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兄妹の実力

「70%以上の確率で、ここは地球です。」

ナビが天体観測をした結果。

この星の月が地球の月と酷似している点から導き出した答えがそれだった。


「だが、少し疑問がある」

「ここは5大陸だと聞いたが、地球は4大陸のはずだ。」


「アヤト様、それは陥りやすい思い違いです。」

「地球は5大陸です」

「南極大陸をお忘れではありませんか」


「いや、でもあれは氷で閉ざされているから・・」

「この世界の文明レベルでは南極を大陸だと発見するのは難しすぎるはず。」


「残念ですが、それも思い違いです」

「古代地球における自転軸の位置は2000年代とは大きく異なります。」

「また、2000年代においても自転の揺れが観測できています。」

「風神雷神の予測では2300年以後、自転軸の位置が変わり始めると出ています。」

「ゆえに、自転軸が完全固定という基礎概念自体が間違いです。」

「結果、長い地球の歴史において、南極大陸は氷に閉ざされていない時代があります。」


「うん、実はそれは認識していた。」

「信じたくない気持ちが勝っていたんだ。」


「あら、お兄様」

「パラレルワールドの地球という事を考えたら」

「別に何があってもありえないとは思わないわ。」


「図書館にこの世界全体の地図があれば、確認しやすくなります。」

「地図がなくても様々な記録文献から推測も可能ですから」

「それも合わせて継続調査します。」


動揺はしたものの、この世界が地球であろうがなかろうが

俺たちはここで生きていくだけだ。

しかし、人間というものは謎を解明したい欲求がある。

ここが地球なのかというのは一つの課題としていくことになるだろう。


晩餐会での食事が進んでいる中

脳内通話でこのようなことを3人は話していた。


「アヤト・・くん」

「もしかして、食事が合わないのですか?」

ラティが心配したように聞いてきた。

どうやら難しい顔をしていた俺をみて食事が合わないと勘違いされたみたいだ。


「いや、この食事は私たちがいた世界とさほど変わりません」

そう、生活環境から食事に至るまで地球とさほど変わらない


「それでしたらよかったですわ」

「では、あの・・明日の訓練時間なのですが」

「訓練開始時間は10時という事ですから、」

「今日は英気を養ってくださいね。」


「ああ、そういえば明日だったな」

地球とかよりこちらのほうが大きな問題かもしれなかったとアヤトは思い出す

ラティも話を勝手に進めてしまった手前、気にしていたらしい。


「お兄様、どうやって手を抜くのか大変ですわね」

にやりと微笑みながらアヤノが脳内通信を送ってきた。

それはアヤトだけではなく自分にとってもどうやり過ごすのがいいのかを示していた。


「ふむ、能力のいくつかは今後のことも考えて封印すべきだろうな」

「命の危険が及ぶまでは、戦闘スキル範囲で対処しよう」


「ナビは、お二方に進言します」

「装備、特に武装において、戦術級・戦略級の攻撃力を持つものは」

「封印してください」

「確実に戦争利用されることを懸念します」


「ナビ、それは、訓練にかかわらずという意味だな」


「その通りです」

「例えば戦場に出たとしても、重要な懸念事項と進言いたします。」


戦争のための武器として俺たち召喚者がいるという現実は見逃せない

それがこの国の平和を保つためとはいえ、

世界全体のことを理解していないうちは、自重が必要だろう。


地球の歴史においてもバランスを崩すような武器というものが

どのような悲劇を生んできたのかは理解している。

だが人はそれを使いたくなるという欲求に耐えられない。


「なら、ナビに武装の封印を命令する」

「俺たち3人の命の危険がなければロックしたままにしてくれ」

「ロック解除の判断はナビに任せる」


「了解しました」

「大規模武装に関しての使用を封印します」


俺たちの任務はそもそも戦争のきっかけを作った人物たちの暗殺だった。

しかしそれでも戦争への流れが止まらなかった場合

きっかけとなる国家自体への攻撃もやむ負えないと判断されていた。


そもそも戦術AIの使用判断は戦争の長期化を目論んだことから始まる。

一気に決着をつける事象が発動すれば回避可能という判断だ。

これが第二の任務。


そしてそれでもダメな場合は世界中の戦術AIの開発阻止と

開発後の破壊という先の見えなくなる戦いが永遠と続く・・・という命令だった。


もっともこの世界に召喚された俺たちにはもう関係がないことだ。


だが、召喚された当日の今では

まだ、これらを忘れ去ることは全く不可能だった。


俺たちは任務のために、物心がついてから以後15年をそれに費やした。

それがすべて皆無となった今

「何か新しい任務を自分に背負う必要があるかもな」


「なら、ナビは進言します」

「もう一つの重要作戦、人類の継続。」

「生殖行動を任務とされてはいかがですか?」


「まぁ、ナビちゃん。それは素敵な提案ですわ。」


「まてまて、アヤノ」

「ナビも簡単に生殖行動とか言うな」


「俺たちの生活の保障、安全の確認が最優先だ。」

「本当に子が安全に生活できる世なら納得してやる。」

「だが、この世界はいまだ戦乱期だぞ」


「ナビとしては命の危険があるからこそ」

「先にたくさんの子をなすべきと判断しました」

「人類継続の確率が高くなれば計画の成功率も上がります。」


「おいおい、相手かまわず、所かまわず子を作れっていうのか」


「お兄様、わたくしは子を宿したら1年は役に立ちません」

「お兄様には、その間にも継続して頑張っていただきたいですわ」


「アヤノ、わかってて茶化してるだろ」

「最優先事項は、俺たち3人の安全確保」

「生活の保障ができてからその後のことは考える、以上だ。」


「お兄様、結果としてこの世界における」

「わたくしたちの任務が決定されましたのね。」


「ナビもそう理解しました。」

「以後、安全確保のためにこの世界に対する情報を集めることを優先します。」


これが、アヤトの独り言から始まった脳内通話における着地点だった。

新たな任務・・3人の安全確保を最優先とする事。


そのためには、この世界のことをもっと知らなければならない。

ゆえに任務の成功率を上げるための情報の収集。


「ラティさん」

「お聞きしたいのですが、この国と戦争状態にある国とは・・?」

いきなりのアヤトからの質問にびっくりのラティ。


召喚者である限り、いつかは戦場に立ってもらわなければならないと

ラティとしても心苦しく思っていた。

だが二人は若い。

学園生活の間にゆっくりとそう言った話をしていけばいいと思っていた。


「お兄様は、この国の実情を危惧されてのことだと思います。」

「わたくしたちは戦争時代にいたので、その点は気にしないで教えてください。」


「実は、戦争がない時代や場所からの召喚者もいました。」

「その方々にいきなり戦場に出る話をすることはできません。」

「長い時間をかけて話をしていくのが習わしとなっていました。」

「ですから、それに関しては皆、口を閉ざしているのです。」


「アヤト君がおっしゃる通り、この国は戦争中です。」

「最前線においては、今この時も戦いが起こっていると言えます。」

「ただ、苛烈な戦いには至ってないことはご理解ください。」

「その上で、戦争に関する話を私の知る限りですがお教えいたします。」


ラティの話はこうだった。

まずこの国の周囲にある城塞都市は各地の戦争に対する中継地である事。

この国の王都を中心として、東西南北を各公爵家が守っているという事。


まず西に位置する人類国家

神聖国イグニス。

この国は亜人族を徹底的に排除するという思想を持つ国家であり

亜人族と友好を持つこの国とは

