006 木
◇
ヒグマに会う前の話だ。
伝聞だから証拠らしき証拠はない。
俺とモヨコは兄妹。
両親が同じかどうかは不明。
「私はお兄さまは本当のお兄さまです」
モヨコが言う。
モヨコの顔を見る。
目が合う。
俺とは違う透き通るような白い肌。
『本当のお兄さま』って何だろう。
どんな定義かと考えてみた。
「少し年上で一緒にご飯を食べる時に一番安心する男の人」
俺の沈黙に気がついたモヨコが答える。
「それが私の『本当のお兄さま』です」
モヨコが微笑む。
◇
大阪猫と大阪鳥は途中合流組。
大阪猫が先。
大阪鳥が後。
最初に旅を始めたのは俺とモヨコ。
モヨコによると旅を言いだしたのは俺。
旅の目的は鬼ヶ島にいる鬼退治。
或いは京都か高野山に有るという噂のお経を授かる。
今この場所は北海道。
試される大地。
温かい南に行く旅。
「そういう話や。わかったか猿モンキー」
大阪鳥が言った。
そういう話か。
大体わかった。
空を泳ぐ。河童役。鳥役。大阪鳥。トリックスター。
地を駆ける。豚役。犬役。大阪猫。サイドキック。
死で足掻く。猿役。猿役。ドグラマグラ太郎。ヒーロー。
信じる美人。僧役。桃役。モヨコ。ヒロイン。
西遊記と桃太郎か。
「みんなが死なない話か」
俺以外がみんなが笑った。
「そういう話やったらええなあ」
大阪猫が言った。
「熊ベアー死んどるやん」
大阪鳥が腹を抱えてまだ震えている。
「お父さまもお母さまも。生きてるかも知れませんね」
モヨコが泣き笑いをした。
「ありありのなしなし。なしなしのありありや。わからんで」
大阪猫が言った。
ありありのなしなし?
なしなしのありあり?
「どういう意味だ?」
俺は聞いてみた。
「出来るだけわかりやすく話したるわ。大丈夫やで」
大阪猫はいいやつだな。
俺は少しワクワクした。
大阪猫先生が俺に優しく語りはじめた。
◇