『第五話 和解』
◇ ◇ ◇
◇イーストメトロポリス・空き地
「――くッ・・・!」
相手の攻撃をガードし吹き飛ぶタイガは地面をザーッと後ろに滑るも持ち堪える。
代わる代わる繰り出される三人からの攻撃に苦戦を強いられていた。
機をみて攻撃の隙を見出そうとガードや回避をし続けるも、中々隙が見当たらないのだ。
しかし同時に攻撃を仕掛けている三人も器用に避けて守るタイガに対して、決定打を負わせることができずにいた。
「ハァー…ハァ……いい加減…観念してボコられろよなッ!」
そう喋りだすセイヤには徐々に疲労の色が見え始めていた。
「ハァー…ハァ…うるせぇッ!てめぇらこそとっととあきらめやがれッ!!」
それに応えるタイガも同様に疲弊をしていた。
一呼吸置いたところでまたセイヤが話しはじめた。
「おめぇみたいなチビばかりを狙ってるヤツは許さねぇ!」
そう言い放ち殴り掛かってくるセイヤの拳をなんとか弾いていなす。
「ツッ――………なんのことだッ!」
身に覚えのない話に少し困惑するも集中は途切れさせない。
そこへ割り込むようにジンの蹴りが襲い掛かる。
「女を狙うクズはここで成敗する」
下段に飛んできたジンの足払いをギリギリのところでジャンプして躱す。
「クッ――………女ぁ?さっきから何言ってんだッ!!」
ますます何を言っているか理解できないタイガであるが、うまく着地をしながら次の攻撃に備える。
「とぼけんじゃねぇっ!!」
そう言ってゴウが追い打ちをかけるように両手で結んだ拳を上から振り下ろす。
その攻撃を両腕をクロスさせるようにガードし持ち堪える、
そして堪えきったところでタイガは勢いよく弾き返す。
「ングッッッ―……ッ……ドリャァッ!!」
ゴウの両腕を弾き飛ばしたタイガは、3人を警戒するように見渡しながら話し始める。
「いやいや、だからさっきから何言ってんだッっての!!!チビと女を狙う?そんなダセーことを何で俺がやらなきゃなんねぇんだよッ!」
拳を交える中でタイガがそんな卑怯な奴では無さそうだと薄々感じはじめていたセイヤとジンは、
真剣な眼差しで語られるタイガの言葉を聞き、チビや女を狙っているという話が間違いだったのではないかと疑念を抱く。
「喧嘩ってのはなぁ…強えぇ奴を倒すからおもしれぇんじゃねぇかッ!!」
そう言い放ったタイガの表情は真剣でありつつも少し笑みを浮かべおり、
純粋に喧嘩を楽しんでいる様子がアリアリと伝わってきた。
その言葉と姿にハッとさせられ、セイヤとジンの疑念は確信へと変わる。
「オッサン、どういうことだッ?」
「こいつの言葉に嘘は無い。説明を求める」
セイヤとジンはどういうことだとゴウの方に視線を送る。
ゴウ自身もタイガのそのまっすぐな姿勢に対し、二人と同じく伝え聞いていた話が間違いであったと確信をした。
「うーむ……なるほど………。どうやらチビや女を狙うっていうのは誤報だったのかもしれんな!ワッハッハ!」
そうあっけらかんと言い放って笑うゴウに対しセイヤとジンは怒りと呆れを露わにする。
「ハァッ!?オッサンふざけんなよッ!?」
「ありえん。」
セイヤとジンに詰め寄られ、焦りはじめるゴウ。
「ま、待て、こっちは子分からそう聞いてんだッ!それに、そうだッ!俺の子分に手をだしたことに変わりはねぇだろ?この間だっててめぇに4人もノされちまってんだぞこっちはよッ!」
徐々に立場が怪しくなってきたゴウは、改めて怒りの矛先をタイガに向けるように仕向けるも、
「子分ってのはこないだ襲ってきた連中のことか?だったら先に仕掛けて来たのは向こうの方だぜ?道を歩いていたらいきなり偉そうに真ん中歩いてんじゃねぇってつっかかってきやがったからな。」
そう言い放ったタイガの意見に合わせて、全員の目線が再度ゴウに向けられる。
どうなってんだ?ちゃんと確認もしなかったのか?と言わんばかりの冷たい視線がゴウを突き刺す。
すると完全に窮地に陥ったゴウは頭を抱え込みながら、急に子供のような話し方になった。
「だってそう聞いたんだもん、仕方ないじゃぁぁぁん。」
ゴウは大柄な体格な割に実は繊細な性格で、意外とメンタルが弱いのだ。
「まじかよオッサン……頼むぜ……」
「話にならん……」
3人からの誤解が解け、一連の襲撃についてひとしきり謝罪されたタイガは、これで一件落着と安堵する。しかし、すぐにとても大切なことを忘れていたことを思い出す。
「そうだぁぁぁぁ!!!!!試合だったぁあああ!!!」
そう言い放つと慌ててスタジアムの方へ走りだしていった。
◇ ◇ ◇
◇イーストメトロポリス・スタジアム・観客席
息も絶え絶えやっとの思いで会場に辿り着いたタイガは観客席への階段を駆け上がる。少ないながらもワーッと湧き上がる歓声の音が聞こえはじめていた。どういう状況になっているかまったく想像がつかないタイガは、期待と不安が入り混じった状態のまま、眩い光が差し込む観客席へ飛び出す。
すると……そこには信じられない光景が広がっていた。
「マジ……かよッ……!!」
腹の底から湧き上がってくる高揚感で浮足立つタイガ。なんと最底辺ランクであるイーストメトロポリスの風間レンが、上位ランクのフランチェスのエースと呼ばれるエリック・カミール相手に優位に試合を進めていたのだ。
フィールド全体に設置されている3本の旗のうち、ストロングジャングルに設置されている1本の旗に先に手を伸ばしたのはレンである。
「おぉーーーとッ!!エリック選手より先にフラッグを手にしたのは風間レンだあああ!!」
興奮するアナウンサーの声が鳴り響く。レンは予選会で見せた速度を更に上回る驚異的なスピードで、ジャングルのように張り巡らされた鉄塊を破壊していったのであった。