003 囮
「走るぞ」
「応」
「競争だ」
「応」「チェストオオオオオおおお!!!」
ヒグマ目掛けて俺は先に走った。
早い者勝ちだ。
景色がゆっくり流れる。
綺麗だ。
チェストって斬る時に言うんじゃ無かったっけ。
じゃあ。
チェストが終わるまでに斬らなきゃ。
猫が視界に入る。
抜き返す。
猫が視界から消える。
ヒグマが近くなる。
あと30m。
アフリカライオン狩り部族歩いてたな。
ミスったか。
ヒグマでかい。
固そう。
斬り殺すの無理だな。
頭が岩。
突くか。
目か口か心臓か。
両前足がでかすぎる。
あと20m。
反応できる顔をしてる。
無理。
薩摩示現流を信じるしか無い。
あと10m。
歩幅が身体が飛ぶ準備を始める。
示現流って対人技術だよな。
ミスったか。
検索ヒット。
マタギ。
熊は銃を恐れる。
銃偽装はもう無理。
あと5m。
検索ヒット。
アイヌ民族と熊。
一の太刀は示現流。
返す刀は斬りあげる。
二の太刀は喉笛狙いで熊送り。
これか。
検索ヒット。
嘘と演技。
思考誘導。
忍術ムジナ。
ふんどし切りはもう間に合わない。
あと3m。
身体が跳ねた。
検索ヒット。
外見偽装。
自己催眠。
忍術ムジナ。
俺は熊殺しの悪魔。
勝ちを確信して笑った。
俺が『死』だ。
ガギン。
刀が折れた。
地面が見える。
上は熊。
刀を喉笛から天に跳ぶ。
熊の向こうへ。
刀蛙飛びアッパーカット体当たり。
検索ヒット。
ブロッコマン。
「ははは」
本来は熊の両腕に防がれる刀だった。
短刀に化けてくれた。
こいつも俺の嘘に乗っかってくれた。
手が温かい。
多分血だ。
熊の血かな。
俺の血かもしれない。
色が無くてわからない。
色がわかってもわからないか。
衝撃が来た。
突然暗くなった。
身体が全然動かない。
勝ったか負けたかわからない。
死んだかどうかもわからない。
俺は走った。
俺は斬った。
俺は戦った。
これだけわかれば十全だ。
俺は意識を失った。