思想の違いから仲が悪いため小競り合いがたびたび発生する。

人類国家の中では中規模国家とのこと。


また、亜人族の国家を脅かす存在でもあるため

友好を結ぶ亜人族国家の支援要請があれば直ちに戦力を投入する。

要するに防衛のみならず、戦いに出ていくという事になる。


次に南に位置する亜人国家

鬼族国家ガンドラ。

亜人族国家の中でも有数な武力国家であり

亜人族大陸の戦乱の種になっている。

要するにこのエルム国の南部が、

亜人族が多く住む大陸とつながっていることを意味する。


これも友好的な亜人国家への支援が必要になるという事だ。


そして北に位置するのが

この世界において最も危険視される魔人族の大陸がある。

だが海を隔てていることや、魔法の力により情報が少ない。

強大な国家が現れれば、大きな軍団が攻めてくることがある。


あくまでも噂でしかないのだが

この大陸の魔族国家が魔物を作り出しているらしい。


これはいわば生物兵器と言えるかもしれない。

ゆえに北部では魔物討伐の戦いが多い。

北部に魔物が多いとなれば確かに魔人族が魔物を送り出しているといえるだろう。

戦略的にも国力を下げるために理にかなっている。


そして、我が公爵家が守る東側。

その先には、人類国家最大規模の武装国家がある。

人類が多く住む大陸の中央に位置しており、

周辺国家を切り取りながら勢力を伸ばしている。


ただし、このエルム国の存在意義の中に

亜人族国家や魔人族国家との防壁という認識があるため

過去、直接攻めてくることは、ほぼなかった。


武装国家、セントラル帝国

初めて地球の英語に類する単語を聞いた。

セントラルとは中央を意味する言葉だ。

日本人としては大陸の中央を僭称する国家に、いい思いはない。


但し、属国などを利用した戦争や

謀略などはしょっちゅう仕掛けてくるらしい

表向きには干渉しないふりをしながら

国力を低下させることをしているという意味になる。


ちなみにその属国とは小国家連邦コミニスト

これもまた、英語に類するように感じるのは気のせいだろうか

小国家が集まって中規模になった連邦国だ。


帝国には自分たちの邪魔はさせないが利用するところは利用するという

かなり嫌味な国家戦略を行う指導者がいるのだと思える。

コミニストなんて帝国のトカゲのしっぽでしかない扱いだ。


「なるほど、周囲これすべて戦争の火種だらけだ。」

「いつ、どこと大戦になるのか分かったものじゃない。」


そしてここエルム国だが、規模的に言えば大きめの中規模国家に属する。

そして、話から人類が住む大陸の西側に位置すると考えられる。


「状況から判断するに」

「イグニス国は、セントラル帝国からの謀略の可能性があるとナビは進言します。」

ナビがこれらの話から想定した結論だ。


「ふむ、イグニスを使って西から、コミニストを使って東から小競り合いを演じるか」

これは効率的な国力低下だ。

それだけエルム国の戦力を恐れているという意味にもとらえられる。


「それだけでなくガンドラの動向についても謀略の可能性がありますわね。」


「アヤノ様がおっしゃる通りです。」

「ナビもその可能性を肯定します。」


「場合によっては、亜人大陸へ侵攻せざる負えなくなるという事だな。」


「ふむ、このエルム国」

「見た目は平和な国家に見えたが、かなり危うい状況にある。」


これらはラティの話を聞きながらの脳内通話である。


ラティからの少ない情報提供から

いろいろと想定すべき事項が見られたことで

脳内通話により、更に3人の話し合いが進んだ。


その中の一つは、このエルム国を守るための戦略。

情報収集が最優先事項であることは周知の事実だ。

だがもし、この国を安定に導くとしたら・・・。


検討事項

①神聖国家イグニスへの侵攻と占領を含んでの大規模国家への昇格による国力増強。

②亜人大陸内に友好国家を増やし、連邦国を作ることで

 亜人大陸側にある友好国の防衛力を高める。

③帝国からの謀略により動いている情報をいち早く察知してことごとくつぶす。


注意事項

魔人族に関しては、現時点では情報もなく検討しても仕方がない。

よってセントラル帝国の暗躍阻止が当面の対応になるが

謀略という点で言えば内憂、内なる敵の存在を知るべき。

謀略戦において当然にあり得ることだ。

こちらからの情報も筒抜けになっていると考えるべきでもある。


「とりあえず、これらを俺たちの安全を高める任務のための遂行計画としておこう」

「何をしてもこの国を守る。」


「まず、諜報系の能力展開を向上する。」

「ナビ、支援を頼む」


「了解しました」


「俺は、危機察知範囲を広げる。」

「悪意を感じる者すべてに適応。」

「距離は10キロ範囲とする。」

「これに対して危険と察知された者はすべてマーキングする。」


「ナビはそれをマップ表示」


「アヤノはこの国内のいろんなところに、諜報系の式神を配置」

「とにかく会話を探ってくれ。」

「但し、無理のない範囲でいいぞ。」


「ナビはその会話から危険情報をサーチ。」

「同じように対象者をマーキングしてマップ表示」


アヤノの特殊能力の一端。

呪術系スキル、陰陽師が式神を使った能力と類似のものになる。

通常、人の目に見えない端末素子を展開して、盗聴する技能だ。

これを広範囲で複数展開し、コントロールする特殊能力を持つ。

これは科学力と特殊能力を合わせたものだ。


継続した能力展開のために無理をしないというアヤトからの指示になる。


特殊能力の同時展開においてもこの二人なら問題はないが

明日の訓練や今後の学園生活のことも考慮しての指示だった。


「お兄様の気づかい嬉しく思います。」

「ですがわたくしの能力のほんの一部でしかありません。」


「ましてや、すべての会話を聞けと言われても問題はありませんのに」

「会話内容のサーチをナビちゃんに指示するのですから」

「最大発動でも通常の生活には、全く支障はありませんわ」


「いや、今後アヤノにはそれ以外にも頼むことがある」

「今は8割以内に抑えてくれ」


「お兄様がそうおっしゃるという事は・・。」

「場合によっては人操術が関係しているのですわね。」


アヤノの能力の中でも最大の能力の一つ、通称、言霊。

各地に放った式神から、言霊を発して自覚なく催眠誘導状態に陥れる能力だ。

要するに式神の展開とは盗聴するだけでなく、

場合によっては対象を暗示にかけて言う通りに行動させる。

そういう能力も含まれるという事になる。


これはいわば音波を利用した能力である。

もちろん式神を使わず直接展開もできる。

本人に自覚なく他殺や自害させることもできるという暗殺術までもを含む。

母方の橘家に継承されてきた最大能力の一つだ。


元々の任務における対象の暗殺は、このアヤノの能力によるものだった。

よって、アヤトはアヤノを守り抜くことが優先任務とされていた。


二人が会合したのは13歳の時。

既にこの時点でアヤトは優先任務としてアヤノの防衛を命令されていた。

その中でアヤトは妹であると聞かされていたアヤノを大切に思っていた。


一方で他の人物からしたらアヤノの能力はとても恐ろしい力だった。

だから周囲には誰も寄り付かない。


しかし、それを気にせず自分と普通に向き合ってくれたアヤト。

形の上で兄とはいえ、

アヤノにとってアヤトは、かけがえのない人になった。

いわばこれがアヤノの初恋だった。


以後、二人の付き合いの中で

アヤトにも満更でもない意識が芽生えた。


二人にとっては、兄妹と言われても同じ家庭で生活したこともなく

兄妹の関係というより、同じ任務を持つ仲間、そして身内という概念が勝っていた。

唯一アヤノが、お兄様と呼ぶことによって兄妹という形を守っているだけなのだ。


タイムリープ戦略と並行したアダムとイブ作戦において

