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銭湯に行こう!

個人的に銭湯は好きです。

やっと、やっと終わった。

2時間にも及ぶ過酷な練習が、ついに終わった。


「つかれたぁー」


つい声に出してしまう。だって疲れたんだもん。


「私はもう1セットはいけるな」


三里ちゃんはどや顔で言ってるけど、無理です、さすがに。


今日はいつもより練習時間が長かったから、夕日は沈んで、オレンジ色の海は拝めないな。

私が少しガッカリしていると、三里ちゃんが言った。


「ゆい、銭湯に行こう!」


「もちろん!」


私は0.2秒で答えた。そりゃ行きますよ。だって銭湯だもん。




私は家に着くと、素早く着替えとタオルを鞄に入れる。


「あら? どこ行くの?」


玄関でスニーカーを履いていると、お母さんが聞いてきた。


「銭湯!」


「ならお母さんも行く!」


そんな訳で、お母さんも銭湯に行くことになりました。




あ、いたいた。

「大和湯」と大きく書かれた看板の下にはツインテールのかわいい女の子が立っている。別人かとも思ったけど、やっぱりアレは三里ちゃんだ。


「あ~、かわいー!!!」


私よりも先にお母さんが三里ちゃんに飛びついていった。目の前に来ると両手をバッと広げて抱きしめる。三里ちゃん、苦しそう......


「その髪型、似合ってるよ」


私が言うと、三里ちゃんはニコッとした。毎回こういう笑顔がかわいいと思ってたけど、今日のは段違い。何故なら彼女がツインテールだから!




それはさて置き、私達は「大和湯」の扉を開けた。


ガラガラガラガラー


「いらっしゃい」


その優しめハスキーボイスの声の主は、大山菊江さん。

見た目からは想像できない御年91歳のオバアちゃんだ。いやー、見る度に思うけど、この人すごいなー。

生命力に溢れてる。ピンピンしてる。まだまだ現役って感じ。見てるだけで元気もらえます。


「久しぶりに来たね。3名様で良いかい?」


「いや、4名様で!」


この声は......


後ろを振り向くと、優奈先輩が仁王立ちしていた。なんか恐いな。見てるだけで怯えます。




私達は4人全員大人料金で支払うと、「女」と書かれた赤い布をくぐって脱衣室に向かった。


「ゆい、胸大きくなった?」


上の服を脱いだ瞬間、三里ちゃんに言われた。いや、ちょっと不意打ちすぎ。


「ゆい赤くなってる~」


三里ちゃんはニヤニヤしてる。 あー、もう!


三里ちゃんも上の服を脱いだ。


いや、ん?


いやいやいや。


「三里ちゃんの方が、遥かに大きいけどね」


「えー? それほどでも、ある? かな?」


三里ちゃん、嬉しそうだ。なんかズルい。三里ちゃんだけズルい。


ていうかさっきから後ろの方からブツブツ何か言ってるのが聞こえてくるんですけど。

私は何を言っているのか確かめる為、優奈先輩の隣に立った。



「大きくなれ大きくなれ大きくなれ大きくなれ大きくなれ大きくなれ大きくなれ大きくなれ大きくなれ大きくなれ大きくなれ大きくなれ大きくなれ大きくなれ大きくなれ大きくなれ大きくなれ大きくなれ大きくなれ大きくなれ」



ひぇ! 何言ってんのこの人、恐いんですけど、かなり恐いんですけど。


「あの~、どうされました?」


私は最大限の優しい声で尋ねた。


「大きくなれって念じてれば、二人みたいに胸が大きくなるんじゃないかと思って」


そんな訳あるかい! じゃなくて、今はフォローしてあげないと。


「先輩の胸だって、結構大きく」


ない! ないよ! いや全くないよ! あ、ヤバイ、喋り方変わってた。野村くんのようにイメージを崩す訳にはいかない。気を付けないと。


「優奈ちゃんだって、胸あるよ」


お母さんは先輩の傷ついた心を癒すように、優しく言った。それは私の最大限の優しい声を遥かに超えている。これなら先輩も、


「でも、でも」


「ん?」


「あなたが」


あっ、ヤバイ。ヤバイヤバイヤバイ。重要なことを忘れてた。それは、お母さんが


「あなたが一番大きいじゃないですか!」


お母さんの胸が一番大きいということだ。しかも若々しい胸。これ以上の表現は危ない気がするから避けるけど、とにかくお母さんが一番大きいのだ。


「ふふふっ」


お母さんは笑っている。うん、お母さんには敵わないな。




「うわっ、冷たっ」


浴場に入ったら、湯船に浸かる前に体を流す。これは基本。温度も調節して完全に油断しきっていた私にシャワーの水は容赦なく襲いかかってきた。

シャワーの水は最初は冷たい。これも基本だった......


ワシャワシャワシャワシャ!!!


うわっ、ちょっ、うわっ、


隣からめっちゃシャンプーの泡飛んでくるんだけど。

三里ちゃんだ。

あぁ、この癖まだ直ってなかったんだね。


三里ちゃんには頭を全力で洗う癖がある。どんな癖だよっ!? とつっこみたくもなるけど、そういう癖なのだ。将来的にも直した方が良いのは明白だよね。


ていうか後ろからまたブツブツ聞こえてくるんですけど。


「大きくなれ大きくなれ大きくなれ大きくなれ大きくなれ大きくなれ大きくなれ大きくなれ大きくなれ大きくなれ大きくなれ大きくなれ大きくなれ大きくなれ大きくなれ大きくなれ大きくなれ大きくなれ大きくなれ大きくなれ」


もういいよ! 勘弁してよ! しつこいよ! そもそも私こんなにつっこむキャラじゃないのに。誰か助けて。


「じゃあお母さん先に入ってるね」


ジャボーーーン!!!


はぁ、お母さんに先越されちゃった。私も早く入りたいよ。てか何でお母さん湯船に飛び込んでるの? それ一番やっちゃいけないヤツだよ。ある意味また一番だね、でももうしないでね私疲れたよ。疲れを癒す為に来たのに、めちゃくちゃ疲れたよ。




「よしっ!」


私は頭も体も洗い終わり、お風呂に入る準備ができた。

隣の人はまだシャンプーの泡を撒き散らしているけど、後ろの人はまだブツブツ言ってるけど、私は気にせずお母さんのいる方へ向かった。


つま先をお湯に浸けてみる。


うわ、熱い。


でもこの熱さが良いのだ。


さぁ、ゆっくりと、ゆっくりと入ろう。


浴槽の底に足がついた。


あとはしゃがむだけ。 よいしょっと。



うはぁーーー、最高!



全身に染み渡っていく。熱いけど、だんだん慣れてきた。


気持ち良い......


「こういう時間も、悪くないね」


お母さんが呟いた。悪くないどころじゃない。


「最高だよ!」


私が笑うと、お母さんも笑った。本当に良い時間だ。


ふと振り返ると、私とお母さんの後ろに大きな富士山の絵がそびえ立っていた。

立派だなぁ。

それに、とても綺麗な絵だ。細部までこだわって描かれている。なんと言っても富士山にかかっている白く透き通った雲が美しい。青空にもしっかりと溶け込んでる。


この絵を見るのも、もう3年ぶりくらいだ。もっと来れば良かったなぁ。こんなに良いところだってこと、忘れてしまっていた。


はぁ、気持ち良い。


「三里ちゃんダーイブッ!」



バッシャーーン!!!



だから飛び込まないでよ。マナー違反だよ、それ。


はぁ、疲れる。


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