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生きている人達

今回からは、また神田ゆい視点です。

私は三人から全てを聞いた。

信じたくないし、耐えられない。

でも三人はそれを目の前で見てきたんだ。私よりずっと苦しくて辛いはず。

それでも涙は止まらない。

もっと話していたかった。もっと一緒に遊びたかった。

皆とやりたいことが、いっぱいあったのに......


「ごめん、ゆい。こんなことになって」


三里ちゃんが言う。謝る必要なんてないのに。三里ちゃんのほうが辛いはずなのに。


「誰も悪くないよ。それに、言ったでしょ、三人が生きてることが嬉しいって」


私はそう言いながら、無理矢理笑顔を作った。涙は流れたままだけど。

ザッという音がして前を見ると、ヤツの死体が灰になっていた。


「とりあえず皆は安心して良いのよ。ヤツラはもうここには来ない」


井藤さんが言った。それを聞いた野村くんがうつむきながら口を開く。


「アイツがシェルターの扉をこじ開けた時、多分壊れました。今は恐らく扉が開きっぱなしの状態です。ヤツラがここに来ないなんて保証は、ありません......」


井藤さんはそれを聞くと、微笑みながら言った。


「大丈夫よ。ヤツラは近くに人の存在を感じなければ襲ってこないの。だからヤツラがここまで来るなんてあり得ない」


周りの大人達も頷いている。

やっぱり大人達は色々知ってるんだ。


「なんでヤツラのこと、そんなに知ってるんですか」


穂乃花さんが静かに聞いた。けどその質問に、大人達が答えてくれることはなかった。


「ごめんね」


井藤さんもそう言っただけ。何も教えてくれない。

少しひどいと思ってしまった。

たしかに大人や先輩は私達を守るために頑張ってくれた、だけど、もっと前に教えてくれたらこんなに死ぬことはなかったかもしれない。

皆、訳も分からず血を流して死んでいったんだ。

それでも何も教えてくれないなんて、残酷すぎる。




ダッダッダッダッダッダッダッ


遠くから誰かが走ってくる音が聞こえてきた。


「ヤツラが入ってきたんだ」


野村くんが震えながら言う。井藤さんは大丈夫だって言ってたけど、私は万が一のことを考えた。私に何かできるわけでもないし、考えても仕方ないのだけれど。でも迷惑はかけないようにしないと。病気のせいになんてできないんだ。


「もう誰かが死ぬのは、うっ、嫌だよ」


三里ちゃんは目を真っ赤にして泣いてる。よっぽど辛い思いをしたんだ。私とは比べものにならないくらい辛い思いを。


「皆で生きよう」


私はそう言って、三里ちゃんを抱きしめた。これ以上三里ちゃんが傷つくのは嫌だから、強く抱きしめた。強く、強く。



周りを見ると、大人達はまた小型の銃のような物を構えている。

怖い。

怖いな。

どうしようもなく怖い。

この様子を見ると、ヤツラの襲ってくる姿が頭に浮かんで怖くなってしまう。

逃げ出したい。でもそんなの無理だ。どこに逃げれば良いのかさえ分からないのだから......


私は前を見れなくなった。床を睨みつけることしかできない。


ダッダッダッダッ


足音が近くなってる。こっちに来る。しかも一人じゃない。大勢の足音だ。

ヤツラだったら、勝てないかもしれない。

さっきは一人だった。でも今度は違う。沢山いる。

もし勝てなかったら、あの女の先輩のように......

こんなこと考えちゃダメだ。皆で生きるって言ったばかりなのに。


あっ


足音が止まった。



私がおそるおそる顔を上げると、目の前には水上先輩と沢山の島民がいた。ヤツラは一人もいない。

大人達も銃のような物を下ろした。

良かった。

本当に良かった。

生きてる。先輩も、島の人達も。


「ゆい!!!」


私の名前を呼んで中に入ってきたのは、お母さんだ!


「私、ずっとゆいのことが心配で......生きていてくれて良かった」


お母さんは泣いていた。


「私もずっと、ずっと心配してた」


私がそう答えると、今度はお母さんが私を強く抱きしめてくれた。温かい。いつもの優しいお母さんだ。



「良かったな」


水上先輩が言った。先輩は少し悲しそうな顔をしている。

どうして......

あっ、女の先輩がいない。

ここから水上先輩と一緒に外に出ていった女の先輩がいない。

気になったけど、私はそのことを先輩に聞けなかった。

もし死んでいたら、それを先輩の口から言わせるのは......

もう考えるのはやめよう。生きてるかもしれないのにこんなことを考えるのは失礼だ。


三里ちゃん、野村くん、穂乃花さんの両親も来ている。

安心した。

三人ともやっと笑顔を見せた。



「それで、外は今どうなってるんだ」


中にいた大人が聞く。


「空から降ってきた人達は殲滅しました。念のため、高三の皆が外で新たにヤツラが現れないか見張っています」


水上先輩の言葉に、私は驚いた。

あんなにいたヤツラを殲滅したなんて、すごい。

どれだけ沢山の人を撃ち殺したのだろう。

私にはできる気がしない。

それに、こんなに多くの人を救ったんだ。すごすぎる。


「外に島民はもういないの?」


井藤さんが聞いた。


「はい、今連れてきた13人しか、守れませんでした」


先輩は小さい声で答える。さっきより悲しそうな顔をしていた。

じゃあ、他の島民は別のシェルターにいるのかな。

大丈夫だよね。

大丈夫。

大丈夫。

私は嫌な予感がして、自分に言い聞かせるようにそう唱えた。


「他にシェルターはあるんですか?」


野村くんが聞いてしまった。聞かなくて良いのに......


「ないよ」


水上先輩は静かにそう言った。

そんな。

嫌だよ。


「なら、今生きてるのって」


穂乃花さんが涙ぐみながら呟く。

そんな訳ない。

だって、そんな、そんなの、


「ここにいる人と、外に出ている高三だけだ」


先輩は涙を流して、言った。








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― 新着の感想 ―
[良い点] 良い文章ですね。 [一言] 頑張って下さい。
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