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魔法使いの旅路  作者: 星野葵
第1章 魔法を知る者
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#1 旅人

今作より各話の文字数を減らして投稿頻度を上げようと思います。

どうぞよろしくお願いします。

パキ、パキと足の下で小枝が折れる音がする。道は平坦なのだが、小枝や枯葉が積み重なっており、踏む場所が悪いと姿勢を崩して倒れかけてしまう。冬が近づき、冷たい風が吹くようになったが、グアノは汗に濡れていた。


(長時間歩く事にはだいぶ慣れたつもりだが、寒くなると山道は避けるからな。それに少し…疲れが溜まっているのか。)


葉が落ちて明るくなった森の中を歩きながら、グアノはこれからどうしようか考えていた。地図が正しいのなら、そろそろ森が途切れて町が見えてくるはずなのだが、歩くのが遅いのか、地図が間違っているのか、町はまだ見えてこない。グアノは立ち止まり、荒くなっていた息を整えた。


(もう日が高い。)


見上げれば、太陽はもう南の空に昇っている。朝からずっと歩き続けているので体力的に限界が近い。かといってこんなに足場の悪いところで休憩すれば、逆に体を痛めてしまうだろう。


(…進もうか。)


止まっていても仕方がない。グアノは荷物を背負い直すと、再び歩きはじめた。


ーーーーーー


グアノが向かっていた町、エスベルに着いたのは、昼を過ぎて日が西へ傾きはじめた頃だった。


「おお、なんと!北東の道を通っていらしたのですか。あそこは道が整っていませんからねぇ、大変だったでしょう。」


グアノは長の家にあげてもらって、面会用の部屋で向かい合って話をしていた。町の長は突然やってきたグアノを歓迎し、嬉しそうに話をしている。


「それも歩いての旅とは…、さぞお疲れでしょう。すぐに次の町へ向かう予定ですか?」

「明確には決めていませんが…そうですね、二、三日ほどはここに滞在しようかと考えています。宿でも空き家でも、どこか泊まれる場所があれば教えてもらいたいのですが。」

「この町には宿は無いのですよ。小さな町ですからねぇ…。どこか泊まるなら、シャロンという女性の家が良いでしょう。少し前までは旦那さんと二人で暮らしていたのですが、今は独り身で、随分と寂しがっていましたから。」

「シャロンさんですね。分かりました。後ほど訪ねてみます。」

「申し訳ありませんねぇ、本当なら、長の私の家に泊めるのが道理なのですが。来客の予定がありましてね。部屋には余裕がないのですよ。」

「いえ、そんな。紹介していただいただけでも、とても助かりました。」


グアノが頭を下げると、彼は首を横に振った。


「いえいえ。この町でまだ先代が長をしていた頃、旅人の知恵により発展した過去がありましてね。以来旅人は丁重にもてなすというのがしきたりなのですよ。」

「ここは、旅人が多く来るのですか?」

「いいえ、それほど多くはありませんねぇ。しかし少ないからこそ、その来客をもてなそうと思えるのでしょう。久しぶりの来客ですから、町の者もきっと喜びます。」


その様子を見て、グアノは苦笑をもらす。思っていたよりも手厚い歓迎に、グアノは少々面食らっていた。今までの経験から、余所者はぞんざいに扱われることはあっても、歓迎されることはほとんどない。歓迎されないのはグアノとしては困るのだが、こうも歓迎されるというのも居心地が悪い。


(いや、これはむしろ感謝するべきだ。ここはありがたく世話になることにしよう。)


