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エルム学園への入学

翌日の朝早く

専属メイドがやっと自分たちに仕事ができたとアヤトやアヤノを起こしに行く。

ナビの専属メイドもいるのだが、

どちらかというと今日の予定などを聞くだけの仕事だ。

ただ、その愛らしい姿からメイドの中では、ナビの専属になりたい者は多い。


時にこの館の召喚者たちは普通の召喚者とは異なり

全くメイドの仕事をさせてくれない。

着替えや入浴などの世話はすべて断られ。


食事とお茶の世話くらいしかやることはない。

ナビに至ってはそれすらもない。


せいぜい髪を梳かすくらいのことが世話をするという感じだ。

これがお人形遊びのようでまた人気があるのだが・・。


よって、専属メイドとはいえ

他のメイド同様の仕事も行っている。


アヤノやアヤトについても起こされた後

髪を梳かすのは、メイドにやらせている。


その間、メイドが持ってきたお茶を飲んでいる。


その後、朝食。

3人が朝初めて顔を合わせるのがこの場所だ。


ナビは食事をしないが、二人に合わせて食堂に顔を出す。

その時は本を持参して読んでいるように見せている。


3人は食事をしながら脳内通話をしているため

メイドたちから見たら何も言わず黙々と食事をしているように見える。


最初見たときは、仲が悪いのかと勘違いしたメイドもいたが

応接室にいるときのスキンシップや表情から

それが全くの間違いだったと思い知らされる。


だから食事の時に会話しないのは、

この召喚者たちが元居た世界の礼儀なのだろうという事で落ち着いた。


ちなみにナビは、全く飲食ができないわけではない。

機能として、飲食という行為をすることによって

成分分析をすることができる。


だが危険物ならアヤトの能力で先に見つけられるし

アヤノの能力で、材料や調理方法、入荷などの関連情報が事前に入手できてしまう。

ナビが持つ知識と違和感がなければ問題が無いと判断できるわけだ。


また、飲食できるとはいえ消化機構があるわけでもなく、

エネルギー変換できるわけでもない。

分析後にそのまま排斥するだけなので無駄なことはしないだけである。


これはナビが怪しまれないように限りなく人に近づける必要性から

人と同じことができるように設計された結果でもある。


そもそもアンドロイドなのに入浴や水泳もできる。

基本骨格は特殊な硬質樹脂であり、鋼鉄のような重金属ではない。

表面の人工肌は、人工蛋白質からなる有機物で作られている。


皮膚の下には脂肪層の代わりに、薄い油脂層と

スポンジ状の空気を含んだ弾力層がある。


油脂層とは、人工皮膚を保つためのものであり

この層には、メンテナンスを助けるナノマシンも存在している。

人で言えば毛細血管を層にした感じだ。


軽量化とはエネルギー消費効率的にもよい為

幼女の体形に合わせて重量も軽く作られている。


だが人に近い分、強度も人並みである。


戦闘ができないというナビの話とは

戦闘で損傷した時の修復が大変だという事も含まれている。


一応、衣装はアヤトやアヤノ同様の防具装備になってはいる。



3人は脳内通話によって

入学式と能力検査などの会話をしていた。

それと、学園で会うことになる数人の知人たちについてなど


脳内通話の会話速度は口頭会話と比べ、かなり早い。

データ転送に近いものであるため、思ったことがそのまま伝達できる。


「ところで、お二人は苦手だったこの国の文字の読み書きは大丈夫ですか?」


「ああ、一通りは大丈夫。ナビのおかげだ。」


「でも一般用語は大丈夫でも専門用語などの知識は不足してますから」

「学園にいる間に学ぶことになりますわ。」


「何かわからないことがあれば通話ください。」


「ええ、ナビちゃん。その時はお願いね。」


「ご主人様方」

「そろそろお出かけのお時間になります。」

食後のお茶を飲んで、脳内通話をしているとメイドからそう告げられた。


「さて、行くか」


3人で馬車に乗り、学園についたら2人はそこで降りる。

残ったナビはその後、図書館へと移動だ。


3人分の護衛が馬車につくから、かなり大所帯の移動となる。


ナビだけで6人の護衛。

アヤトとアヤノの護衛が2人づつで4人。

出かける場合には、それだけの護衛が付く。


