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忍び寄る黒い影

アヤノからの提案でデートをすることになったアヤト。

しかし当日は、ラティが来報するとの知らせがあったことをナビに告げられた。



そして、当日

波乱を含んだデートになりそうな予感を拭いつつ

アヤトは出かける準備をしていた。


既に準備を終えたアヤノはウキウキしながら

1階にある応接室でアヤトを待っている。


アヤトが2階にある自分の部屋を出て階段を下りている時

タイミングよく登場するラティ。


「ラティ様のお越しです。」

執事から告げられる。



アヤトたちが住む邸は、公爵家の敷地内にある。

本来なら貴族用の館である。


アヤトたちは3人で済むことになった為

やや大きめの2階建ての館だ。


主に1階は

中央に玄関ホールがあり

その周囲に

居間と応接の二部屋が合わさったような応接室

来客があった場合、一次的に客を通すための来客室。

来客室の隣には、執事が執務を行うための事務室。

玄関ホールの先には、大ホール。

応接室と大ホールにつながる食堂。

その他に

バスルームと食堂につながる水回りと調理室

使用人が館の維持のために使う大部屋

この部屋には掃除道具や様々な食器類などが並んでおり

使用人はここを食堂や休憩室としても利用している。


など様々な用途の部屋がある。


そして2階はすべて居住部屋になっており、

基本的には一人部屋なのだが、これが結構大きい。

居住部屋の多くは、客が滞在、宿泊出来るために、

あえて空き部屋にしている。

その他

この館に滞在する専属メイドたちが生活する共同部屋。

一応3人の主人がいるため専属メイドも3人いて

常時この部屋に待機している。


トイレは1階と2階に2つづつある。

もちろん水洗ではない。


この国は、この館のような間取りが基本になっている。

だから大きさや外見が異なったとしても

中に入ると部屋の大きさや部屋数の違いはあっても

基本的な構図は似たものだ。


2階から1階へと降りる階段は二つある。

主に使用するのは中央階段。


もう一つの階段は、専属メイドたちの部屋の隣にあり

裏口にもつながる使用人用の連絡路になっている。

これは一応、非常事態時の退避路でもある。


この裏口の先は使用人用の館と

馬がいる馬小屋や馬車がおいてある馬車小屋がある。


使用人の館は、

まるで寮のように居住部屋が並んでいる。

メイド長と執事は個人部屋だが

基本的には相部屋、共同部屋に住んでいる。


主人はここへ入ることは

貴族としての対面上禁止されている。


アヤトたち召喚者は伯爵級に認定されるため

一応貴族階級に属する。


執事はこの館と3人に関する経済面と事務処理、使用人の人事などを

すべて行っている専属事務官でもある。


実は

3人は執事のことを、一人総務部とひそかに呼んでいる。

そしてメイド長はじめメイドたちは庶務課、

もちろんメイド長は庶務課長だ。


主人たちは中央階段を使用するため

当然ながら玄関ホールに降りることになる。


アヤトは、階段を下りている最中に

玄関ホールに入ったラティと偶然出会った。


ラティは公爵家の娘であるため必ず護衛武官を連れている。

だが他人の館に入る場合には、武装した武官が入る事は許されない。


もちろんこの館にも護衛兵がいるが

基本的に護衛兵も緊急時以外はこの館内には入れない。

不思議だがこれがどうやら貴族ルールらしい。


よって、上級貴族は一人だけ武装解除した武官を

執事代行として邸内に連れていくことになる。

これが戦闘執事と呼ばれるゆえんでもある。


戦闘執事というのは、格闘術にたけた武官だ。

場合によっては、魔術師であったりもする。

公爵家のような上級貴族であれば専属の人物がいる。


ラティが連れていたのはそれは美しい男装の麗人だった。

あくまで執事は男性がなるものという体裁なのかもしれないが

女性の専属武官という珍しい存在。


二人は、アヤトと視線を交わす。

アヤトは失礼になるため慌てて階段を下りて視線の高さを同じにした。


「アヤト君、ごきげんよう」

「今日は予定がないと聞いていたのでお邪魔しました。」


女性武官、いや執事はラティの後ろに控えて何も言わない。

基本的に使用人という立場だと貴族に対して挨拶や自己紹介はしない。

特に自分たちが客側だと、主人の邪魔にならないように

存在感を消し無言を貫く。


