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第A-4話 強襲上陸! 目指せコミックマーケット!④

鶴海の妙案、それは何と近所の高専から租借した(パクった)船での移動であった。





ツッコミ担当新槙はその事実に愕然とするが、ふと放たれた鶴海の言葉が胸に刺さる。





そして、そんな彼女の前に現れたのは今回鶴海に引けを取らないどころか一番張り切っている米原だった。


「ちょっと正気? いくら移動手段が無いからって……、船は無いでしょ⁉」


「あるんだな、それが……ここに!」


鶴海がキリッとした顔で新槙を見つめた。


「あってたまるか!!」


静寂に包まれていた周囲に怒鳴り声が響き渡った。周辺の店はほとんどもう営業終了しており、彼女達を照らすのはかろうじてまだ営業している駅や街灯から発せられる光のみとなっていた。他に何かあると言われれば、宇宙という果てしない海に浮かぶ星々だろうか。そう思わせるくらいに、この日の夜空は相当綺麗だった。


「そもそもどこに停めんのさこのお船さんを?」


「…………。さぁ」


「さぁ……。んじゃないでしょ!! 高専からパクって来たんでしょ? ならより一層何とかしないと……」


「ならば……、あの子には向こうで静かに沈んでもらうしか……」


「こ、琴奈……?」


「そうかその手があった! あの船には申し訳ないが太平洋の藻屑になってもらう事にすれば……!」


「え、えぇ……」


「何か申し訳無い様な気持ちになってしまうけど、仕方ないね……」


「そうそう、仕方ナッシングだ!」


「あ、あのぉー……?」


「よーしこれで万事解決万々歳だ!いざ出発!」


「うんうん、万々歳だね……!」


「んな訳あるかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


またしてもここで静寂の空間に怒号が響き渡った。






「いやぁいざこうして乗ってみると寒いね……」


「こういう事もあろうかとな、こっちだって事前に準備して来たんだよ!」


そう言って鶴海は大きな袋を開けたかと思いきや、今度はそれを一気に逆さまにした。するとあっという間に船はカイロだらけになってしまった。


「これで数十分置いとけばポカポカになるだろ、多分!」


「それにクッションにもなるしね……!」


米原はそう言うと、実際に試しに一面カイロになった床に寝転がってみた。


「うーん、天国の予感がする……!」


どうやら米原はかなり気に入ったご様子だ。


「そんじゃあいざ出発と行こうか!」


「二人共、もうどうなっても知らないよ?」


呆れた様子で新槙はついに出発だと張り切る鶴海にそう釘を刺した。


「知らなくたって良い! どうせ後数十年したら棺桶行きだし、今の内にやりたい事隅から隅までやっとかないと気が済まない! だからアホみたいな事だって何だってやる!」


どう見ても滅茶苦茶で、主語が飛躍しすぎて、頭どうかしてんのじゃねぇかと思わせる理論だ。その『アホみたいな事』が自らを滅ぼしかねない事も考慮していなかった。だが、それがやけに胸に刺さった者も居る様だった。


「まぁ……。そうだね! その通りっちゃその通りかも……!」


少し驚いてからこう返事をした。この新槙の反応は本人でも不思議なものであり、お世辞でも何でもなく、むしろ素の自分ものだった。何故納得してしまったのかは具体的には分からないが、何故か納得してしまったのである。


「……鶴海ちゃんがそんな生き方を実践してるからじゃないかな?」


「こ、琴奈!? どうしたのさ急に……」


カイロに覆われながら寝転がっている米原が突然小さく話し掛けて来た。しかし、新槙は先述の様な心境を誰にも話してなどおらず、何故それが完璧に射抜かれたのかが分からずにぎょっとした。そんな脳内疑問符だらけの彼女に対し間を置く事無く、こう続けた。


「私だって、最初はこれっぽっちも分からな無かった。だけど、鶴海ちゃんとか英子ちゃんの傍にいる内に、自覚しない内に心の奥深くでは理解出来ていたのかも。」


「な、何に?」


「鶴海ちゃんがこうやって今みたいに自分が思い付いた事を心の底から楽しんでる様に見えるの。なんて言うか……、()()()()()……みたいな?」


「その表現も摩訶不思議だけどね……」


「……とにかく何でか分からないけど、今みたいに、自分の頭の中で思い描いた夢だとか、妄想だとかをそのまま実際にやってみるっていうのは、案外凄い事なのかなって。」


新槙は米原の話に入り浸る様にすっとあぐらをかいた。そしてただ頷きながらじっと米原の瞳だけを見つめていた。


「確かに自分のやりたい事だけやるっていうのは甘い考えだとは思うけど……。それでも鶴海ちゃんを見てるとね、心底感じるんだ……。淡い妄想でも、それをとことん突き詰めれる人こそが天才なのかもなって……」


「……なるほどねぇ……」


そう言うと新槙は空を見上げた。岸にポツンと浮かぶ小さな船上の遥か上には、月があった。三日月と言った所であろうか。月と他の星々が共鳴するかの如く輝いている。


「あっ……ごめんね? 変な話しちゃってさ」


「いいよ……。気にしないで」


ふと我に帰った米原は、先程の自分を振り返るとすぐさま焦って謝った。それに対して新槙は空を見上げたまま、少しだけ笑みを浮かべてこう答えた。


「おーい二人共! なーにボッーとしてるんだ?」


そんな中、鶴海の声が聞こえて来た。


「それにしても、どうしてこんなに私達につるみんに振り回されっぱなしなんだろうね?」


「さぁ……。私達が望んだからかな?」


「ぱっとしないけど、案外それが模範解答なのかも……!」


「おいコラ! 返事をせんかい!」


またしても鶴海の声だ。今回は少しお怒りの様だった。


「はいはい、準備バッチリだよー」


「何だその適当な返事は⁉」


「えーつるみんだって興味無い話はいっつもそうじゃん」


「やかましいわ!それにさっきから……」


――――――こうして鶴海一行は、東京へ向けて出発した。






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