016 殺
◇
「お兄さまって非道い人ですね」
モヨコが言う。
「もっと非道い道の死を妹に選ばせるんですね」
モヨコが言う。
「私は一番良い道を用意したんですよ」
モヨコが言う。
「今日の晩御飯は?」
俺が尋ねる。
「ハンバーグ」
モヨコが業の深い回答をする。
「俺も食べていいか?」
「あの肉はあげませんよ」
熊の皮を開ける。
朝か。
完全に寝過ごした。
「ちょっと羽織ってみる」
モヨコを熊の皮からどかす。
「ぶかぶかだ」
「大きくて当たり前です。熊のお母さんですよ」
モヨコが笑う。
笑いどころが掴めないなあ。
今日もモヨコは子熊を食う予定だ。
あの熊の中には2頭の子熊の胎児が居た。
解体した時には既に息絶えて居た。
「私がこの子達のお母さんになります」
そうモヨコは言って独り占めを決めた。
この子達の命を食べる。
いつか子熊の命を引き継いだ子を産む。
どうやらそういう意味らしい。
俺はその時モヨコが命を孕めたらいいなと思った。
今はよくわからない。
首から下はモヨコの身体なのだろうか。
俺の首から下は誰の身体なのだろうか。
俺に子が出来たとして其の子は俺の子なのだろうか。
根本的なところがグラグラする。
朝から有戦ルートだったな。
鳥戦延期。
仕方無いか。
朝から疲れた。
妹戦まだ続くのかな。
いつを終わりとすればいいんだ。
大阪猫が割り箸らしきものを10本くらい作っている。
俺の半刀かえして欲しいな。
心細い。
「おはよう大阪猫」
「おはようドグラマグラ太郎」
先代ドグラマグラ太郎の事を少し考える。
俺は当代か。
俺は先代の部分的な記憶喪失状態か?
先代とは違うところから来た意識か?
首から下の話は?
あー駄目だ。
ヴィトゲンシュタインだったっけ。
答えが出ない問題を解くのは馬鹿がやる事だったかな。
材料が足りない。
「グッアフタヌーン。役立たずの猿モンキー」
大阪鳥が待ちくたびれた顔をしている。
腹立つ顔が俺に期待している。
夜準備していた何かを期待してる。
期待に応えたいが朝から連戦はきつい。
「ごめんごめん。遊ぶ気分じゃないんだ」
「早く猿モンキーが死にますように」
こいつ最高。
「ファイア」
俺は呪文を唱えて適当な石を高く放り投げた。
◇