アヤトとアヤノについては護衛の必要性はないのだが

世間的な儀礼だけでなく、人壁になってくれるなど

意外に便利であるという事が昨日出かけてみてわかった。


計10人の護衛が馬車の戦後を守るように馬に乗っていく。


学園や図書館に滞在している間もそういう護衛は待機所で待機しているのだ。


先日のラティ達と出かけた時も、キョウカを除いて8人の護衛がいた。

公爵家の三女であるラティの護衛は、4人いたことになる。


ナビはそれよりも多い6人の護衛を抱えている。

しかし、帯剣できない場所への出入りのためには、

更にキョウカのような専用護衛を付けるという話が公爵家内で出ている。


これはナビを気にいっている学者老人の意見も大きいようだ。

「あのホムンクルスは、かなり貴重な存在ですぞ」


そして見た目が幼女で、戦闘力がないと聞いた公爵もそれに賛同している。

「うむ、誘拐などされたら、あの二人が怒り狂うかもしれないな・・。」

・・なにか少し違う意味で危機感をもっていた。


特に今後ナビの行動範囲が広がった場合の懸念事項とされている。


図書館での情報収集も、のこりはさほど時間がかからないと言っていたナビ。

想定よりも調査対象の書籍が少ないことから、学園にも通いたいと希望している。

そのことをラティに相談した時点で、たぶんそれは叶えられるだろう。


馬車が学園に到着して

アヤトとアヤノが馬車から降りようとすると


「アヤト様、アヤノ様、いってらっしゃい。」

と珍しくナビが口頭で言う


「ああ、いってくる。」


「ナビちゃんも、気を付けてね。」


二人も珍しく口頭で返す。


人の目がある場において、

普通の行為として妥当な口頭会話はするように心がけている。

邸内では、かなり手抜きしているだけだ。


それと、今朝の脳内通話において

アヤトとアヤノは学園にいる間

極力口頭で会話をするべきという事で話がまとまった。


これから長い時間を他の人と過ごすことになる。

違和感を感じさせないように配慮するという事だ。



エルム学園、東棟校舎。通称イース棟。


校舎の近くには、遠方の城塞都市からきている生徒用の寮がある。

寮は、イースデミトリーという名称がつけられており

この寮を中心として、生活に必要な様々な店舗や設備がある。


学園寮と、周辺を含めた場所は、イースビレッジとも呼ばれ

小さな町を形成している。


実は学園寮の名が、イースという名称の元になっている。


学園校舎の門の前には、続々と馬車が到着する。

そのため、渋滞しないようにロータリー式の駐馬車場がある。


中には自ら馬に乗ってくる生徒もいるから、馬小屋もある。


もちろん学園寮から歩いてくる生徒もいる。


大きな校門をかいくぐると

3年生の委員会メンバーが案内役をしていた。

制服の色を見れば入学生がわかる。


一応、事前に知らせは来ている。

学園の入学資料も配布されているから、

それを見ていればある程度はわかるのだが

とにかく学舎の敷地は広く、建物など施設も多い。


見取り図や説明文だけでは、

実際に見た光景と比較して理解するのは難しい。


1年生にとっては入学式だが2年、3年にとっては進学式となる。

同じ大ホール会場に入るのだが、

それぞれが座る場所が異なるために入り口が異なる。


ホール入り口で名前を言うと席番を教えてくれ、番号札が渡される。

その番号の席に着席するという事だ。


その後の能力検査時には、その番号がそのまま使われるという事。

どうやらSクラス確定者であっても能力検査はやるようだ。


番号札を見たアヤノは

「お兄様の番号はいくつですか」

と聞いてきた。


「ああ、11番だな」


「わたくしは12番ですわ」

「隣同士になりそうで安心しました。」


大ホールの会場内に入ると大量の席が並んでいる。

それを見て、アヤノが少し心配になったみたいだ。

アヤトと隣同士になりそうなので、ほっとしている。


会場内には案内板が立っており

自分が座るべき席の場所がわかる。


「わたくしたち、一番最前列のようですわ。」


「たぶんSクラス確定者は、最前列なのだろう。」


「ラティさんやキョウカさんはどこでしょう。」


「これだけ人がいるとサーチしなきゃわからないな。」

「席についたら調べてみるか」


アヤトが、自分たちの席の位置を見つけると

その近くにラティ達がいた。


「アヤト君、アヤノさん」