本来なら来客は、このような場合は来客室にいったん入る。


主人が来客より階級が下の場合は

連絡を聞いた主人が来客室から応接へと案内するらしい。


逆に上の階級であれば執事が案内をする。

このあたりの貴族ルールは対応分岐が複雑で面倒だと感じている。


「ラティさん、ようこそ。」

「案内しますので応接室に行きましょう。」


実は言葉づかいや礼儀に関して召喚者はかなり緩い

それは仕方がないとこの国においては許されている。


シュージの態度や言葉遣いは良い例だろう。


よって貴族ルールとか仕来たりにも従わなければならないという事もないのだが

3人はできるだけこの世界に合わせる努力をしている。


偶然だが玄関ホールでラティと出会ったことから、

アヤトはそのまま二人を応接室へと案内した。


この間、執事はメイド長へ来客への対応を告げる。


そして移動している間にお茶やお菓子などの準備があっという間に進む。


貴族が自分が移動して、客になる場合に事前連絡を行うというのは

こういった対応準備をしてもらうためでもある。

これは貴族間だけでなく、公的な機関に対しても同じだ。


そして、上級貴族御用達の店に対しても事前連絡をする。


公爵家敷地内で店を出す商店や食堂に関して、

一般兵士や使用人などが利用することも可能だが、実は貴族とは出入り口が異なる。

これは対応の差の他にも対象となる価格の差にも関係する。


また、公爵領内にある店舗とはいえ

公爵領の周囲を取り巻く貴族層が住む貴族地域からの来客もある。

これらの貴族は公爵家の許可を受けて領内に出入りする。


もっとも、この世界においても派閥的なものがあり

同派閥であればその許可はかなり緩い。

いわば顔パスの世界である。


また、貴族以外に領内に出入りする物流関係の御用商人もいて

中壁にある4つの公爵門は、意外に人の出入りが多い。


この中壁の公爵門付近に店舗が並ぶ。

もっとも公爵家自体は、ほぼこれらの店を自ら使用することはない。

相手を呼べば誰でも命令として公爵のところへいかなければならないからだ。


だからこういったお店というのは、

どちらかと言えば召喚者と派閥貴族用の店ともいえる。


今回、アヤノがデートと称して

こういう場に行ってみたいと言い出したのだが

既に、執事と話した時点で、執事からすべての店に連絡がいっている。


アヤトは気楽に社会見学のつもりでそれを承諾した。


そこへラティ来訪の知らせが来たのだから

執事は、ラティへ当日はアヤトたちが出かける旨を連絡しており。

ラティもならば一緒に出掛けるという返答を返している。


よって、ちゃんと納得済みの行動である。

ナビ曰く3人でデートしてこればいい。


この時点で、実はナビは図書館へと移動していた。

この世界における情報取得の為である。


よって、この屋敷の馬車はナビが使用しており

アヤトたちは歩いて散歩と称していた。


もっとも瞬間移動も可能なのだが、位置情報取得のためにも

こういう行動も重要であるという認識だ。


だがラティが来ることによってラティの馬車での移動となった。


ラティとしては召喚した側として、

もっとアヤトたちとの仲を深めたいと思っている。

これは責任感でもあるが、やはり少し異なる思いも含まれていた。


公爵家の娘というのはすごく複雑だ。

召喚者と結ばれるという英雄王の夢物語にあこがれる一方で

他の公爵家や貴族との政略結婚という立場にさらされる。


場合によっては王のもとに嫁ぐことも考えられるのだ。


この国の王


エルム国の王とは、通称エルム王である。

現在まで20代目を重ねている。


初代を勇者王として2代目は勇者王の子が就いた。

これは王権制度として当然のことだ。

しかし、残念ながら2代目の王は勇者の能力を受け継がなかった。


この世界の平和が長く続く事はなく

戦乱が始まると勇者王として2代目も戦地に赴くことになった。


年を得てすでに壮年期になっていた2代目の王は個人の戦闘力は高くなく

戦況を一人で変えるほどの力はない。


初戦はその指揮能力で快勝したのだがそれがかえってよくなかった。

兵の戦意は高く追撃によって更なる戦勝を重ねた。


だが、これが敵の策略によって利用される。

本軍同士の激突の中、罠にかかった王は周囲を敵に囲まれてしまった。


この報は、王城へと届く

慌てた側近たちは王家一族の娘、召喚の儀を行った血を継ぐ娘に

召喚の儀を依頼した。


次々と召喚の儀を執り行う王家の娘たち

