『第四話 襲撃』
◇ ◇ ◇
◇イーストメトロポリス・街道
フランチェスとの対外地区練習試合の当日。寝坊をしてしまったタイガは急いでスタジアムへ続く街道を走っていた。
(やっべェッ!遅刻するーッ!!レン、怒ると面倒くせぇんだよなァ……。)
遅刻したことを知ったレンが怒る姿を想像し、少し憂鬱になりながらも全力で道を走る。しばらく道を走っていると大通りから外れた近道の存在を思い出す。薄暗く人の目につきずらいこともあり普段から人通りが少ない路地である。走っている勢いもそのまま、近道となる路地へ曲がって入っていくタイガ。
(よっしゃぁぁショートカットッ!これなら間に合いそうだなッ!!)
試合開始までには何とか間に合いそうだと一安心しつつも薄暗く道幅の狭い路地を走り進む。そのまま何ブロックか道を進んでいくと、少しだけ大きな空き地が見えてきた。空き地の先にある道の奥には既にスタジアムの外観の一部が見え始め、ラストスパートだとさらに加速して走り出すタイガは空き地の入り口を通過し進もうとする。
「オマエが炎堂タイガだな?」
唐突にそう話かけられたタイガが勢いよく振り返ると、
丁度タイガの目の位置のあたりであろうか、目の前にあったのは人の脚だった。
そのまま流れるように視線を上に向けると恐らく推定2mはジャンプしているであろう小柄な青年の姿があり、
そのジャンプの勢いに乗せた拳が高い位置からタイガの顔面に向けて振り下ろされた。
「オラァッ!!!」
タイガは咄嗟に両腕をクロスさせながらガードし踏ん張るも、
その勢いに押されザーザーッと地面を滑りながら吹き飛ばされる。
なんとか持ち堪えたタイガはジンジンと痛む腕を振りながら相手に正対するように立ち上がる。
「痛ッてぇなぁ!誰だおまえッ!!」
「俺か…?ライトニングイエローズリーダーの雷鵬セイヤだ!!」
「ライトイエローニング?何だかしらねぇがこっちは急いでんだ邪魔すんなッ!」
攻撃をうけた個所の痛みに一瞬イライラするも、すぐに冷静さを取り戻し無視して走り出す。
「待てコラッ!俺と闘え!」
と走って追いかけてくるセイヤに対し、
変な奴の相手をしている暇はないとそのまま走って振り切り会場の方へ向かおうとする………が、
その瞬間恐ろしい勢いで走って追いついてくる影が見えた。
(こいつ…はぇぇッ!)
あまりのスピードに驚くタイガに対し、やすやすと追いつき横並びとなる男。
並走するその男は少し様子を見るやいなやタイガに襲い掛かるように蹴りを繰り出す。
「はーァッッ!!!」
鋭く重い勢いのある蹴りがタイガの右わき腹に向けて飛んでくる。
これはヤバいとギリギリのところで間一髪転がり込むように前転しタイガはその蹴りを回避する。
転がりこんだタイガの体をすり抜けたその脚は勢いそのままに壁に激突し、
ドゴォォンンという音と共にレンガで出来た壁を粉々に砕き、めり込むように壁に埋まる。
蹴りを回避したタイガはクルッと転がり込みながら受け身をとり、勢いをうまく吸収しながら綺麗に立ち上がる。
「あっぶねぇなぁぁ!何すんだよッ!!!」
大怪我するところだったじゃないかと怒りを露にし威嚇するタイガに対し、
壁に埋まった脚をスッと抜くと、その男は独り言のように口を開いた。
「…あれを避けるとは、中々やるな。」
「さっきから何なんだよおめぇらマジでッ!」
「今日貴様をここで潰す男、氷室ジンだ。」
マイペースに話すジンとの間で、
会話になっているのかなっていないのかわからないような話が続くが、
追いかけてくるセイヤの姿に気づいたタイガはハッとスタジアムまで急いでいたことを思い出す。
二人からの強襲に相当腹が立ってはいたものの、時間がないと割り切ってまた出口に向かって走り出す。
セイヤと違って追いかけてこないジンに違和感を感じながらも、何とか空き地を抜けだせそうだと思った瞬間、
今度は空き地の出口に大柄な男が立ちふさがるように歩いてきた。
「邪魔だどけええッ!!!」
出口に走って向かいながらそう言い放つタイガの言葉に対し、その男は何も聞き入れずドッシリと構えたままだ。
一連のイサコザに苛立ちが限界に近づいていたタイガは、ついに堪忍袋の緒が切れ、目の前の男をぶっ飛ばすことに決めた。
「いい加減にしやがれやァァァッ!!!」
走っている勢いと体重をうまく乗せて繰り出されたその拳は、
見事に立っているその男に腹部に直撃をした!………が、
動かざること山のごとし、大柄なその男は微動だにしない。
(ッ!?……重ぇえ……!)
