029 験
◇
温泉に帰ってきた。
硫黄の匂いがする。
松明を焚き火に変えて夕飯と風呂の準備をする。
熊肉がまだ沢山残っている。
大阪猫は新鮮なワニ肉を焼いて冷まして喰いたいと云う。
もふもふちゃんの狩った獲物だから好きにさせる。
焼いた筍が微妙に甘くて旨い。
ワニは鶏肉みたいな味がする。
鳥って恐竜からの進化したものだからかな。
乾いた薄い熊肉はビーフジャーキーみたいになってる。
地面に太めの長さ50cm位の竹筒を埋める。
そこに2m50cm位の燃えている松明を差し込む。
この松明は戦闘用と安心用だ。
手榴弾は10m位離れた場所に置いてある。
流石に手榴弾オフの時間が無いときつい。
頭がおかしくなりそうだった。
◇
夕方に象の一団が川沿いを歩いて通り過ぎて行った。
象のいる北海道か。
大陸と地続きなのかな。
特に急いでいる様子でも無かった。
川下に脅威があるわけではないんだろう。
象の牙は強そうだったが剣には使えなさそうだった。
大人の象が20頭位。
明らかに子供の象が5頭位。
子供を守るように囲んでゆっくり歩く。
あれが一種の理想形なんだろう。
象の強そうな骨格や分厚そうな皮膚を見る。
俺は暇が有れば鍛えるようにしている。
でも象を見ると無駄に思えてくる。
俺の身体で象に勝てるイメージが湧かない。
強い武器を如何に手に入れるかの方が大事な気がする。
でも本能が「鍛えろ鍛えろ」ってうるさいんだよなあ。
逃げる時には鍛えた脚は役に立つだろう。
そうだな。
如何に勝つかより如何に戦闘を回避するか。
こっち切り替えた方が良さそうだ。
◇
逃走の事を考えているのに槍を作る手が止まらない。
堅そうな棍棒候補の木を集める。
短剣で約3mの棍棒を作っていく。
木を相手に強度テスト。
約10本目でようやく丁度良い強度の棍棒を見つける。
その先端の左右に細長い切り込みを彫り込む。
刀の柄を分解する。
棍棒の先端の左右に刀をつける。
ロンギヌスの槍みたい槍を作ろうとする。
なかなか上手く行かない。
思考錯誤を繰り返す。
モヨコの短剣を一つ借りる。
棍棒が約2mになったところでようやく槍出来た。
片刃だと振り回した時に逆に当たる可能性が有った。
両刃なら振り回した時に空気抵抗で刃の向きになる筈。
ロンギヌスの槍になる筈だったのに。
出来たのはトーテムポールの耳みたいだ。
松明を立て掛けた要領で試し斬りの太竹を縦にする。
刃が丁度当たる位置に調整して。
凪。
失敗。
色々駄目。
刃の次に棍棒が当たって竹を切り抜けれない。
刀より遅い。
振り回す半径が広いので林の中だと使いにくい。
思考の開始からおかしいのかも知れない。
突きに特化するか。
熊やワニの爪牙肋骨を使って釘バットを目指すか。
思考の開始からおかしい。
逃げに特化するなら今の手榴弾は最適でない。
大爆発弾に変えた方が適している。
逃げる途中で落とす三枚のお札の要領だ。
これなら追跡者を潰しやすいし荷物も軽量化出来る。
そんな事を考えながら片刃型の槍を作る。
元々柄だった部分を棍棒に穴を開けて埋め込んだ。
刃渡り約25cm。
全長約175cmの槍が出来た。
距離を合わせる。
凪。
竹をきれいに通過した。
冒涜だと思うが絶命済のワニを吊り上げる。
腹部テスト。
貫通。
頭部テスト。
貫通。
小型だからかな。
この武器であのサイズのヒグマに勝てる筈無いのに。
闘りたい。
殺りたい。
俺はあのヒグマにあの勝利に呪われてしまったらしい。
棍棒の先端から約1m。
棍棒の強度が落ちない間隔を掴むのが難しかった。
ワニの歯をネジ状に加工して埋め込む。
槍の穂先の下にワニの歯の釘バット加工を施していく。
ワニの歯バット部分でも太竹も無事粉砕出来た。
ワニの頭部も無事粉砕出来た。
刃部分がわかりやすい方がいいかな。
ワニの血を柄の上部に塗る。
乾かすとその部分の手触りが良くなった。
ワニの血を槍の持ち手部分に塗りたくる。
血って便利だな。
俺の獣の槍が何とか完成した。
多分いま深夜だ。
もしかしたらもうすぐ明け方かも知れない。
モヨコと大阪猫と寝組を交代して槍を持って寝た。
◇




