『第九話 仲間』
◇ ◇ ◇
◇イーストメトロポリス・不良の集会場
街を歩いていた不良の子分を捕まえたタイガは、土橋ゴウ、雷鵬セイヤ、氷室ジンが集まる不良の集会場まで案内をさせる。大通りから外れた薄暗い路地裏を進んでいくと、廃れて使われなくなったスクラップ置き場があった。さらにその奥まった場所には不良の隠れ家のようなアジトの前に辿り着く。
「どうやら話があるようで炎堂タイガを連れてきました」
案内をした不良が入り口を覆う大きな布の前で中にいる人間に呼びかける。すると、中から低い声で「入れ」と合図の声が聞こえてきた。布をかき分け中に脚を踏み込むと、そこにはテーブルを囲むように4つの古びた大きなソファがあり、それぞれソファに座る目当ての三人の姿があった。
「ヨォッ野良犬!このあいだは悪かったな!!」
そう最初に話しかけてきたのはセイヤだった。気にしていないと軽く手を挙げると、空いているソファへ腰かけるよう促される。タイガが席に座ると、すぐさま単刀直入にゴウが口を開いた。
「それで……何の用だ?」
ソファに浅く腰をかけたタイガは神妙な面持ちでゆっくりと話しはじめる。
「お前たちに頼みがあってここに来た……」
「ほぅ、頼みとは何だ?」
「実は……お前らに襲われたあの日――」
既に勝負の決まっていた試合で親友の風間レンがエリック・カミールからうけた残虐な仕打ち。
病院へ運ばれたレンが一命を取り留めたもののいつ目覚めるかわからない植物人間になってしまったこと。
加害者であるエリックに復讐をするためにはRAISE FLAGへ出場するしかないということ。
しかし現状の代表候補者のレベルじゃ到底フランチェスとの試合まで勝ちあがるのが難しいこと。
そのため3人に一緒にRAISE FLAGに出場してほしいと考えていること。
真剣な眼差しでことの一部始終を語り聞かせるタイガの言葉に、3人は静かに耳を傾ける。
当時のことを思い出し怒りでワナワナと震えるタイガは、拳をポケットに突っ込むと、取り出したなけなしの小銭を机の上に置く。そして急に席を立ちあがると、ソファのすぐ脇の地べたに正座をした。
バッ
両腕を目の前の地面に突き出す。
「頼むッ、俺に力を貸してくれッ……!」
目の前の3人にとっては何のメリットもないことは重々理解している。そして貧乏で何も持たない自分が提供できるものなどほとんどない。しかし、それでも親友の仇を討つため何とか協力してほしい……そう願うタイガは誠心誠意土下座をしていた。
「………………………………………」
しばしの間流れる沈黙。まさかと思われるタイガの姿を目の当たりにした3人は言葉を失っていた。
そのまましばらくのあいだ時間がたつと、
「……分かったから、顔上げろや」
普段であれば人に頭を下げることなど決してありえない野良犬の姿に、驚きと覚悟を感じたゴウが観念したように言葉をかける。
「まぁ、イーストメトロポリスがナメられっぱなしじゃいられねぇよなッ!!」
同じくタイガの姿勢に決意を固めたセイヤも、腕が鳴るぜと気合十分にニシシッと笑う。
「先日の件の借りもある……良いだろう」
静かに状況を見守っていたセイヤも、タイガの姿に心を打たれ、静かに言葉を返す。
「すまん……ありがてぇ……」
3人の義理と恩義を感じる言葉に目を潤ませ唇を噛みしめながら礼を言うタイガ。
「決まりだな!それじゃぁいっちょやるか!!」
そう溌剌とゴウが声を張ると和やかな雰囲気に包まれる。
ここに4名の固い約束が結ばれた瞬間であった。
「ところで、E-GEARはどうすんだ?」
そこにセイヤが水を差すように素朴な疑問を投げかける。
「あ……」
「エッ?」
「ん…?」
「おっ?」
4人の間にまたしても沈黙が走る。
「まぁ買うしかねぇか……で、いくらするんだ?」
「確か金貨50枚くらいじゃネ?」
「金貨50枚!?そんな金ねぇぞッ!!ってか高くねぇか!!」
タイガはセイヤから聞いた想定外に高い金額に驚く。
「精密機械だぜ、それぐらいは普通すんだろ。」
それに対しゴウが当たり前だろと返事を返した。
「まじか……どうする……こうなったらかっぱらうしかねぇか……」
窮地に陥ったタイガは苦肉の策を提案するも、はぁ~っとため息をつくレンがそんなことはやめろと助言をする。
「万が一バレたらRAISE FLAGへの出場権が剥奪されるぞ。確か街外れにE-GEARを生産している鉄工場があったはずだ」
その言葉にピーンッときたセイヤが食い入るように反応する。
「ナルホド!そこなら余ってるやつを無料で譲ってもらえるかもってことかッ!」
本当に無料で譲ってもらえるのかはわからないが、一縷の望みをかけて4人は鉄工場に足を運ぶことを選ぶ。
「まぁ……とりあえず行ってみるしかねぇか……」