どうせなら勇者になりたかった姉と、聖女さまになった引きこもりの妹 4
「うえうえうえうえ~い!やあ~っとこさ二人っきりになれたねぇえええ!!紗希!」
紗希が聖女として協力する代わりの対価として要求したものの一つ。こちらでの住まいをすぐに用意してもらい、細かい話はまた明日にということで、ひとまず解放してもらえた紗希と紗雪は各々のベッドへと腰を下ろす。
「なんか、数時間くらいだったと、思うんだけど、何日もいた、気分だね...」
「確かに~。もう、あの、神官サマ?エリオさんが死ぬほどうんちくさんだったね~」
ベッドにごろごろしながら先ほどのことを振り返る。
「うん、それも、だけど、姉さんが、急に、いやだとか、一緒に魔王討伐に行くとか、言い出してて、ハラハラして、心臓をすごく、使った気分...」
「あはは~。それは、ごめん。なんかさ、聖女なんだから、やって当然、出来て当然って体で話してくるのにイラっとしちゃって」
ごめんごめんと、笑いながら謝罪する紗雪に、もーう...しょうがないなぁ...と、盛大な溜息をつきながらもクスリと笑う紗希の表情は先ほどより緊張がとれたようで、心なしか明るい。
それを見て、紗雪も表情を明るくして紗希のベッドに乗り上げ抱きしめる。
「紗希ちゃんお疲れ様!!紗希ちゃんにしては沢山喋ったし、自分の意見も言えて偉かったねぇ~よしよしぃ」
ギュギュっと抱きしめながら偉い偉いと頭をなでると、恥ずかしそうに、けれど満更でもなさそうに、おとなしく頭をなでられる紗希が可愛くて可愛くて、更にさらに撫で続けた。
「いろいろ、心配事はあるけどさ、よく考えたらココって、私らが憧れてたファンタジーってやつの世界じゃん?楽しまなきゃ損って思ったんだよね!魔王討伐は多分生きるか死ぬかのやべぇ戦いになるとは思うんだけど、どうせ帰れないなら、それまでは思う存分楽しんでやろうじゃん!!」
「うん!それは、私も、思ったの...!聖女様ってのには、ピンと来ないけど、剣や、魔法があって、王様がいて、神様がいて、魔王様がいて、どっちかというと、勇者とか、出てきそうな、ゲームの世界っぽいけど、ちょっと、どきどき、するなって」
「あとは、エルフとかドワーフとか?妖精、ドラゴンに、魔法使い!って思ったけど、魔法は普通の世界なんだっけ。でも、魔法が凄い人も数えられるくらいしかいないっていうし、私の魔法特性ゼロですけど、剣術で紗希を守って見せるから期待してて!」
そう、紗雪の出した最後の条件は、紗希を守るために自分も魔王討伐に行かせる事と、そのために、紗希を守れるだけの剣術を、体術でも弓術でも、なんでもいいので、戦う術を教える事を、約束させたのだった。
それを聞いたエリオやヨシュア様は心底驚いていたが、最終的には聖女様の力が必要ということで、紗雪の条件をすべて飲んだのだった。
「剣術、も期待してるけど、無理、しないでね?姉さん、かっこいいし強いけど、私たちの世界での、生きる術って意味での強さだから...あと、女の、子、だし...ふふっ」
「それなー!って、また笑ってるよ~かんべんしてくれ~」
だって、思い出しただけで、ふふふふ...
突然思い出し笑いをする紗希に何とも言えない顔で苦笑する紗雪。
(楽しそうに笑う紗希ちゃんは可愛いからいいんだけどさー、もうほんと、久々すぎてこちとら気まずさとよくわからない罪悪感で複雑な気持ちなんだよ....。)
それは、先ほどの、数十分前に遡る。
「ユキ様、まず、一つ目の条件に関してはこちらとしても、何の知識も戦う術もないまま聖女様を討伐に向かわせる気は早々なかったため、異論ありません」
堅苦しい言葉遣い疲れないかな~と失礼なことを思いつつも、これは必ず飲むであろう条件だったため紗雪としても予想通りの反応だった。
「次に二つ目の条件ですが、此方の事情でこの世界へお呼びしているため、住居を御用意させて頂く事にも異論はありません」
(うんうんだよね。これも、予想通り。問題はこの次。聖女様と、凡人の私では、多分だけど身分が違う。そんな二人が同じところに住むわけにはいかないハズ。私に至ってはおまけだしな。もしかしたら、どっかで住み込みのタダ働きとかしろって言われそう。タダ働きは慣れてるからイイケド、紗希ちゃんと離そうもんなら大暴れしてやる)
大暴れ、なんて幼稚なことを考えながらも、エリオの次の言葉を待つ紗雪。
「ですが...住居は、聖女様には、此方の、王宮の一室に住んでもらうことになりますが、その、ユキ様には、別の、王宮住まいの騎士見習いたちと同じ、住居に住んで頂く事になるかと...」
ん?思ったより良いとこに住まわせていただけるようだが、そんなことでは納得するつもりはない紗雪はすぐさま否定の言葉を綴る。
「いや、紗希と私は絶対同じところに住むからな。それがダメなら、協力はしないし、元の世界に帰してくれ」
頑として譲らん!!という態度ででる紗雪に、エリオは圧倒されるが、ヨシュア様が助け舟を出す。
「ユキ様、あなたたちはどうやら兄妹のようだが、仮にも年頃の男女が同じ部屋にというのは、体裁が悪いというか、此方でも承諾しかねるのだ。譲歩してはくれないか」
