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第七話 冒険に死亡フラグは付き物

なんとか無事にワルシャワに到着した鶴海一行だった。このまま上手くいくのかと思われたが思わぬ凡ミスで耐寒地獄を味わう事になってしまう。しかし、ある時弱っていた鶴海達を一筋の光が照らしこんだ。その光は彼女達にとっての真の意味での『光』になりうるのであろうか?

「だ、誰だ……一体……」


鶴海が両手で視界に入るライトの光を遮りながら、その光の発信源は誰だと確認しようとした。


「あ、あの軍服は……。親衛隊(以外SS)のか……! そうか、ついに謁見出来るのだな!」


前回の通り、寒さで弱っていた三人だったが、鶴海が光の正体がSSであると確信を持ったその瞬間、さっきまでの声の調子とは打って変わり、そしてすくっと立ち上がった。他方、光源であるだろう自動車が軍服を身にまとった隊員の歩行に合わせる様にノロノロとボロボロの道路を不規則な上下運動を伴いながら移動している。


 (ちなみにSSの説明を超ざっくり入れるとかつてのヒトラーが党首を務めていた(略称)ナチ党の党内組織であり、大戦中は国防軍と共に戦線で活躍しました。ほとんど軍です。)


 「……あっ、つるみん、ちょ……、流石に今のこの街で見知らぬ人の所に行くのは危ないって!」


 ふと気づいた新槙が鶴海を無駄だと分かりながらも制止しようとする。しばらくの間話す体力気力共にどん底で、しばらく言葉を発していなかったため、最初の一言が詰まってしまったが、弱っている体に鞭を打ってなんとか言葉を絞り出すのに成功した。なんとなく自らの経験上、鶴海がいかに素早くフラグを建てるのかを熟知していた新槙にとっては今の状況もまた危険だと判断したようだ。まるで小さい子供の連れ添いの親の様な言い回しだったが、そんな事新槙自身もどうでも良かった。なお、肝心の鶴海本人は聞いてすらいない様子だった。


 「おいおいお嬢さん達、そんな所居て寒くないのかい……?」


 向こう側から少し大きめな声で気さくに話しかけてきた。


 「あぁ! やっぱり! あれSSに違いない!」


 ついさっきまでの弱った姿とは著しく対照的な元気さを持ったJKがそこにはいた。そして鶴海はますます走りながら隊員の方へと向かって行く。


 「一体なんだいその服装は? あまり見慣れない服の上に白衣を着ているな……。」


 当たり前と言えばそうだが、視界に鶴海が入って来た隊員達が鶴海やその先のライトで照らられている二人を見てふと疑問に感じた。


 「あ、あのっ! 失礼な事をお聞きしますが、その軍服はSSので間違いないですよね?」


 「……えぇ、いかにも」

 

 隊員の呟いた事をこれっぽっちも気にすること無く無視し、瞳を輝かせてこう問うた。それに少々困惑しながらも事実をあっさりと認めた自動車と一緒になり徒歩で移動してきた隊員。


 「つるみん、テンション上がり過ぎでしょ……」


 「まぁ、多少は同情出来るかもねぇ……」


 鶴海が念願のSS隊員との接触に成功したためにテンションがうなぎ上りとなっていた。蚊帳の外に追いやられた新槙、米原ペアはただボヤきながらその様子をぼぉっと眺めるだけだった。新槙もさっきは止めに入っていたが、どうやら完全にどうでも良くなってしまい、諦めてしまっていた様だ。


 「色々と言いたい事はあるけど、ひとまず。どうしてそんな季節外れなんだい? ほら、君も白衣の下がそうだけど、皆半袖だしね。それも若いレディー。どんな訳ありなんだい?」


 この質問は三人にとって非常に不味かった。なんせ『タイムマシンで来たら真冬のワルシャワでした! てへぺろ!』なんて可愛い返事は問答不要でNGだ。ここを如何に切り抜けるかがこれからの第三帝国ライフにとって重要になって来るであろう。未来人とバレた時点で歴史が彼女たちの知る史実が大きく逸れてしまうことになるのは目に見えている。(やはり一人を除いて。)


