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魔法使いの旅路  作者: 星野葵
第3章 いつか見た夢の続きを
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#6 生き方、在り方

なだれ込んでくる、沢山の気配。ここにどれだけの魔獣がいるのかは知らないが、それと同等以上の数の気配が近づいてくるのを感じていた。


(ここにいる魔獣は、おそらく無抵抗に殺される事を選ぶのだろう。なぜだ。なぜ、そんなことができる…?)


なぜそう簡単に死を受け入れられる?なぜ無抵抗の者を躊躇わずに殺せる?


彼らがそれを認めているのなら、部外者の自分はそれに口を出す権利など無い。だが、分からない。このままでいいのか?ただ見ているだけで、あるものを受け入れるだけで、いいのだろうか?


どうしても、認められなかった。認めてしまえば、夢で見た彼のことも認めてしまう気がして。それがどうしても胸の奥に引っかかってしまう。


(こんなものは…ただの我儘じゃないか。)


自分を認めたくないから、彼らのことも認められないのだ。彼らと自分を勝手に重ねて、勝手に否定しているだけ。そこに具体的な根拠など無い。


(自分も他人も認められないというのなら、私は…どうしたいというのだろう…。)


ーーーーーー


大柄な男が、荒野に転がる石を蹴飛ばし、踏みつけながら走っていく。足場の悪さも相まって一歩進むごとに振り落とされそうになりながら、アロイはその男、バルドールの背にしがみついていた。


「お、おじさん!落ちちゃうよ!」

「ハハハ!坊主が落ちたら一大事だなあ!なんたって、坊主がいないと魔獣がどこにいるのか分からないんだからな!」

「笑ってる場合じゃないんだってばぁ!」


ハハハ、と笑い声を上げて、バルドールは少しだけ足を遅くした。アロイは彼の背中の上で姿勢を直すと、前方に視線を向けた。


「うん。ここから真っ直ぐ行ったところにいるよ。」


アロイは岩が多く転がる土地の向こうを見つめながら言った。魔力というものがどういうものなのか、アロイはまだ詳しく知っているわけではない。だが、この先に誰かがいることは、その姿が見えずともはっきりと分かるのだ。きっとこれが、魔力なのだろう。


「ありがとよ、助かるぜ。」

「…ねえ、本当に魔獣を退治しにいくの?」

「ん?そりゃあそうだろう。そのためにわざわざ武器まで持ってここに来たんだぞ?」


バルドールはそう言って、腰に下げた剣の柄を叩いてみせた。グアノが持っている物よりも刃の幅が広く、重たそうな剣だった。


「魔獣は、悪い子じゃないよ。ナウスだってずっと一緒にいるけど、とってもいい子だよ。」

「俺だって、そう信じていたかったさ。でも、どうしても駄目だったんだよ。」

「なんで?」

「なんでって、そりゃあ…得体の知れない物だからさ。魔法使いの坊主にとっちゃ、当たり前に思える存在かも知れないけどな。」


そう言って、バルドールは表情を曇らせた。


「魔法が使えない俺たちとってアレは、到底馴染めないものだったのさ。」

「うーん…。」


アロイは納得できずに唸る。自分がナウスを受け入れることができたのは、本当に自分が魔法使いだからなんだろうか。もしそうでなかったら、彼らと同じように馴染むことができなかったのだろうか。


「おっ、本当に見えてきたな。」


バルドールの声が聞こえて、アロイは考えるのをやめた。たしかに、岩陰に隠れるようではあるが、誰かがいるのが見える。その姿は、獣であったり、人のようであったりと様々だった。


(本当に、いろんな形をしてるんだ。)


アロイは少し驚いていた。魔獣はそれぞれに異なる姿を持つ事はグアノから聞いていたが、それを実際に見るのは初めてだった。


魔獣は皆、役目を与えられて生まれるのだそうだ。姿はその役割に沿って決められるらしい。アロイはそれを聞いた時、人間とはまるで逆だと思った。


人間は、どんな姿で生まれるのか決まっていない。どんな役目を負うかも決まっていない。自分で決めることができる人間とは違い、魔獣は全てが勝手に決められてしまう。それは可哀想だと思った。それじゃあまるで、道具と同じだ。彼らだって生きているはずだ。やりたくない事だってあるんじゃないだろうか。


(ここにいる魔獣は、文句を言ったのかな。だから仲良くなれなかったのかな。)


ナウスは文句を言わない。それは、人の言葉を話せないから。


(もし、ナウスが話せたら。もう手紙を運びたくないって言うかな。見回りなんてしたくないって言うかな。)


なぜだろう。それはあり得ないような気がする。言葉を話せなくても、グアノのために飛ぶナウスは楽しそうに、幸せそうに見えるのだ。自分の役目を、役目を持っていることを、誇りに思っているようにさえ見えるほど。


「おい、どうした坊主?黙り込んで。」


バルドールの声が聞こえたが、アロイは返事をしなかった。


(だったら、ここにいる魔獣は?もしナウスと同じなら…。)


