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2.後悔、のち必中

「えーっと……」


 魔族。

 まぞく。


 ゲームで良く聞くけど、あの魔族?

 なんとなく恐そうな名称ではあるけど、どこに?


「観念しろ、俺はクラス・勇者のウェイダー。パーティーには特級クラスも居る。お前に勝ち目はない!」


 今時の勇者は自己申告制なのか?

 というか、魔族ってもしかしなくても、俺!?


「いや魔族ではない! ……と、思う」


 命を落とした身としては、現状の自分のことが良く分からない。

 説明しようにも、出来ないのがなんと歯がゆい。


 だが、勝手に決めつけられるのは不本意だ。

 魔族だなんて、いったい何を根拠に……!


「バカか? それだけの魔力に黒持ち。おまけにアルバ・ダスク発生地の蒼炎の森に突如現れる。魔族でなければなんだ!?」


 や、やばいぞ。

 根拠ありすぎ問題。


「ウェイダー、いい加減にしろ!」


 一人で勝手にうろたえていると、何やら美声が響き渡る。

 すこし重低音、威厳のあるお声だが、若々しさも感じる。


「エルフ……?」


 つい言葉にしてしまったが、自称勇者を制したのは超絶美形のエルフ、たぶん男性。

 長い白銀の髪をハーフアップというのだろうか、上部分だけ後ろで結った、美丈夫。


 耳の形から勝手にエルフ呼びさせてもらっているので、自分が魔族! と突然指さされても仕方ない気がしてきた。何かごめん。


 エルフは魔法使いや弓職のイメージを持っていたが、彼は中々な大剣を腰に提げていた。

 声の感じやウェイダーとやらを見る目つきからも、いわゆる温厚キャラではなさそうだ。


「ギルドは魔力の源の調査を依頼してきたんだ。事実確認もせず魔族と決めつけ、宣戦布告など見苦しいぞ」


 おお、こちらのエルフ(仮)は話が分かる人っぽいぞ。


「怖気づいたか、グレイヴァーン。状況的に魔族でないなら、何なんだ?」


 グレイヴァーンと呼ばれたエルフと勇者(仮)のやりとりを、パーティーメンバーであろう女性二人と男性一人がオロオロと見比べている。


 五人一組か、なんだか懐かしいな。


「最近のお前は、何かに焦るように決めつけが過ぎる。オレ達が襲われたならまだしも、少しは相手の立場になって物事を考えることはできないのか?」

「そういうお前は、何様のつもりだ? パーティーのリーダーは俺だ、指図をするな!」


 雲行きが怪しくなってきた。


「実際どうなんだ? あーー……名前は?」


 話の分かる美形が突然こちらに話を振ってきた。

 心の準備が……。


「カザマハヤト……いや、ハヤト・カザマか? 名はハヤトだ」

「ハヤトか。オレ達は、冒険者ギルドからの依頼で、この森に突然現れた強大な魔力の正体を調査しにきた。……で、魔力を辿ったらハヤトが居た訳だが。心当たりはあるか?」

「いや……、正直に言うと、目が覚めたらここに居た。魔力についても、自分では全く」


 俺に魔力があると分かったのはいいが、状況が状況だ。

 詳細は伏せて、ここは正直に答える。


「なるほどな。仮に魔族だとしても、記憶がないのか」

「こいつを始末すれば良い話だろ!? 何を迷ってんだ!」

「お前、ヒトだった時に責任とれんのか?」

「……! くそっ! 時間がないってのに……」


 さらっと怖いこと言わないでください。


「ちっ、視た方が早いか。カイナ」

「分かったわ」


 みる? みるって、何を見るんだ。

 見守っていた女性の一人が、こちらを見据えてくる。


「そこの貴方、動かないでね」


 言うと同時に、手をかざしてくる。

 探るような眼で全身をくまなく暴かれている感覚だ。


「……! 魔力が桁違いすぎて……。だけど、間違いない。ヒトだわ」

「ちっ」


 舌打ち聞こえてますよ、勇者さん。


「それに、魔、弓、師……魔弓師(マジック・アーチャー)? 見たことがない、まさか……複合職なの!?」

「なんだと!」

「へぇ、道理で」


 お仲間さんと盛り上がっているところ申し訳ない、こちらは着いていけていません。


「えっと、とりあえず。魔族ではない?」

「ええ、そうね。だけど、未知の存在であることには変わりないわ」

「とりあえず、その垂れ流しの魔力、どうにかするか?」

「どうにかって」


 とんでもない魔力とやらを、分かってもないのに?


