表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/16

シェルターへ ①

上田三里、野村明、鈴木穂乃花の三人がシェルターにたどり着くまでの話です。

「私達、どうなるの?」


私の言葉に、ゆいは答えてくれなかった。ゆいが分かるわけないのに、私はゆいにすがってしまった。



その後ゆいは先輩に連れられてシェルターに向かった。

私は一人になってしまった。

繋いでいた手が離れた瞬間から、恐怖は驚く程大きくなった。


怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。


どうすることもできずに、私はただひたすら涙を流していた。

なんでこんなに涙が出るのか、それは怖いという感情だけじゃない。

ゆいが可哀相だ。ゆいはずっと今日を楽しみにしていた。私が家に行く度に、学校へ行きたいと言っていた。何度も何度も何度も。体調が一時的に回復して、病院の先生から学校に行けると言われてからはずっと笑顔だった。

私が学校の話を少しでもすると


「学校に行ける日が楽しみだなぁ。早く皆に会いたい!」


と、嬉しそうに言っていたのだ。

私はそんなゆいを飽きる程見てきた。だから、今日がこんなことになってしまい、本当に可哀相。

ゆいの気持ちを考えるといっぱい涙が出る。それに、ゆいに何もしてあげられず泣いてばかりいる自分が情けなかった。

それでも涙は止まらず泣いていると、


「どーしたんだよ?メソメソして」


と、憎たらしい声が聞こえた。野村くんだ。

「べ、別に」

野村くんはニヤァっと笑い、憎たらしい顔をする。本当に憎たらしいヤツだな。

「な、何か?文句でもあるの?」

私の言葉を聞いて、野村くんはまたニヤァっとする。

「元気出てきたじゃん。あんまり泣いてると、お前らしくないぞ」

うざっ。え?うざっ。私は無視することにした。



ゆい、大丈夫かな。もしゆいに何かあったら。ダメだ。こんなこと考えちゃ。ゆいは絶対に大丈夫。そう思うことにしよう。

窓の外を見ると、教師達はまだ銃みたいなのを使って人を殺している。


あっ、


急に空から降ってきた人達が走りだした。


皆一斉に教頭に向かって走っていく。


教頭は逃げようともせず撃ちまくっている。


囲まれた。


周りの先生達は教頭の周りにいる人を優先して撃ち始める。


それでも数は減らず、教頭は囲まれたまま。



えっ?



空から降ってきた人達は跳び跳ねて教頭に襲い掛かった。



え?



え?



教頭が喰われてる。



嘘。



嘘でしょ。



教頭は動かなくなった。



よく見ると首元から大量の血が出ている。



そんな。アイツら、人を、殺した。



「見るな!」



大きい声。あぁ、野村くんか。


「だって、教頭が死んで」


「俺も見たよ。でも、もうこれ以上見んなよ。辛いだけだ」



その後は静かな時間が続いた。野村くんも私も口を開こうとはせず、ただ絶望していた。

だって、人が死んだんだよ? もう意味が分からないよ。なんで。どうして、あんな残酷に。

本当に私はどうなるの?

あんな風に死んじゃうの?

だとしたら嫌だな。あんな死にかたしたくない。私だけじゃない。皆死んだらダメだよ。嫌だよ。



「高校一年生! 集合!」



教室の中から声が聞こえてきた。私と野村くんは指示通り人ゴミを掻き分けて教室の中に入る。

教室には既に高一の皆が集まっていた。


「喧嘩する程仲が良いって本当なのかな」


私と野村くんをマジマジと見ながら平岡くんが言う。別にそんなんじゃないのに。

「ちげーよ、喧嘩はするけど仲良くねーから」

野村くんが反論した。今だけは野村くんの意見に賛成。

「普段から二人の喧嘩を仲裁してる僕には分かる。二人は仲が良い!」

いや、違うから。本当に違うから。



「そろそろ話しても良いかな」

高三の先輩が焦った口振りで言う。なんかごめんなさい。


「今から俺がお前らを護衛しながらシェルターに向かう。まずは学校の裏口から外に出るぞ」


外に出る。そんなことしたら多分アイツらに襲われる。教頭のようになってしまう。嫌だ。そんなの嫌だよ。


「あの、ここにいたらダメなんすか?」


私の気持ちを代弁するように野村くんが聞いた。でも、返ってきた答えは絶望的だった。


「今教師達が足止めしてくれてるけど、それも時間の問題だ。じきに校舎の中にヤツラが入ってくる。そうなったら終わりだ。教室の中に入って鍵を閉めようと何しようとお構い無しにヤツラは扉を破壊して襲い掛かってくる。だからシェルターに逃げるんだ。少しでも生存率を上げる為に」