人類最高峰のAI、風神と雷神が計算した結果生まれた二人。

実のところ同じ父親の遺伝子をもつとしても

その子孫には、遺伝子欠陥などの問題がないという結論が出ており

その事実はナビにも知識継承されている。


但し、ナビは聞かれていないからそのことは二人にも言ってはいない。


これも実のところ風神雷神の計算による予測で

二人の仲がそうなった場合や、やむ負えない事情ができた場合に、

懸念されない情報提供としてナビ側から言えることになっている。


一方で、子孫の継続率を高めるためには

二人の間以外に子孫が残ることも重要ではある為、

安易に二人が結ばれないように、あえて話さないという面もある。


そしてこの世界の人類は非常に元の人類に類似していた。

むしろ男性であるアイトが複数の子孫を残してくれることが

ナビにとって一番良い計算結果となっている。


脱線してしまったのだが

今でもアヤトにとっての最優先事項はアヤノを守ること。

アヤノに負担をかけたくないという中には複雑な思いがあるともいえる。


特殊能力の発動

能力の発動には意識の集中が不可欠になる。

同時に複数の能力展開も可能なのだが、それだけ意識が刈り取られることになる。


その能力を使う訓練をしてきた二人にとっては、発動は瞬間なのだが

強い能力を使用する場合には、脳のリソースを多く使用することになる。

そのため、ナビというサポートAIを取り込んだ能力使用方法をとっている。


ナビの存在は二人の能力の効率を上げるだけでなく

負担を軽減するためという要素が大きい。

よって、ナビ自体には自分を防御する為にさけるリソースがない。

戦闘が苦手だとかできないというのは自己防衛からの言葉だ。


口頭の会話時など外部からの反応に対するのに

省エネだとアヤトがいうように

それもまた自己の動作制御におけるリソースの不足からきている。

だから脳内通話の時には動作制御が不要なので普通に話せる。


ナビについて


ナビは言う

人間は単なる会話の時でも手足を動かしたり表情を変える。

私にとって、これは無駄にリソースを消費する動作制御が必要になる。

とはいえ、人と同じ動作をするように基礎プログラムが作られた以上

削れるところを削るしかない。


これが人から見たら会話時の口数が少なく、

あまり表情に出ない風に見えるという事になる。


ナビを支援AIとして二人の能力サポートに特化する場合。

問題点を解決する為に風神雷神が計算した結果が

負荷になりえる巨大な体を持つより小型化を優先。

見た目を幼女化することで、危険視されなくなれば

防衛力が高まり無駄な制御を少なくできるというものだった。


ゆえに徹底して人類が可愛いと思える見た目、

服装を含め計算をしつくした結果。

誰が見てもかわいい幼女のアンドロイドが素体として作られた。


結果として、この世界においても人類の感性に差はなく

可愛いと認識されることで、受け入れられやすい事態になっている。


そもそもアヤトとアヤノの二人も

日本人としては、とても魅力がある美しい外見をしているが

これもまた警戒心を上げないという計算からでもある。


人類にとって、外見というのが一番先に目につく。

そう言った意味でも風神雷神はかなり優秀な結果を残したといえる。


そして、今

ラティからの話や、3人の脳内通話により時間が過ぎていき

晩餐会も終わりに差し掛かかった。


この会の終了を告げるのは、もちろん公爵家の当主である。

開催時に言いたいことを言っているため終了時にはありきたりの言葉になる。


「そろそろ終了の時間となりますゆえ」

「ご歓談が終わった方からご自由にお帰りください。」


「また、お帰りの際には土産などもありますのでどうぞお持ちください。」


どうやらこの世界では、帰りにお土産付きという習わしがあるらしい。

この言葉を聞いた以後、数人の客が3人に別れを告げて帰っていった。


中でもシュージが

「明日の訓練楽しみにしてるぜ」

「がっはっは」

と言ってアヤトの背中をバンバン叩く流れがあったことは想像できるだろう。


他にもカオリが

「錬金術の研究所、私もアイト君と協力することになったからよろしくね。」

「学園も楽しみにしてるわ」

と、出会った時とは異なり明るい笑顔で去っていった。


あと・・学者の老人がナビに対して名残惜しそうに帰っていった。


そして3人が帰るときには

ラティや公爵を含め一族が総出で送り出してくれた。

中でもラティは筆頭執事とともに館の出口まで見送りに来た。

「アイト君、アヤノさん、ナビちゃん」

「また明日。」


一日にして3人と打ち解けた感があったことは言うまでもなかった。


「たぶん、こちらから戦争の話を切り出したことで」

「肩の荷が下りたことも大きかったんだろうな」


「戦場に送り出すことになるというのを言い出すのは大変ですもの。」

「わかっていたとはいえ、きっと本人から口にするのは、心苦しい事ですわ。」


「まあ、いろんな情報も得られたことだし」

「こちらの対応策や戦略も練れた」

「この晩餐会は有意義だったといえる。」


「あら、お兄様が幾人かの女性を篭絡しかけている事実を含めてかしら」

「うふふ。」

馬車の中でアヤノがそれを言いながらアヤトの腕にしがみついてきた。


「いや、ほんの少しだけ仲が良くなったのが事実だ」

アヤノの態度で少し照れながらも言い返すアヤト


「あらら、お兄様を好きになる女性は大変かもしれないですわ」

「多少の好意程度では、全く歯が立ちませんもの」


「ゆえに、アヤノ様は態度で示しておられるのですね。」

「アヤト様には、これくらいしないと気にしてもらえないという意味で・・。」

たまに変な突っ込みを入れるナビ。


それにうなずくアヤノを見て、アヤトは顔を赤くした。


馬車は屋敷に到着し、使用人の多くがそれを出迎える。


「こんな日々がこれから続くのか・・。」

それは慣れない貴族的生活というより、平和な雰囲気だった。


「だが、この目先の平和を本当の平和にしていきたい。」

「各自、部屋に戻ったら能力展開開始」

あえて人が多い場では能力展開を控えていたのだが

帰宅して早々に計画が実行された。


それとともにまずはナビにいろんなところからの会話が傍受される。

気になった会話はすべて記録され、対象者はマーキングされた。


またアヤトに関しても察知範囲を広げたことで引っかかる人物が見つかる。

「こいつ、たぶん諜報員か何かだな。」

それは比較的近い距離にいた。

「どうやら屋敷を観察している様子だ。」


現状は誰なのかはわからない

場合によっては他の公爵家が召喚者の情報取得のために動いている可能性もある。

最悪なのは他国の間者だ。


そう言った人物を含め、マーキングをしていく。


深夜。

さすがに睡眠に入ると一部の能力は途切れるか、極端に能力が低下する。


だが式神のすごいのは一度展開したら解除するまで周囲にい続けられるという点。

移動などの制御は不可能でも盗聴器としてその場にい続ける。

睡眠をとる必要がないナビはそれらのも含め、情報を処理していった。


翌日の朝を迎える。

さすがにいろいろな出来事が重なった日の翌日

しかも当初の任務から解放されており、気が抜けたように目が覚める。


それとともにアヤトのサーチが再び発動した。


アヤトが持つ危機察知能力は、ほぼ自動発動である。

あえて意識をすることで条件の変更や危険度の認識を変えたりはするが

最低限度での警戒認識なら意識をしなくても発動する。


意識をしなくてもというのは語弊があるかもしれない

さすがにアヤトが寝てしまっている状況では発動していないからだ。

但し、これも危険度が高い相手ともなると自動発動とともに強制的に目が覚める。

いわゆる殺気を帯びた相手がいる場合だ。


サーチ範囲にはそういう人物はいなかった。

但し昨夜同様の屋敷を見張っているかのような怪しい人物はいる。

