第一話 十江事変っ!
外がポカポカな陽気に包まれているゴールデンウィークのある日。つかの間の休日真っ盛り鶴海が友人の新槙と米原を自宅に招き、早速鶴海の厨二病が炸裂するが二人は案の定聞き飽きたかのように流してしまう。そこから数時間経過したある時、鶴海がふとある事を思い付いたのだが……
――――『クリーク』 その単語であなたはいったい何を連想するだろうか。
言葉の意味というのは実に多彩であり、それはこの『クリーク』という単語においても例外ではないだろう。
或るインターネット百科事典様様によるとこの言葉には入り江、水路であったり、アメリカの先住民族であったり、挙句の果てにはベルギービールの一種などなど色々な意味があるらしい。
正直作者も全然知らなかったのばっかりで勉強になりました……、ありがとうございます先生。
そんな中、己の厨二心と圧倒的天才っぷりゆえにこの言葉によって人生が大きく(まあ、悪い意味で……)変わってしまった少女が一人――――――
「『クリーク!』『クリーク!』『クリーク!』はーはっはー!」
そう、この鶴海 十江に他ならない。
「諸君、私は戦争が好きだ。私は戦争が大好きだ!」
「殲滅戦が好きだ。電撃戦が好きだ。打撃戦が好きだ」
といったようなどこかで聞いたことのあるような演説を彼女はノリノリで進めていく。ハイテンションゆえ、窓の無き部屋の中で声が反響していた。
「敗北主義者の逃亡兵達を街灯上に吊るし上げて行く様などもうたまらない…!」
例の演説がまだまだだと言わんばかりにひたすらに続いていた。
「諸君、私は戦争を、地獄のような戦争を望んでいる…」
「諸君、私に付き従う大隊戦友諸君。君達は一体何を望んでいる⁉」
白衣に身を包んだ黄支子色のロングヘアーの少女が机を両手で勢いよく叩きつけて同時に椅子から立ち上がった。
「更なる戦争を望むか?」
「情け容赦のない糞のような戦争を望むか?」
少女は大衆に背を向けながら、ニヤッと笑みを浮かべた。
その少女から発せられる言葉の重みは凄まじいものであった。
それはもはや決して少女なんかではない、そう感じさせるような圧倒的な気迫やらオーラやらがそこに詰まっていたのである。
「鉄風雷風の限りを尽くし三千世界の鴉を殺す嵐の様な闘争を望むか⁉」
少女はさっと後ろへ振り返り左手を前へ大きく、そして真っすぐに伸ばす。魂の籠った(もとい重度厨二病患者の)演説(既視感しかない)に彼女は何か己の野望を確信し、自信に満ち溢れていた。
そして、彼女の振り向いた先には――――――
「え、えーとこういう時は『戦争』で良かったんだっけ……鶴海ちゃん……」
「はあ~~……。ほんっと相変わらずだなあもうつるみんはもおぉ~……」
ところがどっこい、残念ながら大衆というのもはたまた彼女が見ていた世界もぜーーんぶ案の定夢オチ改め、妄想オチだった。
(最も、熱意だけは現実のものであったが……)
かろうじて2人、聴衆っちゃ聴衆と呼べる友人が居るには居るが、いずれも途轍もなく渋く、びみょーすぎる反応だし、そして何よりある濃藍のショートはベッドにだらーっと寝転がりながらスマホをいじくるのに専念し、ほとんど聞き流していたり、またもう片方の黒髪のポニーテールは壁にもたれてうとうとしていた…などと、鶴海の脳内とのギャップは酷い有様だった。
「ていうかつるみんさあ、そろそろ卒業したらこういうの?もう高校入ってから…ッテ言うか中学の時からずっとずっーーと言ってるよねこれ⁉」
「静かにしていなさい新槙 英子。あなたの制止なんてもう聞き飽きているのよ!」
ダメ元ながらも彼女に近づきどうにか必死に説得を図る新槙を一瞬の内に強気な発言と何か自信に満ち溢れているそのドヤ顔が文字通り新槙を突き飛ばしてしまったのであった。
「ていうか米原 琴奈! 全然魂を感じないわよ! もっとはっきり言うのよ!私に続きなさい。リピートアフターミーよ! 『戦争!』『戦争!』『戦争!』」
すぐさっきまで新槙と小競り合いが発生していたはずなのにまさかのタイミングでの奇襲攻撃だった。
「ていうか私、そもそもそんなタカ派でもネトウヨでもないし、それどころか軍事系とかそういうの全くと言っていいほど分からないし……」
「ほお、言ってくれるではないか…。流石私が見込んだだけあるな、誉めてやろうではないか…!」
リピートという鶴海の命令を鮮やかにガン無視しこの場で断トツに落ち着いている声のトーンで反撃してみせる米原。
そして実に的を得ている発言、見事! そんな風にこちらの戦線はいきなり膠着状態に突入するのだろうか……?
