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セールスマンと悪役令嬢  作者: 江葉


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番頭のひとりごと

トーマとターニャのお話。



 俺と商会長の出会いはもう三十年も前ですかね。幼馴染、腐れ縁ってやつです。

 子供の頃から変な人でしたよ。妙に頭が良くて、いろんなことに詳しかった。俺らみたいな下町っ子は学校なんか行かずに家の手伝いか日銭を稼いでくるのが当然で、商会長だって学校に通ってなかった。なのにそこいらの大人より頭良くて、近所のガキ集めて文字や算数を教えてくれました。

 商会長の家、金物屋さんでしょう。読み書き算数は見て覚えたのかもしれません。けど、魔法陣に必要な複雑な計算を変な方法であっという間にやっちまうんです。方程式だの公式だの言ってましたね。


 弟や妹を背負って、いっつも変なモノ作ってました。俺らも手伝わされたなぁ。一番笑ったのはアレです、洗濯機。なんせ商会長の家、貧乏子だくさんだったから、下手すりゃ洗濯だけで日が暮れるんですよ。貧乏ってのはあれですよね、楽しみがそれくらいしか……すみません。


 魔法で水が出せるんなら水の流れを一定方向にして回転させれば一度にたくさんの洗濯ができるという理屈です。でも俺らも子供でしたからちょびっとしか出せないわけですよ。それで全員力を合わせて一気にやりました。

 そしたら勢いが強すぎて、俺らまで洗濯されちゃったんです。商会長がどっかから貰ってきた大きな樽の中でぐるんぐるん。もう目は回るわ、泣きだす子はいるわ、その後吐くわで大目玉。本人その時はしおらしくしてましたけど、すぐケロッとして「失敗したー」って大笑いしてました。

 でも洗濯機は諦めず、桶にハンドルつけて回すようにして、それは便利で、汚れがひどいのは叩き洗いにするとかの工夫してました。桶が大きいんで近所の洗濯物を安く引き受けて、それで稼いでましたよ。


 商会長の家はもう下町から引っ越して、まあ俺の家もですけど、下町から足が遠のいてたんですけどね、何年か前に行ったらまだ現役で子供たちのこづかい稼ぎに使われてました。ターニャ・カーの発明品だってんで、縁起担ぎにハンドル回したがる子が多かったです。

 ……いや、嬉しいですよ。やっぱり。俺の商会長……俺があの人についていったのは間違いじゃなかったんだって。

 それで何年か稼いだ金持って、商会長は馴染みの鍛冶屋に依頼しに行きました。そうです、タナカ商会のはじまり、ピーラーを作ったんです。

 構造そのものは簡単だったので、親方は首をかしげながらも作ってくれました。できあがったピーラーは、どこで売るのかと思ったら八百屋の店先でした。もう今ではタナカ商会の名物といっていい売り文句。どこで覚えたのかそういえば謎ですが――八百屋のご主人ではなくおかみさんをまず口説き落としてました。

 なにせ、便利ですからね。刃物を持たせられない子供でも安心して皮むきができます。

 上手いなあ、と思いましたよ。野菜を買いに来るお客さんのほとんどは皮むきが面倒だと思ってたはずです。まず自分がやってみせて、お客さんにもやらせてみせて、好感触だと思ったらたたみかける。野菜とセットで買っていくからはじめは渋い顔してたご主人もにっこにこになってました。

 そうこうするうちに話を聞きつけた食堂やレストランの人が買いに来て、たった一日で作った百本が完売しました。


 鍛冶屋の親方も仰天ですよ。売れるとわかったんでしょう、弟子まで動員して総出で作ってくれました。

 でも商会長は、ピーラーはすぐに真似されるだろうから、と次の構想をすでに練っていたんです。

 俺は今でも悔しいんですけどね……。特許を取らなかったんですよ。取れなかった、のほうが正しいかな。申請するだけの金と、保証人の伝手がなかったんです。

 特許を取るには商会を立ち上げる必要がありました。けど、子供の俺らにそんな金があるはずありません。保証人もそうです。あの頃の商会長にできたのは、自分が発明した商品に『ターニャ・カー』とちいさく刻むことだけでした。


 思えば商会長は、あんまり悔しくないようでした。あの人はいつも、誰もが使えてみんなが便利になるものを考えて作っていました。そのためなら誰が真似してもいい、そのぶん生活が楽になるなら。そう考えていたんでしょう。