それに類似する人物はほかにもいた。


「屋敷内部にまで侵入はしていなかったようだな・・」

もしそうなら、野盗を含め危機察知能力が発動していた。


「どうやら深夜のうちに人が入れ替わっている」

「これは組織として動いている証拠だな」


「ナビ、昨夜マーキングした不審者の居場所はわかるか?」


「アヤト様、おはようございます。」

「はい、不審者のうち屋敷を見張っていた者は王城付近にいます。」


「ふむ、王の息がかかった諜報員だったか。」

「単に新しく来た召喚者を警戒しての行動だな。」

「となると他の召喚者のところにもいるかもしれない。」


「これは系統分けをしておくほうがいいな」

「とりあえずその系統の不審者はグリーンとする。」


「それ以外に・・。」

「多分これは、訓練場付近にいる奴だ。」

「今のところ同系統とは判断できないからイエローとする。」


「アヤト様、昨夜からの盗聴による不審者のマーキングも合わせて」

「ご確認ください。」


「ふむ、もっともな意見だ」

「まずは、危険度が高い会話をしていた者はすべてレッドにしておいてくれ。」


「他国からの侵入者、もしくは他国の何者かからの指示があった者」

「それはブラックとして、会話の概要を一覧で示してくれ。」


アヤトの脳内で会話の概要がまとめられたものが一覧表示された。

「なんだと、こんなにあるのか」

それは一般市民が生活する場、中壁と外壁の間にある生活区域だった。

「まるで2000年代の日本のようにスパイ天国だと言わざる負えない。」


商店の店主と店に来た客

旅人と泊まっている宿の主


「生活区域内の警備は誰の管轄になるんだ?」

公爵家が軍事を握っているとはいえ、どちらかと言えば外敵への対処。

国内の治安維持活動まで含んでいるとは考えにくい。


「はい、会話の内容からそれに関する情報を集めます。」


その脳内通信にアヤノが割り込んできた。

「お兄様、ナビちゃん おはようございます。」


「この国の城塞都市内部における治安維持及び警備システムは3つに分かれています。」

「一つはいわゆる警察機構に類似するもの。」

「これは公的機関として王家の下に位置する伯爵級の貴族家がまとめています。」

「通称、警備兵。これは警察組織ですわ。」


「なるほど、警察官僚と警察官が存在するわけだな。」


「二つ目には、諜報組織とそれに連動した治安維持部隊。」

「これらは、王家直属の諜報員を要する組織になります。」

「伯爵級の中でも、王家に一番近い側近が長官のようですわ。」


「そしてこの組織と王家直属の騎士団とは情報が直結しています。」

「これらは治安維持部隊と称されているようです。」

「国内問題で何かあれば、この部隊が裏で動く仕組みがあるようです。」


「なるほど、暗躍する敵を闇に葬る部隊か」

「そういった存在はどの世界にもいるものだな。」


「三つ目ですが、民間警備機構」

「町内組織で結成する民兵とか、商人や貴族が雇う傭兵などがこれに含まれます。」

「これは警察機構に対して登録制で認めれれるという許可制度に基づきます。」

「武装許可もされていますが、どちらかといえば身を守る程度の軽装ですわ。」


「それこそ野盗とかいたら、こういう連中が対処するのだろうな」


「実はその3つ以外に戦闘が許可された組織がありました。」

「城塞都市内の治安活動というより城塞都市間用の治安活動組織ですわ。」

「これはどうやら北の公爵家が申請して許可された組織のようです。」


「なるほど、魔物から駅馬車やそのルートを守る組織か」

「ひょっとして、ナビの変な知識にあった冒険者組合みたいなものか。」


「アヤト様、ナビの変な知識とは心外です。」

「2000年代における転移に関する貴重な書籍などの情報です。」

「何が役に立つのかわかりませんから、サブ記憶として保管してました。」


「まあ、確かに一部の情報は、この世界の認識の役には立ったな。」


「あら、お兄様は情報としてより内容を娯楽として面白いと認識されてましたわよね。」

「時折脳内通信に漏れてましたのよ」


「あ、ああ。すまんナビお前の知識は、変に役に立つと言い換える。」


「変な知識ではなく、変に役に立つ知識ですか・・。」

「どのような形でもアヤト様のお役に立てているのなら構わないことにしておきます。」


「それで、続きはいいかしら。」

「お兄様が言うように冒険者組合ですわ。」

「召喚者からの知識が含まれて結成されたと思われますの」

「理由は組織の活動や運営がナビちゃんの変に役に立つ知識相当ですから」


「つまり、各城塞都市の領主からの依頼を受けて魔物討伐を専門に請け負う組織か」

「国防軍である軍隊をその都度動かすほどの状態でもなければ有効だといえるな。」


「しかし、それは北の公爵家の息がかかっているという点を見たら」

「権力バランスが偏っているな。」


「お兄様。そのとおりですわ。」

「ですから北の公爵家が王家継承権一位の座にいるのだと理解できます。」


「そして、警察機構にも警備機構にも存在していない魔術師が」

「この冒険者組合には存在していますの」

「理由は、魔物に魔法力があるという点と」

「魔法でなければ倒せない魔物がいるという点」


「それは・・軍団に所属する魔術師と同レベルなのか?」


「詳細は不明ですわ」

「ただ、民間にも魔術師は存在している以上」

「軍に属さない魔術師が存在していても変ではないという事だけです。」


「それと・・冒険者組合の登録者には亜人も含まれるため」

「魔術を使用する亜人の存在も含まれるという事になりますわね。」


「ふむ、アヤノ良く調べてくれた」

「能力負荷大丈夫か・・無理はしないでほしい。」


「大丈夫ですわ、ナビちゃんがまとめた情報を」

「私の記憶域にフィードバックしただけですから」


「うむ、だがアヤノが倒れたら困るというのは忘れないでほしい」


「お兄様からのそのお言葉はとても嬉しく思います。」


「ああ、これからも頼む。では、本題に戻ろう」

「不信会話情報を持つブラックマークがこれほどいて」

「そのいくつもの治安維持組織は対処できているのか?」


「アヤト様、それは無理かと思われます」

「アヤノ様のような特殊な能力がなければ、住民に紛れ込んでいる相手を見抜けません。」

「何か動きが出た都度の対処が精一杯かと思われます。」


「なら、マーキングを継続」

「治安維持組織や政府組織がそれらブラックに利用される事態が一番怖い」

「要するに内通や内乱などの発生を警戒してくれ。」


「あとは、一般市民への洗脳ですわね」

「プロパガンダとか政府に対する不満を増長するなどは情報戦略の基本ですもの」

「神聖国家イグナスの思想の傾きなど、まさに情報戦略に毒された姿ですわ。」


「ああ、俺もその通りだと認識している」


「わたくしがイグナスに行けたらすべての洗脳を書き換えますのに・・。」

これがアヤノの言霊の能力の怖さの一つでもある。

広範囲における意識の変更は戦略級の能力に匹敵する。

逆に敵国内で内乱を発生させることも可能なのだ。


情報戦略の戦いにおいては、アヤノに勝てる者はいないだろう。

だが、元の世界においてのAiや機械相手では全く歯が立たない。

これが風神雷神の導き出した答えだった。


「そのような危険なことを俺がアヤノにやらせると思っているのか」

「どうしてもアヤノの力が必要な時は俺がアヤノを守る。」

「だから、アヤノは俺に守られてる時だけ能力を使ってくれ。」


「お兄様は昔から変わりませんのね。」

「そういうお優しいところが魅力なのですわ。」


「うむ、それはなんだか恥ずかしい言葉だな」


実のところアヤノの言霊の能力には唯一の欠点がある

アヤトには全く通用しないという点だ。

でなければアヤノはアヤトを自由にできていた。

アヤノが持つアヤトに対する好意の深層心理には、