だが成功したのはたった一人の娘だけだった。


実はこの娘は王家ではなく公爵家の娘であった。

ここに至って、公爵家を継ぐ娘しか召喚の儀が成功しないことが理解された。


それと共に、召喚された召喚者は意味も分からず戦場へ赴くことになる。

王を助けるのが最大の任務だった。


だが、戦場についた時には既に決着がついた後

2代目の王は命を落とし、召喚者は殿軍をひきいての退却戦を余儀なくされた。


召喚者もそれなりの能力を得ていたのだが

その能力把握も何の訓練も無くの戦いだ。

しかも、戦争を知らない世界からの来訪者だった。


逃げることしかできず、撤退戦においても大きな被害を出したが

召喚者は何とか王城へと戻ることができた。


偶然にも敵が急に撤退したことで助かったのだ。

この時代、周辺にはまだ小国家が乱立しており

隙を見て隣国を攻めるというのが当たり前の時代。


敵国はその敵の侵攻によって撤退したのだった。


王の側近たちは民意を上げるために

3代目の王は初代勇者王と同じように召喚者であるべきとして

この召喚者を王へと上げた。


ところが、王家一族による継承者はこれに反対。

他国との敗戦後にもかかわらず、継承権争いの内乱が始まる。


一方で、召喚の儀を成功できるのは公爵家だけであるとの事で

この公爵家に対する期待度が上がっていた。


よってこの内乱は公爵家の動向で大きく情勢が変わる事態となっていた。


当時の公爵家には5人の娘がおり

召喚者を呼び出したのは長女だった。


当主は迷いながらもこの国の未来を考え

残り4人の娘にも召喚の儀をさせるに至った。


王に関する任命権は公爵家の力が大きくなったことで

内乱を防ぎ、次期王を決めて民意を納得させるため

あえて召喚者を乱立。


この意図は、召喚者の中で一番強い者を王にするという

公爵家からの意見につながる。


王家が継承権を言うのであれば

その一番強い召喚者と戦って勝敗を決めろという事だ。


凄く単純で理解しやすい構図に民衆は総意をもって賛同した。

また多くの貴族層や王家の一族も一部もこれに倣う。


内乱で国が疲弊するなら、個人戦闘で決めてしまうという

かなり乱暴なやり方だったが結果的にこれが実行され

3代目の王が決まった。


以後、この流れを基本として、

長い間、王の継承はこの方法によるものになった。


またこの時の5人の娘たちのうち、一人は王家

4人が現在の東西南北の公爵家の礎となった。


そして、二度と戦いで不覚を取らないように

この国を守るために召喚の儀は定期的に行われることになる。


一つは戦いの場においての召喚者の力を借りるため。

もう一つは優秀な召喚者を王とするため。


以後、召喚者は強さだけでなく様々な知識を提供することで国に貢献していき

この国の文明を作っていった。


やがて、召喚者には強いだけではなく

人間性や政治力、知識など、性格や得意分野が異なることも理解され。

王位認定の継承権についても単に強いだけではなく

総合的な能力が高い事、

ようするにそれが王としてのカリスマ性につながるとされた。


そして王の任命権をかけた4大公爵家による継承権の戦いへと変わる。

この継承権とは公爵家の一族が継ぐというものではなく

あくまで王を任命する優先度である。


もちろん、公爵家としては自分の家が召喚した者を王としたい。

これは当然の人の業でもある。

ゆえに、いかに優秀な召喚者を召喚できたのかが

公爵家の権力を表すことになった。


以上、ナビ記録。



そして現在

この4大公爵家の中で一番下に見られていた東の公爵家に

前代未聞の3人の同時召喚に成功したという話が国内を騒がせる。


だが人数が多くても単なる魔術師と錬金術師であるとの事で

一時の騒ぎは落ち着き始めていた。


そんな折、先日の能力確認のための訓練が行われた。

その情報は秘匿されることになったのだが・・・。


というタイミングでのお出かけ

しかも時の人になった3人である。


ラティの馬車から、3人が次々と降りてくる姿を見つけた者達から

歓声が上がった。


召喚をしたラティに至っては女神のような扱いである。

「ラティー様!」

あちこちで声が上がる。


召喚祭


この国の召喚のタイミングが

4年に一度という間隔になったのは、まだ近年のことだ。

時の王についた19代目が、どうやらオリンピック感覚で指示したらしい。


これらは現在、図書館で本を読み漁るナビから届いた情報である。