まるで、全員は生き残れないというような言い方だ。でも、この言葉を聞いても尚ここにいたいとは思えなかった。

私は覚悟を決めようとしたけど、やっぱり怖い。怖いものは怖いよ。


「よし、行くぞ」


先輩の声を聞いて、皆は歩き出す。私も行かなきゃいけないのに、足が前に進まない。早くしないと皆に迷惑がかかる。早く、早くしないと。


「大丈夫だよ、きっと皆助かる」


この優しい声は穂乃花だ。いつも静かにしてるから皆は知らない、穂乃花がとっても優しいってこと。穂乃花は私が困ってる時は助けてくれる。今もこうして助けてくれた。


「ありがと! 穂乃花のおかげで前に進める」


穂乃花は恥ずかしそうに顔を赤くした。かわいい。

やっぱりこんな状況でもポジティブに考えたほうが良いな。じゃないと気が持たないよ。



学校の裏口に続く廊下。今は使われてない教室。ちょっと汚い天井。いつも見てる景色のはずなのに、今日はちょっと違うように見える。壁の染みがなんだか恐ろしい。

もう行くしかない。

行くんだ。

そして、皆で生きるんだ。

色々考えてるうちに裏口の扉の前まで来た。


「俺がお前らを全力で守る。でも、もし誰かやられても絶対に振り向くな。走り続けろ」


先輩が言った。その言葉で空気は変わる。「誰かやられても」って、「誰か殺られても」ってことかな。教頭が殺されるのを見たから、そう思うのだろう。死が目の前にある、そんな感じがした。



「走れ! 俺についてこい!」


先輩の大きな声と供に扉が開く。



ダダダダダダダダダ と靴音を響かせながら



皆は走り出す。


私は穂乃花と一緒に一番最後に扉を出た。



あっ......



扉を出てすぐのところで



保健室の先生が倒れていた。

沢山血が出てる。

多分、死んでる。


私はドジだからすぐ転ぶ。怪我をしては保健室に行っていた。先生はいつも

「次は転ばないようにね」

と言ってシップを貼ってくれる。ニッコリと微笑みながら。

急にその笑顔を思い出した。

悲しくて涙が出たけど、でも、止まっちゃダメなんだ。走り続けなくちゃ。今は自分の命を守らないと。


バン!


先輩が銃みたいなのを使った。


はっとして周りを見ると空から降ってきた人達が一斉にこっちへ走ってきている。少し遅いけどちょっとでも気を抜いたら追いつかれそうだ。


走る。


走る。


息があがっても、とにかく走る。止まったら終わりなんだ。止まったら死んじゃうんだ。


よしっ! 裏門を抜けた! とりあえず学校の敷地からは出ることができた。皆生きてる。皆生きてる。

まだアイツらは追いかけてきてるけど、この調子ならいける!


よくお参りに来ている神社を通り越し、私達は麦畑の真ん中に通っている道を駆けていく。

真っ直ぐ、迷わずに駆けていく。

後ろからはヤツラが鬱陶しく速度を落とさずに走ってくる。

負けるもんか。

私達だって速度を落とすつもりはない。

このままシェルターまで駆け抜ける。


急にゆいが心配になった。もしゆいが同じ状況におかれているとしたら。ゆいはずっと走り続けることなんてできない。多分すぐに追いつかれる。追いつかれたら、

いや、大丈夫だ。ゆいには先輩達が三人もついてる。ゆいの好きな水上先輩もいるし、きっと大丈夫。何かあれば守ってくれるはず。



「ねぇ、アレ」



穂乃花の声で気がついた。


「う...そ......」


嘘じゃない。現実。嘘だと思いたいような現実だ。


考えもしなかった状況に困惑した。


何で考えもしなかったのか、自分が憎い。


後ろにいる敵から逃げ続ければ良い。そう思っていた。







前方から100人以上の「ヤツラ」がこっちに向かってくる。


少しだけ遅く。


次回も上田三里の視点で描きます。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