10.依頼達成と宿
「ま、まぁ! 何はともあれ、依頼達成……だよな?」
「え、えぇ。そうですわね!」
「まさか冒険者初日からレベル50とはねぇ」
この世界で冒険者として生計を立てていく。
そう決めて一歩を踏み出した矢先、早速俺のレベルがとんでもないことになった。
あれか?
元の世界で一通り鍛錬してるからレベルマックスでスキルを覚えるのか?
「本来ユニークスキルというものは、クラススキル以上にゆっくりと経験を積むものなんですけれども……」
「その感じだと、全部が10なんだろ?」
「そうだな、ステータスで初めて見た時から10だな……」
「不思議ですわねぇ」
「やっぱ、それだけ魔力があるのは意味があるのかもな」
「はは、まぁ結果オーライ……なのかな?」
正直『早気』のレベルが高くても元の世界だと嬉しくないんだがな。
「んじゃぁ、報告にギルドに戻るか?」
「そうだな、あ。今日の宿も決めないと」
夕食の場所はルルに任せるとして、今後の常宿とやらを決めておきたい。
「お、ならオレの所にするか?」
「え?」
「ちょっと、抜け駆けはさせないわよ!」
「ばーーか。お前の所は高いだろ。オレの泊まってる所なら、そこまで高くない。施設も最低限揃ってる。朝飯付。そうわるい条件じゃないがな。なんなら少し広めの部屋を一緒に借りるか?」
「はあああ!? 一緒だなんて、ぜっっったい許さないわよ!」
「なんでお前の許しが要るんだよ……」
「えーーと、じゃぁ。あとで見に行ってもいいか?」
「おう」
「あああ、ハヤト様……」
ルルの扱い心得その一。
グレイと喧嘩になる前に結論を出す。
それに尽きる。
◆
「あれって……剣聖か!?」
「どうなってるんだ、ルル様だけでも大変なことなのに!」
「ソロ専のお二人が一緒にいるなんて……、あの黒髪の者、只者じゃないな」
あぁ、視線がいたい。
案の定、S級冒険者の二人を連れ立って歩いていると、目立ってしまった。
「ハヤト様のすごさに気付くなんて、分かってるわね」
「華々しい冒険者デビューだな、ハヤト」
「二人が目立ってるだけだから……」
鈍感なのかわざとなのか。
自分たちがS級でふだんはソロ専門で、特級クラスというのを棚にあげて俺を褒める。
「えーーっと、依頼達成は右のカウンターで良いのかな」
「ええ、丁度空いておりますわね」
「ならオレはあそこで待ってるぞ」
本来依頼に同行しないはずだったグレイは、建物に入って左手の冒険者用の待合い所で椅子に腰かけて待機。
あぁ、そこでも目立っているのはさすが超絶美形エルフ。
女性冒険者からの視線が熱い。
「はぁ、ようやくハヤト様と二人きりですわ」
「いや周りに人いるからな?」
「ーー次の方、どうぞ」
意外とすぐに自分の番がやってきた。
今回は男性職員だ。
「あの、この依頼を達成しました」
受領印の捺された依頼書を差し出す。
「冒険者登録後すぐの依頼ですの、私が無事見届けましたわ」
「これはルルメアカリス様。--ふむ。ベリーエンテの羽根を納品、ですね。この大きさでしたらこちらに提出で構いませんよ。もし今後、素材の買取や、大きめの納品があれば右奥の扉から進んだ先にある受付でお願いしますね」
ほうほう。魔物の素材の買取もしてくれるのか。
おまけに大きめの納品……、右奥はいわゆる解体所ってところか?
「分かりました」
「素材も申し分ありません、無事初依頼達成です。おめでとうございます!」
「さすがハヤト様ですわ!」
「えーーっと、……ありがとうございます?」
「これから様々な冒険に出ることになると思いますが、アルバ・ダスクに向けて是非ご自身の強化を図ってくださいね」
「あ、はい。頑張ります」
「こちらが今回の報酬です、どうぞ」
そう言われると、硬貨だろうか?