召喚祭は1月1日の午前に召喚の儀が執り行われることから始まる。

そして1日から3日までの間、

国の公務に就く者以外は、休んでもよいという休日になっている。


もちろん店舗を営む者たちは稼ぎ時だ。

そして今日は1月3日

3連休の最終日でもあり、結構多くの人が外に出ている。


また、召喚の儀を行ったラティをはじめ

召喚者であるアヤトはじめ3人も、似顔絵が作られ

紹介記事と共にポスターや特集した書籍や新聞などが出回っている。


娯楽が少ないこの国の人にとってこれは唯一の娯楽であり

対象者はいわばスターかアイドルだ。


「お兄様、これは凄いですわね」


「ああ、想像以上だった」


「ラティさんの人気がですか?」


「アヤノ、冗談はよせ」


「お前だって囲まれてるだろ」


「いいえ、お兄様ほどではないですわ」


二人がこんな脳内通話をしている状況

周囲の人に囲まれて、3人が近寄れないのだ。


こうなると護衛兵も近づけない。


唯一、ラティが連れていた護衛武官はしっかりラティの横にいる。

しかもラティのように黄色い声に歓迎されている。


「あの人、結構人気あるんだな」


実はここへ来るまでの間

ラティの馬車には3人の他にこの護衛武官の女性もいた。


よって興味本位から少し会話を交わした。


今日は執事服といういで立ちなので気が付いていなかったが

常時ラティの護衛にいたらしい。


あの晩餐会の折りにはメイド服姿だったとの事。


「ラティさん、この執事姿の女性のお名前を教えてほしいですわ」

話を切り出したのはアヤノだった。


「はい、わたくし専属の護衛武官で名前は、キョウカ」


「お兄様、この方日本人のような、お名前ですわ」

アヤノが脳内通話を送ってきた


実のところ見た目は黒髪を後ろでまとめ上げたポニーテール

日本人っぽいと思っていたところだ。


「ひょっとして、召喚者の方ですの?」


「いいえ、キョウカは召喚者ではありません」


「キョウカさんがわたくしたちの世界でいう日本人に似ていたものですから」


「曾祖父が召喚者ですの」

「キョウカは先祖返りと言われてました。」


「ふむ、であればその曽祖父の方が日本人だった可能性もあるんですね。」

アヤトも我慢できなくなって、口をはさむ。


「残念ですが曾祖父に関しての記録は少なくて知りません」

「申し訳ありません。」

初めてキョウカさんが言葉を発した。


「でも、キョウカちゃんの家に代々継承された刀がございますの」

「それを見たカオリさんが、日本刀って言ってましたわ。」


カオリさんとは日本から来た召喚者である。

アヤトと同じ錬金術師という彼女の見立てなら間違いはないのだろう。


その昔の召喚者が所持していた日本刀

ひょっとしたらその曽祖父とは武士だったのかもしれない。


「曾祖父は剣の使い手だとは聞いていますが」

「我が家に継承されたのは格闘術でした。」


「失礼ですが、キョウカさん それは古武道という名称だったりしませんか」


「いいえ、残念ですが 武士道という名です」


やはり曾祖父は武士かそれにつながる者だろう。

たぶん格闘術は、武士が戦場で使用する近接戦闘術だな。


きっと格闘術だけでなく武士としての

いろいろな心構えを含めて武士道という名で残したのだろう。


「ほう、それは素晴らしいです。」

「私の世界の日本においても武士道というのは有名です」


アヤトからの言葉を聞いたキョウカの目が輝く


「おお、そう思いますか」

「そうですよね、素晴らしいです」

「私はそれを継承していることに誇りを持っています。」


「キョウカちゃんは私の家の護衛兵の中で一番の格闘術の使い手なんですの」

「年も近いのでずっと私の護衛にしてもらってるのですわ」

ラティもキョウカのことがお気に入りらしい。


その様子から仕草や立たずまい、動きなど確かに武士道といえる。


そして今、巧みな足さばきを使ってラティの横から離れずにいる。


「彼女は相当強いな」

アヤトがボソッと言う


「お兄様、また新しい女性をターゲットにされたのですわね。」


「まてまて、」


「はい、冗談ですわよ」

「でもお兄様の視線が私やラティさんじゃなくて、」

「ずっとキョウカさんに向けられてます。」

これらは二人の脳内通話だ



「とりあえず、あちらの店に入りましょう」

ラティさんから声がかかる


ラティは、こういう事に慣れているのかもしれない

周囲にいる人の波を微笑みながらかいくぐり移動していく。


そして、4人は目的の店に入った。