「ごきげんよう」


キョウカは、先日の最初の時のように無口だ。

ただ、その制服姿は女性らしさを出している。

何かあった場合の対処のためか、

動きやすいように髪は昨日のようにまとめていた。


「ええ、ラティさん、キョウカさんごきげんよう」

先にアヤノが挨拶を交わす。


「こう、早くお二人に会えるとは思ってみませんでした。」

「おはようございます。ラティさん、キョウカさん。」

アヤトも挨拶を行う。


するとキョウカがようやく言葉を発した。

「アイト殿、アヤノ殿、おはようございます。」


何か彼女なりに挨拶の順番があるらしい。


「昨日はとても楽しかったですわ。」

ラティがすごくニコニコしている。

4人で店を回ったのが余程楽しかったのだろう。


「ええ、昨日はお付き合いいただき、ありがとうございました。」

アヤトが言葉を返すとラティも応える。


「ええ、こちらこそ。お気遣いありがとうございました。」

これはたぶん指輪のことを含めているのだろう。


そしてラティはアヤノを見て

「昨日の髪飾りですわね、お似合いですわ。」

といった。


キョウカは、髪をすべて後ろでまとめるポニーテールであり

これは髪をリボンのようなもので縛っているからできる髪型だといえる。


それに対して、アヤノは後ろ髪だけをまとめている。

これはその髪飾りの用途の違いによるものだ。


ポニーテール姿も活発そうでいいが、

髪の流れるような姿を残したアヤノの髪型は、

おとなしい感じのアヤノにとても似合っている。


アヤトの視線がアヤノを見つめていることを見たキョウカが

「アヤト殿、妹君が大切だとは思いますが」

「ラティ様も同じくらい大切にしていただきたいです。」

と言った。


ああ、これは昨日の再来かもしれない。

アヤトは昨日のラティに指輪を贈る流れを思い出す。


「もちろん、ラティさんは俺にとってこの国で一番大切な人です。」

慌てて発した言葉だが、

何やら勘違いされそうだと気が付いたのは言葉を発した後だった。


しまった、普段脳内通話に慣れすぎてて

口頭会話でうまく言葉を返すことができなかった。


せめて、大切なの後に「友人です」というだけで意味が違ったはず。

アヤトの言葉を聞いたラティが顔を真っ赤にしてしまった。


「アヤト殿、こう人が多い中で何という大胆なことを・・・」

そもそもきっかけを作ったキョウカが、アヤトに突っ込む。


こうなるとさすがに

アヤトの言葉足らずな言い違いを理解したアヤノも

アヤトが自ら修正をしなければフォローのしようがない。


もちろん下手に修正すると、逆に失礼になるかもしれない状態だ。


仕方なくアヤノは、うやむやにする程度のことを言っておくしかなかった。

「ささ、皆様。」

「挨拶も終わりましたし、式典が始まりますから席に着きましょう。」


ちなみに席番は

4人とも連続しており、隣同士だった。


しかも誰かの策略なのか、ラティが10番

偶然にもアヤトの隣の席なのである。


ラティはずっと顔を赤らめてうつむいたままだ。


ラティの視線の先にはアヤトからもらった指輪が映っていた。


アヤノはそっとアヤトの耳の近くで

「お兄様、言い間違えだと思いますが、発した言葉は戻りません。」

「今後、覚悟を決めてくださいね。」

と小さく囁く


何故かアヤノは時折ラティをアヤトにくっつけようとしてくる。

これはそういう時の小悪魔のささやきだった。


何せアヤノがその気になったら言霊で言葉を訂正することは可能なのだ。


それをしなくてもアヤノに余裕があるというのは

お兄様は何があっても私を一番に思ってくれる。

という、二人の間の絆の強さからくる自信でもある。


実はこの4人の中で一番オロオロしていたのは

言い出しっぺであるキョウカだった。


ラティのことを思いすぎるあまりにフォローしたつもりが

やりすぎてしまった感が否めなくなった。


今やラティにどう声をかけてよいかもわからない。


アヤト殿は、

こう、うかつに好意を持っていることを言えてしまう様では、

他の女性にも思い違いを招く危険がある。


どうやらキョウカはアヤトに対して

無自覚に女性を口説く可能性があるという認識をしたらしい。


そして式典が始まる。


まず学舎側の代表として、副学園長のサマルが言葉を発した。


いわゆるありきたりの祝辞の言葉ではあるが


