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第六話 行き当たりばったりの征服は大体何処かで詰まる

思いがけないアクシデントにより結局ワルシャワ直行となってしまった鶴海一行。タイムマシンは特に異常を起こす事に無く順調だったが、果たしてこの調子でドイツ遠征も上手くいくのだろうか?

「ん、ん……。こ、ここは一体……?」


 例の事故(前回参照)から数時間。とうとう全ての元凶、鶴海 十江(つるみ ともえ)が真っ先に壊れてしまった分かは分からないが、三人の中で最も早く目が覚める事となった。


 「目的地まで、残り三十分です」


 「そ、そうか……。あの時、くしゃみで……」


 マシンの人工音声が、目覚めたばかりでまだぼぉーっとしている者、その他床にばたっと倒れこんでいるままの二名をよそに、淡々とこうアナウンスした。


 「ふぅー……。よっこいしょっとぉ……」


 目覚めてからの時間が経過する程、鶴海の脳内に数時間前あった事故の詳細がじわじわと着実に、鮮明に思い出されていく。それを噛み締めるかの様に深く深呼吸し、その場からゆっくりと立ち上がった。


 「どれどれ、マシンの調子は如何かな……」


 立ち上がってからの彼女の動きは素早く、洗練されていた。まずはメインモニターからタイムワープの現状を確認。その時の彼女は冷静であり、つい数時間前に不測の事態でぶっ壊れてしまった彼女の姿はそこには無かった。


 「……………」


 現状の確認にただ黙り込みながら頭をフル回転させている鶴海。マシンのガラス越しに見える景色は正に皆無に等しく、真っ暗。そんな景色も眼中に無く、ただモニターなどから提示されているありとあらゆる情報を途方もない速度で瞳を左から右へと動かし、脳へと送信され、そしてあっという間に完全理解に至ってしまった。何十インチの液晶の五、六枚の集団にびしっと羅列されているデータを三十秒も必要とせず、しかも寝起き数分で自分のものにしてしまった鶴海の恐ろしさはもはや言うまでも無いだろう。


「なるほど、今のところは問題ないさそうだな」


 どうやら鶴海が確認した所、現時点では特にこれと言った異常は無く、数時間前に懸念されていたワルシャワ蜂起からの一連の流れにより直接的に、より強く関与するリスク自体はかなり低かった。だがそれでも油断は禁物、先の蜂起などによってワルシャワの街は荒廃しているであろうし、それの影響で無法地帯と化している可能性も十分にある。それに加え数週間したら東からぞろぞろと赤軍がそこを占領しにやって来るのだから。


 





 「さぁ、どうしようかな……」


 二人がまだ床に眠っているままの状況下、彼女がせめてもの配慮から相対的に一際小さな声を用い、語り掛けるのは必然的に彼女自身となる。


 「あっそうだった。あれがきっとここの何処かに……」


 目覚めて取り敢えずの自身の義務を果たした直後の彼女が、今度はふと思い出すと言うよりかは思い付いたかの如く探し物を間を置くことなく開始するに至った。


 「どれどれ、確かこの辺に置いておいたような気がするが……」


 時々こういう風に呟きを挟みつつ、有ったら嬉しいな程度の感覚でその『あれ』を音を立てないために、忍び足で移動してはじいっとそこから辺りを少し警戒しながら見回した。そうしてなんとか『あ、これこれ』と、つい反射的に出てしまった声と共に無事にとうとう発見された。


 「そう、これだよこれ……! ちゃーんと持ってきてあった……!」


 発見すや否や、テンションのボルテージが声のトーンと共に、じわじわと上昇の様相を呈している。


 「……鶴海家に代々伝わりし名刀、『紫電(しでん)』っ!」


 そう瞳を輝かせながら、手の感触どころか、全身、五感でしっかりと噛み締めんとそっとその刀を両手に取り、右膝が床に付く程度には腰を下ろし、微かな距離だが地面からそれをそっと持ち上げた。そのまま数分間はそこから一歩たりとも動かず、ただその感触をひたすら敏感に感じ取るのみであった。そこから数分すると、もうお腹一杯ですありがとうございますと言わんばかりにまたもやそっと刀を床に添えた。そしてそこから(ひざまず)いた状態のままで目を閉じた。