アヤノは、いくつかの店をピックアップしていたらしいのだが

どうやらそのうちの一つ、この店はラティも気にかけている場所だった。


4人についていた護衛兵もやっと動けるようになり、

店の貴族入り口前に並んでいる。

もうここへ観客は入れない。


店に入って同じように客扱いになるキョウカは、

ラティにとって特別のようだ。


もっとも上級貴族の専属武官ともなれば

最低でも騎士爵級以上の階級貴族でもある。


後に知ることになるのだが

召喚者であった曾祖父以降でも

代々専属護衛、いわゆる戦闘執事を輩出してきた家らしい。

よって、キョウカを含め3代続く子爵家であった。


召喚者は伯爵級だがその後は、ほぼ没落する家が多い中

実力で貴族家を継承するのは、かなり珍しい例だ。

余程、曾祖父の武士道の教えというものが確かなものだったのだろう。



4人が入った店


何とデザートなどを提供するカフェレストランのような店だった。

店の主人が案内をしてくれたところは貴族用の個室。

面白いことにメニュー表がある。


そして何も注文していないのに席に着くと紅茶と菓子が出てきた。


テーブルにはベルが置いてあり、注文が決まったら

このベルを鳴らせば注文を聞きに来るという。


注文を決めて注文したものが出てくる間。

それをこのお茶と菓子ですごすという人を待たせないという配慮。

このあたり、さすがに貴族ご用達の店というほかはない。


「このお店は学園の女生徒の間でも有名なんですの」

ラティさんはニコニコしている。


メニューにはケーキ類、パフェ類、飲み物などが並ぶ

さすがにアイスやクリームなどいわゆる冷菓子類は見られない。

だが生クリームやチョコレートに関するものはあるようだ。


それと、フルーツが主体。

この国の状況から見てこれらフルーツというのは相当な貴重品だろう。


フルーツは腐りや傷みが早い。

この国のような馬車による物流に適してないのだ。

せいぜい身が固いリンゴとかナシなどくらいかと思っていた。

他にもあるがパインのように皮が固く日持ちするのは南国のもの

仮に存在したとしても南には亜人大陸がある。

亜人大陸近くから戦乱をさけて届けられるという事も難しいと考えていた。


アヤト様

世界地図はありませんがこの国の地図はありました。

地図は戦略的に重要な扱いになっています。

南部の地域において海に面する場所があります。

そこからの海運でいろいろなものが運ばれています。


脳内通話を通してのナビからの連絡だった。


なるほどこの国の南、

亜人大陸とは陸続きの場所の他に海を渡る場所もあるのか

それで亜人の友好国との行き来ができているという理由も理解できた。


そしてナビから送られてきた映像を見て驚く

これ、地中海??なのか

かなり解像度が悪く地形などはかなりいい加減

だが特徴のある地形に見覚えがある。


イタリア半島のようなあのブーツ形状に見える地形と

それを取り巻く海


「お兄様、この一部情報からですが」

「地球のヨーロッパ東部」

「東欧と言われる位置にこの国があるように見えますが気のせいでしょうか」

アヤノの指摘はアヤトにとって納得する内容だ。

だがかなり地形が異なる部分も多いから何とも言えない。


「ふむ、可能性はナビが示した70%から変わりはない」

「だが・・・アヤノ、メニューから何を選んでいいのか聞かせてくれ。」

実はアヤトはそこに相当困っていた。


一般の男性にとってこういう感じの店というのは非常に苦手とする

21世紀初頭にはデザート男子などの人類もいたようだが

アヤトはそういう系統ではなかった。


「ふふふ、お兄様ったら・・」

「では、メニューのこういうところをご利用されてはいかがですか?」

アヤノが示したのはこの店のおすすめと本日のおすすめ


「こういった店は、得意なものや人気があるもののほかに」

「新鮮な果物を扱っているメニューもありますの」

「たぶんわざわざ本日のおすすめと書かれているのですから」

「近日入荷した新鮮な果物を使ったものですわ」


「なるほど、甘味たくさんというより俺には向いていそうだ」

「じゃあ俺はこのフルーツタルトケーキにしておこうかな」


「お兄様、この国で甘すぎるという事はないと思いますよ」

「砂糖などそれほどふんだんに使えないと思いますの」

「むしろ果物の自然な甘みを生かしてると考えますわ」

「そう言った面でもフルーツタルトケーキは素晴らしい選択だと思います。」