「頑張った分だけ努力は裏切らない」

「だから精いっぱい努力して成果を上げてほしい」

ということで締めくくった。


その後学生側の代表として

生徒会長であるラティの姉、メティーラが挨拶をする。


「今年度の生徒会長に任命されましたメティーラと申します。」

「今後、様々な生徒活動の場がございますので、よろしくお願いします。」


まず、今年の生徒会会長としての任命挨拶から始まり

入学生には近々に行われる順位戦の話が続く。


「1月末には他の校舎との順位戦が行われます。」

「そのため出場者である代表者選定は、その2週間前までに実施します。」

「よって、新入生の皆様には、準備時間が半月もありません。」

「また、校内予選に自ら参加を希望する者は、今週中に申請を出してください。」


あらかじめ順位戦の情報を取得はしているが、

おおよその日程連絡は必要だ。


しかし時間が少ない

昨年の中等部で実績を残している生徒や

遠方から推薦入学して来た生徒などは、

きっと躊躇なく自薦や他薦で予選参加してくるのだろう。


メティからの説明が一通り終わると

「これをもって、本日の入学式、進学式を終了します。」

というアナウンスが流れた。


そして、能力検査のための検査講師が、壇上に立った。

「1年生は、能力検査のためにこの場に残り、」

「2・3年生は、解散とします。」


「1年生は、今から番号を呼ぶので」

「グループごとに指示に従い移動してください。」

10人ごとのグループで能力検査をするとの事だ。


能力検査室は複数あるようで

同時にいくつものグループが移動していく。


番号順という事で、

ラティ達など、シングルナンバーの人は最初に呼び出された。

そのすぐ後に、アヤト達も番号を呼ばれる。


アヤトとアヤノは、二人が一緒でよかったと思っているものの

他の8人のことは、全く知らない。


呼び出しも番号なので、名前もわからないまま

10人は検査室へと案内された。


能力検査室。


大ホールの出口から繋がる通路の先には、研究棟があり

その施設の1階は、すべて能力検査室になっている。


部屋の中に入ると

あの召喚の時と同じような魔法紋が円形に床に描かれ、

中央には五芒星が描かれていた。


その五芒星の中央に石碑のようなものが立っており

それが検査機ということだった。


検査機である石碑には、大きな魔法石が組み込まれている。

石碑自体は、謎の文字が並んでおり読むことはできなかった。


検査を受ける側は、その魔法石に手を触れるだけでよいとの事。


対面の少し離れた場所にも似たような石碑が立っており

そこには水晶で作られたような透明の石板がはめられている。


それはまるでスクリーンか画面のようでもある。

その石碑の前には、あの召喚の時のような学者先生が数人並んでいる。


たぶんそれが検査機の石碑に対して、

分析とかをおこなう受信機の役割を果たす石碑なのだろうと想定出来た。


珍しく、あのリンフォーネルというお偉い老人学者は、そこにいない。

多分シングルナンバーの能力検査室のほうにいるのだろう。


そのかわりでもないが、ラティの一番上の姉。

講師補佐だと言っていたキャリノールとカオリが、

この能力検査室の検査講師とともにいた。


言葉を交わすわけにもいかず、軽く二人に会釈して、

アヤトは検査石碑の前に立つ。


そして言われたように魔法石に手を付けた。


それとともに魔法紋が輝き、魔法石がいろんな色に輝く。


だが、受信機側の石碑の前にいた学者先生らが、ざわつきはじめる。

立ち会っていた検査講師を呼んで何やら話し出した。


そして検査講師が慌てて部屋の外に出ていく。


アヤトは、その場で待機となり

検査はしばらく中断となってしまった。


やがて、サマルとリンフォーネルが

検査室にやってくる。


検査講師から話を聞いたサマルは、開口一番

「また、アヤト君か・・・」

と言った。


老人学者のリンフォーネルは

「ふぉっふぉっふぉ」

と笑い声を出して、一人納得したように頷いている。


キャリノールが二人に近づき何事なのかを聞いた。

「叔父上様、何事が起きているのですか?」


「ああ、魔力測定の結果が不明なんだ。」

とサマルが言う。


するとリンフォーネル老人が

「測定不能なほどの魔力量を秘めておるか」

「それとも全く魔力がないかのどちらかじゃな。」

と答えた。