 そうやって次から次へと便利なものを生み出しては売り、商会長は十三歳で家を出ました。俺は特に目をかけられていたので「ついてくるか」と聞かれました。

 ……迷い、ました。俺は商会長を慕って、どこに行くにも一緒でしたけど、ガキがガキ連れて家を出てものたれ死ぬ未来しか見えない。夢を追う商会長についていけるほどガキでもなかった。いろんなところを見て回るうちに、生きるってのは綺麗事じゃないんだって、わかっちまいましたからね。

 商会長は迷う俺にちょっと笑って、


「これやっとけ」


 と言って自作の計算問題集をくれました。


「それが解けるようになったら迎えに来てやる」


 ……俺は、問題集を抱きしめて大泣きしました。どうして迷ったりしたんだろう、一緒に行きたかったのに置いていかれた、悔しくて申し訳なくて、ただ泣きました。

 でもその問題集めちゃくちゃ難しくて、あの人鬼だと思いましたけどね。問題文からして難解で、迎えに来る気ないんじゃないかと思いました。解いたのは意地ですよ、もう。……問題集は今でも俺の宝物です。商会長には内緒ですよ?


 商会長が家を出てからもターニャ・カーの名前は時折聞こえてきました。頑張ってるんだなって嬉しくなると同時に、そこにいない自分に腹が立って。俺の知らない誰かと商売しているのが悔しかったです。


 そのうちに俺は読み書き算数ができるってことでホテルのページボーイとして働き始めました。ほとんど雑用係でしたけど礼儀作法を教えてもらえたし、言葉使いを直して、客を見る目とか養いましたね。そうそう、ホテルの厨房でもターニャ・カー印のピーラーが使われてて嬉しかったです。


 そして商会長と別れて六年……七年かな。家に帰ったら、いたんですよ。綺麗なスーツ着て、でも手は働き者の手でしたね。苦労なんか微塵も感じさせない笑顔で言ってくれました。


「迎えに来たぞ」


 そう言って両手を広げる商会長は子供の頃と同じ、みんなをまとめるガキ大将のまんまでした。

 俺は迷いませんでした。


「遅い!」


 なんて言って抱きついて。あれはしがみついたのかな? おかしいでしょう、もう十九になる男が、ガキみたいに……。

 身一つで良いと言うもので、今まで稼いだ金は両親に残して、その日のうちにホテルには辞めることを告げて、商会長についていきました。数日分の服と、問題集を持ってね。

 商会長と向かった先は、店舗と住居が一階に、二階が工房になっている、レンガ造りの建物でした。

 店舗には『タナカ商会』と堂々書いてありました。「商会」俺が呟くと、商会長は「俺の商会だ」と自慢げに胸を張りました。

 しばらく看板を見上げて、俺は感動していました。あのターニャ・カーが、俺たちの兄貴分が商会長なんです。何と言ったらいいのか……地に足が付いていないような、ふわふわとして体が熱っぽくなって、吼えるような気分でした。


 『タナカ商会』の建物は賃貸で、狭くて古かったです。バス・トイレ・キッチンと商会長の執務室は商談を行うので綺麗にしてありました。一階のベッドがある部屋が俺の部屋でした。ベッドと箪笥だけで、後は俺が好きにしろと言われました。そうして気づいたことが、商売の種になるって。商会長の部屋は二階の工房です。きちんと整理された道具棚とでかい作業台が置かれた部屋の隅に机がありました。

 信じられないですけど、床で寝てたんですよ、あの人。干した草を編んだタタミ? とかいう敷物にマットを敷いて、そこで。ベッドは苦手って言ってましたけど、もう……あんまりだったので、すぐにベッドを買わせました。


 それからは怒涛の日々です。実物はなくても理論上可能となったものは片っ端から特許を取りました。魔道具も日用品も関係なくです。

 俺も商会長も平民なので魔力は微々たるもの。それを逆手にとって、少ない魔力でも動かせる魔法陣を組むんです。あの問題集はこのためだったのかと思いました。

 理論と、公式。それがあれば魔力は乏しくても魔法はもっと活躍できるんです。クラリッサお嬢様の魔法カードに商会長が期待したのもそれだと思います。どでかい魔道具を移動させるの、大変ですからね。


 ただ、やりすぎで恨まれることもありました。どの業種でもそうですけど、暗黙の了解で越えてはいけない境界というものが存在します。けれど商会長は、越えるべき線はためらいなく越えました。それが世のため人のためになると信じたら、商会長は人から恨まれることを恐れない人なんです。

 自分が異業種間の橋渡しになればいいとは言うものの、事はそう簡単ではありません。商会長を目の敵にする人たちから妨害を受けるようになりました。工房が泥棒に入られたり、家に火をつけられたり……。警備隊に届け出ても、袖の下を貰っていたのか相手にしてもらえませんでした。


 まあ、それで泣き寝入りしないのが商会長なんですけどね! 工房に籠ったと思ったら警備システム構築しちゃったんですから!