「実は私もそれにするつもりでした。」


二人が脳内通話をしているとそこへラティが割り込んできた。


「皆さま、提案ですが」

「4人で別々のものを注文してシェアするというのはどうでしょうか」

「よく学園ではそういうお話を聞きますの」

「でもわたくし、そういう経験がなくて・・。」


キョウカさんは、黙ってうなずいている。


「それは素晴らしい提案ですわ」

「では、ラティさんが代表して4種類選んでくださると助かります。」

「あとは飲み物を個別で選びましょう」

アヤノがその提案に乗るとともにラティさんに丸投げした。

きっとアヤノもメニューに困っていたのだろう。


一応、表向きにはラティさんが好きそうなのを自由に選べる

という事につながるという恐ろしい誘導だが

これには俺も賛同するから、少し手伝おう


同じくメニューの選択に困っていたアヤトも続く


「私たちはこの国のことがまだよくわからないのです。」

「実は何を選んだらいいのか迷っていました。」

「ラティさんに選んでいただけると大変うれしいのですがどうでしょうか」

うん、これは嘘は言ってはいない。

丸投げには違いないが、これでラティさんも断りにくくなるだろう。


「ふふふ、お兄様。策略家ですのね。」


「ふふふ、アヤノ。お前もな。」

そして飲み物はハーブティーから適当に選べば終わりだ。


その後、律義にラティさんは4種類のケーキメニューを選んで注文してくれた。


それを特別に4つに切ってそれぞれの皿に乗せてもらうように店主に依頼。

まるでセットメニューのようになったものが4人の前に運ばれた。


「これは一つ一つがちょうどいい大きさですね。」


「4種類味わえるというのは素晴らしいですわ」


とりあえず俺もアヤノもラティさんをフォローしておく。


キョウカさんは相変わらず無言でうなずく。


そして4人で会話が始まった。

というか・・女性3人が主体で、

俺はキョウカさんに代わり、無言でうなずく側に回る。


服装の話とか装飾品の話とか小物類の話とか・・・

この先に回る予定の店のことを含めて何がいいとか何が好きとか言うやつだ。


「ふむ、まるで女子会というものに連れ込まれた男子状態だな」

自虐ネタを脳内通信でアヤノに送る。


これを聞いたアヤノが「クスッ」と漏らすのを見て満足した。


その間にもいろいろな情報をナビは送ってくれている。

アヤトはむしろその話のほうが気になるようだ。


まず公爵家の領地分担だが、正確に4分割というわけではない。

また、その領地として城塞都市化した場所だが

これも正確に4方面に固執しているわけではない。


実質は、方面軍というだけで

王都以外の領地の場所は混在しているといえる。


それは過去の戦乱時期において、

功労者であったものが領主になるという慣例からのようだ。


現在のように明確な方面軍という形ではなかった時代に領土拡張しており

防衛主体の現在、城郭都市化したその領地の場所は混在してしまった。


よって、戦乱があった時にはお互いが協力し合う体制にもなる。


イグニス攻略時に西の公爵家に対する関係を懸念していたが

西側にも東の公爵家領もあり、拠点にできることが分かった。


それと北側だが

魔族大陸につながる海があるところまでがこの国の領地ではなかった。

いわば緩衝地帯のような、どの国も納めていない広大な陸地がある。

どうやら小さな部族集落はあるらしいが

それらをまとめて自治領区とされているらしい。


何故、誰も納めていないのかと言えば魔物のせいである。

その昔、そこにはそれなりの国もあったが魔族の侵入や

魔物によって多くの国が滅亡している。


何故か魔族はそこを収めることもなく放置。

それが緩衝地帯のまま今に至っている。

これについての理由は不明だ。


それと点在する部落、その部族には魔族系のものもある。

当然だが、魔族軍が撤退しても、その地に残った者もいたのだろう。

それと生き残った人類の部落もある。


謎の魔族のことを知る必要があれば

それら部族集落に行ってみればわかるかもしれない。


神聖国家イグニスについて


基本的には、王家を頂点とした王権制度の国ではあるが

実権は宗教団体が所持しており、その法王こそが最高権力者だ。

人類至上主義を掲げる偏った思想を広げている。


そして、神聖という名の割に奴隷制度がある。

それは亜人を奴隷というのではなく、同じ人類が対象なのだ。


この国の人類至上主義の範囲は非常に狭い。

上級人類と言われる種族がいて

