『第十話 契約』
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◇イーストメトロポリス・街はずれの鉄工場
日を改めた四人は街外れにある鉄工場へと向かう。立ち込める煙と油のような匂いが充満するその場所は、E-GEARだけに問わず様々な金属製品が作られる工業地帯であった。E-GEARを探しながら歩きまわる怪しい素振りに、道行く鍛冶師や行商から不審な目で見られる。お目当てのものを探し続けるタイガ達は、何ヶ所かを歩き回っている内にいかにもそれらしい工場を見つけた。
本当に譲ってもらえるのか不安を抱えながらも、四人は恐る恐るその入り口の敷居を跨ぐ。
「何しに来やがった悪ガキども」
脚を踏み入れた途端、奥で作業をするいかにも頑固そうなオヤジが、背中越しにそうぶっきらぼうに言い放つ。少し離れていても熱さを感じ取れる程の高温な火で炙られれている窯に、スクラップとなったE-GEARを放り込みながら溶かしていた。後ろに目でもあるんじゃないかと驚きながらも、話が早いとセイヤが声をかける。
「使ってねぇE-GEARをくれ!ジイサンッ!」
淡々と作業を進めるオヤジは、セイヤからの唐突な申し出に、振り返りもせずに返事をする。
「……E-GEARを寄越せだぁ?……ったく悪さにでもつかうじゃねえんだろうな?」
お世辞にも真面目とは言えないヤンチャな四人組が、いきなり現れてE-GEARを寄越せと言ってきたら誰しもがそう疑うだろう。
「RAISE FLAGに出場すんだよ!なっ?いいだろジイサンッ!」
セイヤの無理なゴリ押しが実ったのかはわからないが、RAISE FLAGという言葉に反応したオヤジは手を止めて振り返る。
眉間に皺を寄せた恐そうな顔でセイヤの小さな体を一瞥すると、
「ハッ!そんな小せぇ体でどうやって闘うんだ?……それともあれか、お前らの言うRAISE FLAGってぇのはお遊戯会か何かなのか?」
小バカにした態度でそう言い放ち、また淡々と作業を再開する。
小さいと言われることが大嫌いなセイヤは、カチンと来たと怒りを露にし憤る。
「なめてんじゃねぇぞジジイッ!ぶっ飛ばすぞッ!」
ご立腹なセイヤをまぁまぁとゴウが取り押さえなだめると、その隙に今度はタイガが一通りの事情を説明しはじめた。
「実は―――――――――――――――――――」
タイガの話の一部始終を聞いた鉄工場のオヤジは振り向きながら口を開く。
「親友の仇討ってぇことか……確かに筋は通ってんなぁ……それで金はあんのか?」
無言になる一同。
それをみて状況を察したオヤジは頭を掻きむしりながらため息をつく。
「たぁーッ、話はわかったが……金がねぇようじゃ話にならねぇ……。帰りやがれ坊主ども」
「そこをなんとか……お願いします……」
そう食い下がるタイガであったが、ダメだダメだと払い除けるように手を振るオヤジ。
「仕方ない。ここは一旦ひこう」
そうレンが言い放つと、四人はトボトボと踵を返す。手詰まりとなった今後について、話し合いをしながら四人が帰路に就こうとしていると、鉄工場の奥から顔を出した一人の少女が追いかけてきた。
「ちょっと待ちなさいよ、あんた達!」
四人が振り向くと、そこには恐らく同世代くらいの若い娘がたっていた。汚れたツナギを纏うその少女の顔は油で汚れてはいるが、整った顔立ちに、焦げ茶色の髪、うるっとした大きな瞳と、容姿端麗なことが伺える出で立ちの少女である。
「RAISE FLAGに出場したいんですって?」
そう問いかける少女にうなずく一同。
「なるほどね……とは言え相手は一流のアスリート達よ。勝算はあるの?」
その質問に四人は一瞬考え込むも、息をぴったりあわせるように同時に答える。
「喧嘩なら負けねえゼッ!」
「喧嘩なら負けねぇ。」
「喧嘩なら負けん。」
「喧嘩なら負けねぇ自信はあるなぁ。」
その子はふむふむと品定めするように四人を眺める。少し考え込むようにしていると、ピコッとなにかを閃いて話しはじめた。
「私の試作品なら譲ってあげてもいいわよ。ちょっと体力の消耗が激しいけど、性能は折り紙つきよ」
この上ない申し出に四人の表情が一斉に明るくなる。
「……正し、賞金がでたらお金は払ってもらうわ。そして、勝利したら私の作品を宣伝すること。この二つが条件よ」
目の前に転がり込んできたチャンスに、選択肢など無いとタイガ達は即座に結論を導き出す。
「問題ねぇ!感謝するぜ!!」
そう言ってタイガは手を差し伸べ握手をする。何はともあれお目当てのE-GEARを手にすることができた一同は一安心し笑顔になる。
「ところで、あんた何者なんだ?」
ふと、素性が気になったタイガが疑問を投げかける。
「あたし?……あたしはあの頑固一徹な鍛冶師【鉄穴ゲンゾウ】の娘。【鉄穴ミズキ】よ」
頑固な父親とは似ても似つかない可憐な姿に衝撃を受け、
『全然似てねぇぇぇえええ!!』
彼らの心からの叫びが当たり一面に響き渡った。




