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過酷な練習

学校に着くと、早速香菜ちゃんの声が聞こえてきた。


「お願いだから練習に参加させて下さい!」


「ダメだ」


太い声でそう答えたのは田中先生だ。いや、今は田中指令のほうが良いのかな。


「何でですか!?」


「小学生にできる練習じゃない」


「それ以外にも理由があるんですよね? 教えて下さい」


そう言われると、田中指令は一瞬困った顔をして黙りこんだ。

やっぱり教えられないことは沢山あるみたい。どうして教えられないんだろ、それさえも教えてくれないし......

しばらくの間、静寂が訪れていた。誰も口を開かない。私も今は声を出してはいけないような気がして、黙っていた。


「見学くらいなら、良いんじゃないですか?」


時が止まってしまったような、音のないこの空間を壊してくれたのは水上先輩だ。

先輩の言葉を聞くと、少女は全力でそれに便乗する。


「本当は参加したいけど、でも、見学で良いからここにいたいです」


うーん、と田中指令は考え込んでいる。うわぁ、めっちゃ考えてる。先生の考え込む姿はレアなので、私は見いってしまった。


「何もできないのは、嫌なんです......」


震える小さい儚げなその声が決定打になったのだろう。田中指令はわかった、と許可を出した。


「やったー!!!」


香菜ちゃんは喜びのあまり跳び跳ねている。こういう無邪気なところ、私の知ってる香菜ちゃんだ。



「ごめんなさい、遅くなりました」


そう言いながら正門から三里ちゃんが入ってくる。三里ちゃんは香菜ちゃんの姿を目に捉えると、少し怪訝そうな顔を浮かべた。

三里ちゃんは私のもとに駆け寄ってくるなり、


「あの子、どうなったの?」


と聞いてきた。その様子は、香菜ちゃんのことを心配してくれてるみたいだ。三里ちゃん優しいな。あんまりにも三里ちゃんが心配してるみたいだったから、私はすぐに教えてあげた。優しく、丁寧に。


「大丈夫、見学することになった。それに香菜ちゃんは強い子だから、そんなに心配することないよ」


それを聞くと、三里ちゃんはそっと胸を撫で下ろした。



外はもう暗くなりかけてる。けどこの時間に練習することに意味があるんだ。ダーヴァが前みたいに朝の明るい時に攻めてくるとは限らない。夜でも対応できるように、敢えて今やるのだ。転ばぬ先の杖的な? そんな感じ。


「お前ら集まれー」


田中指令が校庭の中央で叫んだ。さぁ、地獄の練習の始まりだ。本当の地獄を見ないために、今から必死に頑張ってくるのです。


「皆ジーションは持ってるな」


はい! と、私達は元気よく答える。


「よし、練習始め!」


あー、始まっちゃった。これから2時間も練習用のロボットと戦うんだ。考えただけで疲れてくるな......


ガガガガガガガ


校庭の隅に置かれていた人型の練習用ロボットが一斉に走り出した。あの日のダーヴァと同じ速度で。

それにしても凄い技術。ロボットが人のように足を動かして普通に走るなんて、どう考えても先進技術だ。このロボットについても、大人達は何も教えてくれない。お母さんに聞いても答えてくれなかった。


「ゆい、後ろ!」


「わかってます」


毎回優奈先輩は注意してくれるけど、わかってる。たしかに考え事はしてた、でも大丈夫なんだ。

1体のロボットが集団から外れて私の後ろに回り込んだことはちゃんと把握してる。


軽く息を吸って、私は体の向きは変えずに銃だけを後ろに向けた。

ふぅー、息を吐くタイミングと同時に引き金を引く。


バンッ


銃声が響き渡った3秒後、


ガガシャン


という音が私の後ろから聞こえてきた。後ろを向くと、ロボットは無惨に倒れている。とりあえず1体撃破。良い滑り出しだ。


「そういう撃ち方もできるようになったんだ、偉いじゃん」


優奈先輩が褒めてくれた。普段ダメ出しされてる分、たまにこうやって褒められると結構うれしい。


「おっ、来た来た」


優奈先輩はすぐに真剣な表情になって二挺のジーションを迫ってくる3体のロボットに向けた。カッコいいな。


バンバンバンッ


目にも止まらぬ速さで優奈先輩はロボットを倒す。うん、カッコいいです。


「う、うわぁっ」


遠くのほうから声がして、その方向に目をやると三里ちゃんが1体のロボットに飛び付かれている。


「うぅうっ、くっ」


三里ちゃんは呻き声をあげながらジタバタしてる。でもダメだ。全然離してくれない。私も何回も飛び付かれたことがあるけど、ああなるともう無理。自分の力だけでは引き離すことはできない。だからジーションを使う。

