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第A-2話 強襲上陸! 目指せコミックマーケット!②

鶴海は米原の勧めで、アニメの一気見をする事となった。


米原の誘いに対して乗り気であった鶴海だが、アニメなどろくに見た事が無い……。


果たしてこの米原の判断は鶴海の心を鷲掴みに出来るのであろうか?

 それから十五分も掛からない内に鶴海邸にその作品の一期、二期、そして事実上の完結編となる劇場版のブルーレイ一式が到着した。どうやら鶴海の父が作ったそのすーぱーなんたらという電話の実力、と言うよりは寧ろこの鶴海一家が兼ね備えている力と言うのはかなり大きい様だった。

 これは後に判明した事だが、あの電話を使えば今回みたくレンタルビデオ店どころか、飲食店やら本屋にコンビニ及びスーパーマーケットから物品のお取り寄せが月額うん万円という金額でほぼ無条件で可能となっており、挙句の果てにはこれらより少々値が張ってしまうが、二四時間医者の緊急呼び出しが可能になっているなど、恐るべきチート電話なのである。


 まあ実際そんな財力と権力が無ければJKが家に大きな地下壕を設けれるはずも無いし、それに鳥羽(三重県鳥羽市の事です。伊勢神宮がある伊勢市に隣接しております)の海岸沿いに芦屋の高級住宅十数軒分の敷地の豪邸を構えるのなんて到底不可能だと言うのを考えると、そんなチート電話の存在にも納得出来てしまうのかもしれなかった。


「それじゃあ、一気見して来る!」


「あ、いってらっしゃ〜い」


米原はそう言い別室の方へ去っていった鶴海へ手を振った。この時点で午前九時と一見すればまだまだ早い時間帯だが、一期と二期が一クールずつ、それに劇場版が二時間近くあるのを考えると大体十時間程度は要してしまう。つまり鶴海が一気見終了するのは午後七時程度と真冬のこの時期ではとっくに日が沈み夜となっている時間帯だった。


「どう琴奈、食いつきそうかな?」


鶴海が扉を閉じて数秒すると、今まであまりアニメの話に介入して来なかった新槙が単なる素朴な疑問として米原にこう聞いてみた。


「うーん……、それはあまり期待出来ないけど、ここまで機嫌良く来てくれたんだから信じるしかないかなぁ、みたいな」


「まぁ……、そうとしか言い様が無いよね」


そう言ってベッドに寝転がっていた新槙がぐっと体を起こしてきた。


「ところでさぁ」


「ん?」


「どんな作品なのさ? その琴奈が推したの」


「あーあれはね。…………」


新槙の質問に釣られ米原がここから暫く語る事になる。どうやら米原は多少アニメ通の様であった。自分の好きなジャンルやら作品やらの話題になると急に熱が入って長々と語り出してしまうのはありがちだが、これは米原にとっては多少なりとも布教を兼ねていた。つまり解釈を拡大しまくれば一石二鳥になりうるのだろうか、……いや流石にそこまでには至らないであろう。






――――――そうして昼、夜へとただただ時間が過ぎていった。そしてここまでの間に鶴海が二人の前に姿を表す事は一度も無かった。


「もう午後八時かぁ。結構宿題終わらせれたけど、つるみんはまだ見終わらないのかな……?」


自身の宿題が一段落着き、ふと自分の携帯で時間を確認してみた所、もうそんな時間かと驚いた。地下壕ゆえ、外から照らす日光の角度などでの時間を相対的に知る事はもはや不可能だったため、仕方ない反応と言えばそうであった。だがすぐさま関心は未だ姿を現さない鶴海の方へと向けられた。先述の通りであれば一時間前には完走していてもおかしく無い筈であった。


 「うーん、もう見終わっていてもおかしくないと思うんだけど……」


 米原は鶴海を心配しだすと同時に、流石にアニメなどろくに見た事ない人にいきなり朝から晩まで一気見させるのは無理があったかと焦りだしていた。


 「琴奈、念のために様子でも見に行った方が……」


 米原が醸し出していた雰囲気で察したのであろう、新槙もすぐに鶴海の様子が気になった様で、少し引きずった表情をしながら提案した。


 「うん……。それが賢明だね……」


 二人はそうして鶴海の様子を確認しに行く事にしたのであった。






 「……ここみたいね」


 「うん、じゃあ開けるよ……?」


 二人は鶴海が在室しているであろう部屋の扉に心臓の鼓動を荒くしながら身をもたれさせていた。二人は目を合わせて相槌を打った所で心の中で『せーのっ』と声を合わせ、ついに扉が開かれようとしていた。開かれた扉の先の光景を恐る恐る確認しようと覗き込んだ。


 「「こ、これは……!」」


 二人が息ぴったりにふと声を出してしまった。二人の視線の先には、スクリーンの光以外全て全て真っ暗となっていた部屋があった。床にはお菓子やジュースの残骸が何も片づけられずにずさんな形で放置されていた。


 「これは酷い荒れ様だね……」


 そんな部屋を見つめ、若干引きながら米原は少し引きずった表情をしながら呟いた。


 「琴奈! あれ! あれ!」


 そんな米原の肩を慌てて新槙が二、三回軽く叩いた。それにすぐさま反応して視線を新槙の指さす方へと向けた。


 「つ、鶴海……ちゃん……?」


 その先には毛布にくるまった人影があった。倒れているのだろうか、それとも単に横たわっているだけなのだろうか。この時点では二人はまだ判断しかねていた。


 「琴奈、行ってみよう……!」


 「う、うん……!」


 そして二人は部屋の中へと進み、毛布の中にいるであろう鶴海の様子を伺いに至った。そして身を屈め中をそっとのぞいてみた。二人はただただ緊張していた。


 「つ、つるみん……⁉」


 新槙は(毛布)に籠っている鶴海の様子を見て驚愕した。


 「ど、どうだった?」


 そう言いつつも米原もすぐに自分の目で確認しようとした。そうして先程の新槙と同じ様に中を覗き込んだ。


 「……!」


 声には出さなかったが、米原もさぞ驚いた様子だった。そうして二人共動揺していると、今度は鼻をすする音が聞こえて来た。そう、鶴海は泣いていたので。それも号泣と呼べる代物くらいに。スクリーンには劇場版のエンドロールが停止されたままにされていた。


 「お、おぉまえらぎゃあ……」


 覗き込んでから十数秒してからやっと鶴海が反応した。


 「完走……、しきったんだね……!」


 「あぁ、しょうだよおぉ……」 


 鶴海から発せられる言葉がことごとくぐしゃぐしゃになっていた。


 それから更に五分少々、鶴海が泣き止む事は無かった。二人はただその光景をそっと見守る事に徹していた。だが、米原は何とも言えない嬉しさも抱え込んでいた。




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