004 十
◇
俺は多分死んだ。
それだけは覚えている。
次に気がついたら大きく揺さぶられてた。
「ドグラマグラ太郎!ドグラマグラ太郎!ドグラマグラ太郎!」
女じゃない声。
うるさい。
ドグラマグラ太郎って誰?
俺か?
目を開ける。
猫がいる。
猫人間か。
かわいくはない。
ふてぶてしい。
嫌いではない。
恵体。
恵体が俺を掴んで揺さぶっている。
「ドグラマグラ太郎!」
俺が目を開けて嬉しそう。
何か全身が痛い。
ん?
何だこれ。
ヒグマ?
近くに死んでるヒグマがいる。
全長約3m。
500kgはあるかな。
車みたいな大きさ。
象かよ。
知らんけど。
どういう状況?
猫人間に掴まれている。
鳥人間とお兄さま女がいない。
合流できてないのか。
全身が痛い。
血で真っ赤だ。
俺の血かな。
ここは林?
森?
林と森の違いって何だ。
脳検索ヒット。
迷子になる可能性があるのが森。
じゃあここ森だな。
猫人間がいる。
じゃあここ異世界か。
俺の知ってる世界じゃないのな。
あー。
勝ったか。
俺生きてる。
この様子だと女も生きてるな。
すげー嬉しい。
夕方か。
頭がだんだん働き出してくる。
「ありがとな」
俺は猫人間にお礼を言った。
「ええんやで」
猫人間は答えた。
こいつ関西弁なのな。
「どういう状況?」
情報が足りない。
腹も足りてないみたいだ。
安心したら腹減って来た。
「奇跡が起きた。多分全員無事」
猫人間が答えた。
「ありがとう」
俺がまたお礼を言う。
「お前が起こした奇跡やないか」
「一人じゃ無理だった」
「お前がヒグマ殺したんやで」
「ヒグマの下敷きになったの助けてくれたのお前だろ」
「せやな」
「刀折れた後にヒグマの注意引きつけたのお前だろ」
「せやな」
「多対一の構造を作ったのは?」
「せやな」
「俺の嘘に乗っかったのは?」
「せやな」
「熊の下敷きになった俺を助けたのは?」
「せやな」
「ありがとう」
「ええんやで」
「どうやって合流する?」
「夜になる前に煙で合図やで」
「了解」
「ついでに料理作ろっか」
「有能」
「ヒグマ喰おうや」
「把握」
猫人間は手慣れた様子で火を起こした。
煙用。
食事用。
分けるのか。
煙用に草をかける。
煙が夕焼けに登る。
1時間くらいたった。
遠くからバサバサという羽音が聞こえた。
鳥人間とお兄さま女が帰ってきた。
これで全員合流だ。
ヒグマの焼き串を2人に渡す。
焚き火を囲む。
余った肉は燻製に回す。
色んな肉があった。
ある肉はモヨコが1人で喰うことになった。
モヨコというのは俺をお兄さまと呼ぶ女の名前だ。
猫の名前は大阪猫。
良いやつ。
恵体。
鳥の名前は大阪鳥。
うざい。
良いやつ。
関西弁。
偽悪的。
鳥人間を夕方から観察した。
1人なら秒で飛べてた。
あの状況で1分で役目を果たしたやつだ。
英語を適当に混ぜて煽ってくる。
すぐに軽口を叩き合う仲になる。
楽しいやつだ。
俺の名前はドグラマグラ太郎と聞いた。
夕食が始まった。
夕食の話題は今日のヒグマの話だった。
「ワイにもハウトゥー熊殺し」
大阪鳥がヒグマ肉を頬張りながら言った。
◇