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予兆と練習と月明かりと

「えっ」


久しぶりに見る「それ」はすぐに立ち上がり、私達に向かって走ってきた。


「三里ちゃん!」


「うん、わかってる」


私達はすぐにジーションを取り出し、狙いを定めた。


まだだ。まだ届かない。



まだ。



まだ。




「今だ!」


私のかけ声と供に、私達二人は引き金を引く。銃声が響き渡り、「それ」は倒れる。

10分が経ち灰になるのを確認すると、私達は田中先生の家に向かった。



本堂に行った日の帰り、空から1体のダーヴァが降ってきたのだ。









その日の夜、学校で島民全員が参加する緊急集会が開かれた。


「本日午後2時頃、水平寺付近に1体のダーヴァが落下した」


田中指令の言葉を聞き、皆が慌て始める。無理もないよ、私達だって本当にびっくりしたんだから。

続けて田中指令は言った。


「私はこれが予兆ではないかと思っている」


島民はもうパニック状態だ。あちこちから不安そうな声が聞こえてくる。


「危険を避ける為、大人達は今夜からシェルターに避難してもらう。その際は持っていけるだけの食料を持参してくれ。いつまでシェルターで生活することになるのかわからないからな」


田中指令の判断は正しい。私もそれが最善だと思う。


「それから、シェルターの食料庫に保管してある物にはまだ手をつけないで欲しい。あそこにある物を食べる時、それは本当にどうしようもなくなった時だ」


え? 食料庫とかあるの? 私はその事を全く知らなかった。でも皆は知ってたのかな? 私だけ知らなかったりして......






「じゃあね、お母さん」


私がそう言うと、お母さんは心配そうな顔で私を見つめてくる。そんなに見つめられるとなんだか恥ずかしい。


「気を付けてね、ゆい」


「うん、お母さんも」


私はお母さんが見えなくなるまで見送り続けた。

大人達は早々にシェルターに向かわされ、学校にはいつものメンバーと田中指令だけが残っている。

田中指令は言う。


「水上ゆうじ、中谷春木、赤坂優奈、野村明、上田三里、神田ゆい、お前達には今から校庭でジーションの練習を行ってもらう。最後になるかもしれない練習を」


指令の言う通りだ。本当にこれが最後になるかもしれない。気を引き締めていこう。


そう言えばさっき穂乃花さんが彼女のお母さんと歩いていくのを見た。

久しぶりに穂乃花さんの姿を見た気がする。1年前よりもだいぶ痩せていて、髪はボサボサだった。

本当は一緒に練習したかったけど、それは仕方のないことだ。

だって穂乃花さんは私の知らないところで大変な思いをしたんだから。

私は先輩におぶってもらったけど、彼女は自分の足で逃げたんだ。

目の前で友達がたくさん死んでいったんだ。

だからそれは、仕方のないこと。






「それでは、始め!」


練習はいつも通り、田中指令の勇ましい声によって幕を開ける。

私はこの1年練習をしてきて、ロボットの動きには様々なパターンがあることを知った。今回の練習でロボット達が見せた動きは、その中でもレアなパターンだった。


一人の人へ集中的に攻撃をし続けるパターン


ターゲットにされたのは水上先輩だ。しかしロボットは馬鹿だなぁと私は思った。よりにもよって水上先輩を狙うなんて。


30体のロボットが一斉に水上先輩に襲い掛かる。水上先輩とロボット達の距離が10メートルぐらいになったところでヤツラは飛び上がった。上から迫りくるロボット達に先輩はジーションを向ける。



「あれ?」



私は間抜けな声を出してしまった。だって、空中にいたはずの30体のロボットの半数が、一瞬にして地面に落ちていったのだから。

一体何が起こったのか、呆然と立ち尽くしていたが、数秒遅れて頭が追いついた。

先輩は自分の体とロボット達が接触するまでの僅かな時間で、約15体のロボットを撃っていたのだ。


「どんだけ撃つスピード速いのよ......」


さすがの優奈先輩も、これには目を丸くしていた。

本当にすごい。ここまでくるともう神業だ。


しかし残りの半分は水上先輩の体に覆い被さるようにして飛びついた。積み重なるロボットによって、先輩の姿が見えない。


ガンガンガンっ


ロボットの塊と化した場所から、打撃音が聞こえてくる。これはジーションを撃つ音ではない。先輩がロボット達に攻撃されてるんだ。


「リ、リンチにされてる」


三里ちゃんが呟いた。たしかに今の状況ではその言葉が適切だ。

私達は助けようとしてジーションをロボットに向ける。すると、


「撃つなぁ!」


と田中指令が怒鳴ってきた。いや、意味がわからないんだけど。


「今は水上に任せてみよう」


田中指令はそう言った。どうやらこの機会に水上先輩の力量を測るみたいだ。

しかしそのリンチの状態は10分以上続いた。


「あれ、ヤバくないか?」


野村くんが眉をひそめて話しかけてきた。


「うん、ちょっと普通じゃないかも」


私が答えると、野村くんは更に眉をひそめる。

心配だ。今までこんなことは無かったし、いくら相手がロボットだとしてもこの状況は危険すぎる。もし今先輩が怪我をして、ダーヴァが襲来した時に戦えなくなったら意味が無いし。

