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どうせなら勇者になりたかった姉と、聖女さまになった引きこもりの妹 1






 「「いっただっきまーす」」


  一人用と思われる卓袱台の前に二人の女性が座っており、その上に並べられているのは、本日のメインとなるカレーライス。それぞれ目の前に置かれたお皿の大きさはびっくりするくらい異なるものが置かれていた。

 一つは、直径二十センチ程の通常パスタやシチューなどにも使われるような皿の七分目辺りまで盛られたもの。もう一つは、直径三十センチ程のパーティなどで出されるような大皿の九分目超辺りまで盛られたものの二つである。

 小さい方のカレーの前に座っている女性は、混じりけのない真っ黒な髪色をしており、腰辺りまである長さの髪は綺麗に真っすぐなもので、前髪は少し長く、そこから除く少し自信のなさげな瞳の色もまた、混じりけのない黒い瞳だった。前髪のせいで表情が読めにくく年齢も分かりづらくもあるが、目の前の人物と話すときに時々はにかむ様に笑う様が幼く、未だ十代くらいではないかと思われる。

 もう一つの大皿に盛られたカレーの約半分をすでに平らげている女性は、髪色は全く同じだが、髪質が全く異なり肩辺りまである髪は外や内と、色んな方向にはねていて、それこそ爆発でも起きたか?というような位膨れ上がっており、こちらも前髪は長く、しかし意志の強そうな瞳は真っ黒だったが、キラキラと輝き光の反射で薄い茶色にも見えた。目の前の人物と話すときの表情は常に笑顔で、とても愛おしそうに見つめるその瞳は暖かく、見た目では三十を超えないくらいの年齢ではないかと思われた。


 「やっぱり、紗希の作るカレーは最高にうまい!!この、通常のカレーには入ってない茄子とほうれん草の組み合わせが最高にCOOLな味を出してるんだよねぇ~。茄子好きにはほんとたまらん!!」


 大根入りも好きなんだけど、やっぱり茄子ほう(本人的には通常の具材に茄子とほうれん草が入ったカレーの略称らしい)カレーが一番!と言いながらももうすでにあと少しで平らげてしまいそうだ。


 「そう言ってもらえるのは凄く嬉しい...私、料理だけは、割と、上手く出来て、怒られることは無かったんだけど、叔父さんが茄子嫌いで、これ作ったときに、二度と作るなって、凄い剣幕で怒られちゃって、私、茄子大好きだから、悲しくて、もう、作れないのかなって、思ってたから、紗雪ちゃ、姉さんに、作った時も、びくびくしてたんだけど、美味しいって言ってくれて、本当に、嬉しかったんだ、」


 紗希と呼ばれた女性は、たどたどしく、けれどしっかりとした発音で話し、姉と呼んだ女性、紗雪に対して嬉しそうに返した。


 二人は、それぞれ小学校・高校の入学式に両親を亡くし、父方の遠い親戚に引き取られたが、厄介がまれていたこともあり姉の紗雪は高校を卒業するなり一人暮らしを始め、妹が義務教育を終わると同時に一緒に暮らすためバイトに明け暮れた。

 一方妹の紗希は、もともとコミュニケーションが苦手で人見知りなのもあり、新しい学校で友達が出来ず、けれど姉がいたし、一人で図書室で本が読めるだけで幸せだったが、中学に上がりいじめの標的にされ引きこもるようになり、元々厄介がまれていた親戚の家の叔母さんから嫌味を言われることも多かったが、不登校になった自分が出来た姪だとは思っていなかったためその嫌味も甘んじて飲み込んでいた。

 その内に、何も言い返さない紗希に対して叔母はイラつくようになり、躾のためにではなく、叩かれるようになり、それが半年も続くと耐えられなくなり、迷惑だとは分かっていたが姉の住むアパートへ泣きながら逃げ込んだのだった。


