023 尾
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「大阪鳥さんの遺産の分配の件。どうしますか。お兄さま」
「ノートとペンは俺が欲しい。使える人間で分けてもいい」
「手榴弾はどうしますか?私は結構使える物だと思います」
「俺か猫が持つ。モヨコは持つな。妊婦に爆弾は絶対駄目」
「目的地はどうしますか?川下?川上?此処が安住の地?」
「川下は無い。今の俺達では手負いの大阪鳥でも瞬殺だよ」
「此処が約束の場所ですか?お兄さま。充分に住めますよ」
「此処も無い。大阪鳥は川下から川上まで必ず見回る筈だ」
「武器置き場?神居古潭?どこに行けば幸せになれますか」
「武器置き場経由で神居古潭。大阪猫の視察で様子を探る」
「また神居古潭かあ。首は斬りましたが両親生きてるかも」
「神居古潭の事は詳しく話せるか?嫌なら話さなくて良い」
「嫌ですね。過去の事は思い出すだけで死にたくなります」
「わかった。気は俺が張る。ゆっくり温泉を堪能してくれ」
「これが最後の温泉になるかもしれない。という事ですか」
「・・・」
「良い湯」
「羆の対策はどう考えている?松明だけで行けると思うか」
「炎が見える状態を保つ事が出来れば可能かと思いますよ」
「炎が見える状態は燃焼が激しくて短時間しか持たないぞ」
「三人で分担できるのは大きいですね。交代で火を灯せば」
「竹林までは充分持つな。筍も取れる。一週間位は此処に」
「武器置き場は鳥さんの羽で30分。徒歩でも数時間有れば」
「此処を拠点に竹集め。筍集め。武器集め。鹿肉も欲しい」
「一週間有れば弓の稽古と竹紐作り出来ますよ。鳥罠は?」
「作ろう。落とし穴に竹槍。長割竹で隠す。土掛けて鳥鞄」
「生存確認は大きいですね。第三者巻き込まない方法は?」
「無いんだよ。野鳥の死骸でもぶら下げて警告するくらい」
「罠の意味無いですね。鞄を有効活用した方が良い手かと」
「俺が手榴弾用の袋として持つよ。大阪猫の方が良いかな」
「もふもふちゃんは遠投も近接も両方行けそうな身体です」
「俺も近接も遠距離も両方出来ると思うけど。近接はなあ」
「近接は?」
「死が近すぎる」
「死が近過ぎると?」
「父親の仕事が早く終わってしまう」
「いい仕事ですか?」
「最高の仕事だと思うよ」
「転職する気は?」
「無い。気に入っているんだ」
「どこが?」
「全部」
「熊と戦う前はずっと死にたい顔していましたよ」
「ごめんな」
「死にたい。忘れたい。死にたい。ずっとそういう顔。」
「ごめんな」
「薬一人分しか無かったんです」
「ごめんな」
「私も使いたかった。死ぬのも忘れるのも幸せな事ですよ」
「ごめんな」
「今はいい顔してますよ」
「どんな顔?」
「好きな顔」
「・・・」
「いい湯ですね」
「いい湯だなあ」
「大阪猫が起きるまで時間が有ると思うんだ」
「有りますねえ」
「今一番の最優先は」
「今は温泉を楽しみましょう」
「ごめんな」
「元気になって良かった」
「筍どうやって料理する?」
「とりあえず向いて柔らかいところを煮たり焼いたり」
「生では?」
「食べれるかもしれませんねえ」
「塩欲しくない?」
「川下ルート海ルートじゃないですか」
「街で入手ルートも有るだろ」
「有るかもしれませんね。あっ」
「どうした?」
「ワニがいますよ。お兄さま」
温泉から10m位離れた岸にワニがいた。
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