 「……ご先祖様……。ご先祖様に(すが)るほどの恥はございませんが、どうか我々にご武運を」


 先程のややハイな調子とは打って変わって、今度は急に大人しくなってしまった。鶴海にしては非常に珍しく、神頼みならぬ先祖代々受け継がれてきた家宝の名刀頼みであった。最も、何故そんな大事な家宝を勝手に持ち込んでいるんだという結論に早急にたどり着いてしまうのではあるが。


 




 「あ、あれ……起きてたんだ鶴海ちゃん……」


 それから数分しない内にとうとう米原が目を覚ました。心なしか重たい(まぶた)を開けると、モニターを腕を組みながら堂々たる仁王立ちをしながらただ見つめているのが一人いるという確固たる情報が視界を通じて入って来る。


 「おぉ、目覚めたみたいだなぁ」


 寝ぼけ紛れの米原のボソボソ声を聞きつけてすぐさま待ってましたと言わんばかりに声のヌシの方へ振り向いた。とうとう話相手が出来たためであろうか、顔を若干喜ばせながら返事をした。


 「そういえば、タイムワープはどうにかなりそう……?」


 大き目の欠伸(あくび)を会話中のワンクッションとし、こちらもまたゆっくりと立ち上がりながら鶴海に問いを投げかけた。


 「あぁ、今のところは問題ないが……。どうなるかはまだ金輪際分からないと言った所だな」

 

 「何その微妙にやばいフラグ立ててるかのような発言……。でもまぁ、大丈夫そうなら良かったよ」


 「……あっそうだ! 見せたい物があるんだよ米原!」


 「これは……、名刀の『紫電』じゃん……! 凄いなぁ、今度は何処から盗んできたの?」


 「違うわ! 確かに昔はしてたけどな……、けどこれはれっきとした家宝だ!」


 「防衛省の機密文書をネカフェのPCから全部お持ち帰りしようとした時は流石に血の気が引いたよ……」


 「あー……。あの時は……思い出したくない程の地獄を見た……。トラウマって言うやつだな……」


 流石に日本の中央官庁のサーバーにずかずかと侵入してただで済む訳など到底無く、いよいよゲットかと思われた矢先、職員に見つかってしまい、ここから五時間にも及ぶ鶴海(とか言うテロリスト予備軍)対様々な名門大卒のエリート集団の全面サイバー戦争の末、なんとか死ぬ気で張った防衛線を守り切り、すべての証拠を完璧に抹殺し逃亡に成功したとは言え、鶴海にとっては生き地獄でしか無かった。それ以外にも様々な盗難実績を保持しているが今回は一旦は割愛させて頂く事とする。


「でも……、あれとか他ので懲りず今でもこうしてとんでもない発明をして、信じられない位の馬鹿げた実験を今も尚し続けてるっていうのは流石って言うか、もはや尊敬さえもしちゃうよ……」