いくらか重みのある袋を手渡された。
「では、今後のご活躍を期待しております」
「どうも」
初依頼の報告も無事終わり、列から外れグレイの所へ戻る。
「これっていくらなんだ?」
「お、見せてみろ」
椅子に座って待っていたグレイに、袋を手渡して見せた。
「レイ銀貨三つか、安宿なら二泊できるくらいか?」
ということは、……どのくらいだ?
このレイ銀貨ってやつは、元の世界でいうところ何円にあたるんだろう。
「あら、私としたことが。硬貨には六種類ございまして、一番大きい価値がレイ金貨。大きめの金貨ですわ。こちらは……そうですわねぇ。高級な宿一泊分でしょうか?」
比較対象がないから分からんが、大体一万円から五万円の間か?
「次いで金貨、レイ銀貨、銀貨、レイ銅貨に……銅貨の順ですわ」
「なるほど。大きいものには『レイ』とつくんだな」
「ルルの宿だと一泊金貨一枚だろ? オレのところなら一泊レイ銀貨半だな」
「半?」
「あぁ、レイ銀貨の半分、つまりレイ銀貨一枚と通常の銀貨一枚ってことだ」
「ふむふむ」
「市場調査のためにも、明日は街の商業エリアへ向かいますか?」
ちょうど服や装備も見直したかった。それがいいかもな。
……もしかしたらお金足りないかもだが。
「あぁ、できればそうしたい。まだまだ知らないことが多いからな」
「ほーーんと、ハヤトって記憶ないんだな」
「あはは……」
グレイにはまだ、俺が異世界から転生してきた! とは伝えていない。
もちろん今すぐにでも言っていいが、一つだけ気がかりなことがある。
それは、ルルのいう『我々』という組織が、必ずし味方とは限らないからだ。
もちろんルルには良くしてもらっているし、その組織も悪と決めつけるには時期尚早だが……。
謎が多い内には、グレイを巻き込む訳にはいかないよな。
「じゃぁ、私は昨夜ハヤト様をご招待したお店にお肉を届けて参りますわ。宿をお決めになりましたら、そちらで合流いたしましょう?」
「そうだな。ーーグレイ、案内してくれるか?」
「任せろ」
そういうとルルは一足先にギルドを後にした。
「オレ達も行くか」
「おう」
相変わらず好奇の目に晒されている俺は、そそくさとギルドを出た。
気持ち的にもあまり街をじっくりと見る余裕はなかったが、この街はアルバ・ダスクの最前線というには本当に綺麗だ。
争いの跡も見当たらない。
それだけ冒険者の皆さんや結界というのが優秀なのだろうか。
時刻はそろそろ夕刻。
陽が沈む寸前。
街を朱く染めて、なんだか幻想的だ。
「ハヤトは、不安とかないのか?」
「え?」
慣れた足取りで前を行くグレイに着いて行く。
と、唐突に振り向いて話しかけられた。
このお兄さんも眩しいな、おい。
「記憶、ないんだろ? 初めてのこととか、場所とか。……おまけにその魔力で、いきなり戦う環境に身を置くとかさ。色々」
「あーー。なんていうんだろう」
そりゃもちろん不安だ。
しかし、俺は一度命を失っている。
自分でも分からないが、多分。
この世界に再び生を受けた意味を、俺は知りたいのかもしれない。
そのためには、自身の大きな魔力。これがきっと鍵だ。
このことから、目を背けてはいけない気がした。
「上手く言えないけど……、一人だったらもちろん、どうにもならないかも。でも、ルルもグレイも助けてくれるし。俺にこんな魔力が備わってるのも、意味があるかもしれない。だったら、戦える者としてしっかりやるべき事はやらなきゃなって……。他に生計たてる手段もないし?」
実際一番最後が本音だったりもする。
ユニークスキルを戦い以外で役立てれるビジョンがみえない……。
「ふーーん。お前、えらいなぁ」
「えらい?」
「あぁ。オレは、オレのやりたいことの為に、親父と姉に全部放り投げたんだ。……たまーーにそれを引き合いに出して条件飲まされたりするけどさ」
「グレイのやりたいことって、何?」
答えは何となく予想はつくのだが。
「好敵手を探すこと。真に強い者と出会うこと。……魔女が戦闘狂っていうのも分かるだろ?」
「それって、クラスに関係してる?」
特級クラスでS級冒険者。
恐らく、彼に敵う者の方が少ないだろう。
そんな世の中では刺激が足りない、とか?
