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2,運命は突然に

 世界が壊れても良いって言っても、結局あたしには死ぬ勇気も誰かを殺す覚悟もない。

 なんて中途半端なのだろう。



 ヒカゲが旅に出た日の夜、漸く隣の町へとたどり着いた。

 決して大きくはないが小さくもない町。町の外れにある宿屋にヒカゲはチェックインすることにした。一人部屋だ。

 大の大人が寝れば窮屈に感じること間違いなしな小さなベッドが一つだけある質素な部屋だ。


「お腹、空いたな」


 とりあえず下の階にある食堂でご飯を食べることにした。

 名物だと言う一角ウサギの照り焼きにキャベツの千切りにトマトがセットでついている。


「美味い!」


 初めて食べるものだったが下ごしらえがしっかりしてあり文句無しの美味しさだった。


「美味しい……」


 隣から同じような感想が聞こえてきてつい振り向いてしまう。

 隣の人は視線を感じたようでこちらを見て首を傾げた。


「?」


「あ、いやなんでもないんだ。美味しいよな、これ」


 食堂の中だと言うのにフードを外さない隣人に違和感を覚えながらも言い訳をする。


「そうね。こんなものが食べられてあたしは幸せだわ」


「あんた、女だったのか」


「どーせ女には見えないわよ!」


 隣人は大きくため息を吐いた後フードを外した。燃えるような赤い髪と青い瞳のコントラストが美しい。隠れている右目が勿体ない。そう素直に思った。


「綺麗な眼をしてるんだな」


「ナンパ? やめといた方が良いわよ。死にたいなら良いけど」


「別に俺は嘘はつかない。いや、つけないと言うべきか。なんでか知らんが嘘をつくとすぐバレるんだよな」


 何も考えずに話しをしているからとか顔に出やすいからとか大体理由はそんなものだ。

 女はくすくすと笑った。


「何よそれ。そんなんじゃすぐ死んじゃうわよ」


「死なないさ。戦争を止めるんだ。それが叶うまで」


「──この戦争を? 本気で言ってるの?」


 きょとん、と首を傾げ上目でヒカゲを見つめる女。馬鹿にしているという雰囲気ではなく、むしろそれは。


「ああ。村が壊されて迷惑しているんだ」


 女は手を顎に当てて考え始めた。視線をヒカゲから逸らし俯いた顔からは何も読み取れず、何を思っているのかは見当もつかない。


「何か変な事を言ったか」


「えぇ…………ううん。変じゃないわ。変なんかじゃないわ」


 

 段々と早口になる女の瞳は興奮が抑えきれないと言うように爛々と輝いていた。身体ごと女がこちらに向き直りそして、俺の手を両手で掴んだ。


「────決めた! あたし、貴方に力を貸すわ!」


「…………んぁっ!?」


 思わず声が漏れる。唐突な協力宣言に驚いたのが半分、もう半分は女の手の温かさに。女は興奮が覚めないのか少し赤らんだ顔で可笑しそうに笑った。そうやって笑う顔は可愛いと思ってしまった。


「だ・か・ら! あたしが力を貸してあげるって言ってるの!」


「なに、に⋯⋯だ?」


 話の流れでなんとなくはわかっていたけれどそれでも確かめずにはいられなかった。期待する心が止められなかった。


「戦争を止めるためにすることに!」


「なん、で?」


 なぜ初対面のあって1時間も経ってない自分に協力すると言ってくれるのか。

 なぜそんなに嬉しそうなのか。

 なぜ嬉しそうなのに泣きそうに瞳が揺れているのか。


 ────なぜ、泣いてるのか。

 


「そりゃ戦争なんて迷惑だもの? 戦争なんかのせいで──あたしは友達と会えなくなったんだもの」


 ヒカゲの手から手を離し、涙を拭った女の悲しそうに零す言葉に衝撃を感じた。


「そう……か。わかった。力を貸してくれ」


「ええ。力を貸すわ。こう見えてあたし強いのよ?」


 二人はどちらからともなく右手を差し出す。そしてギュッと握った。


「俺も強いぞ」


「ほんとかしら」


 二人の間に火花が散る。握力勝負では僅かに女に負けそうな予感がした。というより今既に痛くて意識を逸らすためにも名乗る。


「俺の名前はヒカゲ。一応フルネームはヒカゲ・Y・シグレらしいが両親は物心着いた頃には居なかったし、祖父と暮らしてたが血は繋がってないから本名かどうかもわからん」


「重い自己紹介をしないで欲しいわ。

──ま、いいわ。あたしはカリナ。フルネームは訳あって言えないわ。ごめんね?」


 そう言って女もといカリナは困ったように笑った。やはり笑った顔は可愛い。それに長い前髪で半分以上顔が隠れているが見えている部分だけでも整った顔立ちをしていることがわかる。きっと貴族か上流の商人の娘かなにかなのだろうとあたりをつける。


「ところで、戦争を止めるにはどうしたら良いんだ?」


「えぇー! 貴方何も考えてないのに大見得切ったの!?」


 村を出てからずっと悩んでいたことをカリナに告げる。


「何とかなる気はしてる」


「ならないわよ! はぁ……ちょっと後悔し始めたわ」


 カリナがまた大きくため息を吐いた。でも本当に何とかなるんじゃないかと思っていた。だって今は自分だけでなく一緒に悩んでくれる仲間が出来たから。


 この日この時この瞬間、運命は突然に回り出した。

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