 それから約四年。

 貧しい暮らしではあったが、二人でひっそり幸せに過ごしていた。


 「「ごちそうさまでした~!」」


 ほどなくして二人は夕食を食べ終わり、いつもの恒例の海外ドラマ又は洋画鑑賞会という名のデザートタイムに入ろうという時だった。


 「あ!!やばい、ごめん、今日急いでてお菓子買ってくるの忘れた...」


 そう言って、この世の終わりのように項垂れる紗雪を見て紗希は苦笑しつつ、姉の頭に手をそっと乗せて撫でる。


 「そんなの気にしないで?姉さん、いつも遅くまで、お仕事、頑張ってるでしょ?忘れちゃうのも当然だよ。むしろ、いつもいつもありがとう...」


 いつもの恒例の鑑賞会のお供がないというのに、怒りもせず労わってくれるとは...!!私の妹は何という天使!!!と、目を潤ませながら紗希を見上げると、抱きしめた。


 「有難う!!天使!!!!!それなら!今から!面倒かもしれないけど!コンビニにお菓子かケーキか、デザート買いに行こう!?」


 先ほどとは打って変わって目を輝かせながら有無を言わせぬ力で紗希を見つめる。

 そんな紗雪にしょうがないなぁと言う体でうなずくと、やったー!!と、万歳をして喜び、目にもとまらぬ速さで髪をセットし服を着替え靴を履いて玄関に仁王立ちして早く早くと目で訴えてくる紗雪。

 これでは、どちらが姉かと疑いたくもなるが、生まれてこの方これでなりたっているので、この姉妹としてはこれが普通のことだった。











 「ありがとうございました~!」


 深夜にしては元気のいい声に少し気分を良くしつつ、コンビニで好みのデザートを手にした二人は気分よく暗い夜の住宅街を歩いていた。


 「わー!紗希!!見てみて~、めっちゃ満月!!!」

 「ほんとだ~...凄い、綺麗だねぇ、」


 住宅街ではあるが、徒歩10分圏内にコンビニがあり、二人は今日に限らず散歩がてらよく行くことも多かった。

 その際、妹の紗希は、髪は綺麗なストレートで服装はふわりと広がるロングスカートに襟元が丸く袖が手首に近づくにつれふわりと広がるブラウスに普段使いの出来るバレエシューズと女性らしいものを着ることが多く・顔の作りも釣り気味の大きく丸い瞳に自信なさげに垂れた眉小さく引き結ばれた唇に真っ白な肌・すらりと伸びた細く長い手足のため、昼夜男女国籍問わず声をかけられることが多かったが、姉の紗雪がこれまた正反対に、肩まである髪は後ろで一つにまとめ前髪にボリュームを出しソフトリーゼント風にし服装はストレートジーンズにVネックシャツにデニムジャケットにハイカットワークブーツと男性の好むようなものを着ることが多く・顔の作りは垂れ気味の三白眼のような瞳に自信に満ち溢れているかのように吊り上がった眉と大きく上に向いた口元に健康的な肌の色・性別のわかりずらい凹凸も筋肉もない体系のため、見た目からは男性のような女性にも、女性のような男性にも見え、声のかけづらい容姿をしていた。


 そのため、深夜遅くに女性二人でとは、なかなかに危ない状況とも思えるのだが、二人一緒に出掛けて変な人物に声をかけられたりトラブルに遭うようなことは滅多になかった。

 だからこそ、周囲を注意深く見ることもしていなかったため‘それ’が突然出てきたものだったのか元々そこにあったものだったのかはわからなかった。


 「---ぅひゃっ?!」

 「!?---紗希っ!!!」


 短い悲鳴が聞こえ、紗希の少し前を歩いていた紗雪はすぐさま振り返り驚く。

 いつからあったのかわからないが、紗希の足元は真っ黒で大きく暗い穴があり、彼女はそこの中心におり、今まさに足元からその穴に落ちてしまうところだった。

 突然の状況に驚きつつも紗雪はすぐさま紗希の落ちようとしている穴に向かって飛び込んだ。

 紗希の手を掴む事に成功した紗雪は、全力を振り絞って紗希を自分の腕の中に引き寄せ抱きしめる。


 一瞬にしてその穴はふさがり二人は暗闇に包まれる。

 

 右も左も分からず、自分が落ちているのか浮いているのかさえ分からない。


 落ちている、あるいは浮いている、その速さは、ジェットコースターのように早くもあり止まっているような感覚でもある。


 その間、時間にしてどれくらいだったのかは分からない。


 突然、下の方から光が見え、自分が落ちていたのだと瞬時に理解しすぐさま妹を抱きしめた腕に力を籠める。決して離さないよう、また、万が一にも妹が怪我をしないようにと渾身の力で自分の背を下方向に変え来るであろう衝撃に備える。





















 ---ガッ、ドゴゴーン!!





