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魔法使いの旅路  作者: 星野葵
第4章 いつまでも貴方の隣で
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#7 決意

目を覚ました。夢の中であれほど流した涙は、ただ目尻に一筋の線を残しているだけだった。


ゆっくりと体を起こす。昨日と比べれば、体はいくらか動くようだった。窓から刺す光は傾いていて、まだ昼にはなっていないということが分かる。


(私のようになる必要はない、か…。)


その言葉は不思議と、違和感なく胸の内に収まっていた。むしろ、その言葉をずっと待っていたような気さえする。


「体力は順調に回復しているようだね。あれから大きな効果も現れていないようだし、無理をしなければ簡単な魔法も使えそうだ。」


そばで見ていたエルナンが声をかけてきた。そしてその声につられるように、アロイがやってくる。


「あ、先生起きたの!」

「アロイ、おはようございます。」


そう声をかけた後、グアノは眉を寄せた。


「…何をしていたんですか?」


アロイは少し疲れているようだし、魔力も減っているような気がする。


「ああ、お節介だとは思ったんだけどね、アロイ君に魔法を教えていたんだよ。」


エルナンが答えた。


「この子はシンシリアの出身だろう?さっぱり基礎ができなかったのにはさすがに驚いたよ。」

「それを、アロイがあなたに伝えたのですか?」

「いいや、僕と会ったとき、初対面なのに魔力を構える素振りが無かったからね。少しおかしいとは思っていたんだ。まあ、シンシリアでは魔法は異端だからね。カロストに来るまで魔法を教えなかったのはいい判断だよ。」


そう言ってエルナンはアロイを振り返った。


「ただ、今まで意識して魔法を使った事がなかったからなのか、呪文は扱いにくいみたいだね。魔力がそういう質になってしまっている。」

「えっ…そうなの?」


アロイは不安げな声を上げる。エルナンはなだめるように言った。


「心配する事はないよ。魔法が全く使えないわけじゃない。むしろ君には特別な才能があるとも言える。」


エルナンは面白がるように笑みを浮かべ、顎に手を当てていた。


「グアノ、この子はすごいぞ。魔力が、まるで生きて意思を持っているみたいだ。」


視線をアロイから逸らさず、エルナンは言う。


「この子が魔法を意識しなくても、自然と体内の魔力が魔法に変えられている。常時魔法を使い続けていると言ってもいい。」

「しかしそれでは、魔力がすぐに尽きてしまうのでは?」

「それが凄いところだよ。この子はどうやら魔力の回復が早い体質のようでね。逆に魔法を使わずにいると魔力が溢れてしまうだろう。この子が意識下で魔法を使えるようになれば、どんな魔法使いになるのか…成長が楽しみだ。僕が引き取りたいくらいだよ。」

「…驚きました。」


グアノは呟くように言う。


「あなたが他人、それも異種族にそこまで興味を持つなんて。」

「僕はこう見えても知識欲は強い方でね。未知なるものに強く惹かれるのさ。僕だけじゃない。一族は皆同じような性格をしてるよ。」

「……。」


グアノ少し黙り、考えてから口を開く。


「あなたが私をこうして気にかけてくれるのも、知的好奇心によるもの、なのですか。」

「……。」


今度はエルナンが黙り込む。表情を険しくして、エルナンは宙を睨みつけた。


「随分と意地の悪い質問だね。」

「図星なのですか。」

「…確かに、病としての呪いは資料がほとんど残っていない。それをより深く知りたいと言う気持ちは認めるよ。そして、それの治療方法を確立したいとも思う。正直、お前の命とこの好奇心、どちらが優先なのか、自分でもよく分からないくらいだ。」


でも、とエルナンは続ける。


「お前を救いたいと思っているのは、紛れもない事実だ。」

「……。」

「僕は、一族の中では魔法の扱いが苦手な方でね。何をしたって人より劣っていたんだ。恵まれない才を恨んだ事だってある。…だから僕は、知識量だけは誰にも負けるまいと、そう決意したんだ。」


そう言って、視線をグアノに向けた。射抜くように鋭く、焼け付くように力強く、ただ真っ直ぐに、グアノを見据えた。


「僕には知識がある。誰にも負けないほどの知識が。必ず治療法を見つけ出してみせるさ。僕の威信にかけて、その呪いをそのままにはさせない。」


グアノは目を閉じて、ふっと笑みを浮かべた。


(…そうだったのか。)


耳を塞いでいただけ。目を逸らしていただけ。気付かないふりをしていた、ただそれだけ。


(大丈夫、きっと…大丈夫だ。)


グアノは目を開け、エルナンを見つめ返した。


「エルナン。私は決めました。私は変わらなければならない。もう、このままではいたくないのです。だから…」


息を吸って、吐き出す。


「私の事を、信じていてください。」

「つまり、僕は何をすればいい?」

「何も。」


エルナンは訝しげな顔をした。


「どういう意味だ?」

「そのままの意味です。ただ見守っていてほしいのです。私が、前へ進めるように。」


エルナンは悲しそうに肩を落とした。


「何もせずにいろと…そう言うのか?」

「…すみません。」


気まずくなって、グアノは視線を逸らす。


「あなたが見守ってくれている、その安心感に、今は縋らせてください。」

「……。」


エルナンが、わずかに動揺したのが分かった。


「……そうか。そうしたいんだな。」

「はい。」

「分かった。その意見を尊重しよう。」

「えっと…先生はどうするの…?」


アロイが不安げな表情で近づいてくる。グアノは手招いてアロイをそばに寄せると、その頭に手を置いた。


「私は、あなたがいつか立派な魔法使いになる日を、見てみたいと思っています。」

「えっ?」

「もちろん、あなたがそれを望まないのなら、別の生き方もあるでしょう。あなたが何を選ぶにしても、私はその行く末を、見届けたいと思うのです。」

「先生は、ずっと一緒にいてくれるの…?」


穏やかに笑みを浮かべ、グアノは頷いた。


「はい。あなたが、それを望んでくれるなら。」

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