第三話 あの時私は夢(ロマン)を見た
突然新槙の暇潰しトランプタワーにネギ直撃の危機が舞い込む。それを阻止しようとするがそんな彼女の前に現れたのは…? そして、彼女の出した『決断』は一体何なのか…?
『よろしい、ならば『戦争クリーク』だ!!』
『私とて負けてられないのよ! 野菜だからと容赦なんてしない……! 私だってあんたを倒してみせる……ただそれだけよ!』
――――――とは言ってみたものの、いざ阻止せんと動こうってなるとやっぱり一筋縄ではいかなさそうだね……。タイムリミットもせいぜい一秒前後しかなさそう……。
まず私とお城は大体今の時点で二メートルは離れてる……と言ったところかな。
ここからミサイルを撃墜し、かつ究極の美貌を傷一つ付けず撤退するとなると至難の業。
もし仮にも傷を付けたら、いや少しでも触れてしまったら……。考えたくもないなあ、そんなの……。
「(……失礼ですが、貴殿が今更動いたところで迎撃は間に合わないのでは? それにもし少しでもあなたのぶっつけ本番の迎撃にミスが出たら貴殿のお城が完全崩壊する可能性だって十分にありうる。ここは静観して半壊で済むのを期待するのが得策かと思われますが)」
え……? 私の声で直接脳内に語り掛けてきた⁉ それもトーンがまあまあ違うとはいえ私の声で⁉ 一体誰なのよあなた?
「(これは失敬。申し遅れていましたな。とはいえ名前など私にはございませんのでここは……、あなたの心の中の保守主義者、『保守の新槙 英子』とでもしましょう。以後お見知りおきを……)」
え⁉ 何そいつ?もしかして私もついにつるみんの厨二病を患ったって言うの⁉
「(失礼な事を言ってくれますな……。私は貴殿の潜在意識のいわば化身のようなモノですよ)」
えっ、いやじゃあなんでそんな潜在意識がこんな語り掛けて来るほどに大きくなっちゃってんのよ⁉
「(それは簡単な話です。貴殿は今『葛藤』しているのですよ。貴殿自身がご想像なさる以上にね。だから我々がこうして今回直接語り掛ける事が出来ているのですよ)」
確かに、よくアニメとか漫画とかで心の中の天使と悪魔が対決するシーンはたまに目にするけど、そんな感じの解釈で大丈夫なの?
(ていうか、我々……?)
「(まああまりにもざっくりすぎますが、そんな所でしょうか。ですが私は貴殿にとっての天使でも悪魔でも無いというのはご理解頂きたいところですが)」
確かにその分け方はおかしいね……。ごめんね『ほっぴー』……。
「(いやあの別にそれは大丈夫だし、急に出しゃばって来た私が完全に悪いのですが、そのあまりにもギャップの大きすぎる言い方はやめて頂きたいなぁ……みたいな……)」
えーいいじゃんかー別に。あれ、もしかして……照れてる? ちょっと照れちゃってるでしょ~?
「(失礼なっ! そ、そんな訳なかろう……!)」
ほお~そうかなぁ⁇ 少しばかり頬が赤いけどなあ~⁇
「(ぐぬぬ……。まあそれはともかく、私はこのまま静観するのを貴殿に推奨させて頂きますがね)」
まあ確かに、ほっぴーの言い分には一理あるかもねぇ……。
「(だからその謎のネーミングをですな……)」
――――――このまま『保守の新槙 英子』の意見を採用するのかと思われた矢先の事だった。
「(ちょおっとまったあああああ‼‼‼‼‼‼)
えっいやいや今度は誰⁉ テンション高いけどまた私の声じゃん! てかうるっさ!
「(やはり貴様もここへ駆けつけて来たか……厄介者め)」
「(失礼だなぁ! 俺もお前も、久々にこんなに巨大化出来て、しかも宿主様とこうして今共に初めて会話出来る様になった仲じゃないか!)」
……いやいや一人称『俺』⁉ いくらなんでも熱入り過ぎでしょ⁉
「(何故このような名誉ある事態をこうして貴様と迎えなければならないのかがどうしても解せないがな……!)」
ちょっと止めてよ二人共! 私の脳内で、しかもこんなただでさえもう時間無いのに!
「(本題はそこじゃない! 宿主様っ! まだ諦めちゃダメだっ‼ あいつの言う事など言語道断ですよ‼)」
おお……。ほっぴーとは対照的だなあ……。色んな意味で。
「(あのトランプタワーは今の宿主様にとっては最後の仕上げに入った宝石も同然! それを自ら、リスクはあるものの見捨ててしまうなんて……そんなバッドエンド誰が望むんですかっ⁉ 一番悲しむのはあなたの筈ですよ……! ほら、あんな奴なんてほっといて一緒にチャレンジしてみましょう‼ 人生は冒険ですよ! さあ!)」
「(……黙って見守っていようと思えば、貴様まで私を手玉に取ろうとするか……! まさかそこまで愚かな奴だったとは思ってもいなかったぞ! これだから革新派閥は……)」
え、少しは本題の反論したら? うわあもう、何か嫌な予感がぁ……。
「(お前だって相当失礼じゃないか! さっきからずっと見下してるかのような感じの言い方しやがって! 何様のつもりなんだよ!)」
「(あぁん? それの何が悪い? せめてまだ相手にされてるだけ有難く思うんだなこの愚か者め……!)」
ちょっと! お二方これ以上メラメラ燃えないで! あなた達の宿主の頭パンクしちゃうでしょーが!