自分の言いなりにできない唯一の存在であるという貴重性も含まれているのだが

二人ともそれは理解していない。


アヤトが持つ能力の一端


侍という能力

これには自己抑制力を極限まで高められる精神防御能力がある。

これが、人の甘言には乗らない、洗脳できない、ことにつながる。


その上で警戒察知能力による相手が自分に何かしかけたときにわかる能力。

それは思考であっても察知可能だ。だから殺意などの察知ができる。

実はこれも侍の能力である。


しかもこれらが自動で発動できる能力であるため

アヤノが言霊をアヤトに向けてきたらアヤトは、自動的に精神防護体制になる。

これがアヤノの能力が効かないアヤトの能力のカラクリでもある。


もっとも侍のスキルとしては、主に戦闘力向上が主体であり

肉体的な強化などを主体に含んでいる。

ただ、精神強化の能力もあることから

戦闘中には、何があっても動揺せず冷静に対処できる精神力があるという事になる。


この二つの能力を極限まで生かすとすれば

どれだけ怪我をしていても、生きている間は相手に立ち向かい続けるという

いわば死兵に相当する能力になる。


そしてその能力を支えるナノマシンによる自己再生力

多少の怪我なら修復できてしまう能力が科学力で付加されているのだ。


もっともそんな事態にならないような防御装備を装着しているのだが

さすがに大勢の機械兵から同時攻撃されたら防御装備でも耐えることは難しい。


この場合には、空間変化の能力が併用される。

こうなると相手の攻撃がアヤトには届かない。

アヤトは総合的に絶対防御という能力を持っているという事だ。


これがアヤノがアヤトの強さを絶対的だと評価するゆえんでもある。


朝からいろんなことに脳内通話と能力を使いながら朝食を終えると

訓練場へと向かう時間になった。


瞬間移動の能力を使わず、屋敷の馬車を利用しての移動となる。

屋敷から訓練場までの距離はそれ程遠くはない。


二人は移動中に装備の見た目を変化させていた。

屋敷内でそれを行うと使用人がいつ着替えたのか

その服はどこにあったのかとびっくりしてしまうためでもある。


装備の見た目は、ややこの世界の装備に相当するものを

ナビの知識から引っ張り出した結果である。


アヤトは軍服姿のような軽装備

アヤノは神官服のようなやや和装的な装備

2000年代の若者が見たらコスプレ、もしくは中二病というかもしれない。


「ナビ、これはこの世界でも受け入れられるようなデザインなのか?」


「あら、お兄様。すごく似合ってますわよ。」


「ああ、確かにアヤノも似合っている。」


「お二人とも、お似合いという事でいいではありませんか」

「見た目がどうでも装備の能力は変わりません。」


「それを言い出したら装備変化する意味がないのだが・・。」


「お兄様。こういう機能美を追求したデザイン性なども」

「この世界の何かの役に立つかもしれませんわ」


晩餐会の時の衣装においてもかなり目立っていたから今更ではある。


誰もそれについて突っ込みを入れてこなかったのが不思議なくらいだ。


たぶんすごく不思議なナビの存在がそれを打ち消すとともに

ナビなら装備や服なども用意できるのだろうとか思ってるのかもしれない。

その勘違いならそれで押し切る。


覚悟を決めて馬車がら降りる


その二人を見て御者が目を丸くした。

いつの間に着替えたのだろう・・。


ただ、実のところアヤトたちが心配するほど使用人たちは困惑はしない

召喚者とは不思議な力をもって異世界から来た人物と告げられているからだ。

使用人たちにとっては何でもありで受け入れるという意識だった。


それはこの国の人々に対する共通認識でもあり

召喚者に対する不思議さというものは認知されやすい。

たとえ、どんな見た目や格好をしていてもだ。


だから召喚時のバトルスーツのオリジナルデザインのままでも

誰も違和感を口にしなかった。

晩餐会においてもその認識は同じで、

むしろ気にしているのはアヤトたちのほうである。


今回もその格好は周囲にスルーされた。

但し、シュージだけにはウケた。

「おいおい、アヤトよぉ」

「海軍の将校みたいな軍服だな」

「それで本当に防御できるのか」


シュージのほうは模擬戦を想定して甲冑姿である。

そして先日は目にしなかった大剣を所持していた。

刃の幅が広く、長さも相当なものだ。


「シュージさん、その剣は?」


「ああ、これは俺の能力を生かした専用武器だ。」

「ドワーフ族の鍛冶師ご用達だぜ。」


そういえば友好亜人族にドワーフという名称があった。


「召喚者である英雄の皆様には、その能力に応じた専用装備が提供されます。」

「ですから希望があればアイト君にも専用装備が提供できますのよ。」


その説明をしてくれたのは、シュージを召喚したラティーシャの姉

メティーラだった。


そしてその後ろにラティーシャが控えている。


「アヤノさんの訓練を見る前に、模擬戦を是非皆で見たいですわ」

今日は見学する気満々だった。


訓練というのは名ばかりで実は能力を調べるためのもの


そのために学者先生やら騎士団長やら公爵まで来ている。

それと気になる召喚者の一人。

サマルさん。

飄々としてどこかつかみどころがない為、警戒すべき人物だ。


「それはそうとして」

「アヤトの武器がないぞ」

「訓練場の武器を借りるのか?」

シュージが丸腰のアヤトを見てそう言った。


アヤトは帯剣もしておらず

ましてや銃なども所持していない。


ただ腰に二つ、刀の柄のように見える棒が装着されている。


「おいおい、まさかそれが武器とか言うんじゃないだろうな」


そこへサマルさんが割り込んできた。

「シュージ君、どうやらそれがアヤト君の武器のようだよ」


どうやらサマルさんには見抜かれたようだ

アヤトが考え抜いた結果

相手に致命傷を与えない武器として選んだのが麻痺を誘発する剣だった。


これは切り替えによって攻撃性を変えることができる

基本的には電気を利用した科学武器である。


「サマルさん。おっしゃる通りです。」

アヤトがにやりと微笑み、右手に柄を持つと

ブゥンという音と共に光る刀身が現れた。


「おいおい、スペース何とかっていう映画にあったあれかよ」、

シュージが言うことの意味は間違いではあるがわからなくもない、

レーザー系の武器とは理論的には同じだ。


「アイト。俺の剣や体を真っ二つにできるとかって言わないよな」

自信満々でシュージが冗談を言っていることはわかる


「あ、大丈夫です。 触れば麻痺する程度ですから。」

それに対して正直に応えるアイトを見て、サマルと騎士団長は眉をひそめた。


強がっているシュージよりもアヤトの底知れない自信を見て取ったのだ。


離れた場所で見ていた騎士団長が学者の老人に話す

「あ奴は錬金術師だと言っていたな」

「何か得体のしれないものを感じるのだが・・。」


この世界において、基本的に錬金術とは戦闘系の術者ではなく

どちらかと言えば支援職である。

そのため戦場に立つこともなければ、直接戦闘することもほぼ無い。

いわば戦時においては裏方である。


「実は私にも理解できない戦闘スキルを所持してましてな・・はっはっは」

「今日はそれの正体を楽しみにしてますのじゃ」


この会話は実はアヤノの能力で、脳内通信を使ってまる聞こえだ。

この場においても二人は能力を使用している。


招待されていない見学者の目も気になっていた。

遠くで物見遊山の兵士に紛れ込んでいる。

グリーンマーク、王家の諜報部員だ。


「さて、瞬間に終わらせるか」

「ある程度は実力を示すか・・」

アヤトはその場での周囲の状況を見て動きを計算していた。


シュージは、アヤトに対してそれなりの戦闘力があると認識はしている。


その他の人物たちも何かしらの戦闘能力があるとは認識しているが

