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034 鬼


「わかった」


桃をしばらく頬張った後にモヨコが言った。


「お兄。モッフィー。桃は食べては駄目」


そういってモヨコはまたモヨコ桃祭りを再開した。


訳がわからない。


こんなはずじゃ無かった。



水流に逆らいながら何とか大きな桃を引き上げた。


大きさは人が膝を抱えて座ったくらいのサイズ。


これ絶対あれだ。


太郎が出るやつだ。


太郎とか育ててる余裕無いのに。


途方に暮れた俺の横でモヨコが桃を両腕で抱えた。


運ぶ?


どこへ?


腰大丈夫?


俺の知っている話と違う話が始まった。


モヨコが桃をその天頂から食べ始めた。


口の周りが桃の果汁だらけになるモヨコ。


女が桃を食べ始めたら男はどうする事も出来ない。


とりあえず俺はまた途方に暮れる事にした。


口を少し開けて力を抜いてただ眺める。


これが俺の途方の暮れ方だと気づいた。



信じられない事が続くと色んな事がどうでも良くなる。


石狩川は小川になったが残ってくれた。


どうでも良いがモヨコが一人で桃を完食した。


もう夜だ。


松明に照らされた大きな桃の種が残った。


おお。


この種の中にこそ太郎が。


「お兄。いないよ」


モヨコが確信を持って言う。


お兄って何だ。


さまはどこに消えた?


気になるので大阪猫と協力して種を割ることにした。


「馬鹿。モフィ大事な仕事あるのに」


「モフィって誰やねん。更に縮めて。おっ割れたで」


桃の種の中には太郎はいなかった。


俺だけが太郎か。


安心したような残念なような気持ちになる。


「気は済んだ?モフは大事な仕事が有るよ」


「大事な仕事って何やねん」


「連れてって」


「どこへやねん」


「産湯」


「ヴぇ」


俺って嗚咽下手なんだな。


「お兄は筍」


俺は自分が何なのか強引に定義された気がした。


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