「(さあ、宿主様っ!)」
「(貴殿は私とあいつ……)」
「「(どちらを選ぶ⁉))」」
えぇ……急にお二方息ぴったりで振り向いて問い掛けてくるのね……仲いいじゃん……。
にしても不思議な光景ね……。いや不思議なのは私の捻じ曲がっている想像力かな……?
いやでもほっぴー曰く自分達は『新槙英子の潜在意識』だって……。まあ哲学チックな泥沼考察は今はお預け。
私はあの二人(?)の喧嘩をよそに己の思考、精神の全てを一つの問題に果敢にぶつけていく。
にしても、不思議なモンねぇ……。痛い妄想なのかもしれないけど……、だとしてもこんなはっきりと背広着込んでる『保守の私』とハチマキ巻いて応援団長見たいな格好してる『革新の私』がイメージ出来るなんて。やっぱりほっぴーの言ってた潜在意識の巨大化っていうのはマジなのかな?
――――――彼女はただひたすら己の利害と信念を照らし合わせて悩む。そして結論を導き出した。
……確かに、ほっぴーの言う通り下手に手を出さないほうが後の事を考えると良いかもしれない……。
このアイデアが一番妥協点としては最適だと思うし、ほっぴーも私のためにかなり冷静な判断をして宿主の私にこうして教えてくれた。ありがとうね。
……けどね、それでもやっぱり私、守りたいよ。
何もここで動かなかったら、今のトランプタワーよりずっと大きい何かを失うかもしれない……。
なんでかも、それの正体すらも分からない。けど、まるで人の命のような重いモノを見限り、見捨てた時の様な気色の悪くて、切なくて……申し訳なくて……、何だか心にぽっかり穴を空けてしまうようなドス黒いのが私をまた包み込んでしまうかもしれない。それが、ただ怖いの……。
『……英子ちゃん、今、大丈夫?』
あ、この声……、この顔……! これで何回目かなあ、あの時を思い出すのは。
『英子ちゃん、私、どうすればいいのかな……』
や、やめて? い、嫌よ。なんでこのタイミングで……。
『え、えいこ……ちゃん?』
もう嫌だ……。もう、止めてよ……!
『え、えいこ……ちゃ……ん』
止めてっ! 私が、私があの時、あの時に……!
あの時……伝えておけば……!
あんな別れにはならなかったのに!
私がもっと考えてあげるべきだったのに!
私が……あの時……。
ただただ自分が、悔しい……!
『おーい! 英子ちゃーん!』
……ごめんね。
聞こえないけど言わせてよ。ごめんって……。
自分勝手で、サイテーだって分かってる。だけど心の中で言わせて。
ごめんなさい! あの時、あの時に……! 伝えれなくて……。
『……英子ちゃん! 遊ぼうよ!』
ごめんね、こんな自分勝手なやり方で。
『今日もありがとう! バイバイ! また明日!』
だけどいつか必ず、直接伝えるから……!
『え、英子……ちゃん……!』
もう少しだけ……待っててくれないかな……?
『ゼッタイに私の事、忘れないでねっ……!』
うん、ゼッタイに忘れない。だから待ってて……!
「(……しっかりと伝わりましたよ、貴殿の意志)」
ほ、ほっぴー……! 私の考え事やっぱり全部聞こえてたよね……。ごめんね、指摘してくれたのに背くような事になっちゃって……。
「(何を言ってるんですか。貴殿は自らの意志を尊重して前に進むべきです。あなたの信念があるのなら、問答無用で優先すべきでしょう)」
「(宿主様……。きっといつか、必ず届きますよ! 俺達も宿主様の事心の奥から応援してますから!)」
二人共、ごめんね振り回して。そして、ありがとうね。
「(それでは、またいつかお話しできるのを楽しみにしています……。ご武運を。)」
二人の体がどんどんなっていきあっという間にすっかり頭の中からも消えてしまった。それが何の暗示かはもはや言うまでも無い。
これが私にとっての戦争。これ以上、私の手から離さないでみせるよ……!
「届けえええええええええ‼‼‼‼‼‼」
私にはもう、迷いは無い。今はただ、前に進むのみ!
「くっ……、もうちょいいーー!」
あと少し、あと少しで『届く』のに……!
「あっ」
思わず声が出てしまった。この感触は間違いない、私の指先にとうとう触れたっ! 後少しでっ……!
「き、きたっ!」
……掴めるよ、勝利! 見えたよ……、ネギが私の握り拳にしっかりと包み込まれていたのをはっきりと。
よし、このまま! と思った矢先、目の前にカードの群衆が現れた。まずい、このままだと……、ぶつかってほっぴーの想定した最悪のシナリオに……!
「英子ちゃん!」
琴奈の緊迫感いっぱいの声が耳に入って来たと同時に空中で舞う私を少しばかり強引にトランプタワーの方から押しのけてみせた。ただ漠然と、見える光景がさっーと流れていく。
そしてただそれをぼおっと見つめる事しか出来なかった。
――――――こうして二人の活躍によりトランプタワーの崩壊は免れたのであった……。
「……もう一度、チャンスをくれないかなぁ」
ぼそっとつい口に出してしまった。
「うん、きっとやって来るよ。それまで、待ち続けようよ……」
事情を知らないはずの琴奈が独り言を感知して優しい声で返してくれた。
「そんな事より、今はこれだよ。私が元凶なんだし……。手伝わせてくれないかな?」
「いいや、良いよ琴奈。お陰様で思い出せた事もあるし」
何か心がスッキリしている。自然と顔もそれに合わせて良い表情でいれた。
「一緒にやろう琴奈、最後の仕上げを……。作ろう、私たちのトランプタワー!」
私、新槙英子。その顔に、一遍の濁りなしっ!