 対泥棒用の『ゼニガタ』と火事を検知すると警報が鳴って消火放水する『メグミ』です。そう、タナカ商会の警備会社『コーバン』の前身です! え、名前の由来ですか……? なんか商会長は「やっぱこれだろ」と決めてましたよ。


 妨害されてもくじけず、むしろ踏み台にしてしまう商会長に、敵さんも躍起になったのでしょう。襲撃に遭うことが増えていきました。


 なにしろ当時のタナカ商会の保証人は鍛冶組合や商人組合の役人たちばかりで、後ろ盾になってくれる貴族がいませんでした。商会長に貴族からの縁談はあったのですが、どの家も商会長の頭脳目当てで楽して儲けようという人ばかりで……断っていました。そういうところも可愛げがなかったと取られたのでしょう。本当に誇り高い人というのは商会長のことをいうんです。


 さすがの商会長も襲撃には参っていました。自分だけならなんとかしてしまうでしょうが、俺や従業員、工房の職人が狙われるのは避けなければなりません。頭を悩ませ、眠れない日もあったようです。


 そんな時です。アイーダ公爵家からご令嬢の誕生日プレゼントに、なにか変わったものがないかと声がかかったのは。ええ、クラリッサお嬢様です。

 商会長はこれに社運を賭けました。全財産を注ぎこんで魔法と本を合体させ、貝殻のビーズを作りました。


 はっきりいって金なんかなかったんですよ。商会の工場や工房に警備システムを導入し、社員に万が一のことがあった時に備えるので精一杯だったんですから。もう商会を畳むか、敵に屈するか――瀬戸際まで追い詰められていました。


 でも、ここで商会長の努力が実を結びました。商会長の構想を聞いた職人たちが「面白い」と言ってくれたんです。職人は、商会長が自ら足を運んで発掘してきた人ばかりでした。無名で偏屈で、仕事にこだわりを持ちすぎてどこへ行っても煙たがられるような頑固親父です。

 ただし、腕は抜群に良い。そして「できない」とは絶対に言わない。こちらがきちんと仕様書を書けばそのとおりに、それ以上に仕上げてくる。そういう人を見つけてきては引っ張り込んできました。おとぎ話に出てくるドワーフみたいですよね。酒を飲みながら一晩中語り明かすこともありました。

 そんな男たちが一丸となって作ったのがお嬢様の絵本です。

 温度によって色が変わるのも、それがどうした、と思われたのでしょう。妨害はされませんでした。公爵家に叩きだされるのを嗤って見てやろう、あの時の周囲の空気にはそういう悪意がありましたね。


 結果はご存知の通りです。タナカ商会はアイーダ公爵家の御用商人に名を連ねました。公爵は商会の保証人にもなってくださり、タナカ商会は最強の盾を得たのです。タナカ商会は、息を吹き返しました。


 ……カーラとのなれそめ、ですか? いいですよ。あれは忘れもしない、商会長の「嫌な予感」が商会に知れ渡るきっかけでもありましたからね。


 カーラはタナカ商会の女性幹部職員募集に応じてきた人でした。買い物客、タナカ商会のメインターゲットは主婦層ですし、女性ならではの目線、意見がほしいと商会長が言いだしたんです。

 幹部待遇ですから当然試験があります。ペーパーテストと面接。面接では商会長直々に話をします。

 カーラは大学院まで卒業した才女ですから採用決定でした。奨学金で通っていたそうですが、大学院はほとんどが貴族、しかも男ばかりで嫌な思いをしたんでしょうね。燃えてましたよ。


 タナカ商会は商会長の指導もあって、女性を幹部にすることに抵抗はありませんでした。そうですね、当時は下働きやパートタイマーならともかく幹部は珍しくて、他の商会に色々言われたみたいです。

 でも、カーラが教えてくれたんですけど、商会長は「うちの新人です!」ってあちこち挨拶回りしている時、すごい自慢そうな顔をしていたんですって。商会長らしいですよね。そんなんだからカーラは商会で可愛がられてました。張り切って仕事していましたねぇ。営業先で、男相手にも負けない話術でどんどん仕事を取ってきました。

 あれはいつだったかな……。営業に配属されて何件か顧客を受け持っていたから入社して二年か三年、それくらいでしょう。たまには、ということで一緒に昼食に行ったんです。商会長も一緒ですよ、たいてい俺と商会長は昼食一緒なんです!