 「それはですね……タイm」


 「あはははは困ったなぁ! 友達と鬼ごっこをしてたら……。そうそう暑くなって半袖になってたらつい鬼ごっこに対しても熱くなってしまって! それで迷子になってしまったんですよね~! あははぁ……」


 新槙がすぐさま立ち上がり鶴海の方へとダッシュ。鶴海が危うく『タイムマシンで未来から来ました!』と言うのを制止すべく後ろから右肩を力一杯握りしめ、嘘話のクオリティはともかく間一髪ごまかした。


「そ……そうかい……まぁ分かったよ」


「(絶対疑われてるけどなんとか逃げ切ったぁぁぁぁぁ!!!)」


そうして三人は車の中へと案内される事になる。


「寒いでしょ?とりあえず凌げる場所知ってるしそこまで行こうか」


ここで鶴海を除く二人はこのあからさまな提案に勘づいてしまう。これは拉致されて身柄を拘束されるパターンのやつだと。


「ちょ……琴奈! これ絶対付いてったらまずいやつだよね……?」


新槙が米原に対して小さな声でこう話しかける。若干尖らせた視線の先にはさっきの提案を真に受け考えてる鶴海と怪しさ満載のSS隊員達が居た。本当なら『やめんかーい!』とツッコミをしたい所だが、そんな事したら余計状況が悪化しかねないとそれを堪えていた。


「うん……。これは絶対やばいやつだよ。だけど今の鶴海ちゃんのテンションじゃ……」


「どうする? このまま向こうの思う壷になりたくは無いけど、打つ手が無いならどうしようもないじゃん……!」


二人はコソコソ声で相談を続けていた。このまま結論が出ないとまさに新槙の言う通り彼らの思う壷になってしまう。だが何も出来ないというジレンマに陥っていた。


「(あっ……。そういえば……!  鶴海ちゃんの紫電(しでん)を使えば……!)」


米原がふと何かを思い出し、辺りからなんとかそれを見つけ出そうとするが、


「(あぁ……ダメみたいだね……)」


 どうやら紫電は鶴海の気付かぬ合間に他の隊員の手に渡ってしまっていた様だった。


 「おぉ……! これはもしかしてニホントーっていうやつかい? お姉さん」


 「えぇ! 紫電という名前なんですよ!」


 「ほぉ! シデンって言うのかい!」


 という風に完全に鶴海は先程出会ったばかりの筈の、生きる時代も故郷も全く異なるSS隊員達と完全に打ち解けており、彼らの間だけで強固なコミュニケーションのネットワークが形成されていた。時間が経過すると共にますます場違い感も増大していった余り物の二人はじれったくて仕方が無かった。


 「どうしよ……。素手だけじゃ軍の人間に勝ち目なんか無いじゃんか!」


 両手を勢い良く頭の上部へと持っていき、どうせ聞く訳まいとおもっいきり叫んでみせた。案の定彼らは聞く耳を持つことなど一切無かった。


 「……もう奇跡が起こるのを祈るしか無いんじゃない……?」


 二人の間には諦めムードが蔓延していた。それが証拠に米原が根拠の欠片もない奇跡を信じるしかないと新槙に持ち掛ける様にまでなってしまったのである。


 「ままま、まぁ? どどどどどうにかなるよね……? ハハ、ハハハ!」






――――――そこから三十分程経過し、舞台はSS隊員の言う穴場スポットへと移り変わっていた。


 「…………」


 「…………」


 「…………」


 「やっぱり全然だめじゃんかああああああ‼‼‼‼‼」


 現在進行形の残酷な現実に対し、ただただ意気消沈し続けるだけの三人の中からいつものツッコミ担当新槙が先陣を切った。ちなみに彼女たちは今、蚊帳の外に追い払われた二人の予想通りの状況、もっと詳しく言うと、かつての中心市街地から少し離れた所にある、廃工場に案内され車を降りた直後に、縄で三人まとめて拘束され、そして現在にかけて隊員らしき人物達に囲まれている……、と言った所である。