その下に中級人類がいる。

ここまでが人類認定だ。


その下にいる下級人類はすべて奴隷。

亜人は人とも認められず物扱いだ。


この上級人類だが

基本的に金髪白人で目が青い

中級はプラチナブロンド系で緑の目をしている。

実はこれはこの国の公爵家の一族に似ている。


下級はそれ以外の人類

茶髪、黒髪、赤髪などさまざま

これらは、農民奴隷だ。


要するに人を外見だけで区分けするという事。

だから姿が異なる亜人を許さない。


それとイグニス軍だがいわゆる農民軍だ

下級人類と言われる農民奴隷が強制的に兵士として働かされる。


とてもじゃないが、こんな差別国家が存在することがあり得ない。


イグニスに関する情報も多くはなく

今わかっている範囲はこれくらいだ。


戦略ターゲットとして

イグニスに関する情報はこれからも進めていくことになる。


そして、マーキング対象


中壁近くの店に来たことで

俺のサーチ範囲が中壁の外にまで広げられることになった。

これはきっとアヤノの策略でもあったのだろう。


よって、より危険分子の割り出しがしやすくなった。

それと共に選別も進む。

中にはかなり危ない連中の存在も確認できた。


それと異質な感覚の者達もいる。

「これは、たぶん亜人だな」

危険度は感じないが普通の人とは感覚が異なる。


ナビからの連絡


「アヤト様」

「このエルム国においては、友好国である亜人も王都城塞内に居住しています。」

「特にその付近においては東の公爵家に最も友好なエルフ族。」

「職人として優秀なドワーフ族などの存在があげられます。」


「ふむ、確か召喚者用の専用装備などを作っているのが」

「ドワーフだと言っていたな。」


そして、エルフ族は公爵様の奥方にもなっている。


「ちなみに、今、食べてらっしゃる果物類などは」

「エルフ族の地から多く提供されているものです。」


「なるほど、だからこういう店があるのか」


ナビが図書館でいろんな知識を吸収するという事は

情報取得にかなり便利だと言える。


それと脳内通話を接続したままなので、

リアルタイムでの情報確認もしやすい。


アヤノも女子会話を楽しくしながらも特殊能力を発動している。


そして俺がかなり危険だと思われた相手をマーキングすると

全く表情に出すこともなく、アヤノがすかさず言霊で排除していく。


中壁の外では、やがて不審死の者や精神異常になった者が

発見されることになるのだろう。


但しやりすぎは、気が付かれるからまずい。


「やはり帝国につながりのある者とイグニスに関係する者が多いようだな」

特に今のところイグニスに関係する者に危険分子が多い。


「どうやら、西側がキナ臭く感じる」

「近く戦争が起こる可能性がありそうだ。」


王都がこの状態では、

きっとイグニスに近い城塞都市はもっと危うい感じがする。


「ナビ、イグニスに最も近い城塞都市の領主は、どこの公爵家の者だ。」


「はい、南の公爵家の一族です。」


「ふむ、公爵様の奥方の一族か」

「これは東の公爵家にも火の粉が上がるな」


「アヤノ、公爵様の奥方に式神を送ってくれ」

「身内の情報なら一番早くそこへ入りそうだ。」


「お兄様、南の公爵家自体には送らなくてもよいのですか?」


「そうだな、能力範囲に入るのであれば少しは送ってくれ」


そしてその先まで考えるなら

イグニスが動き、それによって東の公爵家が動けば

その裏をかいて、東側の帝国の属国コミニストが嫌なタイミングで動きそうだ。


コミニスト自体からのスパイは

今のところマーキングされていなそうに思える。

だが帝国系のスパイは多い。


帝国のスパイは主に情報取得が任務のようだから直接変な動きは感じられない

逆に言えばそれが怪しい。


「ナビ、一番最近イグ二スが動いたのはいつごろだ?」

「そして、その時期近辺にコミニストが動いたかどうかわかるか?」


「アヤト様、少々お待ちください」


数分後

「アヤト様、報告いたします。」

「イグ二スとの大戦は近年にありませんが」

「小競り合い程度の戦いが6年前にありました。」

「その時、半年後にコミニストとの中規模な戦いがあります。」


「この時の東の公爵家の動きは?」


「公爵家から援軍をイグナス方面へ出しております」

「その援軍が戻ってくる前にコミニスト方面へも援軍を出しました。」


「被害状況はわかるか?」


「はい、東の公爵家はイグニス援軍を欠いたまま

「コミニスト戦において、残る全軍を出しております」