自分の役目を誇っているなら。人間の決めた生き方を受け入れているなら。


(自分たちが退治されてしまうことも、受け入れてしまうのかな。)


「…悲しいね。」

「ん?どうした。」

「ちゃんと分かってあげられないのは、悲しい事だね。」

「……。」


アロイは全方を指差した。


「あっちだよ。先生と、ナウスがいる場所。」


バルドールは何も言わずに、アロイが指し示す方へと走った。


ーーーーーー


「来たようですね。」


エシクスの声に、グアノは視線を上げた。そして感じ取れた魔力に眉をひそめる。


「アロイ…?」


小さいが、はっきりと分かる。あの魔力はアロイのものだ。


(まさか、私の身を案じて?危険すぎる。抗争になれば怪我を負うかもしれないのに…!)


グアノは無意識のうちに走り出していた。後ろでエシクスの声が聞こえた気がしたが、それには構わずにアロイの元へと急ぐ。


前方から一人の男が走ってきているのが分かった。よく見れば、その男がアロイを背負っているようだ。


「あっ、先生!」

「アロイ!」


男はグアノに気付くと、足を緩め、背からアロイを下ろした。アロイはすぐにグアノへと駆け寄って来る。その様子に、グアノは胸をなでおろした。


「先生、よかった…。」

「心配をかけてしまってすみません。アロイも無事なようで何よりです。」


グアノはそう言って、男の方へ視線を向ける。男は少しだけ表情をこわばらせ、警戒するようにグアノに鋭い視線を向けていた。


(彼が私を魔獣と思っているなら、その反応も当然か。)


グアノは黙って男を見つめていた。バサッ、と聴き慣れた羽ばたきの音が近づいてくる。


「ナウス。」


グアノは視線を逸らさずにそう呼びかけ、腕を差し出す。ナウスは慣れた様子でグアノの腕に止まったが、その瞬間、男が身を低くして身構えたのが見てとれた。


「アロイ。ナウスをお願いします。」

「えっ?」


困惑するアロイにナウスを渡し、グアノは男の前へと進んだ。


「はじめに言っておきましょう。私は人間ですが、そこにいる鳥、ナウスは魔獣です。」


グアノは口を開く。男の顔が険しくなるのが分かった。


「あなた方が魔獣を敵視していることは知っています。しかし、もしあなたがナウスに危害を加えるというのなら…」


グアノは両腰に下げた剣を抜き、軽く構える。


「容赦はしない、ということか?」

「私としては、手荒な真似は避けたいのですがね。あなた方が止まらないというのなら、こちらも相応の対応をしなければなりません。」

「なるほど。」


男はニッと、口に笑みを浮かべた。


「なあ、確認をさせてくれ。」

「何でしょう。」

「その魔獣は、あんたにとって大切なものか?」

「当然です。」

「そうか。それなら…」


男は緊張が解けたように体の力を抜き、低くしていた姿勢を戻した。そして何かを楽しむような目で、じっとグアノを見据える。


「そいつのために、命を張れるか?」

「その必要があるのなら。」

「それなら決まりだな。」


すっ、と男から熱が消えたように感じた。先程の警戒するような雰囲気とはまた違う、冷たく鋭い剣先のような威圧。グアノは唾を飲み込んだ。


「決闘だ。旅人さんよ。」

「……。」

「俺に勝てれば、お前の願いを聞いてやろう。」

「願い、というと?」

「俺はまだ、あんたを完全に人間だと判断したわけじゃない。それに、あの鳥は魔獣なんだろう?例外なく討伐の対象だ。だが、俺に勝てたら、お前もあの鳥も殺さないでやる。命を張れるほど、大切な存在なんだろう?」

「……。」


グアノは少し考えた。男の右腕には腕章がつけられている。昨日、町へ入る前に会った男だ。おそらく彼はエシクスが言っていた、剣士と呼ばれる者。町の中でも特に優れた兵士のはずだ。そんな相手とやりあえるのか? 


(エシクスは避けるべきと言っていたが…いや、迷っているだけの猶予は無いな。)


「分かりました。ではそうする事にしましょう。と言っても、私は魔法使い。剣使いであるあなたとは対等には戦えません。」

「ああ。だから、魔法は一切使わない事が条件だ。」

「もちろんそのつもりです。後で難癖をつけられては困りますから。」

「話が早くて助かる。」


男は腰から下げて剣を抜く。片手で持つにはやや大きい剣を軽々と片手で構えると、声高々に宣言した。


「俺の名は、剣士バルドール!町のしきたりに(のっと)り、お前に決闘を申し込む!」


グアノもそれにならい、両手に持った剣を構えた。


「私の名は、放浪の魔法使い、グアノ。剣士バルドール、あなたのその申し出、お受けしましょう…!」


一瞬、息もできないような沈黙が2人の間に流れる。そして次の瞬間、互いに駆け寄った二人の刃がぶつかり合い、耳障りな音を立てた。


空気を震わせるようなその金属音が、決闘の始まりを告げた。

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