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魔法使いの旅路  作者: 星野葵
第1章 魔法を知る者
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#7 揺れる心

(共存を望むものはいない、か…。やはりエスベルの民はその魔力を利用されるために『出稼ぎ』に連れて行かれるのか。しかもそれの仲立ちをするのが魔法使いだなんて…。)


そこでふと、疑問に気づく。


「しかし…それは妙では?」

「何が?」

「ただ魔力を運ぶだけなら、なぜ若い者ばかりを運ぶのです?魔力の量を考えるなら、年老いた者を選ぶべきでしょう。」


一般に、魔力は歳を重ねるごとに大きくなる。魔力だけを必要としているのなら、アロイのような少年ではなく、老人を選んだ方がよほど効率がいい。それに、体が老いていれば抵抗される可能性も低くなるはずだ。


「まあ…そうなんだよね。剣使い側の利益だけを考えるなら、その選び方が一番効率がいい。でもこの協定は双方の合意の上で成り立っている。一方的にシヴェリエが得するだけではないのさ。」

「合意の上…?エスベルの民は魔道具のことを知らないのでしょう。」

「ああ。だが町長だけは全て知っている。シヴェリエで何が行われているのか、エスベルが魔力を持つ民の町であることも、全て。」

「……?」


言っている言葉の意味が、分からなかった。町長は事情を知っていながら、みすみす民を見殺しにしているのか。エスベルはそんなにも経済的に困窮しているというのか。民を売った金で町の経済を回しているだなんて…。


「そんなものは…まるで人身売買じゃないか。」

「ああ、これには正直僕も驚いてる。」


思わず呟いたグアノに対して、サイクは呆れたように、困ったようにあいづちを打った。


「なぜそんなことを…?」

「簡単なことだよ。恐れているのさ。自分たちが得体の知れない力を扱えることも、それが周囲の剣使いに知られれば迫害を受けかねないことも、…いつか魔法を当たり前に使うような未来が来ることさえ。」


本当に困ったものだよ、とため息混じりにサイクは続ける。


「だから町長は民に魔法のことを伝えない。それでも魔法の素質に目覚めてしまった者は『処分』する。シヴェリエと協定を結ぶよりずっと昔から、そうしてきたらしい。だがあまりに不自然に死者が出れば、隠し通せるのも時間の問題。エスベルの利益というのはつまりそういうことさ。生まれてしまった『魔法使い』を誰にも疑われることなく、違和感なく『処分』する手段。それにこうやって力を売っておけば、剣使いと対立した際には強力な後ろ盾になる。経済的にも潤う。」

「……。」


何も言い返せないグアノに向かって、サイクは淡々と続けた。


「さっき君は、剣使いがどうなろうと関係ないと言った僕に怒ったね。この話を聞いて、君はまだ同じことを言えるかい?魔法を知らず、使えず、忌み、嫌い、拒絶し、排除する。やっていることは剣使いとまるで同じじゃないか。」

「…確かに、そうかもしれません。」


グアノは言った。確かに、魔法を恐れ、嫌う傾向は剣使いのものと似ている。ましてや、それを理由に殺して利用するなど、グアノには理解できない。それを聞いて、サイクはニコリと笑みを浮かべる。


「分かってくれて嬉しいよ。魔法使い同士の考え方の違いはあっても、対立することは僕の望むところではないからね。」

「…しかし、だからといってそれに加担するのは賛成はできませんね。」


反論するように、グアノは言う。


「話を聞く限り、魔法への嫌悪を持っているのは町長のみのようです。あなたも魔法使いであるなら、彼らに見切りをつけずに魔法を教えるべきだったのでは?」

「口で言うのは簡単さ。想像できないかい?魔法を知らない者にそれを教えることがどれだけ危険か。」

「……。」

「彼らはほとんど剣使いと同じ。理解される可能性はとても低い。そしてそうなった場合、僕がどんな扱いを受けるかなんて想像もできない。仮に魔法の知識を与えたところで、中途半端な知識では弱い魔法使いが生まれるだけだ。周囲の剣使いがそれを知ってこの町に攻めてきたとしたら?小さな町だ、すぐに全滅させられるだろうね。彼らが生き残るための町長の選択は、僕は間違っていないと思うよ。愚かだとは思うけどね。」


グアノは顎に手を当てて考えた。


(…難しい問題だ。魔法使いと剣使いが共に生きるのは、簡単なことではない。魔導国のような環境もそうだが、セキガの王子やシェムトネのバリューガのように、少数が混じって生活することさえ、普通に考えれば奇跡のようなものなのだから。)


「…君は優しいね。僕とは違って、魔法が使えない彼らを助けたいと思うのかい?」

「私はただ、理不尽に殺されることに納得がいかないだけです。彼らは何も罪を犯してはいないのに…。」

「じゃあ、君が変えてみるかい?」


誘うように、いたずらっぽい笑みを浮かべてサイクは言った。だが、その目は冗談を言っているようには見えない。


「現状がおかしいとは僕も感じている。でも、僕は彼らを魔法使いにすることはできない。そもそも僕は感情の変化を見たいだけで、共存に対してはあまり興味がないからね。そんな事に時間を割きたいとは思えないんだよ。」


だから、とサイクは続ける。


「君がシヴェリエに来て、連れてこられた人に魔法を教えればいい。昔ならともかく、魔道具が普及している今なら、シヴェリエも魔法使いを受け入れるかもしれないからね。僕としても、一人で魔道具の開発や管理を行うのには限界を感じていたんだ。協力してくれると言うのなら大歓迎さ。」

「それは…できません。」


グアノは首を横に振った。


「その提案は、きっと双方にとって良いことなのでしょう。私はきっと、それに賛同すべきで…、剣使いと魔法使いが争わずに暮らせるのなら、それに越したことはないのだと、そう思います。しかし…。」


グアノは少し俯いて、呟くように、自身に言い聞かせるように言った。


「しかし私は、旅を続けなければならない。あなたの提案に賛同はしても、協力することはできません。」


その答えを聞いて、サイクはしばらく黙っていたが、やがて小さくため息をついた。


「そうか…それは残念。」


そう言ってサイクは馬車の方を振り返り、その荷台に乗り込んだ。


(これで話は終わりか。)


グアノも、聞きたいことは全て聞いた。これ以上会話を続ける必要はないだろう。

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