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光魔法



 光魔法のカードは両面に『光あれ(ルーメン)』と記され、光を表すマークが描かれていた。金平糖というかウニというか、とにかくそんな感じのやけにトゲトゲしいイラストだ。

 光魔法についての本にもこのマークがあったし、これが光魔法の全世界共通認定マークなのだろう。黄色いウニだけど。


 火や水の属性は解明されているのですぐ形になったのに対し、光属性は不明な点が多く、なかなか上手くいかなかった。


 そもそも光とは何か、という根本的な問題がこの世界では解明されていない。

 簡単におさらいすると光とは粒子の性質を持った波動といったところか。前世では粒子説と波動説でずいぶん争ったらしいが、どちらの説を採用しても矛盾が出てくるため『粒子であり波動である』とタッグを組むことで落ち着いていた。


 光が物質に当たって反射することで目視ができるようになる。色がついて見えるのは物質を通った光と反射した光の差だ。だから夜になると真っ暗で物が見えにくくなる。太陽でも炎でも、光があれば見えるのはそのせいだ。


 太陽といえば代表なのは肌を日焼けさせたり、植物を成長させたりすることだろう。これも光だ。

 他にも医療に用いられる消毒灯は紫外線だし、カメラのフラッシュ、レーザーポインターなどわりと身近に光はある。


 この世界ではせいぜい「白いものだと目が眩しい」「黒い服だと暑くなる」程度でしかなかった。

 俺だって光を証明しろと言われても納得できるだけの理論展開も、実験も何もできない。やる気もない。大雑把に知っているが他人に説明できるほど詳しくはないのだ。


 ジェローム・メトバール他の生徒(退学者含む)を奪還した学院は、ひとまず落ち着きを見せている。

 アイーダ公爵からは全校生徒を巻き込んだことにお叱りを受けてしまったが、王家の動きが鈍いことには同意していた。アイーダ公爵家は王家の財布と揶揄されるほどの要人だが、ヘンドリックに関わりたくないとあえて一歩引いた姿勢でいるらしい。

 アイーダ公爵は公爵家当主であるだけで、大臣や議員といった職に就いていなかった。ある意味貴族らしい貴族といえる。

 ではなぜずっと王都住まいなのかというと、クラリッサがヘンドリックの婚約者だったからだ。公爵本人は国王の友人として、たまに御前に伺候する程度で積極的に政治に加わっていない。

 友人、というのがミソだよな。側近とはすなわち臣下である。友人は対等な相手だ。公爵は陛下に頭を下げても忠誠心は低そうだった。独立して王になるのも面倒だから頭下げとくか。そんな感じがする。ヘンドリックとクラリッサの婚約が破棄されてからは特に。

 アイーダ公爵家は国は守っても、王家を守るつもりはないのだ。クラリッサが学院を卒業すれば今度はカールが入学する。あと数年は王都にいるだろうが、カールが卒業したら領地に引っ込むかもしれない。生徒が王家への人質であることを考えると、カールを留学させるのもそれを示す一手になる。それくらい、公爵家は王家に気がない。クラリッサと俺の交際を認めたのもそんな裏がありそうだ。


 まあそれはおいといて、光魔法だ。光魔法を進めれば聖魔法が発現し、ジェロームの怪我を治すことができるかもしれない。

 光は粒子であり、波。光は物質で遮ることもできるが魔法カードは魔力を流すものだ。

 クラリッサたちは光が点滅するまではできていた。さすが現役の学生だ、頭がやわらかい。


 俺が使える基本の魔法は火と水と土だ。風呂を沸かしたり、商品の見本となる模型を作ったりと魔力が少ないなりに使っている。


「……他の属性が障壁になってるのか?」


 光魔法カードで点滅を繰り返すうちに閃いた。少しでも集中が途切れると光は消え、光をイメージして魔力を流すと点灯する。元の魔力が影響しているのかもしれない。

 できれば聖魔法の特別授業を受けたかったが、王家に目を付けられたくなかったので頼まなかった。


 魔力の属性を無にする。あるいは光の属性に近づければいい。必要なのは変圧器だ。海外の電化製品を日本で使う時に電力を調整するやつ。アレだな。

 各属性を持った魔力を光属性に変換する術式を考え、紐解き、それを陣形に組み立てる。


「あ……それでこのマークなのか……」


 すると出来上がったのは光を表すトゲトゲしい星の形だった。なるほど、光だ。

 水は青、火は赤、風は緑、土は黄。それを混ぜたり重ねたりで光を表しているのがこの形になる。ということは、光魔法はけっこう解明されているのだろうか。いや、それなら光属性をもっと学ばせようとするはずだ。使い手を探すくらいなら医師と同じく修得させたほうが効率が良い。


