008 炎
「ファイア」
大阪猫先生は呪文を唱えた。
それと同時に無造作に石を高く投げる。
無駄に高い。
?
もうすぐ石が放物線を描いて川に落下し始める。
これは何だ?
川に石が着水する数秒前。
俺の左顔横50cmを熱が通り過ぎた。
炎?
ガコン。
石と炎がぶつかり少し火花が舞う。
「だいぶわかりやすくなったな」
大阪猫先生の声が背後から聞こえる。
何だこれ。
魔法?
石は何?
混乱する。
「なしなしの顔やなあ」
大阪猫先生が笑う。
「ワイにも出来るで。ワイを要ルックや」
大阪鳥が石を高く投げる。
そして焚き火から火のついた薪を拾って。
俺の顔目掛けて全力で投げた。
!
俺は顔をガードしながらしゃがむ。
頭上数センチを炎が通り抜ける。
ガコン。
後ろで薪と石がぶつかった音がした。
「ファイアストライク」
大阪鳥は笑った。
髪が少し焦げた嫌な臭いがする。
俺は笑えない。
「ありありのフェイスになったやん」
大阪鳥め。
「これのどこが魔法だ!」
「最初マジック見た顔しとったやん」
「やりすぎや大阪鳥」
大阪猫が仲裁に入る。
「パーフェクトファイアやったやろ」
「魔法に見えたらそれは魔法や。そういう話なんやけど」
大阪猫が困った顔をする。
「なしなしやで。大阪鳥」
「体感エクスペリエンス。至高のありありやんけ」
「そやけれども」
「お兄さま大丈夫?」
モヨコが来た。
「痛くない?火傷してない?」
俺の髪や顔を優しく撫でる。
「大丈夫だ」
耳に聞こえた俺の声は思ったより気が立っていた。
「良かった」
モヨコが俺の頭を胸に引き寄せて抱きしめた。
思考が混乱する。
混乱するけど落ち着く。
ああ。
そういうことか。
大体わかった。
俺の熱がモヨコの柔らかい温かさに溶ける。
与えたい効果と使う手段か。
相手に炎をぶつけるのかファイアの魔法だとする。
手のひらから炎を出す必要があるのか。
無い。
無から炎を作る必要があるのか。
無い。
石はなしなし。
薪でありあり。
薪だけでは当たらない。
なしなしでフェイント。
ありありで予想外。
魔法。
今日の疲れや緊張や怒りがモヨコの温かさで溶けていく。
これも予想外だ。
「アングリー終わったか?」
大阪鳥が耳元でささやく。
モヨコを離して大阪鳥を。
?
何だこれ。
「これもファイアや」
俺に突きつけた大阪鳥の手の中に。
手榴弾があった。
◇