結果的にこの場で検査を止めるわけにはいかず


その次はアヤノの番になったが、結果は同じだった。


やむなく次の者が呼ばれたが、その後は正常に測定が進む。

検査装置には何も問題がないようだ。


サマルが言う

「あの二人は、特別検査室で調べないと駄目なようですね。」


リンフォーネル老人が

「最初からそうするべきじゃったかもしれんのう。」

と告げた。


アヤトとアヤノ以外の者たちは、

その場から帰るように指示され、二人だけが別室に案内された。


サマルとリンフォーネル老人、数人の学者先生

そして検査講師とキャリノールとカオリも同じく移動。

どうやら皆、事の顛末を知りたいらしい。


通された部屋には、更に大きな魔法紋が描かれ

石碑も大きくなり、それにはめてある魔法石は二つ並んでいる。


「勇者判定用の特別な能力検査用じゃ。」

「これでわからんようなら無駄じゃろ。」

とリンフォーネル老人が言う。


両手を魔法石のひとつづつに触れるようにとアヤトは指示された。


すると先ほどと同じように魔法紋が輝き、魔法石も輝きだす。

それは虹色に輝き、受信機側でも同じように虹色に輝く光が見える。


それを見ていた学者先生達が、またざわつく。


しかし、リンフォーネル老人は笑ってうなずいていた。

「よしよし、結果は出た様じゃのう。」


何も伝えられないまま

アヤノに変わるがやはり同じような感じだった。


その後、リンフォーネル老人から説明を聞いていた

サマル、キャリノール、カオリが驚きの声を上げた。


実はこの検査については秘匿事項になっており

ナビが調査しても不明だった。


ただアヤノの式で会話を聞き取った限りでは


まず基本的に能力検査とは

魔力量の総量目安を知ることができるもの。


デジタル式に数値化されるというわけではなく

アナログ的なゲージイメージであるため

他者との比較で、おおよそこれくらいという目安が示される。


ちなみに東の公爵家で現在一番魔力が高いとされるのは、

召喚者である副学園長のサマル。


そのサマルとの比較において、

2倍程度の魔力差があると判断された。


そして何系の元素魔力に属するのか、属性系統がわかる。

これは、光の色素表現が関係している。


赤色なら火、青色なら水、緑色なら風、茶色なら土という具合だ。

この基本4色で属性を想定している。


属性はそのまま何の魔法を使用できるかにつながる。

そして、その属性の適正レベルというものがわかる。


それぞれの属性色の濃さが、適正レベルの判定基準になっているのだ。

これは魔法能力の素質といえるものにつながる。

色が濃いほどその属性魔法の適正が高いということだ。


だが、二人の結果は虹色に輝いており、色素判定が困難だった。

これにより4属性以上だと判断されることになったのだ。


検査室には検査用の石碑と連動した石碑があり

そちらには、鏡状になった水晶のような透明な石がはめてある。

これが画面のような役割を果たし、

その反応でわかるような仕組みになっている。


最初の検査室では、その水晶のようなものが全く反応しなかった。


特別検査室という別室に来てからやっと反応したのだ。


だが、想像を上回る状況であるため

学者先生たちは、事態を信じることができない。


魔力量が著しく高い召喚者もいた。

それはまだ、納得の範囲を越えてはいない。


だが系統属性は、4属性すべてを所持している。


いや、4属性すべてというより、

それ以上という鑑定をせざる負えなかったのだ。

よって、レベルは判定不明とされた。


元素属性に関しては

確かに複数所持する召喚者もいたし、

魔法が得意な種族であるエルフ族にもいる。

だがこれは非常に少ない例だ。


また、属性系統においては

学者界では、5元素目が存在すると理論的には言われているのだが

魔法を顕現させる元素としては、基本の4元素しかなかった。


よって、5つ目の元素は、空と推定されていたのだ。

要するに、あえて属性名を付けるなら空間属性ということになる。


基本の4元素とは全く根本が異なる元素の存在。


元素とは、いわゆる世界を構成するものであり

その元素は、5属性をも越えて存在するものではないかと

リンフォーネル老人は考えていた。


基本4元素は魔法として、物質顕現することが可能であるため

それを基に4属性魔法と称する。