体重を乗せた自身のパンチが確実にクリーンヒットしているにも関わらず、
目の前の男が一歩も動かないことに対する驚きで、タイガの表情は苛立ちから困惑に変わる。
「なかなかいいパンチ持ってんじゃねぇか。だがなぁ…それじゃ俺は倒せんぞ?」
そう言い張るとその男は腹部に直撃したタイガの腕を掴み投げ飛ばす。
「フンッ!!!」
投げられた勢いで2,3mは吹き飛ぶタイガであったが、そこは抜群の身体能力をいかしうまく着地をする。
「俺は土橋ゴウだ。この間は随分と子分達のことをかわいがってくれたみてぇだな。覚悟しやがれ。」
そう大柄な男が名乗ったと思いきや、その隙にセイヤとジンも合流し既に三人に囲まれる状況に追い込まれていた。
強敵に囲まれたタイガの顔からは苛立ちや焦りの表情は消え、
こいつらをブッ飛ばさないと先へは進めないと覚悟を決めた表情に変わっていた。
◇ ◇ ◇
◇イーストメトロポリス・スタジアム・控室
対外練習試合の当日、スタジアムの控室にレンの姿はあった。
「相手は格上だし、今日は胸を借りるつもりで頑張ろうぜ。」
「あぁ…。」
同じく代表候補者として選ばれたチームメンバーからの声掛けに応じるも、勝利という結果を目指す自分との温度感のギャップに複雑な感情を抱くが、集中しろと黙々とE-GEARのメンテナンスを進めるレン。
少し時間が経過するとコンコンッと控室の扉をノックする音が聞こえる。
「お時間です。」
そう会場スタッフから伝えられると、両手でピシッと自身の頬をはたき気合を入れるレン。ドアからでて他のメンバーと共にフィールド入場口付近の前で待機をする。そこへ対戦相手であるフランチェスの選手達も集まってきた。
「やぁBoy、今日はよろしく。」
そう紳士的に声をかけて来たのはフランチェスの代表候補者で、ストロングジャングルを競い合う【エリック・カミール】であった。TVでも特集が組まれるほど有名な選手であり、その右腕には豪奢なE-GEARがつけられていた。想像していたよりも丁寧で物腰が柔らかく、少し面を食らったレンであったが急いで返事をする。
「こちらこそよろしく。いい試合をしよう。」
そう言ったレンの言葉にピクッとコメカミを動かし反応をするエリック。握手をしようとレンから差し出された手を眺めるも、自身の手は差し出さない。直後に入場が始まるアナウンスがあるとそのまま両チームは歩き出すことになった。癪に障ることでも言ってしまったのか?と少し気にはなったが、レンは切り替えてチームメンバーと共に自陣のスタート位置に歩いていく。
観客席を眺めるとポツポツとまばらに人が入っている状態である。
「タイガのヤツ、どこにいるんだ?」
どこに座っているのだろう?と見渡すもタイガの姿は見当たらなく、審判に声をかけられそのまま試合の準備を進めることになる。