「えっへん! 当然の評価だな!」


「ごめん、一ミリたりとも褒めてないよ……」







「おーい、英子ちゃん? そろそろ起きないとだよー……」


未だに眠りについている最後の一人、新槙に対し、優しく起こそうとする。


「……ん? あー……、ごめんごめん! 私つい寝落ちしちゃってたか!」


目を少し擦り、起こしてくれた米原に対してこう軽く感謝の意を伝えた。


「目的地まで、残り五分で到着です」


毎度毎度お馴染みの無感情の音声が、僅かに珍しくあった静寂の間を意図的に狙ったかの様に室内に響き渡る。そしてその音声を聞いて新槙は現状を再認識する事になる。


「あーそうだった。結局私たちワルシャワ行きだったなぁ……」


「安心しろ! なんとか今のところは赤軍に巻き込まれずに済みそうだから! 多分なんとかなるぞ!」


「鶴海ちゃん、なんとかなるの水準ってこんなにも低かったっけ……」


「まぁとにかく! もうちょっとで着くんだし、少しは気楽に行こうではないか!」


「き、気楽になんかなれるかぁ!」


――――――そうこうしている内に、彼女達はとうとうワルシャワに無事(?)到着する事となる。そして、時は現代から一九四五年の元日へと移り変わる……。




そして鶴海一行はワルシャワの市街地のある広場に到着した。まだ日付の確認は取れてないが、タイムマシンに誤差はほとんど無かったので恐らく彼女達は当初の想定通り四五年の元日になったまさにその瞬間に来られた可能性が高いという事だ。だがそんな新年の割には街は妙に寂しかった。ガタガタの道路や、窓ガラスがあちこちに飛び散ったり挙句の果てには倒壊している建物も全く珍しくは無かった。辺りを見渡してもそんな新年の街に人の気配など感じられる訳もなく、彼女達はただ孤独に飢えていた。だがそれ以上の恐怖がまだまだそこにはあったのである……。


「さささ、寒い! このままじゃ凍え死んじゃうよ!」


新槙が全身をガタガタ震えさせ、命を削りながらもこう叫んだ。彼女達に当たる微弱ながら冷たく尖った風が、確実に命をじわじわと削っていく。それもその筈、冬真っ只中のワルシャワは氷点下が当たり前、それも深夜なら尚更である。そんな中で日本のポカポカのゴールデンウィークに合わせた服装などどう足掻いてもマッチする訳など無いのだ。


「なななななな、何たる不覚……。まさか服装を変えるのを完全に忘れてしまっていたとはな……」


「ていうか……、このタイムマシンどうするの?持ち運ぶにしてもあまりにも不便過ぎる気がするよ……」


「あっ……そうだ! やっと思いついたぞ、暖を取る方法!」


「ま、待ってました! さぁつるみん! 早くやっちゃおう!」


軽装の服の中でも何とか少しでも寒さを凌ごうとズボンのポケットに全力で手を突っ込みながら何とか空元気でどうにかしていた。


「そらいけぇ!」


「ちょっと!! 一体何しての!!」


……何とあろうことか、鶴海が暖を取るためとか言ってタイムマシンを焼却し始めてしまったのである。


「これじゃぁ帰れなくなるじゃんか!! どうすんのさこれ!?」


新槙が涙目になりながら鶴海の肩をがっちり掴んでひたすら全力で揺さぶった。


「大丈夫、設計図ちゃんと持ってきてあるから!」


「全然解決策ならないでしょーが!!」


炎上するタイムマシンを背景に、彼女達の会話もまた『炎上』していた。





やがて燃え尽きたマシンは灰となり、それに合わせるかの様に、ヒートアップしていた二人の会話もいつの間にか終息の方向へ向かって行った。レジスタンスとドイツ軍の戦闘により廃墟と化してしまった市街地の路地。そこにぽつんと時代、季節離れした服装をしている異邦人三人。次第に以前の様な空元気すらも彼女達からじわじわと、確実に消えていった。


「困った……。まさかこのまま誰も居ない街で寒波で震えながら死んでしまうのか……?」


「ま、まだ何とかなるよ……。きっと光がもうじき照らしてくれるよ……」


寒さで体力を大きく削られた鶴海を、米原が根拠の無いように見える励ましをした。三人の間の絶望感が徐々に肥大化していく。





「……う、眩しい……。あの光は……、一体……」


そこから暫くし、広場の噴水を照らす一筋の光が現れた。辺りはまだまだ真っ暗であった。今の彼女達三人は、この悪魔の囁きとも取れる可能性もある光を信じる以外の選択肢は皆無に等しかった。




























 


  



 


 



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