 聖女や聖人の本を読んでみたが、光魔法も聖魔法もたまたまなんとなく使えるようになったようだった。イメージと感覚が合致したのだろう。まさに奇跡の御業だ。


 術式と陣形を何でカードに書き込むかというと、金である。金は変質しにくい物質で、魔力と相性が良いのだ。そしてもちろん高価なのだが、魔法カードは国王陛下のお声がかりで研究が進められているので資金がドーンと来た。おかげで大量に購入できたそうである。ちなみに文化祭の時のカードはクラリッサたちが自腹を切ったそうだ。


 金属は土属性の魔法で自在にできる。金をインク状に熔かし、ペンで慎重に線を引いた。これは万年筆ではなくつけペン、羽ペンである。

 魔法で金を熔かしたので上手く発動するか心配だったが、完成した術式は俺の魔力が正常に流れてうっすら光っていた。

 これに表と裏のカードを貼り付けて、光魔法カードの完成である。


 左右を見回して誰もいないことを確認し、人差し指と中指にカードを挟んでポーズを決めた。


「……光よ(ルーメン)!」


 宣言と同時にカードをビシッと出し、魔力を流す。


 俺のイメージ的にはカードの光マークから光がホログラムのように浮き出るはずだった。実際はそんな綺麗なものではなかった。

 よく漫画とかで『カッ』と表現されているけれど、これはいうなれば『ゴパァッ』だった。光の洪水なんて生温い。思わず仰け反ったし、咄嗟に腕で目を庇わなければ某大佐の名台詞を叫ぶところだった。危なかったぜ。


「おわぁ!! こっ、ここまでしろとは言ってない! 消えろ!」


 消えた。

 電気のスイッチを切ったようにパッと消えた光に何度も瞬きし、ドスンと椅子に腰を落とす。どっと疲れた。


「なんだ、あれ……」


 予想外すぎる光に、今さらながら冷や汗が出てきた。

 改めて考えるまでもなく俺の魔力なんてしょぼいもんだ。RPGの世界のようにレベルが上がっていくこともない。そりゃ体を鍛えればそれなりに強くなるが、魔力はどう頑張っても増やすことはできなかった。遺伝で決まるものが努力で変えられるほど甘くないってことだ。


 その俺の魔力であれだけの光を放つなんて、光魔法はどれだけ凄いんだ。光属性の使い手が身分問わず保護されるわけである。神々しさなんてまるでない、ただただ凄まじい『力』がそこにはあった。


「オデットがあの光を使えたんなら、崇拝されてもしょうがないな……」


 嫌な事実だ。使い方によっては光は素晴らしい演出になる。ホログラムや3Dを知らない世界の人間なら、ブロッケン現象でも神の奇跡に見えるだろう。


 しかしあれだけ強い光なら消毒殺菌できるのでは。そう思った時、ふと気が付いた。


「そうか、光は成長促進と殺菌効果があったな……」


 たしか骨を作ったり免疫力をあげるビタミン……Dだったか、それは日光を浴びることで体を丈夫にすると健康番組で見たことがある。


「……っ」


 そこまで考えて全身がぞわっと総毛だった。

 なぜ光属性が聖属性に進化するのか――肉体の細胞、免疫、病原菌、それらすべてに光がなんらかの作用をもたらすからだ。

 そして魔法とは魔力を対価に無を有に変換するもの。正確には無ではなく、たとえば水の魔法で水を出すのは空気中に漂っている水素と酸素を融合して水にする。風を起こすなら空気を振動させる。そのイメージを固定するために使われるのが呪文だった。


 水素と酸素を知らないこの世界でも水は知っている。具体的なイメージさえできれば魔法は使えるわけだ。では、その仕組みをまったく知らなければどうなるか、というと、曖昧にしか使えない。点滅する光のように。


 聖魔法の使い手が現れないのは人体についての知識があまりにも乏しいから。そう仮定してみよう。

 怪我がどう治っていくのか、免疫力だの細胞だのの知識がなくても、怪我をしたことがあればそういうものだと認識している。怪我の程度によっては痕になったりすることもわかっているだろう。年月をかけて痕が薄くなったり、あるいは歳月による染みが皮膚にできたりすることも。


 過去の聖女や聖人に平民が多かったのはそのせいではないだろうか。遊びや親の手伝いで怪我をするなんて日常的にあっただろう。栄養状態が悪い地域なら病人を見たこともあったはずだ。つまり彼らは怪我や病気が治る過程を体験的に知っていたことになる。

 一方の貴族は令嬢であれば怪我はおろか痣の一つもできないよう大切に育てられるし、それこそ病気になど罹らないよう守られる。病人の見舞いは移るといけないから治ってからが常識だ。


 どんなに清らかな心根の持ち主でも無知ではどうしようもない。平民のはずのオデットがなぜ聖魔法を使えないのか疑問が残るが、彼女はどうも自分が一番なタイプのようだったからな、他人を治療する聖魔法の根本が理解できないのかもしれなかった。


 聖魔法の仮定はこれでいいだろう。あとは理論と術式だ。

 しかし聖魔法は秘匿されているから情報があまりない。光魔法のカードをもてあそびながらさてどうしたものかと頭を悩ませた。




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