ところで、同学年どころか同クラスであるはずの新槙や米原に対しても持病のせいなのかは分からないがかなり上からの発言が目立つことについてはもうそっとしておくべきだろう……。
ここで、『クリーク』の当作品で主に(というかほぼ全て)用いられる意味について一応解説を挟み、以下とある百科辞典からのコピペとします。
『krieg…ドイツ語における戦争を意味する単語』…と、コピペと言っても実にシンプルすぎる内容。
ていうか先の文章の当て字でもうだいたいはもう分かっちゃいますよねすみません……。 なお、この単語が国内の特定の界隈で有名(?)となったのかについてはここでは述べない事にしますがご了承願います。
それはさておき、鶴海家の地下部屋ではそんな風に多少の小競り合いはあったものの、それ以降は各々が穏やかに休日を過ごしていた。なんだかんだで鶴海米原紛争も結局互いに少々睨み合ってから米原の敗戦で幕を下ろし
たし。ああ、平和だなあ……。
そんな日が少しずつ傾いてきた午後三時、突然あの女が静寂の平和に切り込みを入れる。
「よーし決めたぞ!」
「今度はどうしたの?まーたテレポートの実験?」
突然の鶴海の発言に少しビクっとなり反射的に首を彼女の方へ傾けて、そのまま問い掛ける。
「残念だがあれは一時凍結とするが……。今回それはどうでも良い事なのだ!」
「それでぇ…今からは何するの~…?」
大きめのあくびをしながら今度は米原の問い掛けが来た。
「良くぞ聞いてくれたな!」
その質問、待ってました! と言わんばかりの元気のある返答だった。
「すなわち今回はだな……」
二人はまたかと呆れながらも固唾を飲んで閣下の発表を待つ。二人の瞳がじっと鶴海を見つめていた。
果たして今回はどんな失敗が待ち受け、もしくはどんな目に遭わされるのか……と想起し、感情の大部分を占めている恐怖心と体の奥深くにかすかに眠っている好奇心やら期待との葛藤に心躍らされながら。
実際、鶴海の開発及び実験はことごとく失敗が続いていた。
現在通算十一戦中初戦の成功から十連敗という泥沼の真っ只中に居た。最初の成功と言っても小学校一年生のまだまだランドセルが大きく感じれた頃に行った『(高校の)きょうかしょにのってたから』ととりあえずやってみた中和滴定の実験のみだった。
最も、親などの誰の協力を得ず自力でやり切った時点で相当なバケモノだと思いますね、はい。
だがそれ以降大連敗が続いていったわけだが、その原因を一言で言うならば『テーマが壮大すぎる!』、これに尽きてしまうだろう。なんせそら『テレポートだ!』とか『レールガンだ!』とか国家プロジェクトみたいなことを企てたとしてもいくら鶴海だからとはいえ、高校生の成りたてがやってもきつ過ぎるでしょ……という結論に光速で至ってしまうのだ。
今回も今回とて動機はいつも通り特に無く今回のように『決めた!』や同様のニュアンスの言葉が飛んできた時点でそれが始まりの合図である事を脊髄反射の如く察してしまい、そして終わりの終わり、おわおわりを迎えて『うーん実験、バッドエンド!w(実際誰一人としてこんな発言しないしそんな心の余裕なんて皆無)』みたいな流れが鉄板、王道ルートだ。
「では、発表させて貰うぞ……」
鶴海がすうっと空気を吸い込む。その場に居合わせている者全員が例えばこのような呼吸音や、身体の中枢の鼓動音などのありとあらゆる音、部屋の匂い、唾液の味、五感全てが妙に敏感になっていた……。どうせまた、いつも通りのオチが待っているんだろうな……と確信していた矢先の出来事だった。
二人の心臓の奥底に封じ込められていたはずのあの妙で、微々たる、まるで賭博の際に感じる高揚感、興奮、期待のようなモノ……。それらがどんどん沸いては広がりを繰り返しいつしか他の感情を屈服させ、それ一色に宿主を染めてしまうほどに化けてしまっていたのである。
二人ともその『乗っ取られた瞳』を輝かせて『今回こそは成功するはずだ』、『今回は何かが違うんだ』という根拠の欠片もない確信を経緯は相当異なるものではあるが、元からそれで満ちている鶴海 十江と残す二名で無意識の内にある意味では分かち合っていたのである。そんな部屋を満たす謎の期待のボルテージが最高潮に達しようとした時、ついに部屋の…いや化身のヌシが動き出す――――――
「一九四五年へとタイムスリップして当時のドイツを視察に行くぞ!」
「あ、あっ……」
……その時、二人は死期を悟る。部屋に君臨していたはずの魔物は一瞬の内に消え去り、マジもんの恐怖心に二人共釘付けになったのであった……。
初投稿です。作者は来年受験学年を迎えますのでペースとして週一本を目安に投稿させて頂きます。この作品に合わない方も多くなるかもしれませんがどうぞよろしくお願いしますm(__)m