 「何故だ! 何故我々がこんな目に遭わねばならぬのだっ!」


 「鶴海ちゃんの無防備さが原因のほとんどを占めてると思うよ」


 「だぁーーっもう! 折角ここまで来たのに!」


 自らが置かれている状況に納得が出来ず、唯一動かせれた足で地団駄(じだんだ)を踏んでいた。


 「まさかここまでカモだとは思わなかったよ。こんなの初めてさ……!」


「なるほど……。役に立ちそうなのは今の所このカタナしかなさそうか。それ以外は特に価値の無さそうな物ばかりだが……。これは一体何なんだ……?」


「ていうか、貴方達は一体何が目的なんですか? 普通物奪ったらそのままで終わりで良くないですか?」 


三人から奪った物に興味津々になっている隊員達に対して、新槙が多少怒りをあらわにしながら疑問を投げかけた。


「いい質問をするじゃないか。私達も聞きたいことが山ほどあるが、答えようじゃないか」


「…………私達は、この第三帝国から逃亡する。こんな未来なき亡国にこのまま居ては私達の命が危うい。これからはドイツ本国を境に資本主義、共産主義が睨み合う新たな戦争がすぐやってくるに違いないだろう。そこで西側諸国の捕虜となることで私達は自由を得ようと考えたのだ」


ここで一旦説明を区切る。息を少し整えてまた間もなく説明を再開した。


「……しかし、そのためには食料や武器を予め確保しておくのが必須条件。だから君達を捕まえて色々使用させて貰おうかと考えたが、君達は何だかこの時代の物とは思えない物をいくつか持っている。例えばこれ……。何だい? この何とも言えない形状の板の様な物は」


そして隊員が鶴海達の携帯を三人の前に出した。


「これは……、どう考えてもこの時代の物では無いのは明らか。君達が一体どの様な存在なのかが非常に気になる所だ……」


三人はただ黙り込んでいた。いや、どちらかと言えば自分達がこれから先どうなるのか。または、自分達の正体がまさに今暴かれそうになっている事、その他諸々が複雑に入り組んだ結果として、何も言葉が出てこず、固唾を飲んで身を天命に委ねる事しか出来なくなっていた。


「……まぁ、今はそんな事どうでもいい。それより君達をどうするかだよ。君達は私達の計画に協力してくれた。だが、証人が居るようでは困るんだよ。そこで、だ」


「……あっ! それは……!」


鶴海の視線の先には、持ち込んだ家宝の紫電があった。そして隊員はその鋭い刃を自ら確認し、不穏な笑みを浮かべた後に、


「全員ここで死んでもらおうではないか!」


そう言って刃先を鶴海を首に方へとそおっと静かに接近させた。先程鶴海と賑やかな会話を楽しんだその輝かしい瞳は、もうそこには無かった。


「君達見たいなフシギさんと話せて正直楽しかったよ。こんな経験初めてさ。だが、憎むべきは自らの運命だ。悪く思うなよ……」


「そ、そんな……! こんな所で……!」


鶴海が悔しさを滲ませこう呟いた。余りにも理不尽過ぎる唐突の死刑宣告と死刑執行に、新槙、米原ペアも絶望のどん底に居た。


「……じゃあな」


そして隊員がまさに鶴海の首を斬り飛ばそうとした瞬間の出来事であった。






――――――入口の方からだろうか、数発分の拳銃の発砲音が廃れた工場の中へと鳴り響いた。そしてそれとほぼ同時にまさに今紫電で鶴海の首を斬ろうとしていたリーダー格の隊員の周りの隊員達が次々と撃たれ、苦しみながら地面へと倒れていった。


「な、何事だ?」


入口の奥の方から夜明けの光が差し込んでいた。そこにはある男が居た。








 

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