心底申し訳なさそうに言うヨシュア様に、リベリオも賛同する。
「そうだぞ、凡人。いくら、聖女様の血縁だからと言って、婚姻前の男女が同じ部屋に住まうのは許されることではない。諦めろ」
「いやいや、まてまておまえら...」
そんな二人にうんうんと激しく頷くエリオと、あわてて仲裁に入ろうとするガストラ団長よりも先に、紗雪がそれはもう申し訳なさそうに割って入る。
「いや、本当に申し訳ない。そうだな、そういうことなら、今の今までのみんなの態度にも、そもそものこの私の服装にも合点が行く。いやいやいや、向こうでは間違えられることなんて中学生以来無かったからな、びっくりだよ。勘違いさせるような言葉遣いや振る舞いをした私が大いに悪いな。だがしかし、これはもしかして、もう一つ重大な勘違いもさせている気がする。なんだ、私はそんなに幼い言動をしているか?かっこいい大人な態度と振る舞いをしていないか?だって、大人かっこいいおねえちゃんだぞ!?この言い方だと年頃...高く見積もっても二十前半か?ああああああー!くそう!!大人かっこいい人間になりたい!!」
ぶつぶつと、捲し立てるように話し出す紗雪に、エリオ・ヨシュア・リベリオの三人はもちろん、離れたところで傍観していたセオルドまでもがポカーンと口を開けて紗雪を見つめていた。
「おまえさんら、気づいてなかったみたいだけどよ、この子、ユキ様は、女の子、だぜ?」
ただ一人、理解していた様子のガストラ団長が口を開くと、四人は更に理解できないような顔になる。
「団長。団長の冗談にはいつもいつも迷惑被っているが、この冗談は本当に笑えませんよ」
最初に口を開いたのは、リベリオだった。
しかし、それにすぐさま反応したのは当の本人の紗雪で
「いやいやいやいや、キミキミィ!!上司に対してその態度は無いよ!!というか、嘘じゃないからね!?私、女!!メス!!そうね、信じられないかもしれないけど、そうだ!!そこのキミィ!!ちょっといいかい!?」
「ふぁ!?ふぁいっ?!」
部屋の隅で待機していたメイドさん(仮)に声をかけ手招きすると、突然話しかけられたことに驚いたのか、変な返事をしながらも反射で素直にこちらへ来てくれた。
「いいかい?何をしてもいいから、私が女であるかを確かめてほしいんだ。頼むよ!さぁ!さぁ!」
「えええええー!?」
動揺しつつも、メイドさん(仮)は、ありとあらゆる可能性を考え紗雪自身を調べてくれた。
---結果
「エリオ様、その、ユキ様は、紛れもなく、女性でした...」
そう言ってすぐにまた部屋の隅へ下がるメイドさん(仮)と、ほらな!?と、自信満々の表情で振り返る紗雪に再び四人は絶句する。
「あ、えと。すみません?紛らわしいですよね、私。因みに言うと、年頃でも何でもないんですよね、私、もう二十八なんで」
ついでに年齢もばらしてしまうと、耐えられなくなったエリオがそれこそ土下座する勢いで頭を下げる。
「ももももももも申し訳ございません!!!な、なんて失礼なことを...!!!」
「え...?この、野生児みたいなやつが、女で、にじゅうはち??隊長よりも年上だと?」
「ユ、ユキ様!!大変失礼なことを...!!知らなかったとはいえ女性になんて失礼な事を!!」
「......(心底理解できない顔で固まる)」
みな、動揺を隠せない様子に、当人の紗雪は気まずいったらない。
(くそう。最近は中世的な人が増えたから間違われることもなくなってたんだけどな...この、間違われた側が気まずいのはどこの世界も一緒だな)
どう収集をつけようかと考えていると、くすくすと、小さな笑い声が聞こえた。その声に、皆がハッとして声の主を見つめた。
「ふふふ...さゆちゃんが、間違われるの、久しぶりだねぇ。私が、姉さんって、呼んでたのに、間違えられたのは初めてだねぇ。ふふふ...みんな、さっきまで、怖そうな人たちだなって、思ってたけど、反応が、私たちの世界の人と一緒で、おんなじ、人間なんだなぁって、思ったら、おかしくなっちゃった」
「紗希ちゃん...」
くすくすと、楽しそうに笑う紗希に、皆も緊張して気を張り詰めていたり動揺していたのに恥ずかしくなり、冷静になることが出来た。
何より、くすくすと、楽しそうに笑う紗希の笑顔が可愛くて可愛くて。
「食べちゃいたいよぉ」
と、まあ、そんなこともあり、なんとなく、このまま難しい話を続ける気にもならず、一度話は明日に持ち越しになったのだった。
「あの時は紗希ちゃんに助けられたよ、有難う。紗希ちゃんの可愛い可愛い笑顔であの場が和んだからね。本当に感謝です」
ははは~と、土下座する紗雪に「大げさだよ~」と笑う紗希はやっぱり可愛くて。
そのまま再び紗希に抱き着くと、掛け布団を引き上げ二人で包まる。
「さ、とりあえず、今日はもう寝よう!!ふっかふっかのおふとぅんで、充分に休んで明日に備えよーう!!」
「ふふふふ...そうだね、明日も、大変そうだもんね、」
二人はそのまま、布団に包まり、抱きしめあいながら、深い眠りについたのだった。
やっと、次の話で色々進むかな~と思います!!
次こそは三日後くらいには投稿できたらと思います。