「それもあるが……、まぁ。オレが今まで一番強いと感じた者。その人と、お前は似てたぜ?」
「へ?」
「人生色々ってねぇ~」
何かをはぐらかす様に再び宿へと足を進めるグレイ。
これ以上は聞いてはいけないような気がした。
逆に、俺に不思議な点があっても多くを聞かないのは、自身にも様々な経験があったからだろう。
ほんと、人生色々。ってやつだな。
「お、着いたぜ」
気付けばギルドの周辺とは違い、どこか住宅地のような路地に入っていた。
海外の世界遺産の街。そこの小道のような印象。
おしゃれな建物の中に、他の建物よりも大きめで、小窓が多めな建物が見えた。
「シンプルだけど……おしゃれだ」
どこか田舎のペンションのようだ。
ルルが泊まっていた宿ほど華美ではないが、センス良く鉢植えの植物も並び、申し分ない。
「だろ? おまけに安い。完璧だな」
ニッとグレイが笑えば、俺もつられて笑顔になった。
安くて質が良い、ほどお得なものはない。
S級冒険者に手ほどきを受けれるのは、こういった面でも非常に助かる。
グレイにならって中へ入れば、ホテルとまではいかないが、十分清潔で居心地が良さそうだった。
RPGで良く見る宿屋って感じ。
「あら、グレイヴァーン。お帰り。いつもより早いじゃないか」
「おう、帰ったぜ。ものは相談だけどよーー」
宿屋のおかみらしき人物と、何やら話始める。
俺の部屋についてだろうか。
「はーーん。ソロのアンタがねぇ……。坊や、名前はなんていうんだい?」
「っ、ハヤトです」
「ハヤトか、いいね。気に入ったよ。じゃあさっそく移るかい?」
「そうするぜ」
「?」
「ハヤト、こっちだ」
受付の横にある階段を上り、グレイに着いて行く。
そのまま歩いていき、廊下の一番突き当りでようやく止まった。
「二人部屋が丁度空いてたらしい、オレも今日からこっちに移るぜ」
そう言いながら開けると、ベッドが二台。ツインの部屋だ。
入ってすぐ右手にはテーブルセットがあり、真正面には窓。
その手前にベッドが二台並び、右奥には水場だろうか?
少し奥まったスペースがある。
「ひ、広くないか?」
元の世界の感覚で言えば、ビジネスホテルのツインルームより広さがあり、これで朝食付だ。
いったい幾らになるんだ……!
「一泊一部屋だとレイ銀貨三枚、で。オレと半分ずつ出し合えばレイ銀貨半だな」
「ほう……」
まだ価値の感覚がつかめていないが、少なくとも最低ランクの依頼を受ければ良い部屋一泊分。一人部屋だと二泊分? ぐらいの稼ぎということか。
というかこの宿のコスパが良いだけ……か?
どちらにせよ、長期間滞在するには十分な広さだ。
「オレが全額持ってもいいけどよ、お前イヤだろ? そういうの」
「良く分かったな!?」
「ハヤトのことは何となく掴めてきたぜ」
俺への理解、早いな?
たしかに俺は、自分で稼ぐ手段が分かった今、世話になりっぱなしになるという状況にはなりたくなかった。
にしたって早い。
俺が分かりやすいだけ?
「魔女のところ行く前に、とりあえず二泊分払いに行くか。飯代はオレと魔女で出すからよ」
「いいのか……?」
「まだ物の価値も掴めてねぇんだ。遠慮すんなって」
「じゃぁ、ありがたく……」
これで再び無一文になった俺は、明日商業エリアに行く前にもう一度同じ依頼を受けてこようと心に決めた。
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