なろう劇場 パーティー追放編
「ザムア、お前をパーティーから追放する!」
荷物持ちを担当していたザムア・シムアーセンは、ある日突然冒険者パーティー『ワーカー・アント』のリーダーであるアッシュから追放宣言を受けた。
巷では『ざまぁモノ』なる大衆小説が流行っており、不遇の身から成り上がって報復するのがロマンとされているが、実際のところ、ザムアが追放されるのは理不尽なことではなく、順当なことだった。
ザムアは特別な才能があるわけではない。特殊なスキルでモンスターを倒す役割ではなく、誰にでもできる荷物持ちをしている時点で、それは明らかだ。しかしそんな自身の無才に不貞腐れ、彼は無才を理由にただただ現状に愚痴を零すだけだった。才能がないのは誰のせいでもないが、努力もせずやる気も見せずただネガティブなだけの人間など、追放されても仕方がない。
何のかんのと反論をしたザムアだったが、結局は追放され、負け惜しみを残して去っていった。
その際投げ捨てるように渡された袋に金貨50枚が入っており、退職金としても破格の大金であったが、もちろん彼は受け取りながらもパーティーメンバー達に感謝することはなかった。
さて、ザムアはその後、唐突に最強チートスキルに覚醒するなんて都合のいいことは起きないまま、仕事もせずに酒を飲んだくれてはあっさり金を使い果たし、借金に借金を重ねた挙句あっさりと野垂れ死にしてしまったが。
その頃『ワーカー・アント』では再びアッシュが叫んでいた。
「トバ、お前をパーティから追放する!」
トバ・ティーリはダメ男のザムアとは違い、実に優秀な女性だった。単純に才能も伸び代もパーティー随一ながら、真面目で努力を怠らず、明るい性格で皆に好かれていた。本来であれば追放するどころか、パーティーの中核を担ってくれる人材だ。
しかし何故かザムアを追放した直後からやる気を失ってしまったのだ。スランプというものは誰にでもあるし、しばらくは立ち直るのを待っていたのだが、いつまで経っても復活の兆しを見せない。次第にサボってパーティーの足並みを乱すようになってしまい、追放という処分に至ったのだった。
パーティーから追放されたトバは、それまでとは打って変わって、持ち前の明るさと実力を発揮し始めた。『ワーカー・アント』はその様子を見ながら、「自分達はプレッシャーを与えすぎていたのだろうか」と反省しながらも、元メンバーの新しい門出を心から祝った。
しかし。
「お前をパーティーから追放する!」
そんな宣言は『ワーカー・アント』で定期的に発された。
彼らは理不尽な追放はしていない。残念ながら才能のないもの、あってもやる気を失ってしまったもの、そうした追放も止む無い人物を追放し、代わりとなるような有望な人材を募集している。
何度も追放するなど心無いように思えるが、モンスターと戦う冒険者は命懸けの職業。縁故採用の足手纏いを抱えて人情のために全滅するよりも、非情であっても使える人材を求めるのは当然の職種だった。
だがそれにしても多すぎる。
そう考えたアッシュは今まで以上に入念にパーティーメンバーを観察し始めた。冒険を疎かにするくらいに。
そうしてわかったのは、パーティーメンバーのやる気に偏りがあるということだった。
『ワーカー・アント』はメンバーの入れ替わりはあれど、基本的には5人前後の人数で活動している。この5人の内、メンバーが入れ替わってもあるバランスが取られている。とても活動的な1人と、そこそこ働く3人、そして何故かサボる1人。このサボる1人を追放し、新しいメンバーを補充すると、5人の中でまた1-3-1の割合でやる気が偏り、どうしてもサボる者が出てくるのだ。
試しにパーティ構成を大きく変えて10人に増やしてみても、2-6-2人という同じ割合でやる気の偏りが生まれてしまった。つまりパーティーを組むと必ず20%の人間がやる気を見せ、60%はそこそこに頑張り、20%はサボるようになっている。
あくまで経験則で、理由はわからない。だがこの謎の摂理がある限り、パーティー追放はなくならないのだ――
彼が提唱したこの法則は、リーダーの名前アッシュ・パレートから取った『パレートの法則の亜種』、またはパーティー名から取った『働きアリの法則』として、後に組織運営や経済学の分野で大きく名を残すことになるのだった。