 隕石がぶつかったような音と共に辺りは煙に包まれていた。


 「---っててて...」


 すさまじいその音にしては体に衝撃はほとんどなく、痛みは特になかったのだが、自然と痛みを訴えてしまう。


 「紗希?紗希ちゃん?大丈夫??生きてる?」

 「うーん...うん?紗雪ちゃ、お姉ちゃん、?うん、大、丈夫...?お姉ちゃんは?」

 「私?私も、何も?大丈夫かな?」


 腕の中の妹の、紗希の無事を確認しつつ、自分自身も所々何もないことを確認してニコリとほほ笑む。

 紗雪も紗希も、すさまじい音とは裏腹に、大きな怪我もなく、ちょっと周りの煙が煩わしいなと思う程度だった。


 (とはいえ、此処は一体?相当な高さから落ちてたような気がするんだけどなぁ...) 


 煙幕のせいで周りが煙以外全く見えず、どれくらいの高さから、どのような場所に落ちたのかは全く分からなかった。


 「---..は、---なのか、成功----」


 「---???」


 しかし、ざわざわと、何やら人の声と気配がして、何なのかを確認しようと二人は懸命に目を凝らして辺りを見回した。

 まもなくして煙が晴れ、周りが一望できるようになった。

 そこは、とてもキラキラと輝いていて、行ったことは無いが教会のような見た目をしていて、高い天井に沢山の窓、窓、窓。

 窓から入り込む太陽の光が大量で、室内を煌々と照らしていた。

 どうやらこの大きな建物?部屋は、紗雪と紗希を中心にして円形になっているようで、丁度二人の真後ろにあたるところに十数段の階段がありその先に高く大きな祭壇っぽいのがあるだけだった。

 そこには、真っ白なローブに真っ白で長方形のような長い帽子を頭につけ、まるで神官のような(但し、二人は神官を見たことが無いため、正しいかは分からないが)恰好の男性が一人立っていた。

 自分たちのいる場所から十数メートル離れたところに立っているため表情や顔つきはいまいち分からなかったが、酷く動揺した雰囲気が伝わってきた。


 「あんた...誰?ってか、ここドコデスカ??」


 全く状況が分からないが、このままここでじっとしていても何も始まらないと思い、妹を抱く力を込め、少し声を張り上げて謎の人物に声をかける。


 「?!喋ったぞ!!」

 「しかし、二人もいる。これは一体どちらが?」

 「記録とは違うぞ?!どうするのだ」


 神官さん(仮)に話しかけたつもりだったが、方々からざわざわと声が上がり始めた。


 (おおっとォ??よくわからんが、めちゃめちゃ人に囲まれていたようだぞ??そして、とても皆さん驚いていらっしゃる???なんだか、動物園のパンダにでもなった気分ー)


 と、呑気なことを思いながら辺りを改めて見渡すと、皆、見たこともないような服装で、それこそ祭壇(仮)のところにいた神官さん(仮)のような服の人や、全身鎧のようなものを纏って腰に剣をぶら下げたり背中に弓?っぽいものを背負っている人もいる。

 建物の壁が見えない程度には人がぎゅうぎゅうにおり、本当に動物園のパンダ状態だ。


 ふと、腕の中に意識を戻すと、妹が小刻みに震えていた。もともと、人の視線が苦手な彼女には、動物園のパンダ状態は相当答えるのであろう。今にも、失神してしまいそうな程顔色は真っ青だ。


 「ちょ、紗希?紗希ちゃん大丈夫?落ち着いて、大丈夫大丈夫!お姉ちゃんがここにいますよー」


 ゆっくりと体をゆすりながら声をかけるが、紗希には全く聞こえていないようだ。

 そんな様子が、周りにも分かったのであろう。恐る恐るではあるが、騎士っぽい人が一人近づいてきた。

 それに気づき、警戒しながらゆっくり後ずさり目を離さない紗雪。


 「ヨシュア様!!その、髪の長い方の女性から聖女の力を強く感じます!聖女はそちらの女性かと思われます!!」


 突然、神官さん(仮)が叫んだ。

 その瞬間に周りの空気が変わり、皆の視線や意識が全て紗希に集中した。

 皆がじりじりと寄ってくる中、一番近くにいた騎士さん(仮)が紗希に手を伸ばす。

 野生の勘か本能か、捕まったらやばいと感じた紗雪は、騎士さん(仮)の懐に自ら入り込み剣の柄に手をかけ勢いよく引き抜いた。


 「紗希に触れたら切る」


 騎士さん(仮)の喉元に刃を向け威嚇する。

 すぐに周りがざわつき臨戦体制になる。


 「まて。あなたたちを傷つけるつもりはない。ただ、そちらの女性が私達の探し求めていた人かもしれないから、こちらへ預けてほしいだけだ」


 騎士さん(仮)は、動じることなく、ゆっくりと優しく声をかける。


 「事情は分からんが紗希に触るんじゃねぇって言ってるでしょーが!!」


 そもそもワケの分からん所にいて、動物園のパンダ状態で、紗希は軽くパニックになっていて、イライラしていた紗雪は問答無用!!とばかりに騎士さん(仮)に向けて剣を振り下ろす。


