035 兄
◇
俺は筍。
それだけは覚えている。
気がついたら大きく揺さぶられてた。
「パパパパパピィ。パパパピィ」
可愛い声。
少しうるさい。
誰?
目を開ける。
小さい女がいる。
可愛い。
ただひたすらに可愛い。
筍。
白髪ロングのポニーテール。
白い肌。
赤い目。
八重歯。
全部好き。
俺を掴んで揺さぶっている。
「パパパパパピィ」
俺が目を開けて嬉しそう。
「続き聞かせて」
ああ。
話の途中で寝てしまったのか。
まだ夜か。
頭がぼんやりしている。
「それでママはどうなったの?」
「ヒナを産んで何日か後に死んじゃった」
「死んじゃったのかぁ」
「死んじゃったんだよ」
「もふもふちゃんはどうなったの?」
「でかいワニに喰われて死んじゃった」
「死んじゃったのかぁ」
「死んじゃったんだよ」
「鳥さんは」
「川の底近くで死んじゃってた」
「死んじゃったのかぁ」
「死んじゃったんだよ」
「パパも死ぬの?」
「死なない」
「すごい。なんで」
「パパだから」
「そっかぁ。パーパパパすごいね。ヒナは?」
「ヒナも死なない」
「そっかぁ。ヒナもすごいね」
少し遠くからがさがさと音がした。
右。
100メートル。
50メートル。
だんだん近づいてくる。
視認できる範囲に。
俺の知っている生き物がいた。
◇