私が田中指令に話しかける前に、中谷先輩が声を上げた。


「指令、練習を一度中止して下さい!」


しかし田中指令は頑なだった。


「ダメだ。練習はこのまま続ける。そしてお前達は何もするな」


無茶苦茶だ。この人ヤバイよ。状況を判断した上で言ってるのかな? だとしたら余計にヤバイよ。

これ以上は見てられない。あと1分経ってもこの状況が続くなら、ジーションを使おう。

私が決意したその瞬間、



バコォオオンン



と、大きな音が鳴り響いた。その音が鳴ったのと同時に6体のロボットが宙に舞い、ロボットの塊の中から水上先輩が現れた。


「水上先輩!」


また声を出してしまった。なんか嬉しくなっちゃって。

先輩の手元を見ると、そこには先程まで使っていたジーション006が無かった。


落としたのかな?

じゃあ今どうやって6体のロボットを吹っ飛ばしたんだろう。


私が考え込んでいると、先輩はガッと1体のロボットを掴む。

え......

そのまま先輩はロボットを投げ飛ばした。

えぇ......

今度は先輩はロボットの足を掴んだ。そのロボットは暴れているけど、先輩はガッシリ掴んで離さない。

また投げ飛ばすのかと思ったその時、先輩は驚きの行動に出た。



「.........」



言葉が出ない。先輩はそのロボットを振り回して周りにいるロボット達を攻撃しているのだ。

ジーションを使って攻撃することしか考えていなかった私にとって、その戦い方は荒々しくも新鮮である。


先輩はそのまま8体のロボットを倒した。残るはあと1体。その1体は先輩が足を掴んでいたヤツだ。


「ありがとな」


先輩はロボットにそう告げると、思いっきり遠くの方にぶん投げた。


水上先輩は異常だ。一人で全部倒してしまうなんて。強すぎる。しかもあんな戦い方で。


「水上無双、面白かったぜ」


中谷先輩が笑いながら言うと、


「何だよそれ」


そう言って水上先輩は少しだけ笑った。

その後も練習を4回行った。さすがにその4回は私達も参加しました。









練習が終わり、私達は学校に泊まることになった。

なぜ学校に泊まるのか、それは、私達に島を守るという使命があるからだ。大人達と一緒にシェルターへ避難することは許されない。それはこの場所にいる全員が納得している。


「もう真っ暗になっちゃったね」


「うん、でも月が綺麗に光ってるよ」


私の返答を聞くと、三里ちゃんはニヤリとする。私変なこと言ったかな?


「ゆい、もしかして私に告白してる?」


なるほどね、そういうことか。月が綺麗なんて言ったから。


「下らないこと言ってないで、もう寝なさい」


私はそう言って三里ちゃんの背中を押した。


「ゆいはロマンチストなのかと思って」


三里ちゃんは更に煽ってきたので、私は無視することにした。これ以上は付き合ってられないもん。

そのまま背中を押し続け、教室に敷いた布団の上まで誘導する。


「じゃあゆい、しっかり見張っててよ」


「うん、任せて」


私は最後にそう言うと、静かに教室を出た。

ふぅ、やっと布団についてくれた。三里ちゃんは学校に泊まることが嬉しいらしく、さっきまでずっとはしゃいでいたのだ。少し相手をするのが面倒臭く感じてしまった。


私達はダーヴァの襲来に備えて、2時間ごとに2人ずつ交代で見張ることになっている。

最初に見張りをするのは私と水上先輩。これは田中指令が決めた。

私はこのチャンスを活かして先輩と仲直りするつもりだ。別に喧嘩してる訳じゃないけど、でもなんかギクシャクしてたから、どうしても仲直りしたい。




見張りをする場所は校庭。私が外に出ると、水上先輩は既に校庭の真ん中に立っていた。先輩はじっと空を見つめている。


「先輩!」


私が声をかけると、先輩は一瞬だけこっちを見て、また空に向き直した。

やっぱ冷たいよなぁ。どことなく。

私は先輩の隣に駆け寄った。


「先輩、今日の練習すごかったですね」


「何が?」


「いや、あの、水上先輩の戦い方が」


それを聞くと、先輩は不思議そうな顔をする。何か疑問な点があったのだろうか。


「俺、普通に戦ってたと思うけど」


いやいやいや、普通じゃないって。むしろ異常に戦ってたと思いますけど。


「だって、ロボット振り回してたじゃないですか」


私の言葉を聞くと、先輩は静かに答える。


「あぁ、うん」






月明かりが、無口な先輩を照らしている。



え?


