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3.魔性の者

「え?」


 びっくりした。

 全く気配も何もない、エルフが向かった先とは真逆にあたる俺の後ろから、突然声をかけられた。


「あら? お困りだったと思ったけれど、違ったかしら?」


 おまけにこんな良く分からない多分物騒な森で、こんな美女に遭遇するとは思わず、更にびっくりだ。


 薄紅色というか、桃色というか。

 ピンクや紫系統の、明るい色をした長髪の、いわゆる絶世の美女。

 スレンダーな体型と、魔女のような服装が良く似合っていて、彼女のために用意されたかと思うようにフィットしている。

 ……若干胸元が開いているのが気になるが、初対面で変に思われる訳にもいかない。


 平常心だ、俺。


「いえ、困っているというほどでは」


 実際困っているが、こんな物騒な森に居るお姉さんが普通な訳ない。

 もしや、盗賊か……!?

 見た目に惑わされる間に荷物を盗られるのか!?


 あ、荷物なにもないや。


「遠慮なさらないで? ()()()()()()()、貴方のことも。教えてさしあげるわ」


「え!? 今、なんて」


 まるで俺が異世界から来たと分かっているような口ぶりだ。

 やはりこのお姉さん、怪しいぞ。


「貴方の知らないことを知っている、と言ったの。そうそう、お名前、教えてくださる?」


 名前は知られていない……?

 ということは、元の世界のことまでは知られていないが、転生してきたという事実だけは分かっているのか?


「……ハヤトだ」


 一応フルネームは避けておこう。

 とにかく俺には情報が少なすぎるし、ここはこのお姉さんから情報を引き出すしかない。


「ハヤト様、ね。ふふっ、可愛らしい方ね」


 ど、どういうことなんだ……。

 可愛い要素なんかない、アラサー間際の社畜なんだが。


「申し遅れました、(わたくし)、ルルメアカリスと申します」


「る、ルルメ……?」


「ルル、で構いませんわ」


 その潤んだ唇が笑んで吊り上るだけで、男女問わずその美しさに打ちのめされるだろう。

 俺だって、特殊な状況下でなければそうだったに違いない。

 とにかく、眩しい。


「えーっと、ルル? は、俺に何か用だったのか? 明らかに俺がここに居る前提でこの森に来てるよな」


「お察しの通り(わたくし)にはある目的がございます。……ですが、あくまで副次的なもの。私はさるお方より、貴方様にお仕えするようにと仰せつかりました。ですので、貴方の思うままに、どうぞこの世界を生きてくださいませ。それだけで、私の目的はいずれ達成されます」


「そんな都合の良い話が、あるのか?」

「ふふっ、正直なお方」


 しまった、疑問が口にでていた。


 そのさるお方って奴も、俺が転生したと知っていて、ルルメアカリス……ルルを派遣してきた訳だし。

 色々と突っ込みどころが満載だが、少なくても俺を今すぐどうこうするつもりはなさそうだ。


「今すぐにでもお伝えしたいところではありますが、……その前に一刻も早く勇者の元を離れませんと」

「え? この森が危険だから、とかじゃなくて?」


 確かに情緒は不安定そうだった。


「ええ、他の勇者でしたらいざ知らず。今回ギルドから派遣されているのは、ウェイダーという勇者だったと思いますが、彼はここ最近良い話を聞きません。そんな彼にこんな重要な依頼をギルドが出すなんて……、まるで()()()()()()()かのような采配ですわ」

「どんだけ悪評轟いてるんだ」


 正直、親切なエルフが居なかったら即切り捨てられそうな勢いだったな。

 

「なら、グレイヴァーンにだけでも居場所をーー」

「いけませんわ、彼らが気を取られている間に、お早く」

「えーっと、もしかして、ルルの仕業だったり……?」

「うふふ。(わたくし)、魔法は得意ですの」


 その笑みが今は怖い。


「こちらへ」


 促されるまま、ルルの後ろをついていく。


 あぁ、親切な美形、グレイヴァーン。

 ここを動くなと言われたのに、何も言わずに去る俺を許してほしい。


 命は惜しいんだ。


「彼らの居る方角へ抜けると、エルダスク盟主国のブラッドベリ領へ。こちら側へ抜けるとグランアルバ王国のランダーレ地方へと出ますわ」

「エルダスク……、グランアルバ……。あれ」


 ゲームのタイトルにあった、アルバ・ダスク。

 この二国間での物語だから、なのか?

 それとも別の意味が……?


「何かお気付きのようですが、今はどうぞ、(わたくし)と共にお越しください」

「は、はい」


 怪しいとはいえ、転生したての俺には頼れる者も居ない。

 大人しくルルの後を着いて行った。



 ◆



 途中、鬱蒼とした森であるがゆえに、魔物ないしは野生動物にでも絡まれるんじゃないかと内心ビクビクしながら進んでいったが、拍子抜けする程なにもなかった。

 意外と森を抜けるのも早く、もしかすればそれほど深い場所で目覚めた訳ではなかったのかもしれない。


 それにしたって、だ。

 俺の魔力が、いや、もしかしたらルルの影響で……?


 どこか疑惑の目を向けていると、前を進むルルが振り返った。

 相変わらず眩しいな、おい。


「どこへ向かうかお伝えし忘れておりました。この蒼炎の森に面しているランダーレ地方で、一番大きな街へと向かっております」

「街か、色々と聞きたいこともあるし一旦落ち着きたいな」


 今のところ転生して魔族と間違えられて、謎の美女に連行されてるだけだもんな。

 何か、もっとこう。

 別のがあっても良さそうだ。


 ん? 待てよ。

 そういう街が近くにあるってことは、冒険者ギルドとやらもあるんじゃないか?


 ってことは、さっきの勇者ご一行様とやらとばったり遭遇! なんてイベントも発生するのでは……?

 グレイヴァーンと会うのも気まずいな、おい。


 急に不安になってきたぞ。


「ふふ。ご安心ください。街でいきなり襲われる、なんてことはありませんわ」

「本当かぁ? 何か、黒髪がどうのとも言われたが」


「それは……。黒は闇の象徴。光と対となる、始まりの魔力ともいえる属性です。ヒトが畏怖の念を抱くのも仕方ありません。魔族とは違い、ヒトは己の魔力で扱える、もっとも得意な属性が髪色に現われると言い伝えられております。ですが、闇属性を先天的に持つ者は魔族だけなので、あらゆる魔法が得意な方が黒髪であると言われています。ヒトが二種類以上の属性を扱えるようになると、光や闇の魔法が顕現するのですよ」


「へぇ、ゲームみたいだな」


 まぁ、ゲームの世界? なんだろうけど。


「ヒトで黒髪の方は、中級以上の魔法クラスの方がほとんどでしょう。街へ着きましたら、改めてクラスについてお伝えしますわ」

「なんか、ルルの言い方って他人事だなぁ」

「そう聞こえますか? (わたくし)、腕には覚えがありますので他人と行動しませんの」

「なるほどね、ソロってやつだ」


 魔法を扱うクラスで、ソロ気質。

 そこに関しては気が合いそうだ。



ご覧いただきありがとうございます!


続きが気になりましたら、ぜひブクマ・★評価よろしくお願いいたします♪


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