 そこでカーラが注文したのはエビフライでした。好物だったそうです。

 気が付いたのは商会長でした。カーラの唇が、赤く腫れていたんですよ。

 商会長がそれを言うと、カーラはなんてことないように「いつものことです」と言いました。エビやカニを食べると舌がぴりぴりするのは、そういうものだと思っていたというんです。

 それを聞いた商会長は驚いたように眉を寄せて考え込みました。


「……なんか、嫌な予感するんだよな」


 そう言って、カーラの赤くなった唇を見て、今日は止めとけとエビフライを食べるのを止めていました。ここの支払いは自分がするから、他のものを頼めと言って。カーラは不満そうでしたが、商会長にきつく言われてサンドイッチを注文しました。


「こっちで処理しとくから、午後からは半休とって安静にしておいたほうがいい」

「え? なんともないですよ? それに午後からは外回りがあります」

「他の者にやらせる。アレルギーだったら大変だぞ。いいな、休むんだ」


 『アレルギー』という言葉を聞いたのはそれがはじめてでした。普段食べているものが、ある日突然毒になる病気だと言われました。なんともないと思っていてもしだいに毒が体内に蓄積し、やがて蕁麻疹や呼吸困難、死に至ることもある、と。

 商会長は真剣でしたけど、なにしろ聞いたことのない病気です。わかりやすく、かみ砕いて説明してくれたのが、かえって胡散臭くて……。はっきりいって俺もカーラも信じていませんでした。

 だからでしょう、念を押されたにもかかわらず、カーラはそのまま外回りに出て――そこで倒れたんです。

 先方が早馬で知らせに来てくれて、俺は商会長に命じられて大急ぎで迎えに行きました。カーラは苦しそうに呼吸を浅くして、顔色は真っ青で、体が石みたいに冷えていました。

 商会長が「万が一カーラが自力で動けないようなら」と用意してくれた。横長の布の両端に棒を巻きつけた『タンカ』というものにカーラをそっと乗せ、先方の社員さんと二人で馬車に乗せました。タンカというのは良いですね、カーラも揺れがなくて楽だったと言ってました。

 なるべく早く、けれども揺らさないように馬車を走らせている間、俺はどうしたらいいのかわからず、とにかく必死でカーラを励ましていました。商会長のところに行けば何とかしてくれる。カーラの手を握りながら、そればかりを考えていました。


 商会に着くと連絡を受けて来ていた医師が医務室で待っていました。商会長は、なぜだか大量の水を用意していました。自分で迎えに行かなかったのはこの水を作っていたからなんです。


 こんなに苦しんでいるのに、医師はカーラを少し診察しただけで「安静にしておきなさい」だけでした。病名もわからず、薬さえ出してくれなかったんですよ! 唖然としましたね。


 商会長は結果が分かっていたのか怒るでもなく医師に礼を言い、社員に送っていかせました。

 それから用意してあった水、経口補水液をカップではなく一人用のティーポットに入れて、カーラに飲ませました。経口補水液は夏の熱中症予防に工場に置かれているやつです。水分と塩分とミネラル? とかいうのを取れるってんで、タナカ商会の夏の風物詩です。

 なんでティーポット? と不思議でしたけど、あの時カーラはベッドで横になっていて、体が震えて起き上がることもできないありさまでした。なんとか頭を動かすので精一杯。カップでは水を零してしまいます。どうするか考えてティーポットにしたのでしょう。


「カーラ、とにかく今は水を飲んで、体からアレルゲン……毒を排出するしかない。誰かについていてもらうから、水を飲んでトイレ行け。我慢はするなよ」

「俺がついてます」


 どうしてあの時迷わず名乗り出たのか、じぶんでもよくわかりません。仕事があったし、男の俺にトイレに付き添われるより女性に頼んだほうがカーラのためだって、今なら思うんですけどね。あの時はなんというか、カーラが死んだら俺のせいだって、そう思ったんです。