だが、それ以上の元素は、いかなる術式を使用しても

顕現させることは不可能であり

それゆえ、第5元素は空とされた。


よって属性魔法は、存在しない。

これが現在、この国の学者界における結論となる。


それはそうだ、この世界においての魔法とは物質顕現させる術法

それを4大元素と結び付けて論理解釈されている。


しかし空とはそもそも存在しないもの

いわば物質顕現できない元素という事になり

現時点での魔法という概念では、存在の推論以外は何もかも不明となる。


能力検査の結果、

所持魔力量は、過去の類例が少ないほど大きく

4大元素の属性を所持しているから系統魔法すべてを使用可能。


その上で推論でしかない5属性目も所持している。

ということ。


しかもそれが二人存在するのだ。


ただ、リンフォーネル老人だけは

元素は5元素以上の存在があると推論している。


二人の検査で虹色に輝いていた色素から見ると

やはり、それ以上の存在はあると認識した。


しかも、魔法術式とは全く異なる概念を持った考え方ができれば

その属性の能力は使用可能だろうと想定した。


そして、老人はこう独り言を言った。

「あの二人は」

「魔法ではない、何かが使えるのじゃろう。」


さすがに老人の思考までは、アヤノの式でも傍受はできない。

わかるのは会話に出てきたものだけだ。


この時、老人が非常に高い確率で、真理に近づいていたなどとは

誰も思ってもみなかった。


二人は検査終了後に、すぐ退出となった。

そのために本来なら検査結果などは知らされていない。


だが、検査後の会話を、式によって聞くことは簡単で

かなり驚かれる状況であることが認識された。


当の本人たちには、むしろ魔法の存在自体があり得ない。

しかも、この世界で言う基本4元素なら科学力で顕現可能なのだ。


なにも驚くべきことでもなく

魔力の使い道などは全く不明なままだ。


むしろ、能力検査室で見た謎技術のほうが驚かされる。


この世界には科学力ではない魔力を主体とした技術があり

その多くは秘匿されている可能性が高い。

こう結論付けた。


「アヤト様、この世界の不思議技術については、」

「たぶん錬金術からの派生技術ではないかと想定します。」


ナビからの脳内通信だった。


「文献は少なく、やはり学園において錬金術を学ぶことは」

「かなり重要であると進言します。」


「うむ、それは俺も思った。」


「お兄様、お兄様の知る科学技術とこの世界の技術の融合」

「お兄様なら果たせるのではないでしょうか」

アヤノから面白い案が出された。


「うむ、新しい課題だな」

「だが、非常に面白そうな話だ。」


この世界に来ていろんなことを思った。

運搬は馬車レベルに頼り、冷蔵庫もなく生ものは手に入らない。

戦闘は魔法があるとはいえ剣などの近接戦闘が主体で

およそ戦争に向いているとはいいがたい。


結果、能力が高いはずの召喚者の死亡率の高さを見ても

戦争における技術力の遅れが見て取れる。

一方で科学では理解できない技術がある、魔法術もそれだ。


だが、この国の歴史を見た限り

500以上年経っても、戦争の技術力は向上していない。

これではいつまでたっても小競り合いの戦乱が継続されることになる。


過去、地球の歴史を見ると

人類は3千年以上もの間、肉弾戦の戦争をし続けてきた。

それと同じだと考えれば、そういうものなのかもしれない。


平和を求めるために戦争の技術を高める・・・。

人類が犯した科学の道を俺は進んでいくべきなのだろうか


「アヤト様、少なくとも生活向上の役に立つと進言します。」


「そうですわね」

「科学力がもたらした結果は、戦争の確変だけではないですわ。」


「もっともな話だ」

「俺たちはすでに、一国を滅ぼすことができる科学武器を所持しているわけだしな。」

「今更感は否めない。」

「よし、俺は科学とこの世界の技術を癒合する。」

「まずは、俺たちの生活を向上する為に」


「お兄様、お風呂とトイレ」

「冷蔵庫と空調は、お早めにお願いしますわ。」

「その後、お車などを検討されたらいかがでしょう。」


「確かに・・。」


こんな脳内通話をして、3人は笑った。


そしてアヤトとアヤノは、Sクラスの教室に入るのだった。



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