「ヒトも魔族も、魔力は誰しも持っている。極まれに魔力無しも居るが……、とにかく。クラス持ちなら魔力の扱いも修行をすれば慣れるはずだ」

「クラス持ち……」


 魔弓師でアルバ・ダスクでスタートが森。


 うん、転生したんだな。


 これはもう、確定的だろう。


「魔力の扱い、少し教えるか?」


 話の分かるエルフが、そう申し出た。

 本当、いいやつだな。


「あ、ああ。頼めるか?」


 お言葉に甘えるしかないだろう。


「オレも専門じゃないが……、ウェイダー! 少し周りを見ていてくれ。いつ魔物がでるとも限らない」

「指図するんじゃねぇ!」


 そう言いながらも仲間と一緒に周りを警戒しに行った。

 ツン属性か?


「ハヤト、だったか。話しぶりから、魔力をあまり感じ取っていないな?」

「おっしゃる通りで……」

「まずはそれを認識することからだな、深く呼吸してみろ」


 深呼吸。

 ふう。

 落ち着く、というのだろうか。

 弓を引く時と、何だか似てるなぁ。


「--!?」


 深呼吸した途端。

 頭にパッと、文字が浮かんだ。

 それはまるで、ゲームのステータス画面のようだ。


 【ユニークスキル・早気】


 【己の魔力を自身に巡る気と化し、瞬時に操作できる。もし貴方が弓を扱うクラスなら、物見(ものみ)を瞬時に定めることもできる】


 は、早気!?

 この期に及んで、俺の特殊能力? 早気なの!?

 まぁ確かに個性だけどさ?

 転生してまでって、そりゃないでしょう。


 ……いやでも待てよ。

 この説明からいくと、物見ってつまり、的を定めることだよな。

 それを瞬時にって……。


「オートエイム!?」

「?」


 まじか。

 字から察するに俺は弓を使うクラスで間違いなさそうだし、弓職ならかなり良いのでは?

 ずっと後悔していたことが、ここに来て化けるとは。


「あれ?」


 しかも、自分の早気を認識した途端、魔力……この場合は気? が、分かる。分かるぞ!

 神経を研ぎ澄ませる、『会』が保てた時の感覚だな。


「! お前、もうコツをつかんだのか? 魔力が穏やかだぞ」

「し、深呼吸が効いたみたいで。今が穏やかだとすると、さっきまでは……?」

「そうだな、轟音を伴う滝のようだったな」

「滝ですか……」


 それは、まぁ。

 魔族と疑われても仕方ない、のか?


「それに、垂れ流しだったのが上手く体に循環するよう留まっている。魔法クラスでもこんな精密に操作できないだろう、魔弓師とやらのおかげか?」


 ユニークスキルと表示された早気のことは、言ってもいいのだろうか。

 先程の魔法使いのような服装の女性に、クラスのことは言われたが、早気のことは言われていない。


 戦いにおいて、相手に手の内を見せないというのは定石だ。

 冒険者である彼らが、仲間以外にもユニークスキルを伝達し合うかどうか、判断ができないな。


「クラスではなく、ユニークスキルの方かもな。何にせよ、良かったじゃねぇか。あのままじゃ街なんて入れなかったぞ?」

「グレイヴァーン、さん? のおかげですよ。魔力があるという認識もなかったですし」

「へぇ、謙虚だな。ウェイダーにも見習ってほしいもんだ」

「は、はは」


 愛想笑いを返すので精一杯だ。


「まぁ、とにかくここに居ても仕方ない。ギルドに事情を話せば協力してもらえるだろう、一緒に行くか?」

「あ、」


 ありがとうと言い終えるより先に、先程一緒に居たお仲間さんのもう一人の女性が悲鳴をあげた。


「!? ここで待ってろ」


 聞こえるや否や、親切なエルフは声の方へと駆けて行った。


 心配は心配だが、待ってろと言われたし、俺が行っても足手まといだ。

 ここを離れる訳にはいかないな。


 さっきの復習でもするか?


「えーっと……、……? あ。深呼吸以外、何も聞いてねぇ」


 良く良く思い返せば、復習どころか基本のキしか聞いてない。



「あら、お手伝いしましょうか?」



ご覧いただきありがとうございます。


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