれば、全てを視ることは無理でしょうね」

「なるほどねーー」


「ちなみにわざと垂れ流しにしてる者や、精密なコントロールで相手に不利な情報だけ見せることも出来ますわよ。例えば自分が特級クラスであると見せ付けるとか」

「それはたしかに効果ありそう」


 そういえば、俺がヒトかどうかも魔眼でみる! とか言ってたよな。


「相手が何の種族かも視れるの?」

「ええ、魔力とは個を表すものですので」

「ははぁ。すごいな」

「これは主観ですが、恐らくハヤト様も使えるようになりますわ。魔法との複合クラスですもの」

「だったら良いけどなぁ」


 圧倒的にこの世界の知識が不足している俺にとって、そんな能力があればありがたいものだ。


「あまり一気にお話するのも得策ではありませんわね、お疲れでしょう。最後に、冒険者について簡単に」

「確かに。クラスについては分かったけど、冒険者である必要はないよな。国に所属したり傭兵だったり」

「ええ。冒険者はもちろんクラス持ち、もしくはその者を支えるサポート役で構成されています。冒険者である大きなメリットは、身の保障ゆえの国家間の行き来が容易となることと、ダンジョンへの入場が可能な点ですわね」


 おお、やはりゲーム世界。

 ダンジョンもある訳か。


「明日、冒険者ギルドへとハヤト様をお連れするつもりですので、詳しくはその時に。ダンジョンにはそこにしか居ない魔物や、珍しい装備品が眠っているとされ、来たる次のアルバ・ダスクに備え経験を積んだり、装備の拡充を行えます。また、民衆の依頼を受注することで、報酬により生計を立てることもできます」


「なるほどな、修行と装備向上の場って訳か。戦えない者の依頼を受けることで、市民の安全面も守ってあげていると」


「ちなみに、前回のアルバ・ダスクにて戦果をあげた者は英雄扱いされる風潮にありますわ。当然、次のアルバ・ダスクにいち早く召集されます。国単位で居場所を把握されたりしますわね。主に特級クラス持ちですけれど」

「……もしかして、ルルって」


 門番のあの恐縮した態度、『様』呼び。

 少なくても一介の冒険者ではないだろう。


「さあ、どうでしょう?」


 さらっと流すルルは、デキる女! って感じでかっこいい。

 戦いに身を置く生活は、きっと彼女にとっての日常なのだろう。


「あとは、必要に応じてご説明いたしますわ。分からないことの方が多く、お疲れでしょう。ご飯にいたしましょう?」

「ああ、お腹空いて正直頭がまわらない」


 慣れない環境、自身の若返り、新しい知識。

 頭はパンク寸前だ。


「あ、俺お金ないんだけど……」

「もちろん、ご馳走いたしますわ」

「なんかすいません……」


 格好がつかないが、今はお言葉に甘えるとしよう。


ご覧いただきありがとうございます。


続きが気になりましたら、ぜひブクマ・★評価で応援よろしくお願いいたします!


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