理解されている範囲としては、特殊能力ではなく単なる戦闘スキルの立ち回り

ならばそれをそのように勘違いしてもらおう。


ラースという模擬戦の立会人を申し出た人物

あのローブ姿の火系魔法を使う魔術師だ。


その人物が、二人に今回の模擬戦におけるルールを説明した。

ルールはすごく簡単だ。

相手に致命傷を与えるような攻撃はしない。


それと、もし事故で死亡してもよいかという承諾だった。


「これ、模擬戦じゃなくて実戦だろ」

「普通なら死亡の承諾に了承するわけがない。」

「だが、これは半強制的だ。」


「お兄様、とゆう事であれば能力を多少出してもよろしいのではなくて」


脳内通話でアヤトの独り言にアヤノが介入してきた。


「まあ悟られない程度に気楽に能力を混ぜてみるよ」


「それでは両者、離れて」

ラースさんから声がかかる、

どうやら初動の立ち位置は距離をかなり離してという感じだ。


「これはシュージさんに魔法を使わせてもよい判断があるという意味だな」

あらかじめシュージの能力を見ておいてよかったと思った。


「模擬戦開始!」


「何が模擬戦だ、相手が魔法で先制できるところから始める実戦だろ」


「よしっ行くぜアヤト。最初から飛ばしていくから覚悟しろ。」

シュージが遠くから叫んだ。


「これはきっと魔法発動のための時間かせぎ」


シュージから火の魔法が発動される

「ファイヤーボール」


これは魔術師の訓練で見た魔法だ

だが同時に発現する弾数が、並みの魔術師たちより多い

普通は単発

術者として能力が高いとみた魔術師で3発だった。


だがシュージは5発


「ふむ、これは動きを止めるための牽制だな。」

一発の威力はなく、さほど高速で飛んでくるわけでもない。

能力を使わなくても足さばきで何とかしのげるだろう。

だがそうした後に本命の魔法が飛んでくるはず。


アヤトはもう一つの剣の柄を握った。

ブゥンという音と共に黒く光る刀身が現れる。


「なんと二刀だったか・・」

騎士団長が言う


いつの間にか騎士団長の近くに移動していたサマルが言う

「あの柄のような武装、二つ持っていたというのは用途が異なるのでしょうね」


学者先生が言う

「あの光る刀身じゃが、魔法でもない、何らかのスキルとも思えないのじゃ」

「あの武装自体の能力という事になるじゃろな」


アヤトは勘違いを進めるために告げる

「次元剣発動」


まるで中二病のような名称だが

こちらの世界においては空間を切り裂く剣と認識された。


魔法で言うなら風系に類似のものがあるという意味だったが

実際には空間を切り裂くことはできない

空間を切り裂くほどの速度と切れ味を示す魔法だ。


だがアヤトの剣は本当に空間を切り裂いた

たった一薙ぎなのに、四方を目指した5つのファイヤーボールが一瞬で消えた。


実は剣自体の能力はダミーだ、これには別の能力がある。


魔法を消したのはアヤトの空間変化能力の一部。


空間のねじれを利用して弾き飛ばすと周囲に迷惑がかかる

異次元空間に魔法を飛ばすのはやったことがないからどうなるのか不明

ならば、火を顕現する根幹となる魔素と酸素の存在を無くす。


さすがのサマルでもこれは予測できなかった。


学者先生が言うように風系の魔法力で

ファイヤーボールにぶつけて打ち消すくらいに思っていたのだ。

だが魔法の発動の形跡もなく、ただ剣を振りぬいただけに見えた。


「私にはあの剣の能力には思えません。」

「純粋にアヤト君が持つ何らかの能力のような気がします。」


学者先生もそれに賛同した

その上で意見を言う

「うむ、どうやら白く光る剣は外部に対して何らかの影響を与えるためのもの」

「おそらく麻痺するというのは本当じゃろう」

「それに対して黒く光る剣じゃが、あれはむしろ何かを吸い取るように感じる」

「魔法を打ち消すというより、何かの能力を吸い取る・・とか」


「ふむ、さすが学者先生」

「いいところを突いている」

「だがその正体は近接戦闘にならなければ見ることはできない」

アヤトは独り言でそう告げる。


驚いたのはシュージだ

基本的な魔法戦闘だったが、こうも簡単にかわすすべがあったことは信じられない。

だが、すでに二段目の魔法を発動していた。

これはシュージが実戦戦闘に慣れていることを示す。


相手の行動をあくまで阻止するのが遠距離における魔法戦の基本だ。

その上で致命傷になる一発を放つ。


次の魔法は炎の矢だった。

弾数は3発。

ファイやボールよりも速度も威力も高い。

「ファイヤーアロー」


だがこれもアヤトの剣一振りで掻き消えた


ここに至ってシュージは、出し惜しみしても仕方ないと理解する。

「とっておきの炎の竜巻を出してやる」


一気にその能力と威力が上がる。

今までとは桁違いの魔法だ。


「ふむ、あの時見た炎の渦よりもさらに大きいな。」

「これは小手技とかではなく、こちらからも戦闘を仕掛けよう。」


炎の竜巻が顕現し、それをアヤトに向けて飛ばした瞬間の出来事だった。


見学者すべてが息をのんだ。


一瞬にしてアヤトの姿はその場に消えたのだ。

炎の竜巻は誰もいなくなった空間でむなしく暴発した。


シュージがアヤトを見つけたのはその瞬間。

「わぁ、何故ここにいるんだ」


アヤトはシュージの前に立っていた。

そして二刀を振る


ところが本来は近接戦闘のほうが得意だというシュージは、

その大剣を瞬時に使って、アヤトの攻撃を防御した。


「なるほど、その剣幅の広さは使い方によって盾にもなるというわけか」

「剣で軽く触れて終わりにしようと思ったのは失敗だったな」

「少し、まともに戦ってみるか」


シュージは、もはや冷や汗ものだ。

何がおこったのか全く理解できないまま、いきなり攻撃されたのだ。

しかも大剣には不利な距離。


少し有利な距離にするためという事でバックステップをしながら

炎の魔法を大剣にまとわす。


「これで近づくのは容易ではないはず」

「俺の得意な距離で戦える」

そう思ったのもつかの間


アヤトはシュージがバックステップで後ろに跳んだはずのその場所にいた。

しかも大剣の炎は打ち消されている。


アヤトは見えないほどの剣撃速度で二刀を連続してして降りぬいた


シュージは、これに対して切られたことを認識する。

しかし、切られた痕もなければ激痛もない。

ただ体が動かず、頭がぼーっとするだけだ。


この状況を見て、ラースは慌てて試合終了を告げた。

ラースにとってもアヤトを見失っていたからやや遅れたといってよい。


この後シュージがガクリと膝をつき、やがて崩れ落ちるようにして大の字に倒れた。

「なんだ、俺・・負けたのか・・」

その目は虚ろであった。

慌てて駆け寄る訓練場の医師達。


原因は不明だが動くことができない状況であることは理解できた。


そこでアヤトが言う

「体は麻痺してるから動くのは大変かもしれない」

「それと気力が削がれてるから、しばらく寝かせてやってください。」


この光景を見た騎士団長が

「あ奴には俺でも勝てんかもしれんと漏らした」

そして、

「サマルが本気で戦って勝てる見込みはあるか?」

と問うた。


「まあ、無理でしょうね」

「彼の様子から、あれは彼の本来の戦い方でもなく能力も抑えていたみたいです。」

「もし私が本気を出せば彼は今以上の能力を出すでしょう。」

「勝機などみじんも感じられませんよ。」


「お主の能力をもってしても勝てぬか・・。」


その会話に珍しく真顔の公爵は言う

「どうやらラティは化け物を召喚したようだな。」

「それがわが公爵家、この国にとって吉なのかどうなのか・・彼しだいだ。」


学者先生は

「何もわからなかった、気が付いた終わっていた」

「あの能力は理解不可能じゃった」

「過去にも該当するものはない」


「強いてあげるとすれば・・・初代勇者王が持っていたとする謎の力に匹敵する」

