『第八話 閃き』
◇ ◇ ◇
◇イーストメトロポリス・病院
監獄での軟禁状態から解放されたタイガは、大怪我を追ったレンの容体が気になり、駆け足で病院に向かっていた。全力で走ってきた影響で息も絶え絶え病院に到着すると、受付でレンの入院する部屋を確認する。
「ハァーッ…ハァッ…ハァ……すみません…風間レンの部屋は…どこですか?」
「”風間レン”さんですね?お調べしますので少々お待ちください」
受付の女性にそう言われるとタイガは乱れた呼吸を整えながら返事を待つ。すると何かに気づいた受付の女性が神妙な面持ちで声をかける。
「風間さんの親族の方ですか……?ちょっとお話があるのですが……」
受付の女性から醸し出される不穏な空気にタイガは不安と焦りを感じる。
「アイツも俺も孤児なので家族はいませんが……親友です……」
事情を理解した受付の女性はここでは話しづらいのでとタイガを別の場所へ案内する。何階か階段を昇り、入り組んだ病棟を歩いて進んでいくと、一番奥の角部屋まで案内された。表札には『風間レン』の名前が掲示されいてる。
ガラガラガラッ
扉を開けると物静かな病室にはカーテンに覆われた大きなベッドが配置されていた。先生をつれてくるのでしばしお待ちをと言い残し受付の女性が立ち去ると、ゆっくりと室内へ脚を運び入れたタイガは大きなベッドの脇まで移動をする。
シャーッ
大きなカーテンを開けたタイガの目の前にはベッドに横たわるレンの姿があった。点滴を打たれてはいるが、安らかな表情で眠る姿に一安心し声をかける。
「おいッ!レンッ!!見舞いにきてやったぞ!!起きろっ!」
元気な声で呼びかけるも、眠りが深いのか反応はない。
「ったく!あの後大変だったんだぞ!エリックの野郎をぶんなぐってやろうと思ったら、監獄にぶち込まれちまってよぉッ!!」
気にせず笑いながら話しを続けるも、それでも未だレンは目を覚まさない。するとコンコンッとドアをノックすると音が聞こえ、医者が病室へ入ってきた。
「風間さんのお知り合いの方ですね……?」
「そうっす、親友です!!こいつったら先生が入ってきてんのにまだ起きないんすよッ!ったく起きろよレンッ!!」
そう笑いながら話すタイガはレンを揺さぶり起こそうとするも、神妙な面持ちの医者がゆっくりと口を開く。
「実は……この3日間……目を覚ましていないんです………」
「えッ…………!?」
医者からの突然の申告に耳を疑う。少なくとも目の前にいる怪我人は、今にも目を覚ましそうなほど穏やかな表情をしていたからだ。
「先生ッ……それでこいつは……いつ目覚めるんですか?」
重苦しい雰囲気が漂う中、医者は容体について細かく説明をし始める。
「命に別状は無いのですが…………いつ目覚めるのかはわからないんです――――」
どうやらレンは落下時に頭を強く打った時の影響でいつ目覚めるかわからない植物人間となってしまっていたのだ。現状を理解できない、いや理解はできるが気持ちの整理がつかないタイガは、呆然と医者の説明を聞き続けた――――
◇ ◇ ◇
◇イーストメトロポリス・自宅
病院から帰宅したタイガはレンの容体にショックを受け、しばらく何も手がつかない状態になっていた。仰向けに寝そべったベッドの上で幾分かの時が流れる。
考えても仕方がない。自分にはどうしようもない。そんなことはわかっている。それでも現実を受け止められきれずにいた。
はぁーッとため息をつくと、ふとベッドの脇にある倒れた写真立てに視線がいく。スッと手を伸ばし飾られていた写真を眺める。
子供の頃の、RAISE FLAGに憧れていた頃の、純粋な表情をした自分が写っていた。そしてその横には同じように笑顔でいる幼い頃の風間レンがいる。
(レン………)
その姿を眺めたタイガは病床で眠るレンに想いを馳せ、一刻も早い回復を切に願った。
そして、見ていた写真を胸に当てると、目覚めなくなってしまった親友の描いた夢と気持ちを背負って、RAISE FLAGへの出場とエリックへの復讐を改めて誓う。
「あとは俺に任せろッ………!」
そう言って自分の気持ちの区切りをつけると、手に取っていた写真をベッドの脇に置き、ヨッと状態を起こして座る。決意に満ちた表情をするタイガは、今後の作戦を練ることにする。
(まずは代表候補に選ばれねぇとな……)
RAISE FLAGへの出場を決心したのはいいものの、エリックと対戦する本大会に出場するには地区代表に選ばれなければいけない。そのためにまずはレンと同じく代表候補者に選出されることが最低条件となるが、
(仮になんとか候補者に選ばれて地区予選が突破できたとして、エリックとあたるまで勝てんのか……?)
フランチェスとの試合を間近で見ていたタイガはその圧倒的な実力差を目の当たりにし、もし代表とになれたとしてもフランチェスとの対戦まで果たして勝ち上がることができるのかと考えていた。
(あの試合も……レン以外はまったく戦力になってねぇ………)
仮にタイガが奮闘したとしても、現有候補者の戦力では到底歯が立たないと感じていたのだ。
(クソッあんなやつらが仲間じゃ、試合になんねぇだろッ……)
どうすべきか…そう思案して悩むタイガは頭を抱えこむ。
あーでもないこーでもないと考え込みながら、うーんうーんとうなだれながれ頭を前後左右へ振り回す。
ゴツンッ
「――いてぇッ!!!」
すると、振り回していた頭の後頭部を後ろの壁に打ち付けてしまう。いってぇなぁとゴシゴシ頭をこするタイガは血が出てないかと確認しようとすると、
(んッ……?何だこのアザ……?)
ふと、腕に見覚えのないアザがあることに気づく。触れてみるとジワッと痛むその怪我の跡に、あの3人組に喧嘩を吹っ掛けらた時のことを思い出す。
(あぁ……あのとき攻撃を防いだときについたのか………)
ゴウ、ジン、セイヤからうけた強烈な襲撃を思い出したタイガはあることに気づいた。
(にしても凄ぇパワーだったな……………凄ぇパワー?……………凄ぇパワァーッ!?!?)
「そうかッ!!!アイツらならッ!!」
そう言い放つと勢いよく家の扉を開き飛び出していった。