 ---キィイィィイイイイイン


 「!?」

 「貴様、隊長に何をする」


 ものすごい速さで一人の少年?が紗雪と騎士さん(仮)の間に割って入った。

 片手で全力で振り下ろしたため、少年?に同じく剣で受け止められた勢いで紗雪の剣は弾き飛ばされた。


 「それはこっちのセリフなんですけど!?突然穴に落ちたと思ったら動物園のパンダ状態だし!?そのせいで妹は半パニック状態だし!?傷つけようが傷つけまいがワケわからん内は妹に指一本触れさせねぇかんね!?」


 すぐさま紗希を横抱きして後ろに引く紗雪。

 一歩でも近づけばとびかからん勢いの紗雪に、騎士さん(仮)と同じく騎士っぽい恰好の少年?はじりじりと距離を詰める。


 「本当に傷つける気はないんだ。少し確認させてもらいたいだけだ。ほんの少しの間だけでいい、そちらの女性、君の妹さん?を、こちらに預けてはくれないか」


 騎士さん(仮)は優しそうな、安心させるような笑顔で紗雪に近づくが、紗雪の警戒は一向に解けず、近づいた分だけ一歩ずつ離れていく。


 「...安心させたいのなら、その、警戒?殺気?を消せって言ってるんだよっと!!!」


 そう叫ぶと同時に、しゃがみ込み、左足を軸に体重をかけ後ろへ半回転して勢いよく走りだす。


 「!?何っ?!」


 後ろからゆっくりと近づいていた他の騎士さん(仮)は紗雪が突然しゃがみこんだせいで不意を突かれ追いかけるのに一瞬出遅れる。

 紗雪がしゃがみ込むと同時に、笑顔の方の騎士(仮)さんは駆け出しており、後ろの騎士(仮)さんをものすごい速さで追い越した。

 そんな人物から、人一人抱えた状態で逃げ切ることは出来ず、紗雪はすぐさま取り押さえられ紗希と引き離されそうになるが、死に物狂いで紗希を抱きしめる腕を強めて抵抗する。

 そこに、先ほど何やら紗希のことをせいじょ?と呼んでいた神官さん(仮)が紗雪と紗希の前に立つと、何かを唱え始め、紗雪は相手を殺すような視線でにらみつけるが、突然目の前がぐらつき、意識が持っていかれる、と思った時にはすでに地面へと倒れていた。


 (な、んだよ...くそっ、紗希ちゃ)


 紗雪は、何の前触れもなく地面へと倒れこみ、意識を失った。

 それを目の前でまるでスローモーションの様に見届けた紗希は、更にパニックになった。


 「え...姉さん...?おねえちゃん?ねえ、おねえちゃん?なんで...?おねえちゃ...紗雪ちゃ...

さゆちゃん!!!」


 紗雪の意識が無いことを確認した紗希は、青ざめ、真っ白い顔で叫びだす。

 その様子に慌てた神官さん(仮)は、落ち着かせるように紗希の肩に手を置く。


 「聖女さま、申し訳御座いません。この者が抵抗する故に一時眠っていただきました」


 さあ、こちらへ、と、手を差し伸べる。

 が、その手を払いのけ、神官さん(仮)と騎士さん(仮)達を睨みつけ叫んだ。


 「触らないでっ!!!」

 「!?」


 そう叫んだ瞬間、紗希を中心に突風が吹き、周りの人間が吹き飛んだ。

 そこに、また新たな人物が飛び出してきたかと思うと同時に紗希の目の前に来て短く何かを唱え、両手を思いきり合わせた。


 ---パァァァァン!!!


 ものすごい音がその建物一面に響いたかと思うと、紗希はそのまま意識を手放した。

 最後に見たのは、漆黒のような髪に、真っ赤に光る瞳だった。


























召喚されるまでも召喚されてからもなかなか進まなくて、申し訳ない気持ちでいっぱいです。

何より、この姉妹、勝手に抵抗しまくってくれるので話が進まない(笑)

次の話では、(仮)の方々の名前がちゃんと出ますので、お待ちくださいませ

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