「そういう能力者じゃ」

「単なる戦闘力を備えた錬金術師という概念は捨てるしかないじゃろ」


「となると・・」

再び公爵は言う

「単なる英雄ではなく、勇者の再来かもしれぬという事か・・。」


この後、アヤノの訓練が始まるというときにこの状態である。

アヤノの訓練は単なる魔法の発動と聞いていたが

アヤトの力を見たことから、見学者たちはアヤノの能力も視ることにした。


「アヤノ様も単なる魔術師ではない可能性がありますな」

これが見学前に学者老人が言った言葉だった。


魔法訓練は非常に簡潔だ。

的に向かって魔法を放つ。


但しその的はかなり頑丈な壁である。


普通の魔術師では、壁を貫くことは不可能に作られたものだ。


しかもアヤノの的はさらに強度を高くしたもの。

上級魔術師が最大魔法を練習するためのものだった。


アヤノを指導するつもりで誘ったメティーラは、シュージが心配で付き添ってしまった。

その為、再び魔術師団長であるラースが立ち会うことになった。


ラースとしては先ほどの光景から立ち直っているわけではない。

魔法を打ち消す力など魔術師からしたら死活問題でもある。

心の中ではアヤト一人に魔法師団が壊滅する姿が想像された。


そのためアヤノに対する訓練指示はかなりいい加減なものだった

単に魔術師と聞いていたため、得意な魔法をあの的に放てばいいとだけ告げた。


だがアヤノが言う

「わたくし魔法なんて使ったことはないのですわ」

「似たようなことなら出来るのですが、それでいいのかしら」


ラースは簡単にそれを承諾した。


魔法発動訓練の場合

魔法制御用に色々な武装を利用する。

基本的には杖であったり、棒状のものが多い。

中には攻撃に特化した風魔法などは弓を用いることもある。

ところがこれはかなり特殊な例で、召喚者に限られるケースでもある。


ゆえに、アヤノが所持するそのものに対しても

召喚者特有のものだろうとは認識した。


「アヤノはあえてあれを持ち出したのか」

それを理解できるのはアヤトとナビだけだ。

「アヤノ様が得意な能力の一つ。召喚札でございますね。」


アヤノは魔術師だと言われているがそのスキルは呪術師。

式神を使うのと同様に上位の式神を顕現させて能力を使用することもできる。

いわば疑似精霊とでもいえばいいのだろうか

これもまた科学力の力と特殊能力を使った武器である。


アヤノが持つ最大の能力は音にまつわる言霊だが

一方で物質変換などの物理的作用の能力もある。


これも時空間能力を利用した綾小路家一族の持つ能力の派生だ。

これに類似した能力はアヤトも持つ。


アヤノが所持した召喚札

そこには召喚獣の挿絵が描かれていた。

能力の正体を知らない人から見たら、そこにそれが顕現しているかのように見える。


「では参ります」

アヤノがそう告げると手にしていた札が4枚、宙に舞った。

そして、4匹の召喚獣が皆の見ている前に現れる。


それは、朱雀、白虎、玄武、青龍の姿だ。

いわば魔法と同じ4つの元素を司るという4匹の神獣である。


その昔、陰陽師という呪術集団の中でも

特に稀有な能力の持ち主と言われた安倍晴明が使役したといわれる

平安京の東西南北を守る神獣になぞらえたものだ。


だがこの世界の住民たちには全く理解できない光景が広がる。

まるで光る魔物が現れたに等しい。


そしてその魔物から魔法が解き放たれるとその姿が掻き消える。

まるでそれらが魔法に変わったかのような光景だ。


同時に4元素の魔法が渦を描くようにして的に跳んでいく

さながら、それは虹色に輝く光の束だった。

そして的に当たると同時に的になっている壁の形状がゆがんだ。

これらはほんの一瞬の出来事である。


大きな破壊音がするでもなく

虹色の光の束が消えるとともに揺らいで見えた壁が消えていた。

穴が開いたのでもなく、破裂したのでもない。

その場にあった巨大な壁の的が跡形もなく消えたのだ。


これら一瞬の出来事に息をのむこともできず、ただ立ち尽くす見学者たち


やっと口を開いたのは、あの老人の学者先生だった。

「なんじゃ、あの魔法は」

「4大元素魔法を同時に放つことも無理なことじゃが」

「4元素に関する魔法生物が見えたと思った瞬間、光に変わり壁を消し去った」

「これは範囲魔法の一種ではあると思うのじゃが、その威力はすざまじい」


カラクリを言えば、これは一種の暗示能力を利用したもの

人はあっと驚くようなものを見ると心に隙ができる。

別に4大神獣の姿でなくてもいいのだがアヤノが持っていたのが召喚札だという事

この時点から見ている光景はすべて暗示にすり替わっている。


結果として特殊能力の発動を隠すという事になる。

単に、物質変換で存在した壁が消滅したのだ。


要するにアヤノが使ったものは物質を作るのではなく物質を消す能力だ。

原子レベルで分解されれば、それは跡形もなく消える。

音が全くしなかったのもその能力の仕様だ。


調整すれば瓦解するだけで済むのだが、

アヤノはこの茶番を早々に終わらせる気でいたらしい。


一息入れてからやっとラースが訓練終了と告げた。


これには公爵様も相当参ったらしい

「化け物は二人だった。」

「もし仮にこの二人が世界を蹂躙したら勝てる見込みはあるか?」


その問いには騎士団長もサマルもただ首を横に振っただけだった。


アヤトたちにとって最大能力であるとか危険な武器は一切使用していない。

かなりの手抜きだったのだがそれがこのような結果を生んでしまった。


歓迎されるべき対象だったのが畏怖の対象になった瞬間である。


だがこの会話もすべてアヤトたちは聞いている。

「これはまずいな、何とか言葉で敵対しないことを確約しなければ」


「お二人の居場所がなくなる可能性がありますね。」

そう言うとナビは、トコトコと歩いて公爵様の前に移動した。


「みな、安心してほしい」

「アヤトたちは女神さまとの契約者」

「決してこの国に敵対する存在ではない」

「むしろこの国のために働く勇者である」

なんというAiだろう嘘も方便というか

簡単な言葉で周囲の安心を誘っている


その純真な幼女の見た目も相まって周囲の者たちは肩をなでおろした。


「簡単には理解できないかもしれないけど」

「アヤトたちに無理な命令を出さなければ、この国の役に立つ存在」

「そう思って有効に利用することを望む」

「しばらくは様子を見てほしい、きっと納得する」

釘を刺しながらも、利用価値を口にする。

そして畏怖感を拭い去るための時間を稼ぐ。


「当初の予定通り」

「この国のことを二人に理解させる意味でも学園に通うことを推奨する」

「それと、これはナビからの提案」


「今この国は四方を敵に囲まれている」

「その一角を崩すことはかなり戦略的に優位になる。」

「時期が来たら二人はきっとそれを実行するはず」

「この国の血を流さず、それを完遂するとナビは進言する。」


これについてはアヤトたちの考えた計画を少し匂わせたものだ


学者先生が好奇心に負けてその計画を聞く

「例えばどういうことをするのじゃ」


「4方にいる敵で一番簡単に落とせるのはイグニス」

「その先は海で敵はいない」

「背後に敵がいなくなる状況を作ることでこの国は大きく国力を増す」


実のところ、この話を考えた者はこの国にもいた

だがイグニスとの全面戦争になればその背後から他の国が襲ってくる。

夢物語でしかなかったのだ。


「イグニスを落とすのは、ナビたち3人でおこなう」

「これならたとえ失敗してもこの国には損がない」

「むしろ成功したら公爵家にとっても大きな手柄になるはず」

「だから王家にも変に心配して警戒させないように根回しするべき」

これは嗅ぎまわっている王家の諜報員にも釘を刺すことになる。


ナビにしては珍しく長い話を続けている。

それだけこの状況の打破を優先したのだと言える。