「カーラの体に毒が入ってるのを知ってるのは俺です。何か異常が起きたらすぐに知らせます」


 商会長も女性社員に頼むつもりだったらしく戸惑ってましたけど、俺の迫力にそこまで言うのなら、と折れてくれました。


「薬がない以上、カーラの体頼みになる。様子を見るしかできん。こまめに水を飲ませること。吐き気があるようなら我慢させずに吐かせて、吐瀉物が喉に詰まらないよう気を付けてくれ。喉まで腫れてたら詰まって呼吸困難になるかもしれないから要注意だ。吐き気があるのに吐けないなら無理はさせず、タオルをこのミントティーに浸して、胸元から腹に置いてみてくれ。会話をするのは良いが、怒ったり興奮させないように気を付けろ。とにかく水分をとって、トイレだ。いいな?」


 どうしてそんな知識があるのか疑問なんですけど、商会長も上手く説明できないみたいなんですよね。俺と離れている間に何があったのか……。きっと、大変な思いをしたんだと思います。

 呼吸が楽になる姿勢とか、細々とした指示をして、商会長は仕事に戻っていきました。

 カーラは駆けつけた時に比べれば呼吸も顔色も良くなってましたけど、油断はできません。あんなに元気だったのに次に見た時は死にかけてたんですよ、心臓が潰れそうな思いでしたよ。

 苦しいのか、カーラはうとうとするもののすぐに目を覚ましてました。そのたびに水を飲ませてトイレに行かせて、を繰り返しました。夜にはやっと落ち着いて、介助なしでも壁伝いに歩けるまで回復しました。

 その後はしばらく会社を休んで様子を見て、大丈夫だと商会長が言ってから出社してました。


 これが俺とカーラのなれそめです。結婚の報告をしたら「そこは俺に惚れる流れじゃないのか?」なんて言って、笑いながら祝福してくれました。


 カーラの件があって、社員食堂利用者を調査したら、一人食後に具合が悪くなる者がいました。その人の原因は牛乳で、それで本当に、ごく普通の食べ物が毒になることもある、と周知されたんです。

 商会長は食べた後に舌がぴりぴりしたり、お腹を壊すのは毒だから絶対に食べるなと厳命しました。本当は鍋やフライパンも分けた方が良いらしいですけど、社員食堂でそこまでやっていられません。なるべくそれが使われていないメニューを自分で選んで、自衛するしかないんです。外の店は原材料の表示なんかしていませんからね、自分の身は自分で守るしかありません。


 カーラは可哀想でした。なにせ、エビが好物でしたから……。死にたくなければ二度と食べるなと言われて落ち込んでました。


 兄弟が多いせいでしょうか、商会長は人を育てるのが好きなんです。仕事が遅くても毎日こつこつ頑張っている子には声をかけて褒めてくれます。カーラが元気になった後お礼を行った時、商会長ってば真面目な顔をしてこう言うんですよ。


「君がいなくなったら、ここまでかかった時間と金がすべて無駄になる。人材は代わりがきかない商会の歯車だ、迷惑をかけたと思うなら、今後このようなことがないように気を付けなさい。……自分の命を守るのは、最後には自分だけだ」


 商会長に厳しいことも言いますけど、カーラは商会長が大好きです。俺と商会長のどっちを助けるかになったらきっと商会長を取るでしょう。俺もです。

 俺とカーラが結婚した一番の理由は商会長です。商会長がいなかったら、たとえどこかで出会っていても、結婚はしなかったと思います。というか、どこかでカーラが死んでいたでしょう。俺とカーラは、商会長という生き甲斐で繋がっているんです。


「次に商会長が何をするのか、毎日が楽しいですよ。俺は商会長とならどこへでもお供します。……あ、もしかして嫉妬してますか? クラリッサお嬢様」




トーマとカーラは商会長ガチ勢。

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― 新着の感想 ―
[一言] あれだな、カーラが惚れなかったのはガチ勢過ぎて恋愛対象の上に行っちゃったんだな。 だから同士と結婚したと
[一言] 初めまして、突然すいません。 こういう男が男に惚れこむ系大好きです! ターニャの人柄というか、人間性がとにかくいいのが伝わってきて最高です!
[一言] ターニャいい人いないかな~?仕事出来るいいしいい子だから幸せになってくれ!と思ってたので家族が出来てうれしかったので、なれそめ知れてよかったです。 発展する会社の立ち上げから関わってる大番頭…
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