三里ちゃんは私と同じジーション002の銃口を飛び付いてるロボットに向けた。


バンッ


ナイス三里ちゃん! これで合計5体のロボットを倒せた。今日は中々良い調子だ。残りは25体、このままいけばすぐに終わるかも。


「見てな、俺の輝かしい活躍を!」


「はい! 頑張って下さい!」


野村くんの痛々しい言葉に香菜ちゃんは元気に答える。社交辞令もできるなんて、香菜ちゃんは良い子だよ。


「うぉおおお!!!」


バンッバンッバンッバンッバンッ


計5発、全て外した。ヤバイって、それは。さすがに。見てるこっちが恥ずかしくなってくる。


バンッバンッ


「クッソ、なんでだよ!」


あ~、また外してるよ。しかもそのセリフ。野村くんのイメージが崩れかねない。自身の為にももう止めてほしいんだけど......


「あんたには003はまだ早かったみたいね」


優奈先輩が厳しいことを言った。野村くん、ジーション003を使って良いって言われた時あんなに喜んでたのに。今の状況は色々と可哀相だ。


ふと見ると、ロボットが7体、重なるようにして倒れていた。

すごい。さすがに強すぎる。


「あと18体、気を抜くなよ!」


力強い声でそう言った水上先輩は、私達の中で一番強い。先輩と私達では圧倒的な差がある。1年前、既に最強だった先輩はこの1年でさらにレベルアップしたという。やっぱり先輩はすごい。勝てるところがないよ。


『強さを変更しました』


えぇ、もう? もう変更しちゃうの? 冗談きついなぁ......

強さが変更されると、ロボットが格段に強くなる。三里ちゃんから聞いた話に出てきたダーヴァくらい強くなってるらしい。いつもはもう少し数が減ってから変更されるのに。本当にきついなぁ。


ガガガガガガガ


まずさっきまでとは速さが全然違う。目に見えて違うよ。

うわっ、近っ。

だいぶ遠くにいたはずのロボットがもう目の前にいる。


バンッ


うん、やっぱり一発じゃ倒せないか。私は素早くなん歩か後ろに下がり


バンッバンッ


2回連続で引き金を引いた。ちゃんと当たってる。でもダメだ。倒れる素振りすら見せない。ちょっと強くなりすぎじゃない?


って、うわっ、ちょっ、ジャンプしてるし!


ってことは、飛び付いてくる。



ダンッダンッダンッ



私とロボットの体が接触する寸前、ジーション009の大きな弾丸がロボットに当たり、そいつはぶっ飛んで、ガゴォンという音を鳴らし地面に叩きつけられた。そのロボットは動かなくなった。


「危機一髪って感じかな」


私にそう言ってきたのはジーション009の使い手、中谷春木先輩だ。この先輩も本当に強い。ていうか先輩達は皆強いんだよなぁ。


「いや、危ないんで止めて下さい」


一応ね、一応言っておく。だって本当に危ないから。少しでもずれてたら私のあばらに直撃するところだった。直撃したら確実に何本かは折れる。そんなの嫌だ。



気がつくと私達はロボットに囲まれていた。いくら先輩達が強いからと言っても、ロボットが強くなったら当然状況も変わる。しかも今回は残りが多い状態で強さが変更された。みんな結構苦戦してるみたいだ。


「諦めるなぁ!」


水上先輩が叫んだ。その声を聞いて、私はまたあの日のことを思い返してしまった。でもそれは一瞬だけ。今は練習に集中しないと。


「行くぞぉ!!!」


今度は野村くんが叫ぶ。その勇ましいのかよく分からない声を合図に、みんな一斉に撃ち始めた。


ババババババババババ


思わず目を閉じてしまいそうになる、そんな物凄い音が鳴り始める。でも目を閉じたらダメだ。あの日とは違うんだ。


私はしっかりと前を見て、現実を見て戦い続けた。ジーションを使う手は何があっても止めなかった。皆もそうだ。全力で戦った。ロボットと。自分と。


バンッ


ガシャ、ガシャン


最後の1体を水上先輩が倒して、練習は終わった。今日は私も皆も、いつもより調子が良かったのかも。

なんか、達成感あるなぁ......


田中指令が言った。


「さぁ、もう2セットはやるぞ」


練習、終わってなかった。わかってたけど。


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― 新着の感想 ―
[一言] パニックSFはあまり読んだことがないので新鮮でした! 面白かったです!
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