019 草
◇
「ド・グ・ラ・は・やりすぎ〜」
「おにいさま〜が大・正・義〜」
「ド・グ・ラ・が・さ〜がせ〜」
「全部鳥〜が悪いのです〜あ〜」
2人ともたまらないのである。
実は俺もたまらないのである。
川に流された鳥を探して30分。
熱すぎる温泉を見つけて3時間。
ようやく川の水と源泉の湯のベストマッチが完成した。
温泉は最高である。
硫黄臭い。
卵の腐った臭いがする。
それがまた最高なのである。
焚き火係と食事係と温泉係。
完璧な役割分担がモヨコの『おいでおいで』で無事終了。
温泉に入りながら焚き火を見つめる。
鳥なんて本当にどうでもいい。
今は温泉が全てだ。
最優先だ。
疲れが本当に溶けていく。
あ〜。
全てがどうでもいい。
今日はここで一泊しよう。
モヨコの目を見る。
目が合う。
絶対伝わった。
大阪猫の目を見る。
目が合う。
絶対伝わった。
あ〜。
のぼせて来たら川に入る。
あ〜。
身体の表面が冷えて来たらまた温泉に入る。
あ〜。
最高かよ。
ここに住みてえ。
もうこれ何が伝わったかわかんねえな。
「俺の出汁が全部出たわ」
大阪猫が焚き火の近くに寝転ぶ。
「もふもふ〜ちゃんは〜毛皮で〜温泉に〜あ〜」
最後まで言うのが面倒になったらしい。
わかる。
超わかる。
移動しながら刀を手元に置く事しか出来ない。
俺のスイッチが完全に死んでる。
焚き火が熊よけ外敵避けになりますように。
モヨコがたまらない声を上げる。
俺は川と温泉を行き来する簡単なお仕事を繰り返す。
気がついたら焚き火のそばで全裸で寝てた。
大阪猫が熊の毛皮をかけてくれたようだ。
モヨコは?
モヨコは温泉で温泉をやっていた。
休憩したのかな。
辺りはすっかり暗くなっていた。
北海道はもう夜である。
俺はまた温泉をするか食事の準備をするか迷う。
大阪猫が焚き火の近くで熊肉料理を準備している。
起きたばかりの俺を観察している。
そういえば朝から何も食べてないなあ。
熊皮を脱ぎ刀を持ちふらふらと歩く。
そして刀をぽとりと置いて温泉に倒れこむ。
ごめん大阪猫。
温泉は人を駄目にするんだ。
◇