そう考えていると、コツコツと窓を叩く音が聞こえた。


「おや、なんでしょう?」

「失礼。私の『連れ』が来たようです。」


グアノは立ち上がり、窓を開けた。そこにいたのは、カラスほどの大きさの、真っ白の鳥だ。グアノが手を差し出すと、鳥は慣れた様子でその手に飛び乗った。


「『連れ』、ですか?」

「はい。この鳥は訓練してあるのですよ。今朝、手紙を届けてもらうために飛ばしたのです。」


長は立ち上がり、興味深そうにその鳥を眺めていた。だが、鳥が少し大柄なせいか、近づいてくることはない。それを見て、グアノは微笑んだ。


「大丈夫ですよ。躾けてありますから、人を襲ったり、突然飛ぶことはありません。中へ入れても構いませんか?」

「ええ…分かりました。そういうことなら。」


長は少し驚いた様子だったが、大人しくしているのを見て安心したのか、また話し始める。


「手紙、ですか。やりとりをする相手がいるのですね。」

「はい。ここからは離れた場所なのですが…私が旅をしているのも、その人の影響が大きいのです。」

「旅の理由、というと…?」

「…少々調べているとがありましてね。そのために私は、土地の文化や発展について調べているのです。できれば、この町についても滞在の間に調べようと思っているのですが、構いませんか?」

「ええ、ええ、もちろん。旅人さんが気が済むまで、調べてもらって結構ですよ。といっても、ここは特に特産も変わった風習もありませんがねぇ。」


長は困ったように笑った。それから、シャロンという女性の家を教えてもらい、グアノは席を立つ。入り口から外に出ると、腕に乗っていた鳥は飛び立ち、グアノの目の前に降りた。鳥が何を言おうとしているのかを察して、グアノはため息をつく。


「…仕方がないでしょう、ナウス。魔法を知らない人に対して、お前が魔獣だと伝えることはできません。」


グアノはしゃがみ込んで視線を低くし、もう一度腕を差し出す。ナウスと呼ばれた鳥は不満そうにグアノを睨んでいた。


「分かっていますよ。お前が手紙を運ぶのも、人を襲わないのも、調教や訓練でできるようになったわけではないことは。他の鳥と同じに扱われるのは不服かもしれませんが、目を瞑ってください。」


ナウスは仕方なさそうに飛び立つ。新しい町に着くと、決まってこうだ。ナウスはいつもグアノとは別行動をとる。グアノもいい加減慣れてきたので、ナウスを探しに行くことはしない。適当な場所で羽を休めるか、町中を飛び回って人間を観察しているか、大抵はどちらかだ。グアノは立ち上がり、町を散策する。


町長はあえて伏せたが、グアノが旅をする目的は、セクエにかけられた呪いの解き方、そして、魔導士とは何なのかを知るためだ。それを見つけるために、グアノはあちこちの街や村を巡っている。


どちらも、答えが存在するとは思っていない。セキガ族は呪いを解くのは不可能と言っていたし、魔力を導くべき正しい道というものも、人によって答えは違うのだろう。それでも、グアノは諦めたくなかった。手がかりだけでいい。各地を巡り、人々が魔法とどのように関わっているか、そのあり方を見て知ることができれば、少しは前に進めると思っていた。


(もっとも、現状は特に進展はない状態だが。)


セクエがシェムトネに戻り、そして自分が旅を始めてから、もうすぐで二年ほどになる。セクエとは定期的に手紙のやり取りをしているが、良い知らせを送ったことはない。元々、簡単に見つかる答えではないことは分かっている。


グアノはそんなことをぼんやりと考えながら町を歩く。畑、住宅地、その中に紛れるように店が数軒…どこにでもある、普通の町並みだ。


(売られているのは食料や衣服、文具…。特に目新しいものは無い。だが、魔道具や魔法薬の店は無いか。…それも当たり前なのかもしれないが。)


初めて町に来た時から薄々感じていたが、この町には魔法を使う文化は無い。それどころか、魔法使いという存在さえ人々は知らないのではないか。


(前の町では、エスベルは魔法使いの町だと聞いていたんだが…。それにしても、カロストでここまで閉鎖的な町は珍しい。かつてここに来た旅人はそれを伝えなかったのか?)


グアノは少し疑問に思った。発展をもたらしたという旅人は、この町にどんな知恵を与えたのだろう。長の話が正しいなら、この町には特産となるものも風習もない。


(もちろん、謙遜してそう言っているだけの可能性もあるが、少し調べてみるとしようか。)


そう考え、グアノはシャロンという女性の家に向かう。魔法と関わりを持たないというのも、一つの関わり方だ。グアノはこの町に少し興味を持ち始めていた。

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