「方面軍の主力として本軍として参加。」

「被害率は3割弱ですね。」


「ふむ、移動時間のロス」

「援軍とはいえ出したその地にしばらくは警戒のため残る」

「その分が減ったために残り全軍を投入しなければならなくなったという事だな」


「その時の主戦力はイグニス側の援軍に出してないか?」


「はい騎士団長を始めとした部隊が投入されました」


「ふむ、騎士団長も南の公爵家の時期に召喚された身だ。」

「南の公爵家の領地へ送る援軍となれば、そうなるだろうな」


「だが総指揮官不在でコミニストと戦って被害は少ないとも考えられる」

「コミニストと戦った東の公爵家本軍の指揮官は誰だ?」


「はい、形の上では公爵様本人ですが」

「実指揮を執ったのはサマル様です。」


「本軍とはいえ実質は2軍だったのだろう」

「サマルさんはよくわからない人だが、」

「公爵様が先日の訓練場騒ぎの中、知恵者と言っていた。」


「幸か不幸か戦場における対応力があったという事か」


あくまで俺の予測だが

サマルさんがいたことで効果があげられないと知った時点で

コミニストは軍を引いたのだろうか・・・。

それで中規模程度の戦いで済んでいるとか

いや何か違うな


「ナビ、その他の公爵家の被害状況は?」

「どの公爵家も援軍を出しているのだろう?」


「はい、南の公爵家はイグニス側に同じように主力軍を出しました」

「よって、コミニスト側には2軍クラス」

「同じように、西側方面軍の主力として西の公爵家も」

「イグニス側に主力軍を出しました」

「よって、コミニスト側には2軍クラスとなっています」


「共にコミニスト戦による被害率は3割を超えたくらいです」


「ですが北の公爵家はイグニス側には主力を送っていませんでした」

「イグニス側に送ったのは兵数こそ他の公爵家と同じですが3軍相当」

「よって、コミニスト側に主力をぶつけることができています。」


「そして、このコミニスト戦では、一番の功績をあげています。」

「しかも被害率は1割程度ですね。」


「ナビ、ありがとう」

「まずいな・・・北の公爵家の動きが怪しすぎる」


「アヤノ、わるいが北の公爵家、」


「はい、他の場所の式を減らして かなり多く北に送りました。」


「さすがにアヤノも気が付いたか」


「ええ、お兄様」

「北の公爵家様はあらかじめイグナスが誘導で」

「コミニスト戦が本当の戦場になると知っていたと思えます。」

「なのに他の公爵家へは、その情報を出さなかった。」

「それが自分だけが戦功を上げたかっただけなのか」

「それとも・・・何かしらの裏取引をどこかとしたのか」


「ナビちゃん」

「北の公爵家は現在、王位継承権1位でしたわよね。」

「この時の戦いにおける名誉によってどれくらいの効果があったのかわかる?」


「はい、この時の戦いが発生する1年前の記録によると」

「実は南の公爵家が継承権1位でした。」

「ですが、この戦争以降、北の公爵家が1位に変わっています。」

「以後、継続して現在1位を守っています。」


「ナビ、今回の召喚においての召喚者の能力レベルの評価は想定できるか?」


「現時点での概要だけでしたら」

「北の公爵家は評価4位です。」


「ちなみに王家の支持があって評価1位は東の公爵家」

「これは、私たちの功績ですね。」


「ああ、あの諜報部員の報告のおかげだな」

「それなら今の王家は、きっと北の公爵家の出ではないな」


「はい、南の公爵家排出の王です」


「ふむ、そしてその南の公爵家と仲の良い東の公爵家が」

「現時点での召喚者の評価1位」


「お兄様、何か黒い影が見えてくるようですわね。」


「ふむ、北の公爵家の継権1位の座が危うくなっている・・・」


「ナビ、アヤノ 式からの情報で」

「俺たちがイグ二スをたたくという話が洩れていた形跡を見つけたら」

「その相手を直ちにマーキング」

「情報が広がる前に対象の記憶を消してくれ」


「了解です」


「ええ、お兄様。すでに動いています。」


「どうやら3人とも同じ想定に行き着いたようだな」


「ナビは知識取得の割合の中に北の公爵家をを含んでくれ」

「できるだけ広範囲が良い。一族に関係する者とか。」

「召喚者などに関して。」


「はい、すでに開始しています。」


「皆理解が早くいいぞ、俺たちの最重要目標は北の公爵家だ。」






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