終わり?


もうこの会話終わり?



悲しい。悲しいよ。私多分嫌われてるよ。何となく、何となくわかってたけどさ。現実を突きつけられたみたいで辛いよぉ。


最悪だ。


私ってイタい女。嫌われてるのに仲直りだなんて。


思い上がってんじゃねぇよ! 私!


何だよ、このチャンスを活かして仲直りって。笑うわ。自分でも笑えてきたわ。



てかそんなことより見張りの方が大事だろ!


真面目にやれよ! 私!



なんか惨めになってきた。


そんな私をよそに、先輩は空を見つめている。

でもこれが普通なんだよね。私達は見張りをしてるんだから。


私も集中して見張ろう。島の皆の命を預かってる、責任重大だ。



それから1時間が経った。



うん、気不味い。ヤバイくらいに気不味い。

少しは会話した方が良いのかな? いや、でも、さっきあんなに塩対応だった訳で。う~ん。




「ゆい、ごめん」


え?


「本当に、ごめん」


突然、予想外の台詞が水上先輩の口からこぼれた。さっきまで無口だったのに、もう意味がわからない。


「俺、自分の感情がグチャグチャになってて、それで心を閉ざしてた」


先輩は空を見ていない。私の目を見ていた。


「ゆいの友達も助けることができなくて、それが申し訳なくて。ゆいと顔を合わせずらかったんだ」


私は先輩がそんなことを思っていたなんて知らなかった。驚きすぎて、開いた口がふさがらない。


「ゆいは何度も話しかけてきてくれたのに、俺はお前のこと避けてた。ゆいを悲しませた俺を許せなくて、そんな自分勝手な理由で距離を置いてた」


そんな、うそ......

先輩は私のことが嫌いなんじゃ........


「ずっと謝りたいと思ってて、でも、勇気がなくて。今やっと言えた。ごめん。今まで冷たくしていてごめん。ゆいの友達を救えなくて、ごめん」


先輩はまだ私の目を見つめている。

そんなに見ないで欲しい。涙が溜まっているのがバレてしまう。


「私、ずっと先輩に嫌われてると思ってた」


「そんな訳ないだろ、俺はずっとゆいのこと......」


そこまで言うと先輩は顔を赤くした。なんか私も恥ずかしくなってきたよ。


「あの、私からも謝らせて下さい」


私がそう言うと、先輩はまた不思議そうな顔をする。


「何でゆいが謝るんだよ?」


「それは秘密です」


私は大きく息を吸い込むと、今までの鬱憤を晴らすように声を出した。



「ごめんなさい!!!」



あー、スッキリした。そう思った途端、溜まっていた涙が溢れだしてくる。カッコ悪いな、私。


その後私達は久しぶりにたくさん話をした。お互い自分の感情を全てさらけ出した。

楽しいな。

やっぱり水上先輩と話していると楽しい。

一緒にいると楽しい。

私はこの人のことが好きなんだなって、改めて思った。


「先輩、何でさっきあんなに塩対応だったんですか?」


「あの時はまだ、覚悟が決まってなくて」


「男の人って面倒臭いんですね」


「ごめんごめん」


先輩は笑っている。1年前と同じ笑顔で。私と一緒に笑っている。




「仲直りしたかったのは私だけじゃなかったのか」




あっ。ヤバイ。緊張が解けてつい口に出してしまった。言うつもりじゃなかったのに、恥ずかしい......


「何か言った?」


どうやら先輩には聞こえていなかったみたいだ。

ちょっと残念。

別に聞こえていても良かったのに。


「何でもありませーん」


私は意地悪そうに、先輩の目をまっすぐ見つめて言った。


月明かりが私達2人を照らしている。

ずっと気がかりだった雲はもうない。

だから雨が降ることも、もうない気がする。

今夜の月は、私達の心を明るく照らしているんだ。












ちなみに水上先輩から聞いた話によると、最初の練習で聞こえてきた「ガンガンガンっ」という音は、先輩がロボット達に攻撃されていた音ではないという。



では何の音だったのか......



それは、なんと、水上先輩がロボットを素手で殴っていた音だったのだ。

そう考えると、先輩は10分以上の間ロボットを殴り続けていたことになる。


その様子を想像すると、かなり恐ろしいです。














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