むしろこの状況をあらかじめ予測して計画していたのかもしれない。


見た目幼女にここまで言われて

大の大人が集まっている中で、それを全面否定することはできない。


「うむ、考えてみれば、お主の言う通りじゃのう」

「わしはこの子の意見を尊重しますじゃ」


公爵家の相談役としての老人の言葉も加わり

さすがの公爵様も態度を決めざる負えなかった


そこへサマルも口をはさむ

「少数精鋭によるイグニス攻略の案は、以前考えた私の案と同じです。」

「しかもそれを成し遂げる可能性がある勇者並みの能力者であれば、」

「ここは彼らを信じるべきであると思われます。」


「ふむ、我が公爵家の知恵者二人が言うのだ」

「私もそれに異存はない」

「今更、言うのは何だが3人とも悪い性格には見えない。」

「つい動揺した私がむしろ間違っていた。」


ここでようやく傍観していた涙目のラティが口を出した。


「きっとアヤト君たちはこの国のために力になってくれると私は信じております」

「裏切りや無謀な暴挙などの行動はしないと約束させます」

「それと召喚者の責任は、召喚したわたくしの責任でもあります。」

「どうか、わたくしを信じてください。」


公爵様の言葉と

このラティの涙ながらの言葉で決着はついた。


実のところ召喚者を唯一縛ることができるのは、それを召喚した者

女神から授かった召喚の技法に含まれる契約の力だ。

それを行使するとその反動は召喚した者にはね返る。

それは命を削る可能性があるという事を示している。

だから召喚する娘たちは祈りの時に決して悪意を持つ存在が来ないでほしいと願う。


ラティもそれを強く願っていた。

だからこそのアヤトたちに対する信頼の強さでもある。


「ふむ、どうやら決着はついたみたいだな。」

「しかし公爵様、さんざん化け物扱いしておいて見事な手のひら返しだ」


「アヤト様、あれは公爵様の策略が含まれていたと想定します。」

「理解できない力に対する畏怖の念は多くの者が抱いたことでしょう」

「それをあえて口に出し、後に自ら間違いだったという」

「これを当主がしたら皆それに従わざる負えないという流れになります。」


「それと、あの老人とラティがきっとお二人を肯定するはず」

「そこまで、読んでの茶番であるとナビは想定しました。」

「ただサマル殿までも肯定することは想定外でした。」


「うむ、いずれにせよいい流れに変えてくれた」

「ナビ、感謝する。」


「ナビちゃんが口頭会話であんなにたくさん話したのにびっくりですわ」

「ナビちゃんもこうなる想定をしてたのね。」


「お二人が自身の能力を全く出さなければ、」

「この国から見て利用価値は皆無と判断されます」

「しかしこの世界の人の能力とお二人の能力は違いすぎます」

「人は理解できないものに恐怖を感じる可能性が高い。」

「お二人が、かなり抑えて能力を出しても恐怖感は芽生えるでしょう」

「それに対する対応策をナビとして検案しておくべきだと判断しました。」

「お二人の支援がナビの最重要任務であり、それはすべてに対するものです。」


「うん、ありがとうナビちゃん」


多分聡明なアヤノのことだからアヤノ自身もいろんな想定はしていたのだろう

実のところ俺も可能性として予測にはあった。

むしろこれによって期待を裏切らないという結果を示せば、

その後は大きな支持を受けられるだろう。


自分たちの居場所を作り、平和に生活できるようにするため

勇者にでも何にでも俺はなる。


「さぁ、アヤノ 二人で皆に挨拶をしよう」

「そして皆の前でラティさんに誓いを立てよう」

「俺たちは決して裏切らないと」


そしてそれを二人が行動に移した頃

休んでいたヒュージがメティーラと共に戻ってきた。


「参った、完敗だぜアヤト」

「あれは忍者なのか、忍術なんだろ」

「しかしスゲーな、アヤトの動きは想像してた忍者みたいだったぜ」

「がっはっは」


シュージの見事な勘違いだった。


メティーラさんもアヤノの訓練に付き合うと言いながら

結局、抜けてしまったことを謝罪してくれたが

それはこちらも申し訳ないと謝罪を返した。


そしてメティーラさんがシュージさんを

大切に思っていることが理解できて

それはそれで二人の将来が楽しみであるとそっと告げた


メティーラさんの顔は赤くなったのだが否定はしなかった。

そんなことも知らずにシュージはいつも通りの豪快な笑い声を出していた。




その後、俺たちにとっては訓練場を離れた昼食後


ある場所において


「東の公爵家が召喚した者の動向を報告いたします」

という声がした。


どうやらあの諜報員が上司に報告をしているようだ。

そして見たまま最後の結末に至るまできちんと報告していた。

これは、かなり優秀な諜報員だと言える。


変にまとめたり、自分の意見を交えたりする報告をする奴は優秀そうに見えて

上司が優秀ならすぐに見すかされる愚か者だ。

上司が屑ならそれで通用するだろうが、報告とはこうあるべきという手本だった。


それに対して上司はよくやったと返した。

調査に対するねぎらいではなく報告の精度に対するねぎらいなのだろう

この諜報組織はある程度信頼ができると認識した。


最終的にどう判断されるのかは今のところ不明だが、結末まで報告されたのだ。

そこに対して変に口を出したり反論するべきでは無いと判断されると期待する。


そのころ俺たちは制服を仕立てるための採寸をしていた。

まあ作っても着ないだろうが、デザインや作りを見てより精度が高くなる。


その時、ナビは護衛役となる武官と面談をしていた。


護衛武官は、最低3名一組で動く。

ナビにはこれが2チーム、計6名の護衛が付くという話だ。

いかに重要な役割を持つと認識された幼女だろう。


これにより、ナビは明日から図書館通いを始めることになる。


実はこの6名、自ら護衛役を申請しに来たという。

それにより予定より早くナビが単独で自由行動できるようになった。


召喚者である英雄の護衛は名誉であるというだけでなく

どうやらあの訓練場にもいたようだ。


何を感じ、どう思ったのかは不明だが、

一応裏どりの情報を入手して問題がないと判断した。


それと躊躇なくアヤノが式神を付けていたからまあ安心だ。

これが示すのはすでに言霊の能力を出した後だという事

ナビに対して害するあらゆる行為はすでにできない。

6人には申し訳ないが、これもナビの安全のためである。


アヤトとアヤノの二人の学園生活はあさってから始まる。


「お兄様、明日はナビちゃんも不在ですし」

「二人だけの時間が過ごせますわね。」

アヤノが怪しくすり寄ってきた。


「いや、脳内通信でお互いのことはすべて筒抜けだぞ」


「ですが行動は別になりますわ」

「公爵家領内なら移動は自由との事なのでお出かけいたしましょう」


「うむ、王都内とはいえ公爵家の敷地は広い」

「散歩代わりに色々見て回るのはいいだろう」


「まあ。嬉しいですわ」

「この領内にもお店がありましてよ」

「明日はそこへも行ってみたいですわ」


「それは面白そうだ」

「ところで支払いとかが発生したらどうなるんだ」


「英雄はすべて公爵家が支払いますから」

「気兼ねなくと執事さんに聞いておりますの」


「はぁ、行動が早いな。」


「では明日はデートという事で」

嬉しそうなアヤノの姿を見て何も言い返せないアヤトだった。


「ナビから報告します。」

「明日はラティさんが来られるそうなので」

「3人で仲良く行動してください。」


何故それを早く言わないのか・・。


「まあ、仕方ないですわね」

「お兄様のお嫁になる可能性がある方ですから無下に断れませんわ」


何かアヤノがこわい・・と感じるアヤトだった。












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